地球規模で植生変化を継続的に観測し、全世界、未来の人々にも貢献したい

「衛星による継続的な地球観測データは、今を生きる私たちだけでなく、未来の人々にとっても貴重な財産となる」。「しきさい」の陸域研究リーダーおよびサイエンスチームリーダーを兼務する千葉大学の本多嘉明先生はそう語ります。「しきさい」が果たす役割と人類への貢献について話を伺いました。(取材内容は2018年3月現在)

——本多先生と衛星リモートセンシングとの関わりについて教えてください。

私はもともと大学院で都市計画を学んでいたのですが、環境アセスメントに衛星を活用できないかと考え、衛星リモートセンシングの先生の門戸を叩いたことから、この世界に足を踏み入れました。その後、米国の気象衛星「NOAA」のデータを使って作成した全世界の植生図が評価されたことがきっかけで、以来、衛星観測によって植物バイオマス量を調べるためのさまざまな手法を開発しています。
その一つが、二方向観測による植物バイオマス量の推定です。たとえば、衛星から真下にある森林を見たとき、面積はわかりますが、体積はわかりません。しかし、斜めの角度から見れば、反射光の違いから高さが計測できます。このようにして、森林を立体的に捉えることができれば、体積の推定が可能となり、バイオマス量も推定できるというわけです。

——「しきさい」では陸域研究リーダーに加えて、研究グループ全体をまとめるサイエンスチームリーダーも務められています。その役割について教えていだたけますか?

UAV(自律飛行型)(提供:千葉大学)

「しきさい」との関わりは、23年前に遡ります。研究者やユーザーを集めて、先代の地球観測衛星「みどりⅡ」の搭載センサ「GLI」の後継センサはどうあるべきかという議論をスタートさせたのが、1995年1月。以降、「SGLI(第2世代GLI)」の委員会主査として、意見の取りまとめ役を務めてきました。
当初、みなさんの要求に応えていたら総チャネル数が52チャンネルとなってしまい、衛星のリソースに負荷がかかり過ぎるため、何度も議論を重ねながら調整を行いました。最終的に19チャンネルに絞り込みましたが、高性能かつ効果的なセンサを作ることは、確実に成果を上げて次のミッションに繋げるために重要なことです。こうした経緯があって、全体をまとめる役回りを現在も引き受けているわけです。まあ、私なら気軽に話しやすいというのもあるのでしょうね(笑)。

——衛星による地球観測を行うメリットとは何でしょうか?

一つは現在、地球で起こっている問題を正確に把握できることです。たとえば、北極域で起きている変化が他の地域にどのような影響を与えているかなど、地上の観測ではわからなかったことが衛星観測によってある程度までわかるようになったことは確かです。
地球の気候システムは非常に複雑なものです。気候変動については、今もすりガラス越しに観察しているような状態で、少しずつ見えてきているものの、そう簡単に解明できるというものではありません。そこで、継続して衛星データを取り続けること、そしてそれを長期に溜めておくことが重要になります。なぜなら、それが後世の人たちに貴重な資料を残すことにもなるからです。つまり、衛星によって今の地球を記録していくことは、現在だけでなく将来にわたって気候変動や環境問題の研究に役立てられるというわけです。

——モンゴルで草原の生育状況を継続的に調査されていますが、そこから気候変動に関して見えてくることはありますか?

モンゴルで調査を始めた理由は、どこまでも均一な植生が広がる草原であれば、解像度1kmの衛星データの検証を行うのに1m四方を調べるだけで精度の高い地上データが得られると考えたからです。モンゴルの観測では、簡易タワーを使って草量の調査を行いました。このとき、真上からだけでなく斜めから測るとバイオマスが正確に測れるということがわかり、そこから二方向観測のアイデアが生まれました。広域調査を行うときは、デジタルカメラと放射計を積んだ車で走り回ったり、あるいはラジコンヘリを使うなどして、何カ所も移動しながら測定しデータの代表性を確保するようにしました。
そうした観測によって得られた草量の情報は、モンゴルの遊牧民にも提供しました。たとえば雪が降ったとき、どの地域に行けば余剰の草があるかが事前にわかるからです。
モンゴルでのモニタリングは7、8年続けて行いました。その間、草量はほぼ半減し、乾燥化が進んでいることもわかりました。それが気候変動によるものなのか、たまたまゆらぎの中で起きているのかは断定できません。ただ、乾燥地帯というのは、地球の中で最も急激な変化が現れる敏感な場所なので、モニタリングを続けていくことが重要となります。

——地球環境の変化や地球温暖化対策に対して、「しきさい」データはどのような貢献ができると考えていますか?

本多嘉明 准教授

環境の変化を把握するには、長期間の観測データが必要です。なかでも植生の観測データは、気候変動を読み取る上で非常に重要な指標となります。というのも、植物は基本的にその場を動かないので、毎年の変化を数値で比較できるからです。たとえば、極相林(樹木構成が変化せず、成長しきった森林)のバイオマス量を測って増減を調べれば、その地域の環境がどう変化しているのかがわかります。あるいは、季節変化を観察すれば、温暖化しているのか、それとも寒冷化しているかということがわかります。
季節変化は、2週間に1回程度、画像が撮影できれば観察できますが、雲のない画像でないといけません。「しきさい」は約2日で全地球を観測できるので、2週間となると7回、同じ場所を観測できることになります。2週間曇りが続くというのは梅雨くらいしかないので、季節変化が追えるわけです。
こうした高頻度の観測ができることが「しきさい」の特長です。たとえば、回帰日数が約2週間のLandsatの場合、質の高いデータが取れるのは年に1回程度ですが、「しきさい」であれば、それよりも多くの高品質なデータが確実に得られるわけです。つまり、毎年同じ時期のバイオマス量の比較ができるので、環境的に安定しているかどうかが確実にわかります。
こうしたデータを日本だけでなく全世界で共有することで、地球規模での温暖化対策の取り組みに貢献していくことができると考えています。

——今後の展望についてお聞かせください。

「しきさい」は、ユーザーと科学者とJAXAの三者が問題解決のために何度も協議を重ね、苦労して作り上げた画期的な衛星です。計画通りに行けば、良い成果が出せると信じています。
ただし、その成果も単発で終わってしまうと、継続観測によってもたらされる人類への貢献が果たせません。「しきさい」に続く次の衛星を立ち上げるためには、この1年以内に実績を上げなければなりません。
この4月から衛星データがPI(主任研究者)に配られ、その校正検証が進められていくことになります。そこで素晴らしい成果を上げることを目標に、関係者一同、努力していきたいと思います。


本多嘉明 准教授

本多 嘉明

1991年
東京大学生技術研究所 客員助教授
1993年
横浜国立大学環境科学センター 講師
1995年~現在
千葉大学環境リモートセンシング研究センター

2018年4月13日(金)更新