KIBO宇宙放送局 ×『ONE PIECE』

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KIBO宇宙放送局のWEBサイトより転載 ※本特番は終了しています。
©尾田栄一郎/集英社 ©JAXA/SpaceX ©NASA

KIBO宇宙放送局 ×『ONE PIECE』
意外なコラボレーションをきっかけに
見上げた宇宙が教えてくれたこと

国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟に開設した、宇宙と地上を双方向でつなぐ世界で唯一の宇宙放送局、KIBO宇宙放送局。2020年夏のペルセウス座流星群の夜、2021年元旦の宇宙で見る初日の出の配信を行いました。3回目の配信となった今回は、大人気漫画『ONE PIECE』とのコラボレーションが実現しました。
9月3日にTwitterで配信された宇宙冒険特番では、375万人を超す『ONE PIECE』と宇宙ファンが見守るなか、星出宇宙飛行士とルフィがISSで合流し、話題に。この一見意外な組み合わせの裏にある両者の共通点と、コラボレーションが残したKIBO宇宙放送局の可能性とは何か?JAXA有人宇宙技術部門の平出安奈、KIBO宇宙放送局の新事業イニシアチブを担う株式会社バスキュール・プロデューサーの南郷瑠碧子さん、そして『ONE PIECE』の出版元である株式会社集英社・宣伝部の濱岡諭史さんの3者が語る。

左から、平出安奈、南郷瑠碧子さん、濱岡諭史さん。
左から、平出安奈、南郷瑠碧子さん、濱岡諭史さん。

宇宙と地球をつなぐ、インタラクティブな空間

平出

KIBO宇宙放送局は、JAXAが民間事業者と一緒に新たな発想の宇宙関連事業を作る研究開発プログラム『宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)』の一環として、バスキュールさんと共同で始めたものです。これまで、ISSの利用は国が主導して行うイメージがありましたが、ISSをはじめとする地球低軌道での活動(地球からの距離が近い軌道での活動)は民間企業も参入できる場になっています。バスキュールさんのように宇宙を事業のフィールドとして活用いただく企業が増えてきて嬉しく、さらに広がってくれればと感じています。

南郷

ありがとうございます。バスキュールは、プロジェクトデザインスタジオを掲げるクリエイティブチームです。広告、プロダクト、スポーツ、都市開発など、さまざまな領域を舞台に、これまでつながっていなかったもの同士をつなげることで既存の枠組みを超えた、未来のスタンダードをつくり出すことを目標にしています。創業以来、宇宙を舞台にしたプロジェクトにトライしたいと考えていましたが、昨年、KIBO宇宙放送局というかたちで、ついにそれが実現しました。

平出

宇宙に、地上と双方向でやりとりができるスタジオを作ると聞いたとき、より宇宙を身近に感じることができる画期的なアイデアだなと思いました。

南郷

会社に宇宙好きなエンジニアがいて、自社で開発した流星観測システム(Meteor Broadcaster)と連動して、流れ星に願いごとを届けるプロジェクトを実施したこともあり、宇宙をきっかけに色々な人が意見を述べたり、行事に参加できる機会を作れたらいいな、ということはずっと思っていたんです。今、宇宙に行けるのは宇宙飛行士など限られた人ですが、もっと多くの人たちも宇宙について気軽に話せる場所を作りたいというのが、KIBO宇宙放送局の最初のアイデアでした。

KIBO宇宙放送局のイメージ図
KIBO宇宙放送局のイメージ図

平出

これまでも、地上から宇宙飛行士と対話ができるような交信イベントを行ってきましたが、ISSから地上に映像や音声を送ることはできても、地上の映像をリアルタイムでISSにあげることは難しかったんです。KIBO宇宙放送局ではそれが実現できて、しかも、さまざまな人が簡単に利用できる可能性を感じられたのは、とても素晴らしいことだと思っています。

南郷

宇宙の可能性は無限大ですから、トライしたいことは沢山ありました。でも、宇宙に機材などのハードウエアを打ち上げるということになるとスケジュールやコストのことがあり、それだけでハードルが高く難しいことでした。そこで、すでにISSにある機材を使いつつ、バスキュールが得意なソフトウエアで開発できることにしようと発想を転換しました。これで、構想から実現までのスピードが早まったのではないかと思います。JAXAさんからもたくさんのご協力をいただけて、本当にありがたかったです。

KIBO宇宙放送局の双方向ライブ配信のイメージ
KIBO宇宙放送局の双方向ライブ配信のイメージ

平出

こういった企画と、JAXAの事業を知っていただきたい、というところをどうすり合わせていくかということを、毎回悩みながらも楽しく進めさせていただいています。今回のKIBO宇宙放送局と漫画『ONE PIECE』のコラボレーション特番は、JAXA、バスキュールさんとともに、集英社さんも一緒になってひとつのチームとして関わっていただいていますよね。集英社の濱岡さんも、最初はとても意外なコラボだと思われたんじゃないですか?

