宇宙を活用したビジネスアイデアコンテスト

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S-Booster 2021の最終選考会の様子 ©2021 S-Booster

S-Booster 2021

宇宙を活用した
ビジネスアイデアコンテスト

社会問題解決のアイデアが目立ったS-Booster 2021

JAXAが共催する「S-Booster」(主催:内閣府)は、2017年より始まった宇宙ビジネスのアイデアコンテストで、スタートアップを含む、宇宙産業の振興を目的に、様々なアイデアを募集、審査、支援するもの。 2020年度は未開催(新型コロナウィルスの影響)だったため、2年ぶりの開催となった。

「宇宙業界だけでなく、さまざまな業種の企業や個人が参加でき、新しい宇宙を利用したアイデアを募集しています。そしてそのアイデアの事業化へ向けた取り組みの支援を目指しています。今回は、日本から約140、アジア・オセアニア地域から11か国・約60もの応募がありました」と語るのは、新事業促進部の島﨑一紀。  

新事業促進部は実行委員として中立的な立場で運営に携わり、広報活動なども担当。また、JAXAならではの知見を活かし、審査員からの技術的なアドバイスを求められた際はその対応なども行なっている。「S-Booster」の審査基準について、島﨑はこう話す。

「ビジネスコンテストなので、事業として収益が見込めるかどうか。そして革新的でこれまでにない発想であること。さらに社会問題を解決し、持続可能な事業であることも審査基準になっています」

「S-Booster」のエントリー後の審査スケジュールは、一次選抜(書類)、二次選抜(プレゼンテーション)を通過すると、メンターによるメンタリングが設置されている。その後、最終選抜会では、ファイナリスト12組がプレゼンテーションし、最終審査を経て最優秀賞、審査員特別賞、スポンサー賞、JAXA賞が授与される。

今回の最優秀賞は、タイのチーム「EcoSpace」のアイデアで、森林などのインターネットが繋がらないエリアで、IoT人工衛星通信を活用し、山火事を早期発見して警報するシステムが選ばれた。

「アジア・オセアニアでは、森林火災が大きな社会問題になっています。インターネットなどが未整備のエリアに、衛星通信ができる基地局を置くことで、火災の発生を早くに感知できるアイデアは、社会課題の解決にもつながります」

S-Booster 2021の授与式。最優秀賞を受賞したタイの「EcoSpace」チームは、オンラインで参加。 ©2021 S-Booster
S-Booster 2021の授与式。最優秀賞を受賞したタイの「EcoSpace」チームは、オンラインで参加。
©2021 S-Booster

ほかにも、社会課題に対するアイデアが多くみられた今回。JAXAから参加したチーム「スターシグナル・ソリューションズ」は、世界的に問題となっているスペースデブリの状況をより精度をあげて監視できるアイデア(審査員特別賞を受賞)を提出。
このアイデアについて「衛星に搭載するスタートラッカを宇宙状況監視に活用する技術で、低コストで実現が可能。衛星同士の衝突を回避することができ、宇宙の安全がより高まるアイデアです。すでにあるものをうまく利用して課題が解決できるという点も、同じ職員ながら面白いなと感じました」と島﨑。

編み物3Dプリンタ「ソリッド編み機」がJAXA賞に

ファイナリスト12組の中から、JAXA賞には、日本のチーム「Solidknit」の《物体を更新可能にする編み物方式3Dプリンタ「ソリッド編み機」》が選ばれた。 

このアイデアについて「糸だけで椅子やベッドなどの固い立体物をつくれる機械が《ソリッド編み機》です。例えばこの編み機と糸を月にもっていけば、現地で様々な立体物を作ることが可能となります。さらに、椅子をほどいて机に編み直すといった物体のアップデートが可能になります。形状の変更もできるため、宇宙への輸送コストの削減、リサイクル技術の面でも大きなメリットになります」と島﨑。「JAXA職員にはない着眼点に加え、この『ソリッド編み機』の将来性と探査活用との親和性を感じています。少しでもアイデアが実現していくための何かしらの支援ができればと思っています」と続けた。

現在、ドクターヘリは全国45都道府県に設置されている。従来のヘリコプターは日本の約6割をカバーするのに対し、開発中の高速ヘリコプターが実現すると、約9割をカバーできる。

提供:Solidknit

「ソリッド編み機」で作った立体物。糸一本で、強度も兼ね備えた様々な形状を作ることができる。

「S-Booster」の特徴のひとつに、実際に事業化に取り組める可能性も秘めていることがある。その例のひとつに、2018年に参加したJAXAチームのアイデア「ポテンシャル名産地 発掘プロジェクト」がある。ここから派生した株式会社天地人は、JAXA職員と農業loT分野に知見がある開発者が中心となった宇宙ベンチャー企業。複数の衛星データや地上データを組み合わせながら、その土地でいちばん育つ農作物を見つけ、土地の価値を見出すプロジェクトを進めている。

「もちろん、実現可能なアイデアであることが大切なのですが、投資家の目に留まれば、事業化に向けたステップが生み出されることもあります。社会人だけでなく学生でも参加できますし、さらに言うと現在宇宙と関係のない業種でも、アイデアさえあれば応募が可能です。このアイデア段階から応募ができるというのが、『S-Booster』のよいところです」

また島﨑は、審査過程のメンタリングにも「参加するメリットがあるのではないか」と続ける。

「二次審査を通過すると、専門家によるメンテリングの機会があり、そこでアイデアをブラッシュアップすることができます。実際に応募した方の声を聞いても、専門家のアドバイスや事業化に向けた意見をもらえる機会にメリットを感じている方も多くいらっしゃいます。また、そういう方々との繋がりができたと喜ぶ声もありました。昔とは違い、宇宙に将来性を感じて動いてくださる投資家の方もたくさんいらっしゃるので、少しでも宇宙に挑戦してみたいという方は、ぜひコンテストに参加していただければと思います」

このような、今までにないにない新しい発想が生まれるS-Booster。ここでの様々なアイデアが事業化され、宇宙ビジネスの発展に繋がることを期待したい。

Profile

島﨑一紀

新事業促進部
事業支援課
島﨑一紀 SHIMAZAKI Kazunori

埼玉県出身。これまで、太陽電池パドル、薄膜太陽電池、材料の耐宇宙環境性、コンタミネーションなどの研究開発に従事。現在は、宇宙利用拡大・産業振興に係るプログラムの管理・事業開発などを担当。趣味は旅行。

取材・文:野村紀沙枝

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