SPACE IS WAITING FOR YOU.

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~13年ぶりの宇宙飛行士候補者の募集〜

2021年12月20日から受付が開始された 、13年ぶりの宇宙飛行士候補者の募集
これまでの募集とどう違うのか、そして宇宙飛行士に求められる適性とは?今回の募集を担当する有人宇宙技術部門の川崎一義事業推進部長に聞いた。

―前回(13年前)の応募資格と比べ、学歴や専門性、医学的要件が大幅に緩和されました。このように間口を広くするということは、試験で実力や適性を判断することが大事になってくると思います。そのあたり、いかがでしょうか?

おっしゃる通り、学歴などの条件を撤廃したことから、試験をしっかり行っていくことを考えています。具体的には書類選抜、第0次から第三次までの5段階で試験を行い、第0次でいままでになかった「STEM(Science, Technology, Engineering, and Mathematics)」という分野の試験を入れる予定です。科学・技術・工学・数学の知識と大学卒業程度の学力などを見ていきますが、この試験が追加されることで前回と比べて格段に難しくなるかというと、そこまで大きな変化はないと思います。英語試験や医学検査は以前と同様ありますし、すべて総合的に見て判断していくやり方は前回と同じです。

宇宙飛行士候補者募集の特設サイト
宇宙飛行士候補者募集の特設サイト

―面接や、適性試験も行われますが、こちらも以前と同様と捉えてよいでしょうか?

それらに関しては、まったく同じとは言えません。なぜかというと、この13年の間に、採用試験に関して民間から新しい手法がいろいろと出てきているからです。資格要件、我々は「コンピテンシー」と呼んでいますが、に合っているかどうかを精度良く見る手法ですね。1回の試験ではなく、ある程度の時間をおいてその人がどれだけ伸びるのか、という視点でも見ていきます。これにより、宇宙飛行士の適性をより正確に、かつ精密に見ることができます。

選抜時に行われる体力検査のイメージ

選抜時に行われる体力検査のイメージ

―日本人宇宙飛行士候補者の応募倍率は、他国と比べてどうでしょうか?

前回、日本の場合は1000人弱、963人の応募者で採用が3人。倍率は321倍です。例えば最近のNASAの募集では、1万2000人超の応募で採用が10人。倍率は1200倍なので日本の4倍ですね。ヨーロッパはもっと狭き門で、来年の採用で2万2000人ほど受けていて、そこから選ばれるのが4〜6名だそうです。おそらく、5500倍の倍率になります。日本はそれらに比べると倍率は低いですが、今回は間口を広げているので、まだわかりません。多くの人に応募していただきたいです。

―間口の広さや試験内容は、日本と他国で比べるといかがでしょうか?

間口をこれだけ広げているのは、おそらく日本だけです。欧米は自然科学系の大学院卒など、かなり絞っています。それでも、これだけの応募者がいるわけです。そこに、日本と海外の違いがあるのだと思います。日本の場合、宇宙飛行士が身近ではなく、別次元の話と思われているのかもしれません。みんなに可能性があるということを、広く伝えていきたいと思います。

―求める人物像のイメージとして、いくつか条件があると思います。お答えいただける範囲で、どのように見ていくのでしょうか?

実はこれは、我々もいまから考えていくところです。今回の募集がいままでと違うのは、宇宙飛行士が月に行く可能性があるということ。月、あるいは月周回有人拠点「ゲートウェイ」は、国際宇宙ステーション(ISS)に比べて地球からかなり離れます。そうすると、個人差はあると思いますが、不安感や孤独感が出てくる可能性があります。今回はどのように取り入れていくか、我々にとってもチャレンジです。具体的な内容はまだ申し上げられないのですが、JAXAに選抜のための専門委員会をつくり、1年をかけて議論しながら評価していきます。