濱岡

はい。集英社も『ONE PIECE』ファンのみなさんに何か還元できたらいいなとは思っていたときに、『ONE PIECE』と宇宙の組み合わせを提案いただく機会がありました。最初は話が壮大すぎて、ほとんど頭に入ってこなかったですが(笑)、KIBO宇宙放送局の話を詳しく聞いて「できるのであればありがたく...」と返答させていただきました。

南郷

KIBO宇宙放送局は、宇宙を舞台にこれまでにないコラボレーションを生み出したいと考えていました。そこに『ONE PIECE』という日本を代表する漫画とのコラボレーションのお話があり、実現できれば、これまで宇宙にあまり接点がなかった人たちに対しても、その魅力を届けられる機会になるとおもいました。

濱岡

最初は宇宙と聞いて驚いていたのですが、KIBO宇宙放送局ができたきっかけやJAXAさんのお話を伺っていると、『ONE PIECE』の主人公であるモンキー・D・ルフィに近いものを感じたんです。ルフィは「おそらく宝物があるだろう」と、確証のないものを探して長い間旅に出ています。その知的好奇心や純粋さは、JAXAさんのスピリットと似ているところがあるなと思ったんです。そしてルフィの行動力、周りを引き込む人格力は、星出宇宙飛行士をはじめとする、リーダーシップを取られるみなさんに非常に近しいところがあると思いましたね。

ISS船長に就任する星出宇宙飛行士(写真左)
ISS船長に就任する星出宇宙飛行士(写真左) ©JAXA/NASA

南郷

見えないところやわからないものに向けて動く行動力はもちろん、"仲間"もこのコラボレーションの大きなキーワードになっていましたね。『麦わら海賊団』の"仲間"と、ISSクルーの"仲間"、そして今回の3社のコラボレーションチームは、とてもたくさんの"仲間"が関わっていて、実現のために各所での調整や制作は大変だったと思います。でも、『ONE PIECE』が持っている魅力は、KIBO宇宙放送局が目指すべきところでもあるので、このコラボレーションが実現できた時は、本当にうれしかったです。さあ、いよいよ、「星出ISS船長」と「ルフィ船長」の船長対談だ!と。

ルフィが宇宙に!という驚きと感動

濱岡

集英社は本を作ることが事業の基軸にあるので、目線は手元の本を向いています。本と目という至近距離で物事が展開するので、宇宙というとても広い視点を持たれているJAXAさんとどう繋がれるのだろう?と思っていました。でも、会議でみなさんとお話しをすると、考えていることは一緒だと感じました。そこでようやく企画に落とし込めた気がします。

平出

私も最初にコラボレーションのお話を伺ったときはびっくりしましたが、なんとしても協力したいと思いました。宇宙飛行士が着用するブルースーツを着たルフィのラフ絵を初めて見たときはとても感激し、JAXA内でもとても盛り上がったのを覚えています。

「KIBO DISCOVER PROJECT」キービジュアルより転載

「KIBO DISCOVER PROJECT」キービジュアルより転載 ©尾田栄一郎/集英社 ©JAXA

濱岡

いままで背景が島や土地であったところが、一気に宇宙の絵になったのも圧巻でした。『ONE PIECE』という作品の広がりを見られてうれしかったです。

南郷

これまでKIBO宇宙放送局は、過去2回のイベントは、いわば実験的な配信だったのですが、今回の3回目にして初めて本運用になりました。そして、本運用の最初にタッグを組むことができたのが『ONE PIECE』です。今回のコラボレーション『KIBO DISCOVER PROJECT』では、地上と宇宙を双方向でつなげる『宇宙番組特番』の配信の他に、『スペース大作戦』の名のもと、地上から日本実験棟「きぼう」を観測できる(ISS可視情報サービス)「#きぼうを見よう」という企画も行いました。

平出

さらにこのコラボは、ISSをより深く知るエデュティメントプログラムとして、文科省の協力のもと全国の学校にお知らせもしました。たくさんの子供達にも、夏休みの課外活動の一環として参加いただけたのではないかなと思います。

濱岡

集英社はエンターテインメントを生業としていますが、「エンターテインメント」はラテン語が語源であると言われています。「エンター」が中や間、「テイン」が掴む、維持する、「メント」はこと、メンタル=心という説もあるといわれています。これらの語源から「心の中を掴む」という意味があると言われているんですね。それを、物語を介して実現していくのが漫画というエンターテイメントの仕事です。それで「いい物語とは何か?」と考えたとき、主人公自身、もしくは主人公と関わった人物が、ネガティブな状態からポジティブな状態に変化することだ、と言われているんですね。ルフィというキャラクターは、漫画のエンターテインメントの権化のような人間。既成概念を壊して関わった人たちが抱えている鬱屈としたものを、すべてポジティブに変えてしまう力が非常に大きいと思います。

