ある日、「はやぶさ」の動画を見ていたモジャモジャ博士とボサボサ博士、感動のあまりとんでもないことを言い出しました。「僕らも衛星や探査機を作ってみたい!」というわけで、今回は人工衛星の制作に挑戦します。え?本当に?
はやぶさのドキュメンタリーに感動した二人は、なんだかやる気満々です。
「やっぱり『はやぶさ』みたいなのがいいよね」「イカロスみたいなのもいいかもしれない」「カメラがついていて地上の様子を写真に取れるといいかも」「回収カプセルがついていて、サンプルを持って帰るとか」
... えええ?ちょ、ちょっと待って、人工衛星や探査機ってとっても複雑な機械だし、打ち上げにはロケットがいるでしょう?そんなの作れるの?
と、 そこにこんな情報が、「ジュースの缶で人工衛星を作る缶サットというものがあるらしい」。ジュースの缶で人工衛星!それなら博士たちでも 作れるかもしれません。ちょうど筑波宇宙センターで全国から集った高校生たちが缶サットの制作を行うということで、おじゃまして見学させてもらいました。
これが缶サットです。ジュースの缶の中に温度や気圧、加速度などを計測するセンサーやカメラなどが入っています。これを上空からパラシュートを使って落とし、画像やセンサーのデータから落下している間の衛星の状態などを調べる、という実験をします。
なるほど!缶サットは小さくて本物の人工衛星とはちょっと違いますが、確かに人工衛星に必要な機能があの小さな缶の中にぎっしり詰まっています。ただ作って落とすだけでなく、ちゃんと様々なテストをし、何度も実験をして、うまくいっていないところを直しながら作っていくところも本物の衛星とそっくりです。
- 本体となる缶の中に上空でデータを取るためのセンサーやカメラなどを組み込みます。もちろんパラシュートも手作り、上空でちゃんと開くように色々工夫をします。
- 組み立てた衛星をテストします。空気のないところでも動くか?温度が高いところ、低いところでも動くか?打ち上げの振動に耐えられるかなどをテストします。
- いよいよ本番、衛星を気球に取り付けて、数十メートルの上空から落とします。うまくいったり、いかなかったり。各チームともに何度も挑戦しながらパラシュートの形や取り付けなどを工夫していました。
- センサーや映像などから飛行中に衛星に起きていたことを分析します。加速度や気圧、温度などから衛星の高度や姿勢、パラシュートが開いたタイミングなどが分かります。上手くいかなかったチームも、このデータを使って原因の分析などをしていました。
- チームごとの成果の発表です。機体の工夫したところや、実験で得られたデータでわかったことなどを発表します。同じ材料、同じセンサーなどを使っていても、各チームとも全く違う工夫がされていて、データの分析結果も様々です。すごい!面白い!
どうやら、缶サットの見学は博士たちのやる気に火をつけちゃったみたい。今度は本気で考え始めました。
このミッションを実現するために衛星にこんな機能をもたせます。
- 太陽電池で電気を作って機器を動かす
- 地上から衛星の状態がわかるようにする
- 宇宙の厳しい環境でも耐えられるようにテストをする
宇宙実験室ノート
この「缶サット」と呼ばれる競技は1998年にアメリカのハワイで行われた「大学宇宙システムシンポジウム」で初めて提案され、翌年1999年から実際の競技が始まりました。最初の頃は、高度計やGPSを使って適切な高さでパラシュートを開くという簡単なものでしたが、現在では、機体をコントロールして目標地点のなるべく近くまで戻ってくるという「カムバックコンペティション」といった難易度の高い競技も行われています。(そうそう、漫画『宇宙兄弟』でも主人公たちがこのカムバックコンペティションに挑戦していましたね。)
各大学とJAXAが協力して毎年全国の高校生を対象に行っている『缶サット甲子園』では、機体を小型のロケットで上空400mまで打ち上げ、地上に降りてくるまでの間に色々なデータの取得したりターゲットの撮影などをおこなって、どれだけ独創的で、高度な技術的挑戦を行なっているかを競います。
缶サットは宇宙にこそ行きませんが、ここで必要になる技術や知識、チームワークは、本物の人工衛星を作る上での基本となるものです。また、この缶サットコンテストは、単に与えられた課題を解決するというだけではなく、自ら課題を設定し、その課題の解決のために試行錯誤を繰り返しながら目標を達成するこ とを目指すという意味で、実験・観察とそのまとめを主体とする一般的な理科教育の更に先を目指すものとして注目をされています。
JAXA 宇宙教育センター : 缶サット甲子園
http://edu.jaxa.jp/education/participation/cansat/
[2013.5]