モジャモジャ博士とボサボサ博士、どこからか「モデルロケット」なるものの噂を聞きつけて来ました。ロケットのモデル? どうやらロケットの模型に実際に燃料を搭載して打ち上げて、高度や着陸の精度を競う競技があるらしい…なにそれおもしろそう!
JAXA筑波宇宙センターでイプシロンをテーマにしたモデルロケットのコンテストがあると聞いて見学に行ってきました。これは、モデルロケット全国大会の特別部門として行われたもの。ただの模型と侮っちゃいけません。モデルロケットはイプシロンなど実用のロケットと飛行の原理は同じ、いってみれば超小型のロケットなんです。
モデルロケット全国大会とは、毎年春と秋の2回、日本モデルロケット協会がJAXA筑波宇宙センターで開催しているものです。第28回となる今回は中学生から大人まで、全国から21チーム、33名が参加しました。今回は、ちょうど中高の試験期間と重なったとのことで参加者は弱冠少なめでしたが、普段の大会では朝から夕方までイベントがぎっしり詰まった盛りだくさんの大会とのこと。
主な競技は3種類、パラシュートによる滞空時間を競う「滞空時間競技」、到達高度を競う「高度競技」、上空で本体とペイロードを分離し本体はなるべく基準点に近く、ペイロードはなるべく本体から遠くに着陸させるという「ペイロード定点着地競技」です。
今回は、360度パノラマが撮影できるちょっと変ったカメラで撮影を行いました。大会のダイジェスト映像をご覧ください。
※360 度動画を視聴するには、パソコン用の Chrome、Opera、Firefox、または Internet Explorer の最新バージョンが必要です。モバイル端末の場合は、最新バージョンの Android または iOS 向け YouTube アプリを使用します。
また、360度動画を Google Cardboard と YouTube Android アプリで視聴すれば、まさに自分がその環境の中にいるような体験ができます。
さて、博士たちが注目したのは、今回の大会でエキシビジョンとして行われた「あなたが考えるイプシロンロケット」のコンテスト。これは、今年度打ち上げ予定の強化型イプシロンロケットの応援企画として催されたもの。「あなたの考えるイプシロンとはどんなものか」をモデルロケットで表現する、というものです。自分なりのイプシロンを持ち寄って、そのコンセプトとフライトを競おう、というわけです。おもしろそう!
そしてなんと今回は、イプシロンロケットの森田泰弘プロジェクトマネージャが特別審査員なのです!
もちろん、モデルロケットですから機体にエンジンを載せて打ち上げられます。審査はアイディアや機体の美しさだけではなく、そのフライトの美しさも求められます。そして、発射台から打ち上がり、上空でパラシュートやストリーマーと呼ばれるふきながしが開き、地上に安全に降りてくるのがルール。パラシュートが開かなかったり、途中でパラシュートが外れてしまったりすると失格です。どんなにうまく作られていても審査の対象にはなりません。
エントリーした機体はこちら!
実際のイプシロン試験機にそっくりなものから、色も形も違うものまで、参加者の創意工夫にあふれた機体が集まりました。
すべての機体のフライトが終わり、厳正なる審査の結果、いよいよ結果の発表です。力作ぞろいで森田プロジェクトマネージャも最優秀作品を選ぶのには苦労されたようです。競技の様子は360度動画によるダイジェストでご覧ください!
さて、最優秀作品は…、西武学園文理高校のミナミさんに決定!おめでとうございます!
森田プロジェクトマネージャーは、「フライトも素晴らしく、機体もきっちり作られていて美しかったこと。そしてなにより、既存のイプシロンにとらわれずに「好き」を貫く姿勢に感動した」と、評価されました。そして、ミナミさんからは「ぜひ次のイプシロンは青い機体にしてください」という強気の発言も飛び出しました。青いイプシロン、ちょっと見てみたいかも…
優勝したミナミさんにインタビューしました。
―将来はやはり宇宙開発に従事するのが目標なのでしょうか?
実は…あまり成績が良くないのですけれども、やっぱり飛行機やロケットの仕事に就けたら良いと思っています。
―優勝の感想をお願いします。
今回の特別競技には参加しないつもりだったのですが、いろいろな人達の協力をもらって飛ばすことが出来ました。その結果、とても綺麗に飛んだので、すごく嬉しいです!
