宇宙を感動してほしい 宇宙ミュージアム「TeNQ」支配人 眞﨑恵理子

2015年7月にオープン1周年を迎えた宇宙ミュージアム「TeNQ(テンキュー)」。TeNQでは、宇宙を身近に感じてもらう工夫が至るところに凝らされています。どのような工夫があるのか、支配人の眞﨑恵理子さんにお話をうかがいました。


このエントリーをはてなブックマークに追加

マインドストーリーを大切に

インタビューTeNQはどのようなミュージアムですか?

 宇宙好きな方だけでなく、宇宙に関する知識がない方にも楽しんでいただけるエンターテイメント施設です。宇宙がテーマだというと難しく考え、身構える方もいらっしゃると思いますが、TeNQではあれこれ考えず、宇宙を楽しみ、感動してほしいんです。宇宙を身近に感じて、わくわくする施設にしたいと思っています。

インタビュー人を感動させるエンターテイメント性を大切にしているんですね。

 TeNQは、東京ドームやホテル、遊園地、スパなどがある複合エンターテイメント施設の中にありますから、エンターテイメント性は大事な要素です。そもそも「宇宙」をテーマに選んだのは、子どもからお年寄りまでもが参加できる幅広い可能性があるからです。しかし、その分テーマが広いため、いろいろなとらえ方ができるんですよね。私はもともと宇宙に特別な関心がなかったこともあり、企画当初は、TeNQで何をするべきか正直ピンときませんでした。そんな頃、すばる望遠鏡があるハワイ島のマウナケア山で壮大な星空を見てとても感動したんです。何も考えず、ただ「きれい!」と感じること、何かを探してわくわくすること、いままで知らない発見をすること、そしてそれを誰かと共感すること、他にもいろいろある「感動」をTeNQのコンセプトにすればよいのだと気づきました。感動をきっかけに、宇宙に興味を持っていただければと思います。

インタビュー宇宙を感動してもらうために、どのような工夫をしていますか?

はじまりの部屋はじまりの部屋

シアター宙(ソラ)シアター宙(ソラ)

サイエンスサイエンス

イマジネーションイマジネーション

 お客様をどのような気持ちにするか、TeNQの入口から出口までのマインドストーリー(心の動き)を意識して、9つのエリアからなる展示構成を考えました。そのエリアは、「エントランス」「トンネル0(ゼロ)」「はじまりの部屋」「シアター宙(ソラ)」「サイエンス」「イマジネーション」「企画展示室」「つながる場所」「TeNQ宇宙ストア」です。

 私たちが考えたストーリーはこうです。まず、入口から暗いトンネルを通るところで、一度心をリセットしていただき、白いキューブに囲まれた「はじまりの部屋」で驚きを与えます。プロジェクション・マッピングの技術を使用し、古代から現在に至るまでの人類の宇宙への想いを部屋全体で表現しますが、詳しい説明はありません。歴史的な映像を次から次へと出し、それを感覚的に味わっていただきます。

 次は「シアター宙」です。部屋の中央に直径11mの穴があいた独特の形状をしていて、映像を上から覗きこむようになっています。ここでは、地球をはじめとする惑星や、銀河、ハワイ島のマウナロア山で撮影した星空、国際宇宙ステーションから撮影された地球の実写などが、4K超の高精細映像で見られます。宇宙空間を見下ろすことで、浮遊感や臨場感を味わえるのが特徴です。宇宙飛行士の方が宇宙から地球を見ると世界観が変わるという話を聞きます。Overview effectというそうです。今はまだ限られた人しか宇宙に行くことはできませんが、まるで宇宙に行ったような気分が味わえ、感動していただけること間違いありません。

 映像ショーで感情を盛り上げた後はサイエンスの分野で、いろいろな情報に刺激を受けてもらいます。気分が高揚しているので、普段なら難しくて自分には関係ないと思われがちなことでも、「さっき映像で見たあれのことかな」などと情報が入っていきやすくなっています。そのように心の動きを想像して展示構成を考えているのです。映像ショーではエンターテイメント色を出しましたが、サイエンスの分野では、本物の最先端の研究をどんどん出します。

