異文化・異業種インタビュー
JAXA×クリエイティビティ #02
「JAXA×クリエイティビティ」の第2弾をお届けします。
今回は宇宙科学研究所の曽根理嗣が、ロックバンドMISSIONのメンバー 福士誠治さん、濱田貴司さんのラジオ番組「Talking Rock the MISSION」にゲスト出演させていただきましたご縁で、番組収録後に福士さん、濱田さんに「宇宙」「宇宙開発」のイメージ・魅力・宇宙観などについてお話を伺いました。
JAXA広報部
今回は「JAXA×クリエイティビティ」企画へのご協力、ありがとうございます。はじめに、簡単に自己紹介をお願いできますか。
MISSION
2019年2月17日結成。
主演映画「ある用務員」や大河ドラマ「青天を衝け」、ミュージカル「スリル・ミー」などで役者として活動をしている俳優・福士誠治と、映画「オレたち応援屋!!」など劇伴作曲家として数多く作曲を手掛けている音楽家・濱田貴司による音楽ユニットです。
宇宙開発との共通点・異なる点
広報部
宇宙が大好きというお二人ですが、俳優、ミュージシャンというお仕事と宇宙開発との共通点、また異なる点はどこだと思われますか。
福士さん
僕は俳優業、音楽活動、舞台の演出、ディレクションなどやっていますが、いずれも何もないゼロのところからまずはお客さんに喜んでもらうための脚本、いわば設計図があって、その後にディレクションする人、音響さん、照明さんなど、いろいろな人がいないと絶対にできないことを毎回「モノづくり」としてやらせてもらっています。未知なるものに対して設計図、完成形はあるけど、実際やってみてこれで完成なのか、限界なのか、これが一番いいことなのかと常に考えますし、一歩でも1ミリでも先にお客さんに想いを伝えるために努力していますが、宇宙開発も未知なるものを完成させるという点では似ているのではないかと思います。
広報部
モノづくりという点では共通するところはありますが、宇宙開発では最終的にはロケットや探査機など無機質な物が出来上がりますが、俳優さんやミュージシャンの方は無機質なものではなく、人の心や感情に響かせるものが作れるという点で宇宙開発とは違うのかなと思いますが、いかがでしょうか。
福士さん
もちろん宇宙開発が無機質なものを作ったとしても、その時に生まれる「心」もすごいものだと以前「はやぶさ」を見ていて感じたこともあり、ある意味、無機質と感動は切り離せないものだと思っています。演劇でもここは私情を挟まずにきっちりと演じるところ、ここは感情を溢れさせて演じるところという2つの面がありますし、どちらも大切だと思っています。
濱田さん
僕はむしろ似ているところが多いかなと思います。まず音楽をやるにあたっては、昔の人は演奏するとか、譜面を書くとか、とてもアナログな作業の技術の修練が必要だったんですね。また、例えばオーケストラを演奏するというと何十人、何百人と集まらなければいけないし、レコーディングをするとなると一日1千万円もかかってしまうなど基本的には手の届かない世界だったけれども、今はコンピュータがものすごく進化したので、誰でもオーケストラの音楽を作れるようになったんです。それも非常に高度に、聞き分けがつかないくらいに精度よく作れるようになった。となると今の音楽にはコンピュータの知識も必要になってくるんですね。しかもかなりのハイスペックのPCを理解しなければならない。そのソフトもすごく複雑ですし、それぞれのパラメータも細かいところまできっちり設定しないとオーケストラになっていかないんですね。一般的に音楽って感覚的な"右脳"だけでやると思われがちですけれども、今はある程度こういった技術的な"左脳"の部分も使える人じゃないと上手に作れないところがあるんですね。
一方でJAXAさんの世界は技術的な部分を重宝される"左脳"の世界だと思われてると思うんですが、最先端の宇宙開発を行っている方は、目に見えないものをイメージするような、"右脳"の力がすごく必要だろうなと思うのです。"右左"脳のバランスが必要な仕事、僕はそこが音楽と似ているなと思っています。
それからこれは共通点ということではないのですが、音楽を作る上で宇宙をすごく意識していることはリズムの作り方です。リズムって、4/4や8/8などのルールに従ってただ繰り返して縦に積んでいくとすごく単調でつまらなくなるんですよ。それを強弱のある8の字の重力運動と思って考えると、どこにどういう音を配置すればよいか、というのが見えてくるんですね。時々アイデアが煮詰まったりすると目を閉じて自分が宇宙の波動の中にいるイメージをします。そうすると答えがみつかったり、失敗しているところがわかったりすることもあります。自分も、今作ろうとしている音楽も、宇宙の中の一部の存在なんだと思うようにしています。
