センス・オブ・ワンダーが、わたしと地球と宇宙をつなぐ

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国際宇宙ステーションから撮影された地球 ©JAXA/NASA

センス・オブ・ワンダーが、
わたしと地球と宇宙をつなぐ

福岡伸一生物学者

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栗山育子JAXA総務部 参事

"誰一人取り残さない" 持続可能な社会を目指すSDGsに、JAXAがその強みを活かして、貢献できること。SDGsをJAXA全体で進めるミッションのチームのリーダーを務めた栗山育子が生物学者の福岡伸一さんと出会い、宇宙のスケールから地球と生命に対する視座と、描くべく未来について対話を重ねた。

世界は絶えず変化し、 地球も人もその循環の中にある

栗山

今、SDGsをめぐる社会の動きは、急速に加速している実感があります。昨今はコロナ禍に よる生活様式の変化や世界的な脱炭素社会構築への関心があり、民間企業においても、SDGsを取り込んだ経営戦略を策定する例を多く目にするようになりました。2020年には日本の宇宙基本計画でもSDGsの達成が目標の一つとなりました。JAXAはそれ以前からSDGsに貢献してきたのですが、こうした環境変化を受けて、SDGsの取り組みをより組織的、効果的にやっていこう、事業や組織に相乗効果を起こしていこうと、私が在籍していた調査国際部がリードする形で社内の検討チームを立ち上げ、今回の基本方針やビジョンの策定など、JAXA全体のSDGsの推進に取り組んだんです。福岡先生はSDGsについてどのようにお考えですか。

福岡さんと栗山参事。対談はオンラインで行われた。撮影(福岡):菊田香太郎
福岡さんと栗山参事。対談はオンラインで行われた。撮影(福岡):菊田香太郎

福岡

SDGsは2030年までに目指すべく非常に大事なゴールとして、人々の問題意識にあがってきていますが、私がプロデューサーの一人として参加している2025年の大阪・関西万博でも、SDGs はひとつの大きな課題になっています。万博のテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」。私も含む 8名のプロデューサーがそれぞれ固有の観点から解釈しながら、未来に生きる人々に繋ぎ渡すパビリオンを建設します。

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2025年大阪・関西万博にて福岡さんが担当するパビリオン 「いのち動的平衡 I am You」のイメージビジュアルその1。

栗山

福岡先生が担当されるパビリオンは、どのようなテーマなのでしょう?

福岡

私のほうでは「いのちを知る」をテーマにしたパビリオンを担当していて、パビリオン名は「いのち動的平衡 I am You」となりました。

栗山

「動的平衡」は、福岡先生の代表的な概念ですね。"生命とは動的平衡にある流れである"と。

福岡

はい、動的平衡は私の生命論のキーワードです。生命とは、いつも自らを壊し、作り直して います。つまり大きく変わらないために、小さく変わり続けているんです。そういう生命の前提があっ た上で、私たちを取り囲むすベてのもの、エネルギーや物質、情報もまた一瞬たりとも同じ状況がなく、動的で、循環しています。その結び目として我々生命は存在しているわけですが、言い換えると世界は"絶えず何かを受け取り、絶えずそれを手渡している"ということ。つまり、"わたしは、あなたでもある"から、「いのち動的平衡 I am You」なんです。

栗山

なるほど!

「いのち動的平衡 I am You」のイメージビジュアルその2。
「いのち動的平衡 I am You」のイメージビジュアルその2。

福岡

ここでいう"あなた"は他者であり、地球環境であるとも言えます。人間が生きていく上で、地球環境はなくてはならないものですから。人間が現れる前の地球は、本当の意味での自然が、動的平衡が、保たれた環境だったわけです。ところが人間という不思議な生物が出現し、都市をつくり、資源をどんどん使い始めて、あらゆる生物は自分たちのために存在していると思って、人間は我が物顔でこの地球に暮らしているわけです。だから「いばるな人間」というのを私は常々思っていて、いかに人間が他の生命や環境に支えられながら、この地球環境の一部であるかをもう少し反省して自覚しなければならないと。今こそ利己的な考え方から利他的な考え方に転換すべき時期が来たと思います。生物学者としてそういう考えが念頭にあるので、万博のパビリオンでは生命ということを哲学的に見直していくような内容になると思います。

宇宙を考えることは、地球を考えることにつながる

福岡

私はこれまでずっと地球環境の中だけで動的平衡を見てきましたが、そもそも宇宙からごく微小に様々な元素が地球にやってきますし、そういう意味で地球環境は宇宙とつながりながら、さらに大きな動的平衡系をなしているんだなと思います。さらによくよく考えてみると、地球は太陽系の一員で、太陽系は大きな銀河系の一員で、それを包む宇宙がある。つまりどこから宇宙でどこから地球かというのは、境界があるようでないということですよね。JAXAではここから上は宇宙であるという定義は、決まっているんですか?