―イプシロンロケットへのメッセージをお願いします。
綺麗に真っ直ぐ飛んでくれると良いな! あと、次の次のイプシロンは青色になるよう期待しています。
インタビューも360度動画で撮影しました。マウスで視点が変えられますので、くるくる回してみてください。
そして、特別審査員の森田プロジェクトマネージャにもコメントをいただきました。
―イベントに参加していかがでしたか?
大学生の打ち上げるロモデルロケットは何回か見たことがあるけど、中学生から大人までがごちゃまぜになって競技をする大会を見たのは初めてでした。
とても熱気にあふれていて、感銘を受けました。イプシロン試験機の打ち上げから3年が経っているけれど、久しぶりにロケット打ち上げの感動が蘇りました。
―モデルロケットとイプシロンの共通点と違いは?
ペットボトルロケットやモデルロケットも、イプシロンや他のロケットも飛行の原理は同じで、高圧のジェットを噴射させて飛びます。
モデルロケットとイプシロンは燃料も極めて近く、ロケットの核となる部分はまったく同じであると言っていいと思います。
今日の特別競技はまさにイプシロンロケットを小さくして、色々なアイディアに挑戦するという観点で、非常に良かったです。大きさや仕組みは少し違うけど、空に宇宙に向かって飛んで行く物という観点では、全く一緒なんです。
こうしたみなさんの情熱はイプシロンや他のロケットの開発へ、いろいろな形でつながっているんだと思います。
これからもどんどん宇宙やロケットに興味を持って、新しいことに挑戦していって欲しいと思っています。
こちらのインタビューも360度動画で撮影しました。動画もぜひご覧ください!
確かにモデルロケットは本物のロケットに比べれば小さいかもしれませんが、原理は本物の固体ロケットと同じです。目の前での打ち上げは結構迫力があります。大会では、安全管理やカウントダウンなども本物さながら。機体製作でも正確かつ安全に飛ばし、その限られた制約の中で工夫をこらすというロケット開発に通じる考え方が必要です。参加者の皆さんにもお話を聞きましたが、そうやって自分の手で作った機体を打ち上げる時の緊張感とうまく上がった時の嬉しさは格別だそうです。なにより、空にまっしぐらに飛んで行くロケットの美しさは見ているだけでも楽しい。もしあれが自分の作った機体だったら... 1日モデルロケットの打ち上げを見ていたモジャモジャ博士とボサボサ博士、すっかりその魅力に取りつかれてしまったみたい。え? こんどは自分の機体で参加したいって? ほんとに!?
宇宙実験室ノート
モデルロケットとは
モデルロケットは、その名前の通りロケットのモデルです。燃料は打ち上げ花火などに使われる黒色火薬や、イプシロンやH-IIAロケットの固体ロケットブースタ(SRB)に使用されるコンポジット燃料などの固体燃料です。エンジンの大きさによってA、B、C…というようにクラス分けされていて、日本国内ではJ型まで打ち上げることができます。国内でも大会や交流会が定期的に催され、愛好家同士の交流も盛んです。
今回の大会は主に高度や着陸の正確さを競うものでしたが、中には本物そっくりの機体を作る人や、映画などに登場する架空の機体を作る人もいます。また大型のロケットでCanSatなどを打ち上げて、所定の位置までペイロードを誘導する競技なども行われています。日本では法的な制限から高度は数百メートルに限定されていますが、海外では上空数十キロメートルまで上がる大型の機体も打ち上げられています。ちなみに本稿執筆時点(2016年7月)でのアマチュアのモデルロケットの世界記録は高度115km。ここから宇宙とされる高度100kmのラインを超えています。
ただし、モデルロケットは少量とはいえ火薬を扱います。また高度は数百メートルに達します。当然ながら打ち上げには適切な知識と安全管理が必要不可欠です。そのため打ち上げにはライセンスを取得する必要があります。ライセンスには4級から1級までのカテゴリがあり、それぞれ扱えるエンジンのサイズが違います。4級のライセンスであれば、所定の講習会を受ければ誰でも取得できます。3級の取得には4級を取得したうえで試験に合格しなればならず、2級以上は試験だけでなく打ち上げ実績などが必要になります。
モデルロケットについてのより詳しい情報については、日本モデルロケット協会のサイトを参照してください。