異文化・異業種インタビュー

JAXA×クリエイティビティ #01

JAXACREATIVITY
#01

毎日毎日積み上げていった先に、
注目を浴びるような成果が出てくる

田村 大 さん(アーティスト)

TAMURA Dai ARTIST

聞き手:JAXA広報部

 2021年度からファンファンJAXAの新規企画として、「JAXA×クリエイティビティ」と題したインタビュー記事をお届けします。
 JAXAはこれまでも異文化・異業種の方々と交流しながら宇宙航空分野の研究開発に関する多様な情報発信をしてきましたが、本企画では、アーティスト、写真家、宇宙芸術の専門家などを手始めに、さまざまな分野で活躍されている方々に順次インタビューし、その中から分野は違えども共通する価値観や相違点、それぞれの専門家の方が抱く宇宙のイメージなどについて考察していきたいと思います。

 今回は記念すべき第1弾として、「宇宙の日」作文・絵画コンテストのPRのために宇宙飛行士のイラストを描いてくださったアーティストの田村大さんにオンラインでインタビューを行いました。

JAXA

今回は「JAXA×クリエイティビティ」へのご協力、ありがとうございます。はじめに、簡単に自己紹介をお願いできますか。

田村

はい。アーティストの田村大です。
1983年東京出身です。2016年に似顔絵の世界大会ISCAカリカチュア世界大会で優勝し、独立後はNBA選手のイラストの仕事を中心に、様々なスポーツを対象に描く範囲を広げています。国内でもプロ野球チームやプロバスケットボールチームとのコラボレーションを行っているほか、柔道やテニスなど多方面への認知度拡大をテーマに頑張っています。スポーツ用品や時計ブランドとのコラボレーションもしていますが、最近は製菓メーカーさんとも年間の取組みを始めたところです。
また、本年11月にはこれまでの活動の集大成ともいえる初の作品集が刊行される予定です。

アスリートを描く理由

JAXA

ありがとうございます。
似顔絵の世界大会で優勝されたことと関係があるのかも知れませんが、田村さんが描く対象は動きのある人物画が多いように見受けられるのですが、何か理由があるんでしょうか。

田村

僕自身が学生時代にバスケットボールと野球をやっていたので、スポーツ全般が好きなんです。スポーツのなかの一場面を、躍動感をもって表現したいというのが自分のテーマで、一番意識しているところです。
僕はアスリートをスーパーヒーローだと思って描いているので、彼らがまるで必殺技を繰り出しているような瞬間を切り取って、一番エネルギーを発するような絵になるように心がけています。

JAXA

なぜ、アスリートをスーパーヒーローだと感じておられるのでしょうか。

JAXA

少年マンガを読んで育ったんですが、日本の少年マンガの主人公は子供が多くて、小さい頃はそういう主人公になりたいと強く思っていました。でも、大人になると目指すヒーロー像がなくなっていることに気づいたんですね。
一方でアメリカのコミック、いわゆるアメコミの主人公は大人ばかりで、みんな身体を鍛えて、強くて、優しくてという大人像があります。日本においては大人になったときのヒーローは誰なんだろうと思ったときに、スポーツのヒーローインタビューを見て、彼らがヒーローなんだと気づきました。全く同じ人間なのに、生身の身体でまるでスーパーパワーを使って飛んだり跳ねたりしている。そこにみんなが夢を重ねて、思いを乗せて応援している。そのヒーロー像を僕の絵で魅力的に伝えられないかと思ったのがきっかけです。

絵を描き始めたきっかけとこれまでの歩み

JAXA

絵を描き始めたのはいつ頃からなのでしょうか。エピソードなども交えながらお話していただけますか。

田村

記憶というよりは、写真で見たことがあるんですが、小さい頃から白い紙にいろいろ描いていました。両親は特に絵を描くわけではなかったんですが、「そろそろ家を建て替えるから壁に描いていいよ。」と言ってくれて、めいっぱい描いたそうです。結局、家の建て替えが遅れて壁を塗りなおすことになったのですが、また上から絵を描いて、それを両親が褒めてくれました。子供心にも褒められるのが嬉しくて、どんどん上達していったんじゃないかなと思います。

JAXA

何歳くらいの時ですか。

田村

保育園でしたね。3歳くらいだと思うんですけど。

JAXA

小中学生、あるいはそれ以降はどうだったのでしょう?