栗山

動的平衡は宇宙も含めて考えられるんですね!JAXAには定義はありませんが、一般的には高度100kmから上を宇宙とする例が多いようです。JAXAは宇宙だけでなく空の航空技術に対する研究開発も行っているので、そういった意味では地球も宇宙も境界なく活動しています。

福岡

JAXAの活動のように、本来、自然とは境界がないものですよね。

栗山

はい、私は宇宙を考えることは、地球を考えることに繋がると考えています。例えば、国際宇宙ステーションの環境は、水や空気、食料、電気に通信環境、空間などのすベてが制約的で、高レベルの宇宙線もある特殊な環境です。別の言葉でいえば、超省エネ、超エコな生活が求められる、課題満載の環境です。こうした環境は、例えば地上でいえば、砂漠のような環境が厳しい地域や紛争・災害地域、コロナ禍でのリモート・閉鎖環境に似ているとも言えます。そのような過酷な環境の中で、持続的に人類が活動し、生活していくためにはイノベーションが必要です。つまり宇宙の課題を解決することは、地球の様々な課題の解決にもつながっていくわけです。そして、それは同時に地上の生活がいかに豊かで、かけがえのないものかに気づくきっかけにもなると思います。

福岡

おっしゃる通りです。宇宙の環境を知ることは、地球の環境がいかに繊細なバランスの上に 成り立っているかということが、改めてわかります。

ISS内で酸素を作り出す装置に関する作業を行う星出彰彦宇宙飛行士©JAXA/NASA

栗山

また、宇宙の技術は私たちの暮らしや社会に必要不可欠なものになっています。身近なものではスマートフォンやカーナビの機能は人工衛星による測位システムが利用されていますし、災害時には地球観測衛星が被害状況の把握などを行っています。そういったなかで今、ひとつ大きな問題になっているものがスペースデブリ(宇宙ゴミ)です。宇宙空間には人工衛星やロケットなどの部品や破片といったデブリが増加しています。デブリが衛星に衝突すると、衛星の運用や機能に影響を及ぼす可能性があって、私たちの生活インフラにも大きなダメージを生じかねません。宇宙の環境を保護することは、地球上の社会の持続性に直結しているといえます。

福岡

まさに20世紀以降の科学技術の歴史は、様々な人工衛星をたくさん作って打ち上げてきました。これから先は、作ることだけに頭を回すのではなく、それ以上に壊れること、清掃することがあらかじめ含まれた状態で作られていくと良いですね。その姿勢は、まさに生命からも学び取れます。先ほどもお話ししたように、細胞は何があっても壊し続けます。傷ついたり故障したから壊すのではなく、壊れても古びてもいないのに壊します。なぜならそれが「すべての秩序あるものは、その秩序が崩壊する方向にしか動かない」という宇宙の大原則、「エントロピー増大の法則」に対抗する唯一の方法だから。この生命の「動的平衡状態」から人間が学ぶべきことがあるように思います。もちろん工学的な視点から外せない技術はありますが、もう少し生物に学ぶバイオミメティックスといいますか、壊れてもゴミになりにくい、宇宙開発というのも考えられるのかもしれませんね。

地球の周りを飛ぶスペースデブリのイメージCG
地球の周りを飛ぶスペースデブリのイメージCG

栗山

おっしゃる通りです。デブリに関しては、現在JAXAでは、例えばデブリの衝突リスクを回避 するための支援ツールを開発して無償配布したり、デブリを除去する技術開発などの取り組みを進めています。また、独自の持続可能な宇宙活動のための行動指針を定めて国連の場で発表したところです。宇宙という特殊な環境には地球上とは異なる新しい発想や方法が必要ですし、色々な方が関心、興味を持ってくれます。まさに福岡先生のような異分野の方たちと繋がる共創の場、クリエイションの場を与えてくれるんじゃないかと思っています。空を含む宇宙を強みにもつJAXAが、宇宙と地球のサスティナビリティを推進することで、多様なステークホルダーとのパートナーシップや共創が生まれ、持続可能な未来に向けた新しい価値を提供していけたらと思います。