 そして、「イマジネーション」では宇宙のインスピレーションから生まれたコンテンツを楽しみながら、主観的に宇宙を感じていただきます。ロボットを操作してロケットを飛ばすゲームや謎解きクイズ、自分だけの惑星づくりができるパズルなど、参加型で操作性のあるコンテンツをそろえています。また、宇宙に関するアートや映像を観ていただくコーナーもあります。

 このように、それぞれのエリアで役割が分かれていますが、あえて混在するように作っています。どこでどう感動するかは人それぞれなので、いろいろな要素を入れているのです。TeNQで何かを感じていただき、それを記憶に残し、満足して帰っていただく。そのようなお客様の心の動きを意識して展示を構成しています。

インタビューお客様が快適に見られる環境を保てるような工夫もされているとか。

 お客様は、15分ごとに最大で70名ずつ時間差で入場していただきますので、一気に混むということがほとんどありません。「シアター宙」では全員が最前列で映像を楽しめるようになっています。シアターの後も流れで順次展示を見ますので、混みすぎて展示が見えないといったことはないと思います。快適な環境で宇宙に触れていただくよう心がけています。

“本物”が感動を呼ぶ

インタビューサイエンスエリアに本物の研究室があることを知って驚きました。

リサーチセンターリサーチセンター

火星の隕石の欠片に触れられる展示も火星の隕石の欠片に触れられる展示も

 東京大学総合研究博物館の宮本英昭准教授のもと、研究室分室の「リサーチセンター」を展示室内に設置しています。宮本准教授の専門は固体惑星科学、太陽系探査科学で、火星や探査研究の第一人者です。「はやぶさ2」プロジェクトのサイエンスメンバーでもあります。リサーチセンターでは研究者が実際に研究にあたっていて、その姿をお客様にご覧いただきます。そして、その研究における最先端の情報を直接展示に反映することが、大きな特徴です。例えば、NASAの火星探査機から届いた画像がモニターに映し出されますが、それが新しい情報に次々と変わります。これまでの科学館では、世に定説になったものを展示するという制約があると思いますが、TeNQでは今まさに議論されているようなことを発信しているのです。一般の方が普段触れられない情報が見られ、しかもそれが日々更新される。ですから、訪れるたびに違う情報を目にすることができるのです。また、火星の隕石の欠片に触れられる展示や、「火星研究プロジェクト」という実際の研究作業に参加できることも珍しいと思います。やはり“本物”が感動を呼ぶんですね。本物の研究データや研究者の姿を身近に見ていただくことで、「自分にもなれそう」だとか、宇宙に関心を持つきっかけ作りができればと思っています。

インタビュー情報を頻繁に更新することは、リピーターを増やすことにもつながっているのでしょうね。

 はい。TeNQに何度も遊びに来ていただきたいので、企画展や、クリスマスやハロウィンなど季節ごとのフェアも行っています。そのほか、世界の優れた研究者の講演会を開催することもありますし、JAXAに協力していただいて、ロケット打ち上げのときのパブリックビューイングを行うこともあります。一度知ればよい知識だけではなく、この場でしか味わえない感動を与えることを意識するようにしています。

インタビューこれまでどのような企画展を行ってきましたか?

企画展「宇宙のしごと人―JAXAと仲間たち」(2016年2月28日まで開催)企画展「宇宙のしごと人―JAXAと仲間たち」(2016年2月28日まで開催)

 3~4カ月ごとに内容を更新していますが、初回が「宇宙旅行でジャンプ!!~TeNQ式宇宙旅行展」で第2弾が「TeNQ×ウルトラマン企画展」。その後、「宇宙のえがき手」「宇宙兄弟展×TeNQ」と続き、現在は「宇宙のしごと人―JAXAと仲間たち」を開催しています。これまでの企画展などで、宇宙に関わる仕事をする方たちに話をうかがう機会があって、それがとても面白かったんです。宇宙のしごとを伝えるときに、それを支える「人」の言葉や姿、バックストーリーは共感を呼びやすいと思いました。例えば、文系で宇宙やメカにまったく興味のない女性でも、これが宇宙に行ってトラブルを乗り越えたと聞くと、心を動かされたりしますよね。そこで、宇宙飛行士や研究者、技術者など「宇宙のしごと人」を、彼らのエピソードや直筆メッセージとともに紹介します。また、サンマ漁や米づくりに衛星が関わっていることなど、私たちの生活に身近な宇宙技術も紹介しています。

