いよいよモデルロケット全国大会の本番当日、モジャモジャ&ボサボサ博士たちは作った機体を持って会場である筑波宇宙センターへとやって来ました。当日は晴れてはいませんが、風もほとんどなく、条件はかなり良さそうです。もしかしたらいい記録が出るかも!
会場についた2人は、早速参加する機体を審査してもらいます。モデルロケット大会では機体の大きさや材料など細かく規程が決まっており、規程から外れた機体は参加できません。博士たちは2人のチームで3つの競技に1機ずつエントリします。どうやら3機とも審査にパスしたようです。やった!これでゼッケンを受けとり、エントリー終了。博士たちのゼッケン番号は39番。これが競技での打ち上げの順番になります。
そして、開会式を終えたら、いよいよ競技開始です。
一つ目の競技はパラシュート滞空時間競技、上空でパラシュートを開き地上に降りてくるまでの時間を競います。もちろん機体は軽いほうが有利ですが、パラシュートが確実に開かなければなりません。なんども出場しているベテランの皆さんが非常に安定した飛行を見せる中、パラシュートが開かなかったり、途中でパラシュートから機体が分離してしまう機体もありました。こういう場合は安全な打ち上げが行われなかったとみなされて失格になります。
博士たちの機体は、細身の機体に、観測用気球で使う非常に軽い材質で作ったパラシュートを入れた機体です。上空で胴体が開いてパラシュートを放出する仕組みになっています。
いよいよ打ち上げ、うまくいくかな…5、4、3、2、1…バシュ! やった! 上がった!
…あれ? パラシュートが開かない! あああ! 博士たちの機体はうまく打ち上がったものの、
パラシュートが開かないまま落ちてきてしまいました。失格です。残念!
機体は、思ったようにパラシュートが放出されず、内部から爆発したようにはじけていました。一体何が起きたのでしょうか…
二つ目の競技はペイロード定点着地競技です。これは、上空でペイロードであるカプセルを切り離し、本体よりなるべく遠くに着地させるという競技。ただし、本体が規程のエリアの外に出てしまったら失格です。上空できっちりペイロードが切り離されること、安定してフライトすることなども重要ですが、風を読んで打ち上げ角を適切に調整することも重要です。風はさほどありませんが、規程のエリアから外れてしまう機体も多く見られました。なかなか難しい。
博士たちの機体は、ペイロード部分にリング状のプラスチックをつけ、羽代わりにして距離を稼ごうという作戦。ちょっと重いのが欠点ですが、滞空時間競技のリベンジなるか?
さあ、どきどきしてきました…5、4、3、2、1…バシュ! あっ! 打ち上げ直後に姿勢を乱して、打ち上げ地点のすぐ近くに落ちてしまいました。これも記録に残りません。なんと2機続けての失格…
いよいよ最後の競技、高度競技はその名の通りロケットが到達した高度を競います。もちろん機体はなるべく軽いほうが有利。もちろん安定した飛行が記録につながることは言うまでもありません。他の競技と同じく、パラシュートが開かなかったり、空中でパラシュートと本体が分離すると失格です。
博士たち、これまでの失敗でもう後がありません、せめてこの機体は成功を…5、4、3、2、1…バシュ! おお、おおお! やった、飛んだ!パラシュートは…開いた! 無事着地、成功!
…と思ったら、高度が足りず計測できず。 なんと、残念!こちらの機体も記録が出ません。博士たち全滅です。
すべての競技が終わり、全員で会場の掃除をしたあと、表彰式が行われました。各競技の表彰が行われ、また特別賞の発表があります。優秀な成績を収めた上位チームの名前が発表され、全員でそれをたたえます。スポーツマンシップならぬロケットマンシップですね。
せっかくなので各競技の優勝者の記録をご紹介しましょう(いずれも受賞は個人の方ですが、チーム名のみの記載です)。
・パラシュート滞空時間競技…中臺チーム(78.84秒) ・ペイロード定点着地競技…東海モデルロケットクラブ(17.593m) ・高度競技…大宮工業高校チーム(93.45m)
みなさん過去の大会で優秀な成績を収めている強豪チーム。さすがの素晴らしい成績です。
さて、3機とも成績が出せなかった博士たち、がっくりとうなだれて会場をあとにします。各機体ともバランスなどは問題なく作られていたはずですが、うまく行きませんでした。一体何があったのでしょうか。
・パラシュート滞空時間競技
落下してきた機体は内部から弾けたような壊れ方をしていました。エンジンはまったく問題ありません。でも、本来外れるべき一番先のノーズコーンが機体にくっついたままです。どうやらこれが原因です。
モデルロケットのエンジンは、機体を飛ばすための下向きに噴射する推進薬の燃焼が終わると、パラシュートを放出するための火薬に点火します。本来ならこのガスでボディーが分離するはずですが、博士たちの機体はボディーがきつくはまっていたため外れず、このガスが本体内部の圧力を上げて機体を壊してしまったんです。複雑な仕組みとテスト不足が原因でしょうか。
・ペイロード定点着地競技
姿勢が乱れる場合、まず考えられるのはバランスが悪いか、機体が変形したからでしょうか。バランスは問題ありません。機体は打ち上げた時と変わらず変形したりはしていませんでした。一体機体に何が起きたのか?