6月上旬に開催された国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)。JAXAの持続可能な宇宙活動のための行動指針やSDGsの基本的な取組方針について、プレゼンテーション(オンライン)する栗山。
6月上旬に開催された国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)。JAXAの持続可能な宇宙活動のための行動指針やSDGsの基本的な取組方針について、プレゼンテーション(オンライン)する栗山。

世界をどう捉えるのか? 芸術も科学もその営みは同じ

栗山

SDGsの17の目標には宇宙空間の持続性や、空を含めた宇宙空間の活動について、明確には触れられていないんです。ですが先ほどお話しした通り、宇宙空間での活動をサステナブルに継続していくことは、私たちの未来や地球上の社会の持続性にとって不可欠であり、現在の17の目標を超えた目標になりうるのではないか? ポストSDGsではその辺りも発信していければ、という思いがあります。

気候変動観測衛星「しきさい」の観測画像。緑が濃いほど植物の活性が高いことが分かるなど、宇宙から地球の環境を把握することができる。
気候変動観測衛星「しきさい」の観測画像。緑が濃いほど植物の活性が高いことが分かるなど、宇宙から地球の環境を把握することができる。

福岡

確かに17の目標のなかには環境としての宇宙が含まれていないですよね。先ほどのお話にもありましたが、人為的なルールを外せばどこからが地球でどこからが宇宙という境界は本来ないわけなので、今後は宇宙の視点を18番目の視点として入れるべきだと私も強く思います。

栗山

あと、これは仲間のアイデアなのですが、日本では最も得意とする技や芸を「18番(おはこ)」と言ったりしますよね。それになぞらえて、それぞれの組織や個人が得意分野で掲げる18番目の目標を「18+」として持ち寄ったら面白いね、と話しているのですが、福岡先生にとっての18番と言われたらどんなことを掲げられますか?

福岡

そうですね。人間の文化的な活動、知的財産の保護と継承を18番として盛り込むのはどうで しょうか。というのもSDGsの17の目標のなかでは、文化芸術や自然科学に関するものがあまり目配りされていない印象があるからです。

栗山

確かに文化の保護と継承は大切ですね。そして宇宙もまた、文化芸術とは切り離せない世界 ですし、宇宙での生活にも文化芸術は必要だと思 います。

福岡

今の社会というのは、科学や芸術といった文化的な活動が細分化されすぎていて、専門家 が非常に狭い範囲でしかものを考えない時代になっているように思います。昔はもっと細分化されていませんでした。歴史を辿っていくと、例えば私の好きな17世紀に生きたオランダの画家フェルメールは、非常に科学的なマインドをもった人でした。フェルメール作品の遠近法があまりに正確であることから、「カメラ・オブスクーラ」(暗箱)を使用して3次元の世界をいかに2次元に置き換えて綺麗な絵をつくろうかと考えていたと言われています。またそんなフェルメールの側には同じ年、同じ街で生まれ育ったレーウェンフックという顕微鏡の祖と呼ばれる人物がいました。顕微鏡で何が見えるのか。ふたりのあいだには光の科学が共通の話題としてあっただろうと言われています。

福岡さんがダーウィンの足跡を辿り、生命の本質に迫ったガラパゴス航海記を綴った『生命海流 GALAPAGOS』(朝日出版社 刊)より。イサベラ島の北西海岸沿いを、ゴムボートに乗って洋上から観察。撮影:阿部雄介
福岡さんがダーウィンの足跡を辿り、生命の本質に迫ったガラパゴス航海記を綴った『生命海流 GALAPAGOS』(朝日出版社 刊)より。イサベラ島の北西海岸沿いを、ゴムボートに乗って洋上から観察。撮影:阿部雄介

栗山

今よりも芸術と科学は非常に近しいところにあったわけですね。

福岡

その通りです。そもそも世界をどう捉えるのか?という点においては、芸術も科学も同じ営みなわけです。顕微鏡のレンズの組み合わせを変えれば望遠鏡になって、それは宇宙を調べる道具になる。はるか昔、星の運航は人間の運命をコントロールしているのではないかという、ある種のロマン、ある種の迷信に近づいたこともありました。そういう意味では、最初に自然や宇宙に対する驚き。綺麗だな、すごいな、不思議だなといった、ある種のセンス・オブ・ワンダー(神秘さや不思議さに目を見張る感性)があって、そこから科学や芸術が始まり、あるいは文学が始まるわけですよね。