インタビューサンマ漁の紹介では、関係者のインタビューなど詳しい情報がある反面、衛星を単なる黄色い箱で表現しているのが印象的でした。

サンマ漁の紹介サンマ漁の紹介

 一般的な公共施設ですと、精巧な衛星模型を展示するのかもしれませんが、今回の趣旨は、衛星が実際に何に使われているか、人との関わりを紹介することです。衛星はあくまでもイメージとして表現しました。もっと詳細を知りたいという方には自分で調べたり他の施設にも行っていただければよいと考えています。実は、今回の企画をJAXAに相談したときに、同じような内容はすでに行ったことがあると言われました。けれども、展示の表現方法や内装のテイストを変えるだけで、受ける印象が変わります。例えば、同じ商品を買う場合でも、おしゃれなお店で素敵にディスプレイされていると、その商品自体がおしゃれに見えるということがありますよね。そういう意味で私たちは、あえて、他施設とは異なる共感しやすい演出をするよう心がけています。TeNQのエントランスを、カフェのようなウッド調の内装にしているのも、科学館やテーマパーク・SFなどいかにも宇宙というものとは違ったテイストで、柔らかさや意外性を出したかったからです。

インタビュートイレのサインを宇宙飛行士風にするといった演出もそのひとつですね。

トイレのサイントイレのサイン

 見つけると嬉しいという要素をたくさん入れたいと思っていますので、トイレのサインを宇宙飛行士の男女のようなデザインにしました。そのほか、宇宙人もいろいろなところに隠れています。TeNQに来てぜひ探してみてください。ただし、本物の研究を展示するサイエンスのエリアに宇宙人はいません。そこに宇宙人を登場させると、研究者に怒られると思います。(笑)

宇宙をエンターテイメントに!

インタビュー研究機関とも積極的に連携なさっているのですか?

 私たちは宇宙の専門家ではありません。今の企画展「宇宙のしごと人」ではJAXAをはじめとした方々に、「宇宙のえがき手」では国立天文台の4次元デジタル宇宙プロジェクト(4D2Uプロジェクト)の方などにご協力いただきました。そういったご縁のもと、ワークショップを開く際に関係者をご紹介いただくなど、徐々に宇宙のネットワークを広げているところです。私たちの最大の魅力はエンターテイメント化してお客様に伝えることです。東京大学の宮本准教授も、いままでと違う研究のアウトリーチができるということで、TeNQに協力してくださることになりました。これからも、宇宙に関わる研究や技術、産業を専門に行っている方たちと協力しながら、展示の企画を進められるといいなと思います。

インタビュー2014年7月に開業して約1年半が経ちました。お客様の反応はいかがでしょうか? 人気のあるエリアはどこですか?

コトバリウムコトバリウム

エントランスエントランス

撮影コーナー撮影コーナー

 TeNQにはファミリーもいらしてほしいと思いますが、イメージターゲットは20代から30代の女性で、女性が一人でも来られるようにすることを目指しています。その狙い通り、お客様の6割が女性で、20代から30代の方に多く来ていただいています。「シアター宙」は人気がありますが、「はじまりの部屋」の臨場感が好きという方もいらっしゃいますし、展示の中にある答えを探して解き進む「ミッションラリーQ」で何時間も過ごす方もいますので、それぞれ気に入る場所は違うようです。意外だったのは、宇宙にまつわる言葉を味わえる「コトバリウム」のところで写真を撮る方が多いことです。薄暗く不思議な空間で、映し出される言葉と一緒に自分を撮る方が結構いらっしゃるんです。みなさん写真を撮ってSNSなどで共有するのが好きなので、意図的に写真を撮りたくなるようなスポットを作っていますが、ここで撮る方がいらっしゃるとは思っていませんでした。私たちの狙い通りだったという喜びもありますが、こんなところに興味を持ってくれるんだと驚くことはよくあります。

