東日本大震災から10年、地球観測衛星が辿る復興のあしあと

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岩手県陸前高田市付近の(左から)震災前、震災後約5年、震災後約10年の変化

東日本大震災から10年、
地球観測衛星が辿る復興のあしあと

宇宙から地球の状況を細かに捉える地球観測衛星。その"目"は、東日本大震災で様変わりした街の姿と、10年かけて少しずつ人々の営みが再生していく様子を捉えていた。いくつものデータを解析して視覚化した復興の歩みを、地球観測研究センター研究領域主幹の田殿武雄が解説する。

地球観測衛星を防災に役立てる

地球観測衛星から得られたデータは、地球環境や地球資源の把握などさまざまな分野に役立てられている。そして今、地球観測衛星を運用するうえで大きなトピックになっているのが「防災」だ。2021年は、東日本大震災の発生から10年。この未曾有の大震災はJAXAの地球観測衛星にとっても節目となるできごとだった。

田殿武雄は「JAXAでは、陸域観測技術衛星『だいち』の初号機(ALOS)の時代から、防災をミッションのひとつに掲げています」と話す。

「ALOSは東日本大震災の発生時、緊急観測などで活躍しましたが、すぐあとの2011年5月、機械的な不具合で運用停止してしまったんです。不具合の原因は震災とはまったく関係なく偶然のタイミングだったのですが、その活躍を見て地球観測衛星の必要性をあらためて感じ、チーム内で『やはり防災は地球観測の大きなテーマになるだろう』という共通認識を深めるきっかけになりました。現在は後継機である『だいち2号』(ALOS-2)などの観測データを防災に活かしています」

現在運用している「だいち2号」(ALOS-2)のCG。
現在運用している「だいち2号」(ALOS-2)のCG。

地球観測研究センターでは、東日本大震災から10年の節目に、地球観測衛星データの解析結果から見る復興・復旧の様子をとりまとめ、「震災から10年を迎えて ~宇宙から見た復興状況~」としてweb上で公開。東北地方の11地点を対象に、震災前/震災後約5年/震災後約10年の観測データを解析し、土地被覆(地表面の状態)の変化の様子を解説している。

土地被覆は都市、水田、畑、草地、森林、ソーラーパネルなど12に分類。解析方法について田殿は「同じ場所を複数日撮影した観測データを集めて分類を行っています」と話す。

「複数日のデータを使うメリットとしては、たとえば水田だと、春先に水を張って田植えをし、夏に向けて稲が伸び、秋口に刈り取るというようなサイクルがあるんですね。それを踏まえて画像を見ると、明るさの変化などから土地被覆を判別することができます。
森林は落葉広葉樹、落葉針葉樹、常緑広葉樹、常緑針葉樹の4つに分類しています。まず常緑と落葉は、夏は葉があって緑、冬は葉が落ちて茶色っぽく見えるのが落葉樹。1年を通して葉が落ちず、ずっと緑なのが常緑樹ですね。針葉と広葉は微妙な違いで木の種類によっても見え方が変わるのですが、おおまかに言うと針葉樹は春先に黄緑っぽくなるなど。そんなふうに、精緻に季節変化を比べることが大切です」

土地被覆からわかる、再生する人の営み

東北地方の状況はどのように変化したのか、11地点のなかから3地点について田殿が解説する。

まずは福島県南相馬市付近。福島第一原子力発電所の北側にあたるエリアだ。

福島県南相馬市付近
福島県南相馬市付近

「『震災前』を見ると、平野の部分には水田(画像では水色)が広がっています。『震災後約5年』では特に南のほうの、もともと水田だったところが草地(黄色)になっている。このあたりは、震災とそれに伴う原発事故によって耕作放棄されたり、立ち入り禁止区域になったエリアです。水田の活動が止まったことで、そこが草地に変わったのだと思います。
『震災後約10年』を見ていただきますと、そのエリアに再び水田が増えている。市街地(赤色)の北側にも同じ変化が見て取れます。これらは、水田を耕す活動が戻ってきているからではないかと考えています。
さらに特徴的なのが、紫で示しているソーラーパネル。東北地方全体に言えることなのですが、東日本大震災のあと、太陽光発電所や大規模なソーラープラントが多く建設されたようです」

「続いては、岩手県陸前高田市付近。陸前高田は三陸のリアス式海岸に位置している小さな港町です。『震災前』では湾のところに都市があって、その周りに水田がある。『震災後約5年』になるとその一帯が軒並み裸地(茶色)に変わっています。
これは津波の被害を受けたからだと予想されるのですが、そのままにしているわけではなく、復興のために整地をしたのではないでしょうか。荒れた土地を整え、新たに使っていくための活動がこの解析結果に表れていると考えています。

岩手県陸前高田市付近
岩手県陸前高田市付近

『震災後約10年』では、もともと都市だったところの北側にポツポツと都市が増えています。これはおそらく、高台のほうに住宅地や市街地が移動していっているのかなと。さらに、よく見ると沿岸部にも少し増えているんですね。『都市』には人工構造物も含まれているので、ここは堤防を造り直したり、護岸を強化したりしたのだと考えています」

「最後は岩手県の石巻市と女川町付近です。『震災前』では沿岸部に街が広がっていて、内陸には水田があります。『震災後約5年』で、右側にある女川町あたりの、もともと水田だったところが裸地になっている。これは津波の影響を受けたからだと考えています。

宮城県石巻市・女川町付近
宮城県石巻市・女川町付近

『震災後約10年』を見ていただくと、女川町のもともとの都市部よりもさらに内陸のほうに都市が生まれています。それから、左上に円がふたつありますが、もともと水田だったところの北側に都市が増えているんですね。陸前高田市と同じく、高台のほうに新しい住宅地ができていったのだと思います」

次に目指すのは、災害の予兆を捉えること

今回の取り組みを振り返り、「現地の人たちはまだまだ苦労されているでしょうし、復旧の途中段階なのだろうと感じます。ただ、街が着実に復旧している様子が宇宙から見てもわかったことに、少しだけホッとしました」と田殿。観測データをより防災に役立てられるよう、新たな研究開発を始めているという。

「これまでは、災害が起きたときの状況把握や、そのあとの復興状況のモニタリングにとどまっていましたが、今後は予兆を捉えることを目指しています。
たとえば、山の地滑りや土砂崩れは、大きく崩れる前にわずかに地面が動くのですが、その微妙な動きを捉える。ほかにも、各自治体が出している防災ハザードマップにも貢献できると考えています。ハザードマップの地図そのもののデータを、最新の衛星データを用いて随時更新し、ハザードマップを精緻化していくことで、安心安全な社会につなげられるはずです。

ALOSのときは、まだ観測データを防災に役立てる技術はそれほど進んでいませんでした。しかし今は観測データから得た情報がきちんと防災対応機関に渡り、現地で役立てられるようになっています。そこがこの10年で大きく変わったところ。これから先は、予兆をとらえられる研究開発などを実現させ、より一層みなさんの生活に役立つようにしていきたいですね」

Profile

今井 正

第一宇宙技術部門
地球観測研究センター 研究領域主幹
田殿武雄 TADONO Takeo

京都府出身。学生時代から衛星観測・リモートセンシングに関する研究に取り組み、NASDA(現JAXA)の地球観測研究センターに配属。主に、陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)シリーズ衛星の校正・検証や利用研究に従事。衛星ミッションは立ち上げ、開発、打ち上げ、運用とそれぞれ苦労はありますが、最後まで残るのは観測データ。この価値をしっかりと示すことがひとつの目標。趣味はラグビーのテレビ観戦(過去の杵柄)。

取材・文:平林理奈

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