より広い層に情報を発信し、宇宙探査への共感を目指す

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「国際宇宙探査シンポジウム2021」を開催

より広い層に情報を発信し、
宇宙探査への共感を目指す

国際宇宙探査センターが、オンラインで開催した「国際宇宙探査シンポジウム2021」。
このシンポジウムでは宇宙開発に携わる人だけでなく、さまざまな分野の方とコラボレーションすることで、幅広いアウトリーチを狙った。企画立案から担当した末永が、その舞台裏とこれからの宇宙探査の未来を語る。

目指すは宇宙探査への共感

宇宙での人類の活動領域を広げるため、各国の宇宙機関との国際協力や産業界、科学コミュニティなどと連携しながら、宇宙探査に関するプロジェクトを企画・推進する国際宇宙探査センター。国際宇宙探査の中でプレゼンスを発揮するため、科学界や様々な分野の企業の参画を呼びかけている。その取り組みのひとつとして、2021年1月から7月に計4回にわけて「国際宇宙探査シンポジウム2021」(以下、シンポジウム)を開催。それぞれの回のテーマと内容は以下の通りだ。

●第1回(2021年1月27日開催)
テーマは「月面探査の将来像」。NASAと欧州宇宙機関(ESA)による宇宙探査ビジョンの紹介や、産業界・科学界コミュニティの代表によるパネルディスカッションで「目指す月面社会の姿」を議論した。

●第2回(2021年2月26日開催)
国際宇宙ステーション「きぼう」利用シンポジウム2021との共同開催。テーマは「宇宙探査技術のステップアップ」。国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟を用いた技術実証の話に始まり、月探査時代に向けたこれからの「きぼう」の利用についてパネルディスカッションを行った。

●第3回(2021年6月14日)
テーマは「地上と探査をつなげる」。持続的な社会の実現に向けた月面と地上の共通課題としてエネルギーにフォーカス。株式会社本田技術研究所(以下、Honda)が水素技術開発の取り組みと宇宙への挑戦について発表し、パネルディスカッションでは、月と地上での再生可能エネルギーについて語り合った。

●第4回(2021年7月20日)
テーマは「世代をつなげる」。日本を代表する建築家・隈研吾氏と宇宙飛行士の油井亀美也が、都市の課題や月面社会について対談。月探査時代を見据えた宇宙飛行士候補者募集の紹介や、宇宙飛行士・若田光一とさまざまな分野で活躍中の若いメンバーが、次世代が考える月面社会について語り合った。

企画立案から担当した末永は、「〝人類、月を拓く〟をコンセプトとして、現在宇宙探査に携わっている人たちはもちろん、一般の方にも視聴していただくことを目指しました。オンライン開催とすることで従来の会場型よりも気軽に参加できるようにするとともに、リアルタイムで質問やコメントを受け付ける視聴者参加型のイベントとしました。また、登壇者もできる限りJAXAではなく幅広い分野の一線で活躍する産業界・研究者の方々にお願いしました。各回のテーマについて多角的に議論いただくことで、JAXAの情報発信が中心ではなく、より深い議論ができました」と振り返る。

視聴回数は当日とアーカイブ映像を合わせて約17万回(全4回合算)に及び、参加登録者も従来と比べ非宇宙分野の企業・研究機関や大学生を中心とした若年層の比率が高かった。また、最終回(第4回)は鳥取県の産業未来創造課からの提案があった。

「シンポジウムの試聴イベントを開催したいという内容でした。鳥取県は以前より鳥取砂丘を月面に見立てた模擬体験や宇宙関連企業の誘致などを積極的に行うなど、宇宙産業の創出に県を上げて取り組まれていたのです。私たちも幅広い層にリーチしたいと考えていたので、鳥取サテライト会場での視聴イベントと情報発信に協力していただきました」

ほかにも、シンポジウムを4回に細分化したことで、「単発よりもターゲットごとにより深い議論ができた」と末永。

「第3回では、HondaとJAXAが共同研究を進める『循環型再生エネルギーシステム』の実現性検討を始める発表とも連動できたため、ニュース性も高まりました。より専門的にテーマを深掘りしたこともあって、この回は専門家や関係者からの反応が目立ちました」

これからの宇宙探査に向けて

シンポジウムに手応えを感じる一方、今後の課題も見えてきたと末永は続ける。

「宇宙開発や探査活動に関心を持っていない層も含めて、より広く深いアウトリーチをしていくことが現状の課題です。たくさんの人に宇宙探査を〝自分ごと化〟してもらいたいと思っています」

この〝自分ごと化〟とは、「宇宙探査が自分にも関わりがあるかもしれないと気づいてもらい、さらには行動してもらうこと」と末永は話す。

「今まで宇宙のこととなると、どこか他人ごとのような感覚があったかと思います。しかし、近い将来の宇宙探査では、これまでの宇宙開発だけでなく、現在私たちの生活に密接にかかわる地上にあるコトやモノから派生した新たな技術が必要となり、JAXAでは新しい知識を求めています。単に宇宙探査の認知度を上げるだけでなく、実際に宇宙探査に参画してもらうまでが私たちの目標です」

JAXAが描く日本の国際宇宙探査ロードマップ。
JAXAが描く日本の国際宇宙探査ロードマップ。

2019年10月、日本は米国が主導する国際宇宙探査計画「アルテミス計画」への参画を決定した。JAXAは月の周回軌道上に構築予定の月周回有人拠点(Gateway)の中核機能である居住棟生命維持機能(ECLSS)の提供や新型宇宙ステーション補給機による物資補給を担うとともに、月面においても、月の水資源等を探査する月極域探査ミッション(LUPEX)の開発や有人与圧ローバの研究を進めている。さらに、その先には持続的な月探査の実現を見据えている。国際協力で進めるアルテミス計画では、「日本の強みを活かして参画することが重要」と末永。

「宇宙ステーション補給機『こうのとり』を発展させた新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)、生命維持装置、ほかにも無人の技術などでの参画を目指しています」

HTV-X(左)とGateway(右)のイメージCG。
HTV-X(左)とGateway(右)のイメージCG。

企業等と連携したアウトリーチ活動と
意義価値の〝見える化〟を目指す

国際宇宙探査の認知度は年々向上し、探査活動への企業や研究者の参画が広まりつつある。しかし末永は、「持続的な月探査を実現するために、より多くの方に参画いただきたい」と話す。そのために、企業や地域等と連携して、これまでJAXAがアプローチできなかった層へより広く深いアウトリーチ活動を展開することや、宇宙探査の魅力を分かりやすく伝えるブランディングを検討している。

「宇宙探査の意義や提供する価値、参画することによるメリットを"見える化"を目指します。産業界やコミュニティが主催するイベントなどにも、宇宙探査を活用していただきたいと考えています。例えば、宇宙探査を題材にしたビジネスコンテストや月面で行うことを想定したファッションショーなどといった企画も可能かもしれません。JAXA以外が主催する宇宙探査がテーマの催しが増えると嬉しいですね。

宇宙探査の主役はみなさんなので、企業や若い世代の方々にもこれから宇宙探査に参画したいと思ってもらえるような仕掛けにできればと思っています」

Profile

末永和也

国際宇宙探査センター
末永和也

兵庫県出身。入社以来、産業界との連携や海外駐在等に従事。2017年からトヨタ自動車に出向し、「有人与圧ローバ」の企画とプロジェクト立ち上げを主導。現在、国際宇宙探査センターで探査プロジェクトの企画・推進を担当。

取材・文:野村紀沙枝

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