田村

がむしゃらに、でも好きだから絵を描いていた小中学校時代だったと思います。絵の描き方もわからないし、独学で描いているから、上手いのか下手なのかもよく分からなくて。
実は僕は、学校では1度も美術部に入ったことがなく、ずっと運動部だったので、美術部の人たちに憧れてたんですよね。スポーツをやっていなければ、迷わずに美術部に入っていたと思います。

JAXA

美術系の大学で学ばれた経験はないのですか。

田村

普通に大学を出たあと、デザインの専門学校に3年間通いました。ですから、デザインの勉強はみっちりやったんですけど、それも23歳からなのでかなり遅かったですね。

自分の才能を伸ばすことについて

JAXA

先ほどの子供時代のエピソードのなかで、褒められたことが嬉しくて絵を描くのが好きになった、というお話がありました。
人間の能力を伸ばしていくときに、自分の得意なところひたすら伸ばしていくやり方と、自分の弱点に注目してそれを克服するやり方の2通りがあると思うのですが、田村さんの場合は、どちらでこられたのでしょうか。

田村

両方とも自分には当てはまると思います。数ある教科の中で美術と体育は得意だったので、得意分野を伸ばしてきた延長線上に今の自分があると思っています。
一方で、絵を描くことについては、弱点が無いようにしたいという考えをもっています。
本当に得意なバスケットボールの絵だけ描いてもよいのかもしれないけど、それだと自分自身の成長にも繋がらないので、「できない」とは言わずにチャレンジしたい。アスリートも描けば、男性だけでなくて女性も描くし、動物も描けば宇宙船も描く、というように。
とにかく苦手を克服して、すべて描けるようになりたいと思っています。

JAXA

ありがとうございます。
専門能力を身に着けるまでの道のりについて教えて頂けますか。たとえば、誰か師となるような人、ライバルとなるような人が周りにいたかとか、何かにインスピレーションや衝撃を受けて努力してきたとか。

田村

小学生くらいの頃、兄弟や父親がいたせいもあり、家に必ず少年マンガがあったんですね。僕は内容を読むよりも、見て描くほうが好きで、いろんなマンガの主人公を書き写したんですよ。小学生のときは、マンガ家が僕にとっての勝手な師匠だったんですね。
ずっと後にデザイン学校に行って、さらに似顔絵の世界に入ったときは、アメリカンスタイルの似顔絵で世界一になりたいと思ったので、アメリカンスタイルの絵をとにかく大量にインプットして、歴代のチャンピオンやレジェンドと言われる人達の絵から勝手にどんどん学んでいきました。
これまで散々インプットしてきたので、今は逆に、他の方の絵はほとんど参考にせず、自分の内側から湧き出てくるものを大事にしています。
こういう状況なので、現在師匠となる人は特にいません。

JAXA

そうすると、誰か先生について学んだというより、作品を見ながら自分でひたすら模写などをしているうちに、さまざまな技法をマスターして上達していったという感じなのでしょうか。

田村

そうですね。模写しながら、たとえば、構造の本とか、骨の本とか、筋肉の本などもどんどん勉強して取り入れて、という感じですね。

JAXA

なるほど。人間の絵を描こうとすると、美術解剖学の勉強も必要になると思うのですが、それも本を読んで学ばれたのですね。

田村

そうですね。表面だけ似せるのではなく、顔の筋肉がどういう構造になっているから、笑ったとき顔のどの部分が引きあがるとか、脂肪のつく部分と付かない部分だとか、その下に更に骨があって、絶対に形として崩れないところがあるとか。今も人を描く際には表面だけではなく、その下の構造も想像しながら描いています。

絵を描くことの魅力

JAXA

ありがとうございます。
田村さんにとって、絵を描くことの魅力とは何でしょうか。
完成したときの達成感なのか、あるいは、自分の作った作品が蓄積されてアーカイブとして充実していくことなのか、それとも、絵を描く過程そのものに喜びや魅力を感じられておられるのでしょうか。

田村

毎回、白い紙を前にすると、めげそうになる自分がいるんですけど、絵を描きあげたときに喜んでくれる方の存在とか、自分の描いた絵が世の中に与える影響とか、描ききったときの達成感、その喜びのために毎日描いています。絵は僕にとって夢や目標を叶える手段でもあるので、自分が好きで得意な絵を書くことを通じて、いろんなことを叶えていきたいですね。