平出

おっしゃる通りです。

濱岡

ルフィを通してエンターテインメントを提供したいと思うなかで、先日、スマートフォンを空にかざしてISSを発見する音声イベント企画、『♯きぼうを見よう LIVE』に参加しました。働いているといつも下ばかり見てしまうのですが、空を見上げることで一気に気持ちがプラスに傾いていくことを実感しましたし、Twitterをみてみると、周りの人たちも同じような感想をもってくださったことがわかりました。本当に、ことばにできない感動をしました。ルフィ、ひいては『ONE PIECE』という作品が、すべての人の気持ちをポジティブに転換していくように...ということは、尾田先生から版権を預かっている会社として心から思っていることなのですが、ちょっとでも上を向いたことがきっかけでポジティブになる人がいたとしたら、これはとても良い物語だったと思います。また、平出さんが「ブルースーツを着たルフィを見て感激した」とおっしゃってくださいましたが、関わった方々が、ちょっとでも前向きな気持ちになってくれたのでしたら、それだけでもタッグを組んだ意味は十分あるはずです。

『♯きぼうを見よう×ONE PIECE スペース大作戦』のWEBサイトより転載 ※本企画は終了している場合があります。
『♯きぼうを見よう×ONE PIECE スペース大作戦』のWEBサイトより転載 ※本企画は終了している場合があります。
©尾田栄一郎/集英社 ©KIBO宇宙放送局 ©NASA

南郷

この「#きぼうを見よう LIVE」は、過去にも何度か行なっているのですが、日本全国の人たちと繋がりながら観測状況を報告し合うと、本当にISSの軌跡上に「見えた!」「見えた!」と順番に報告がくるんですよね。今回は、『ONE PIECE』のストーリーがあることで、より多くの人たちに参加いただけましたし、一体感を感じました。日本全国みんなでつながりあいながら、空を見上げるって素敵ですよね。

平出

『♯きぼうを見よう』は、素晴らしい企画ですよね。参加された方のなかには、ISSを地上から肉眼で見られることを知らない方も多くいらしたと思うのですが、このイベントに参加することによってこのことを知り、SNSに投稿してくださる方がたくさんいらっしゃいました。みんなで同じ時間に空を見上げてISSを観察して、しかも日本人宇宙飛行士である星出宇宙飛行士がISS船長を務めていて...なんとも贅沢な企画でした。

濱岡

『ONE PIECE』は「みんなでこの場所に集まって何かをしよう」といった、インタラクティブな企画を実施することが多いのですが、それでも今回のように空を見上げてみんなと同じ「きぼう」を見る企画というのは、やはりいままでとは別の感動がありました。業務として関わるとどうしても客観的に見てしまう部分があるのですが、それでも込み上げてくるものがあったというか。本当にありがとうございました。とても楽しかったです。

KIBO宇宙放送局のこれから

平出

さまざまな企業が、宇宙を当たり前に活用できる時代に近づいてきていると感じています。昨年は野口宇宙飛行士、今年は星出宇宙飛行士が民間企業である米SpaceX社の宇宙船クルードラゴンに乗ってISSに行ったのが印象的でしたが、今回のこのコラボレーションは、民間による宇宙利用、事業のひとつの象徴的な企画になるのではと思います。

南郷

KIBO宇宙放送局で番組を配信するたびに、宇宙という場所がどんどん開かれて、身近になっていくのを実感します。バスキュールの宇宙メディア事業の開発を経て、遠い宇宙にいるISSと世界中の人が簡単に手元のスマートフォンでもつながることができるようになりました。今回の『ONE PIECE』とのコラボレーションで、より多くの方にその広がりを感じてもらうことができたと思います。そして、まだまだ宇宙をもっと皆さんに身近に感じていただけるような見せ方や、作り方ができるのではないかと、可能性を感じます。KIBO宇宙放送局は、今後年中行事のように、みんなが上を向いて宇宙のことを、ふと思うような機会が増えればいいな、と思っています。空を見ながら年越しをしたり、初日の出を一緒に見たり...今後も様々な人たちの発表の場所としてアップデートし続けていけたらと思います。

『♯きぼうを見よう』WEBサイト。いつ、どこで「きぼう」が見えるかが分かる。
『♯きぼうを見よう』WEBサイト。いつ、どこで「きぼう」が見えるかが分かる。

取材・文:仲野聡子

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