インタビュー撮影は自由なのですね。

 「はじまりの部屋」「シアター宙」と「リサーチセンター」以外は自由に撮影していただいています。撮った写真をSNSでどんどん拡散していただき、TeNQのことをできるだけ多くの方に知ってほしいと思っているんです。ただ、リサーチセンターの中は研究者の方が実際に作業をしていますので、じっくり撮らないでくださいとお願いしています。

インタビュー以前からエンターテイメントに関わる仕事をなさっていたのですか?

 2003年に東京ドームシティに開業した「ラクーア」のスパ施設のオープンに携わったり、ショッピングモールを担当したりしました。古い遊園地エリアの再開発などを担当していた時期もあります。もともと東京ドームシティは、野球や格闘技、競馬など男性色の強いエリアでしたので、そこに女性やファミリーを呼ぼうというのが各開発の命題でした。このときの経験が、女性をターゲットにした宇宙ミュージアムの企画を進めるうえでとても役に立ったと思います。

インタビューいまではすっかり宇宙好きになりましたか?

 そうですね。私はあくまでも一般の人の視点ですが、宇宙に関わる方のお話をうかがうと宇宙を身近に感じられたり、もっと知りたいという気持ちになります。みなさん、熱意を持っていらっしゃるため、話を伺っていると、自分の専門外であっても引き込まれるんです。本による勉強よりもずっと面白いですね。月の話を聞いた後は、夜に月を見上げて綺麗だなあと思ったり、JAXAや研究者の方のお話を伺っていると、いままでより宇宙関連ニュースが気になったり、自分の視野が広がったようにも感じます。

宇宙の話題を継続的に発信

インタビュー今後はどのようなことに挑戦したいですか?

眞﨑恵理子

 エンターテイメントというと、非日常的なものを期待されるかもしれません。確かに、日常から少し離れてリフレッシュしたいという非日常の楽しみもあるとは思います。けれども私は、日常をもっと楽しくするエンターテイメントがあってもいいと思うんです。仕事の帰りにミュージアムやスパに寄っていこうとか、普段の生活の中にエンターテイメントがあるようにしたいですね。TeNQは夜9時まで営業していますので、会社帰りでも十分お楽しみいただけると思います。今日は仕事で疲れたから、美しい宇宙の映像を見て癒されたいなあという気分でふらっと来てもらえるよう、身近なエンターテイメントにしていきたいと思います。そのためには、認知度がまだ低いと思いますので、話題性のある企画展を打ち出すなど、うまくプロモーションしなければならないと感じています。世の中の動向に合わせつつ、TeNQに来たら何かわくわくするという話題性を継続させることに挑戦していきたいと思います。

インタビューJAXAにはどのようなことを期待しますか?

 私たちのような民間の商業施設でも、JAXAとはまた違った形で宇宙の魅力を広く一般の方にお伝えすることができると思います。宇宙の魅力は普遍的なものであり、継続的な話題性もあります。JAXAと連携すれば、お客様を飽きさせることなく、わくわくする感動を与えることができると思っています。例えば、小惑星探査機「はやぶさ2」も打ち上げだけでなく、その後のミッションもずっと追い続けるなど、常設の施設だからこそできることをやっていきたいですね。TeNQは開業してまだ1年半なので、まだまだこれからです。今後もご協力いただければと思います。

眞﨑恵理子
宇宙ミュージアム部「TeNQ」支配人
株式会社東京ドーム入社後、東京ドームシティ再開発プロジェクトチームに配属され、ラクーアのスパ施設を担当。その後、開発室にて2011年開業のフードコートGO-FUNの開発を担当。2011年から宇宙ミュージアムTeNQの構想・企画段階から関わり、2014年7月にTeNQ開業。2015年8月より現職。

[2015年12月公開]