ゲートウェイのイメージ

ゲートウェイのイメージ

―今回新しく「表現力・発信力」が条件に加わっています。宇宙飛行士に求められる表現力・発信力とはなんでしょうか。

先日「なぜ人間が宇宙に行く必要があるのか?」という質問をされました。その答えも、ひとつではないので難しいです。でも、実際に月に行った人が語ると、説得力がまったく違うのではないでしょうか。同時に宇宙飛行士の役割として、月などで感じる高揚感や不安、寂しさなどの等身大の感情も、多くの人に伝えてほしいと思っています。実際に月を見てこう思った、という感情は、当然、行った人にしかわからないでしょう。そういう意味で、うまく表現し、発信できる能力は非常に重要。新しく必要な素質として条件に加えました。

ISS「きぼう」日本実験棟をバックにした宇宙飛行士のイメージ

ISS「きぼう」日本実験棟をバックにした宇宙飛行士のイメージ

―一見関係なさそうに見える社会経験が、宇宙飛行士として役立つ可能性もあるわけですね。

おっしゃる通りです。その経験とは、表現力・発信力以外にもたくさんあります。ISSを見てもわかるように、大前提として狭い空間でいろいろな国の人と一緒に生活をしなくてはいけません。コミュニケーション能力や、パートナーシップ、リーダーシップやフォロワーシップも重要ですので、社会経験のなかで培ってこられたそれらの部分もしっかり見ていきます。

―1972年にアポロ17号の宇宙飛行士が月面を去ってから半世紀を経て、人類は再び月を目指すことになるわけですが、なぜ今、月なのでしょうか?

150年前のロケット工学者は、最初から月に人を送り込むという発想で、当時はまだイメージですが宇宙船の設計までしていました。そういう意味で、我々宇宙関係者が月を目指すのは、「いつ」というタイミングの問題で、いずれ行くことは決めていたのです。なぜいまか、ということについては、国際的な動向、技術的な問題や、経済の話も絡みます。ようやくいまは民間も含めて、宇宙開発がどんどん進み、月に進出する機運が高まってきました。
将来的には、月に基地を作って、人が住むことを目指しています。そしていずれは月を拠点に、火星まで広げていこうという考えです。将来火星に人が住めるようになると、仮に地球に何かあっても、人類は生き延びていくことができます。

将来の月面イメージ
将来の月面イメージ

―今回「夢だった宇宙飛行士候補者の応募にようやくチャレンジできる」という前向きな言葉がよく聞かれます。たくさんの応募者が選抜試験を経験することで、いままでとは違うどのような効果が期待できると思われますか?

今回は若干名の採用予定ですが、50人くらいまで残った人たちも、おそらく相当に優秀な方々でしょう。どこに行っても活躍できる人だと思います。その人たちをみんなが応援することによって社会全体が宇宙開発に目を向けるということもあるでしょうし、宇宙以外の業界にも選抜試験で得た経験をフィードバックすることで、ひいては社会全体に貢献できる、という波及効果も期待しています。

―宇宙飛行士は、人類の未来を開拓する職業。スケールの壮大さとロマンを感じます。次世代の宇宙飛行士にもっとも必要な素質とはなんでしょうか?

最近、宇宙開発と、16世紀の大航海時代のシミラリティ(類似性)がないか、人文学系統の専門家と話をしているんです。たとえば日本にキリスト教を伝えるために尽力したフランシスコ・ザビエル。彼ら宣教師が遠く海を渡って布教することもミッションというので、いまで言うところの宇宙飛行士のようなものかもしれません。未来のためにがんばろうと、命をかけて日本を目指したんですね。我々が月に飛び立つということは、自分だけのためではなく、それに続く未来の新しい社会を築き上げるということに等しいものです。それに対する、ある種の覚悟や気迫は必要といえるかもしれません。

JAXA宇宙飛行士候補者募集スペシャルムービー

Profile

川崎一義

有人宇宙技術部門
事業推進部 部長
川崎一義

1989年から宇宙ステーションの開発、事業推進、宇宙環境利用、月惑星探査計画などを担当。2015年より宇宙探査イノベーションハブを立ち上げ。これまで宇宙に関係のなかった業界と連携した研究開発事業を推進。2017年より同副ハブ長。2020年より現職。

取材・文:仲野聡子
イラスト:北村みなみ

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