宇宙実験室 23 - 人工衛星の高さってどれくらい?

2017年12月23日、種子島宇宙センターから、気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)と超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)が、H-IIAロケット37号機によって打ち上げられました。気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)は地球観測衛星、高度800kmほどの太陽同期軌道という特殊な軌道を周回しています。一方超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)は「超低高度衛星」の名前の通り、徐々に高度を下げて、最終的には高度200kmという、これまでの人工衛星にとって例のない低い高度を飛ぶための実験を行います。

と、簡単に「高度800km」とか、「高度200km」といっても、ちょっと実感しにくいですよね。ちなみに国際宇宙ステーション(ISS)は高度400km、東京−大阪間の直線距離がだいたい400kmくらいなので、気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)はその倍で、超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)はその半分くらいです。うーん、やっぱり分かりにくい。何か分かりやすい例えは… あ、そうだ!

というわけで、博士たちに「衛星」になってもらうことにしました。衛星の高度を人と比べてみます。

01.もし身長が400kmくらいあったとしたら?

国際宇宙ステーション(ISS)の高度400kmを基準にしましょう。
博士の身長が172cmで、ちょうど博士のおでこのあたりが165cmくらい。165cmのところに国際宇宙ステーション(ISS)がいるとする、縮尺はだいたい24万分の1くらい。

頭の国際宇宙ステーション(ISS)

24万分の1のスケールだと地球の直径は50mくらいになります。地球一周が約160m。ちょうど博士のいる広場がそれくらいの大きさです。こうやってみると地球って結構大きいですね。

さて、気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)は高度800km、国際宇宙ステーション(ISS)の倍くらいの高さですから、身長の倍くらいの所。とどかないので棒の先につけましょう。

一方で、超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)は200km、身長の半分です。だいたい腰の辺り。こんな感じ。

国際的な取り決めで「だいたいこのあたりから宇宙」ということになっている高度100km(カーマン・ライン)はひざの辺り。ここから下には空気がたくさんあります。地面からひざの辺りまでもやーっと霧がかかっている感じを想像してみてください。地球の大気圏の一番濃い部分というのはそれくらいの厚さです。

ちなみに、このスケールだと富士山は約1.5cm。足の小指の高さくらいでしょうか?

じゃあ、通信衛星や気象衛星の周回している高度3万5000kmの静止軌道はどれくらいかというと・・・高さ150m、ちょうど40階建てのビルくらいの大きさ。東京都庁舎と比べるとこんな感じです。(実際は都庁の下から測って150mですが、撮影の都合上離れています。)ちなみに、同じスケールだと、月は1,500m上空に浮かぶ直径14mほどの球体。現在1,500mの高さの建築物はないので富士山でいうと、御殿場口五合目(標高1,440m)のすこし先に4階建てのビルほどの球体があるイメージです。

なんとなく大きさ、つかめましたか?

02.衛星の高度と地球の大気の影響

さて、こうやって比べると、腰の辺りの超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)は、ずいぶん低いところを飛んでいるのがなんとなくわかるでしょうか?この高さだと、かなり空気の影響を受けます。そのまま放っておくと空気の抵抗で落ちてしまうので、超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)はイオンエンジンを使ってこの高さを維持します。超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)が超低高度衛星と呼ばれるゆえんです。

国際宇宙ステーション(ISS)の高度400kmだと空気はほとんどありません。ほとんどない、といってもまだ影響はあるので、数週間に一回くらいのペースで高度をあげる操作をしないと、放っておくとやっぱり高度が下がって、最終的には落ちてしまいます。

気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)が周回している高度800kmほどでは、全くといっていいほど空気はありません。いったん軌道に乗れば、何もしなくてもずーっと地球の周りを回ります(ただ地球の重力の影響などで少しづつ軌道がずれてしまうので、補正は必要です)。逆に、この高度で衛星が爆発したりして宇宙ゴミ(デブリ)が発生するといつまでも落ちてこないので、対策が必要になります。これが最近ニュースなどでも取り上げられるようになった「スペースデブリ」の問題です。

03.衛星の速さってどれくらい?

さて、国際宇宙ステーション(ISS)は秒速7.7kmほどで地球の周りを回っています。約90分で地球を1周する速さ。こう書くとものすごい速さですが、先ほどのスケールに当てはめると、秒速3cmくらい。このスピードだと1m進むのに30秒ほどかかります。やってみるとわかりますが、結構ゆっくりです。

ちょっと大変ですが、ぜひ、地面を見下ろしながら1mを30秒ほどかけて歩いてみてください。90分で地球を1周する速さはそれくらい。そう、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在している宇宙飛行士たちは、地上をそんな感じで見下ろしているんです。

宇宙実験室ノート

宇宙開発や天文にまつわる距離や大きさは、数万キロ、数億キロという日常生活の感覚からは大きく離れた数字がどんどん出てきて、なかなか感覚的に掴みづらいことがあります。そんな時に何か身近なものに例えると、その大きさが感覚的につかめることもあります。上では、人工衛星の高度を例えるのに人の身長を使いました。ただ、このスケールは静止軌道や月までの距離を例えるにはすこし小さすぎます。せっかくなので、もう一つ便利な基準を紹介しましょう。

人の頭(約20cm)を地球の大きさ(12800km)に例えると... 国際宇宙ステーション(ISS)の高度は約5mm、静止軌道は約50cm、月は5mほど先の直径約5cmの球になります。そして、太陽は距離・サイズ共に月の400倍なので、2km先の直径20mの球になります。ね、覚えやすいでしょう?太陽と月の絶妙な距離とサイズのバランスが面白いですね。そう、これが地球で美しい日食が見られる理由です。

ここでは、覚えやすくするために、数字をかなり大雑把に丸めていますが(たとえばISSの高度が400kmなら実際は6mmです)、「体感」するなら桁数(オーダー)があっていれば十分です。他のものに例える時も計算は簡単です。

([基準にする身近なもの(身長)]÷[基準にする実際の大きさ(ISSの高度)])×[比べる数字(地球の直径)]

くれぐれも単位を揃えることを忘れないで下さい。ゼロがたくさん出てくるので数え間違いに注意。ぜひ、いろいろなものを換算して、宇宙を身近に感じてみてください。