曽根
音楽と宇宙というお話から糸川英夫先生の逸話を思い出しました。糸川先生は宇宙科学研究所を創設されたメンバーの一人で、戦後、ペンシルロケットを皮切りにロケットの研究を始めてくれた人ですが、先生は確か音響工学の研究をする中でバイオリン作りもされていたようなんですね。その先生が書かれたの本の中で、人は『ラ』の音が好きなんだ、結局「ラ」の音が聞きたいんだ、とおっしゃっていたんです。でも「ラーラーラー」と『ラ』だけだと何も楽しくないわけで、その「ラ」の音を聞くために、その周りの音が先ほど濱田さんもおっしゃったように8の字のように繰り返されて旋律を奏でる。それをいかに綺麗に聞かせるか、というところで音楽が成立していくんだ、と。『ラ』を綺麗に聞かせるためのそこが人間の発想力なんだと思いますし、技術と芸術とがどうシンクロしていくのかということを考えると楽しくなってきますね。
人を感動させるとは。技術者としての曽根が学びたいこと。
福士さん
感動する瞬間というのは実はその前は苦しい思いをしているじゃないですか。僕たちもお芝居を作っていく中で、ここはたぶん泣けるシーンになるなと思う場面の直前は、真逆の感情を表現したりする。曽根さんから先ほどのラジオの収録でお話を聞いた「はやぶさ」についても思い通りに進んでいたら、そこまでの感動はなかったと思うんです。想定外のことが発生して困ったとは思いますが、結果として自分の人生で忘れられない感動の記憶になったのだと思いますね。
曽根
僕たち技術系の人間は実は人に感動してもらいたいという気持ちがあるんですよね。宇宙開発や宇宙探査をやっていて、そのことが誰かを元気にする材料であってほしいと願っている。もちろん地球観測衛星のように環境を守るための技術を開発したり、人類の起源を探す目的で小惑星に行くことにも価値があって、そこから持ち帰ったサンプルを分析することでいろいろ未知のことがわかってくるので、科学の分野として大事な事と思ってやっているのですが、さらにその先で未知のことが解明されていくことでみんなにも感動してほしいと思っているんです。
以前あるSF作家さんから、「人は人に感動するものであって、自分たちの技術がどれだけすごいんだと誇ったところで、なかなか人は感動しない。技術開発をするにあたって一人の人間としてこういうことを大切に思っているんだというところまで伝えることもこれからのJAXAは考えたほうが良い」といわれたんですね。
広報部
ここはまさに広報部としても頑張らないといけないところですね。
曽根
もちろん感動させるために過度に演出するものではないと思いますが、僕たち技術系は技術のことは一生懸命に積み上げてきているけど肝心かなめの人の心にどうやって訴えるのか、というところが一番のハードルなんですね。こういうところをアーティストの方々に教えてもらいたいと思っています。
濱田さん
お手伝いしたい!!(笑)
福士さん
人の心を動かすという仕事をやってみてわかったことは、人はそれぞれ感動するポイントだったり、笑うポイントだったりが違うこと。でもまず自分自身の心が動いたか、自分の中でシンパシーを感じる部分を信じて続けるということを大切にしています。自分が面白くないと思った脚本を面白く演出するのはとても難しいですよね。極端な話をすると、全員が全員、同じように感動するとは思っていないし、具体的にこうしたら人が感動するという方法がもしあったとしても絶対に100点という答えは出ないと思います。でも本来1+1は2なのですが、なぜか1+1が3になっている瞬間があったり、5人と5人が集まっても10人どころじゃなくなっている瞬間があったりといった、なにか魂で伝わっていることを実体験しているだけに、届け!みたいな想い、目には見えないエネルギーが飛んでいるような気がしてならないです。手を抜くのは誰でも簡単ですが、そこで手を抜かない、目の前に夢中になっているものというのは自然と相手にも伝わるものなのかなと思っています。
濱田さん
僕が作曲する時にすごく意識するのはまずは意外性です。まさかと思う展開に人は心を動かしてくれる。例えば「はやぶさ」の探査においてはJAXAの中で多くのヒューマンドラマがあったというのは大いなる意外性だと思います。僕は猛烈に感動しました。
曽根
確かに初代の「はやぶさ」については映画にもしていただきましたが、いろいろなドラマ、エピソードがありましたね。僕自身もカプセル回収班のメンバーでしたが、オーストラリアの砂漠に回収にいくと決まったときは全員が決死隊の覚悟でした。これでもしカプセルが見つからなかった場合、自分たちはどんな顔して日本に帰ってくればいいんだと。ものすごい悲壮感を持って行っていましたね。もちろん家族にも話はしていませんでした。オーストラリアに行くにあたっても「お父さんは来週からいません。地球の南半球のどこかにいます。」と言ったような(笑)