改めて機体を観察すると、ペイロード部分のリング状の羽根が、細いワイヤで取り付けられていて、強い力をかけると変形することがわかりました。どうやら、打ち上げ時の強力な加速と空気の力で取り付け部が変形したことで姿勢を乱したようです。モデルロケットとはいえ、打ち上げ時にはその加速で機体には大きな力がかかります。その力を甘く見ていたというのが原因でしょうか。
・高度競技
高度競技の機体は、フライトそのものはとても安定していました。まっすぐ飛びましたし、飛行中も姿勢は安定していてほぼ垂直に飛んで行きました。高度が低かったのは、おそらく機体が重かったのだと考えられます。
博士たちの機体は、なるべく軽くしようと製作しましたが、エンジンとのバランスを取るために、ノーズコーンに重りを入れざるを得ませんでした。結果的に機体全体の重量が重くなってしまったのです。重りを入れなくても全体のバランスが取れるような設計を行うべきだったかもしれません。
・反省
博士たちの失敗の最大の要因は、実際に飛ばすテストを行わなかったことです。本来、大会で打ち上げるロケットは、必ず1回以上安全な打ち上げを実施してから大会に使用するのが決まりです。しかし、大会までの時間が限られていたのと、飛ばせる場所が近くになかったため、紐を重心につけて回す簡易なテストでバランスなどのチェックは入念に行いましたが、決まりを守らずに打ち上げテストは行っていませんでした。
モデルロケットの設計は、ある程度確立された手法があり簡易なテストでも製作することができます。しかし、今回、博士たちが失敗したように、テスト環境と本番の環境では加速や火薬の燃焼など、多くの点で大きく異なります。実際に飛ばしてのテストは場所も選びますし、機体が壊れてしまう可能性もありますが、必ず実施してください。もし本番で事故を起こしてしまってからでは遅いのです。
閉会式では競技委員長から叱咤をされて立つ瀬のなかった博士たち。本来見本となるべき立場の博士たちが打ち上げテストをしていないなどということはあってはなりません。博士たちは失敗の前に失格だったのです。
しかしながら、大会の運営の方からも「ぜひ再挑戦を」と激励もいただいた博士たち。 今回の反省をふまえて、次回はしっかり調整と実験をしたうえで大会に臨みたいと気持ちを新たにしました。
宇宙実験室ノート
モデルロケットが安定して飛ぶためには、機体のバランスが適切に取られていなければなりません。そのカギを握るのが「重心」と「空力中心」と呼ばれるロケットの2つの中心です。
「重心」は聞いたことがある方も多いと思います。ロケットには全体に均等に重力がかかっていますが、その中心となるのが「重心」です。頭が重い機体は重心が前よりになりますし、おしりのほうが重い機体は重心が後ろの方に下がります。飛行中に力を受けると、ロケットはこの重心を中心に回転します。
「空力中心(圧力中心)」はあまり聞き慣れない言葉かもしれません。空気中を飛んでいるロケットは、空気の流れから力を受けます。その空気から受ける力の中心が「空力中心」です。これは重さとは関係なく、機体の断面積で決まります。頭のほうの面積が広ければ、空力中心は前に寄りますし、おしりのほうが広ければ、空力中心は後ろに寄ります。
さて、ロケットが空気中を飛んでいるときは、この空気から受ける力をうまく利用すると、なにもしなくても自然に頭が風上を向いてくれます。常に風上を向いている風見鶏を知っているでしょうか?あれと同じような状態にしてあげればいいんです。そこで重要になるのが重心と空力中心のバランスです。
ロケットの機体が常に進行方向を向いているためには、重心より空力中心が後ろになければなりません。風見鶏を想像すると何となく分かるでしょうか?風見鶏は必ず回転軸より後ろの尾っぽのほうが面積が大きくなっています。ロケットも同じ、回転軸である重心より、空気の力を受ける空力中心のほうが後ろにあれば、頭は自然に風上へ向くんです。
モデルロケットでは、全体の重量のバランスを考えながら、先端におもりを載せて重心を前にずらしたり、機体の後ろに羽をつけて空力中心を後ろに下げるなどして重心と空力中心のバランスを取ります。エンジンも積まなければなりませんし、ペイロードもありますから、なかなか簡単にはいきません。できるだけ軽く、なおかつバランスが良く、それでもきっちりと機能するロケットを作る。ホンモノのロケットにもつながるモデルロケットの醍醐味です。
具体的なモデルロケットの制作手法については、モデルロケットのライセンス講習会でもレクチャーがあります。また書籍なども販売されていますので、そちらを参照してください。