栗山

はい。私たちJAXAが取り組む科学技術も、元々は「これはどうなっているのだろう?」という人間の好奇心、驚きや感動から始まっているんだと思います。ですから私自身がもしSDGsの18番を掲げるとしたら、人間の可能性を広げ、夢や希望を広げていこうといったようなことかなと思います。 宇宙航空を含む科学技術が、人々の喜びや驚きにつながる、人類や生物、生命の可能性を広げ、その幸福のために使われる未来を描きたいので。

ガラパゴス航海中の福岡さんとグンカンドリ。『生命海流 GALAPAGOS』(朝日出版社 刊)より。撮影:阿部雄介
ガラパゴス航海中の福岡さんとグンカンドリ。『生命海流 GALAPAGOS』(朝日出版社 刊)より。撮影:阿部雄介
世界最大のリクガメ・ガラパゴスゾウガメ。体長は約1~1.5メートル、体重は最大で250kgを超える。『生命海流 GALAPAGOS』(朝日出版社 刊)より。撮影:阿部雄介

世界最大のリクガメ・ガラパゴスゾウガメ。体長は約1~1.5メートル、体重は最大で250kgを超える。『生命海流 GALAPAGOS』(朝日出版社 刊)より。撮影:阿部雄介

福岡

宇宙というマクロに目を向けることと、顕微鏡をのぞいてミクロの世界に目を向けるというのは、実は同じことです。顕微鏡をのぞくと細胞が見えますが、それはまさに小宇宙に見えますし、宇宙を眺めているような感覚になります。その言葉にならない感覚こそが、やはり人間が文化を作っていく 上での最初の原動力になっていくのではないでしょうか。身近にあるセンス・オブ・ワンダーを、今を生きる子供たちにも忘れてはならないものとして持っていて欲しいですね。だからこそSDGsの本質を考えるときにも、教育や文化のきっかけになるものは何か? その視点を忘れないようにしなければいけないなと思います。

栗山

はい。今回のミッションで私が一番大切にしたことは、JAXAの中でも外でも、いかに SDGsの取り組みに対する共感の輪を広げるか、でした。宇宙の持つ不思議さ、憧れ、驚き、ワクワク感。そういったものを通じて、宇宙やJAXAの取り組みが、地球や人類の未来のための共創や共感の輪を広げるきっかけになれば、と思います。

科学は人間の未来を哲学し、技術の方向性を示す羅針盤

栗山

生命の根源的なところには、やはり宇宙といった未知なるものへの憧れと、新しい環境を知りたいという欲求が内在しているものなのでしょうか?

福岡

地球上にこれだけ多様な生物が共存しているのは、生物がある種の主体性をもって、新しい環境のなかに新しい日常を見つけたい。新しいワンダーを知りたいという本能に突き動かされて住むべき環境を拡大していった結果です。ですから、それがさらに宇宙空間に向かっていくというのは自然なことだと思います。また人間にはもう1つ、「我々はどこからきて、どこにいくのか」という、人間の本能、ピュシス(自然)として、自分の起源を知りたいという欲求があると思うんですね。

栗山

科学の本質とはまさにその欲求から始まっていると思います。

福岡

はい、科学は人間の未来を哲学的に考えていくためのものであるし、技術の方向性を示す羅針盤のようなものでもあると思うんです。ところが現在は科学と技術というものがあまりにも一緒くたにされてしまっていて、しかも技術的な側面が非常に重要視される社会です。つまりイノベーションが必要だと。それは産業や経済上、必要だということで技術革新が強く求められているわけですが、JAXAにはそちらの方向ばかりではなく、生命の起源を調べるような、純粋にワンダーを探るような活動にぜひ力を入れてほしいなと思います。なぜなら宇宙とはまさにワンダーの宝庫ですから、純粋なる科学的な探究の場所になります。

ウミイグアナとガラパゴスペンギン(イサベラ島プンタ・モレーノ)。ウミイグアナは海岸で太陽光を浴び、体を温める。『生命海流 GALAPAGOS』(朝日出版社 刊)より。撮影:阿部雄介
ウミイグアナとガラパゴスペンギン(イサベラ島プンタ・モレーノ)。ウミイグアナは海岸で太陽光を浴び、体を温める。『生命海流 GALAPAGOS』(朝日出版社 刊)より。撮影:阿部雄介