福士さん
濱田さん
えー!? そうだったんですか!(笑)
曽根
その後、無事にカプセルを見つけて回収し、一通り自分の仕事を終えてほっとして、活動拠点にしていた砂漠の中の村から家に電話を掛けました。そうしたら妻から日本ではこれが大変なニュースになっていると聞かされました。なのであなたは余計なことをしゃべらないようにね、と釘を刺されたんですよ(笑)。でも自分たちは砂漠の真ん中にいたので、まったくその状況は知らなかったんです。
濱田さん
今の「はやぶさ2」も僕の中ではものすごくドラマになると思ってます。地球にカプセルを投下した後、再び別の小惑星を目指していますが、それは最後どのようにミッションが終わるのかというということにものすごく興味があります。ただ、意外性って行き過ぎると全然感動してもらえないことがありますよね。
福士さん
そうそう。意外すぎると興味すら飛んでしまうという・・・(笑)
濱田さん
しかもその意外性としてとらえてもらえる"ズレ"の幅というのがけっこう狭いんですよ。意外だけど受け入れられるには日常の延長のわずかなところで。突拍子もない音楽、トリッキーな音楽を作ることは意外と簡単にできますが、やりすぎると逆に受けないという・・(笑)
福士さん
何これ?なんなんだろう?得体の知れないもの、となる(笑)
濱田さん
これまで聞いたことはあるんだけれども、数%かの意外性が心地よく入ると良い感じになるようなんです。
福士さん
じゃあ曽根さん、今後「はやぶさ」について話すときは、曽根さんの奥さんとのエピソードも交えながらお話すると良いってことですね(笑)
曽根
いやいやいやいや(汗)
濱田さん
ちなみに僕は 「はやぶさ2」で人工クレーターを作るインパクターを打ち込むシーンを撮影するカメラの開発担当者が、何年間もその瞬間のためだけに開発を頑張られて、実際にちゃんとその写真が撮れていた時、この一瞬だけですけど、「撮れてた~!」ととても喜んでおられたというエピソードがすごい好きなんですよ(笑)
私にとって宇宙とは。
福士さん
「希望ある謎」ですね。宇宙は暗くなく素敵な感じがします。
濱田さん
僕は「事実とロマン」ですね。
広報部
貴重なお時間を頂きましてどうもありがとうございました。これからもJAXAへの応援、どうぞよろしくお願いします。
≪プロフィール≫
福士誠治
生年月日:1983年6月3日
出身地:神奈川県
特技:スポーツ(野球) / けん玉(2段)
趣味:ギター / ピアノ / ダーツ
濱田貴司
生年月日:1972年7月17日
出身地:兵庫県
特技:作曲
趣味:飲酒/雑学収集(宇宙・科学・歴史)
曽根理嗣
准教授・宇宙科学研究所宇宙機応用工学研究系
1967年生まれ。静岡県沼津市出身。
1996 年に宇宙開発事業団に入社し、2003 年から宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部助教授に任用。小惑星探査機「はやぶさ」における軌道上電源運用や、「れいめい」衛星の電源開発/運用に従事し、現在は「れいめい」所内チーム長を勤める。
専門は、宇宙用電池、燃料電池。最近では、宇宙での酸素製造や二酸化炭素の資源化技術の研究にも従事。
自称、「宇宙の電池屋」さん
趣味:料理、サッカー、ピアノ、バイク、サーフィン、山歩き
≪ラジオ番組「Talking Rock the MISSION」バックナンバー≫
♪こちらのトークもぜひお聞きください。♪
#139 「はやぶさ」の運用にも携われたJAXA曽根理嗣さんが、二週に渡りゲスト出演!!
https://radiotalk.jp/talk/678083
#140 福士誠治・濱田貴司「MISSION」ゲストJAXA曽根さん「はやぶさ」運用の興奮秘話!!
https://radiotalk.jp/talk/679465
#141「MISSION」セージから、ゲストのJAXA曽根さんに質問⇒「宇宙の非常識は?」
https://radiotalk.jp/talk/680770
#142「MISSION」ラジオに今週もゲストにJAXA曽根さん。皆さんから募った質問にお答え(前
https://radiotalk.jp/talk/682734
#143「MISSION」ラジオに今週もゲストにJAXA曽根さん。皆さんから募った質問にお答え(後
https://radiotalk.jp/talk/684089
#144「MISSION」ラジオゲストにJAXA曽根さん最終回!最後の最後にハマーが懇願っ...!!!
https://radiotalk.jp/talk/685448