栗山

宇宙は本当にワンダーの宝庫だと思います。

福岡

生命の起源は一体どこからきたのか。これこそが生物学最大の謎です。38億年前に地球上にある種の原始的な細胞のはじまりが起こり、そこから進化のプロセスを経て、細胞が複雑化して多細胞生物になり、さまざまな動物や植物が生まれたというそのプロセスに関しては、ダーウィンの進化論で説明できるんです。ですが、生命はどうして生まれたのかという最初の起源については、ダーウィンも解けなかった謎ですし、様々な仮説はあるものの、いまだにあらゆる科学者が解けない謎です。というなかでその大きな手がかりとなるのが小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから持ち帰ったサンプルになるわけです。この砂のなかに生命の種になる物質、アミノ酸が含まれていたことが分かりました。これは地球の生命の起源を考える上で大発見です。このアミノ酸がD体だったのか、L体だったのか、ぜひ知りたいところです。もし(生物が使っている)L体だったら、それこそ生命の宇宙起源説が成り立ちます。このような成果を経て、人類による宇宙探査はもっといろんな形で広がっていくと期待しています。

「はやぶさ2」がリュウグウから持ち帰ったサンプル

栗山

さらなる壮大な Go to Spaceの夢が広がっていきますね!と同時に私自身はDown to Earthの視点も大切にしていきたいです。出来るだけ長く人類がこのかけがえのない地球で暮らしていくために。それを自分ごとにしていくためには、「わたし」も「地球」や「宇宙」の一員、一つのピースである、そういう視点を持つことが大切で、それにはやはり地球と自分を繋ぐものが必要です。衛星がもたらす科学的なデータやエビデンスは、それを支える一つになると思います。そして、もう一つは、繰り返しになってしまうんですが、先生もおっしゃる、いわゆるセンス・オブ・ワンダーが大切なのだと思います。自然の不思議さ、宇宙の不思議さに気づき、驚き、感動する心を持つこと。国際宇宙ステーションや月から眺めた地球の美しい姿、あるいはそこに森林伐採や森林火災が生じている様などを目の当たりにした時、我々も宇宙や地球の一員であり、我々の活動が地球にどのような影響を与えているか、気づきを与えてくれるのではないかと思います。

福岡

本当に、センス・オブ・ワンダーを大切にしてください。人間の生命というのはセンス・オブ・ワンダー、本来ピュシス的なものであって、技術という名のロゴス(言葉や論理)ではコントロールしきれないものです。そうした立場に立つこともまた、科学技術、宇宙開発を進める上でとても必要な視点だと思います。

『新ドリトル先生物語 ドリトル先生ガラパゴスを救う』(朝日新聞出版刊)内の挿絵
イラスト:浜野史

動物と話せる医者ドリトルと動物の様々な冒険を描いた児童文学「ドリトル先生」シリーズを土台に、福岡さんがオリジナルストーリーを紡ぎ出した児童書、『新ドリトル先生物語 ドリトル先生ガラパゴスを救う』(朝日新聞出版刊)が7月7日に発売。「ドリトル先生」シリーズを愛読したという栗山も楽しみに。イラストはその本からの挿絵。 なお、ドリトル先生は月への冒険も経験。「すべての生物が平和に共生するSDGs的な理想の月の社会を描いたその物語は、それが実現していない現代社会において特に示唆に富んでいると思います」と、栗山は話す。

Profile

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生物学者
福岡伸一
FUKUOKA Shinichi

東京都出身。青山学院大学教授・米国ロックフェラー大学客員教授。サントリー学芸賞を受賞し、80万部を超えるベストセラーとなった『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)『動的平衡』(木楽舎)など、"生命とは何か"を動的平衡論から問い直した著作を数多く発表。大のフェルメール・ファンとしても知られる。フェルメール絵画を巡礼し、全作品をデジタル再生したリ・クリエイト・フェルメール展を監修した。

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JAXA総務部 参事
栗山育子
KURIYAMA Ikuko

茨城県出身。専門は公共政策。これまで主に国際協力、協定調整、地球観測事業の推進等に従事。本年3月までアジア太平洋諸国との宇宙法政策協力の立ち上げやSDGsを含む地球規模課題への取り組み推進に注力してきた。趣味は美術鑑賞と旅行。最近はお茶や着付け等、和文化への関心を深め中。

構成・文:水島七恵

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