JAXA

ありがとうございます。
好きなことを仕事にできるのはとても幸せなことですが、一方で仕事となると責任も伴います。そういう意味で、時には苦しくなったり、もう嫌だと思うようなことはないのでしょうか、そうなったときの対処法などについてもお聞かせいただけますか。

田村

今回の宇宙飛行士の絵も、完成して発表するときは華やかに見えるのですが、描き上げるための90パーセント以上の時間は机に向かって一人で戦っているような状況なんですね。描くことだけが目的になってしまうと辛いし、せっかく描いても反響が少ないとめげてしまうと思うんですが、一方で絵を描くことでやりたいことが叶っていくという面もあります。
僕は宇宙が大好きなので、ずっとJAXAの仕事に絵で関わりたいと思っていました。今回、宇宙飛行士の絵を描くという願いが叶い、こうしてインタビューを受けているのも、絵を描いてきたからこそたどり着けたことだと思います。
そういう意味で、この先に明るい未来が待っているんだと信じて取り組むことが大事だと思っています。

道具について

JAXA

次は少し方向性を変えて、絵を描く際に使っている道具についてお話いただけますか。なぜこの質問をさせていただくかというと、宇宙開発の共通点とか相違点に関連してチームワークの話も伺いたいと思っていて、絵自体は一人で描いているけれど、描くための道具を開発している外側のメンバーがいるなど、見えないところでチームワーク的な働きがあるのではないかと思ったためです。

田村

下書きは一般的なシャープペンで、その上の線画は水性ペン、さらに色塗りは油性のマーカーで描いています。水と油で弾きあうので、線画を引っ張らないために、水性のペンと油性のマーカーで描いているんですね。日本のメーカーの製品なんですが、マンガ家もよく使っていて、世界中で販売されています。世界中の人がどこでも手に入る画材で、みんなが使ったことがあるマーカーですごく綺麗に塗ると、「えっ、あの道具でこんなに綺麗に描けるの?」と驚いてもらえるので、なるべく、広く知られている画材を使うようにしています。

チームワークに関しては、周りの人たちからは「技術だけで食べている」とか「自分の腕一本で仕事をしていてすごい」と言われるんですが、画材を作ってくれる方とか、クオリティの高い紙を作ってくれる方、そのほかにもモデルとなる人がいないと絵は描けないし、ファンの方々のお陰で成り立っているところもあるので、一つの作品をいろんな人とともに作り上げているんだなと、今改めて再認識しました。

絵を描くことと宇宙開発に共通するもの

JAXA

田村さんご自身が専門能力を身につけてきた過程も含めて、絵を描くことについて、何か宇宙開発との共通点を感じることがありますか。

田村

世界に通用するよう、専門能力を磨き続ける必要がある点や、先ほどのチームワークの話でいうと、実際に宇宙に出るのは宇宙飛行士一人だけど、そこに至るまでに多くの人が関わっている点は似ているかも知れません。
地味な訓練とか日々の作業を日々こなして毎日毎日積み上げていった先に、注目を浴びるような成果が出てくるところも一緒だと思います。
僕の場合は、起きてすぐ描く、寝る直前まで描くことを毎日のルーティーンにしていて、それが崩れないようスケジュール管理がとても大切になってきます。たぶん、そこも共通点じゃないかと思います。

JAXA

ありがとうございます。
宇宙飛行士の絵を描くのは今回が初めてだったと思いますが、今回、JAXAからは50年前に月面上で活動したアポロ宇宙飛行士、現在も運用中の国際宇宙ステーション(ISS)で船外活動をする宇宙飛行士、さらに国際宇宙ステーションの内部の普段着の宇宙飛行士も描いてほしいということで、A4用紙の大きさに3つの全然違ったタイプの宇宙飛行士を描いていただくようお願いしたわけですが、苦労した点とか、工夫した点があれば教えていただけますか。

田村

精密機械や多くの部品を描く必要があったのでたいへんでした。描いている対象物の開発や製造に僕も関わっているつもりで、一つ一つ丁寧に描くことをまず意識しました。苦労したところですね。
それと、やはり宇宙飛行士が目立つようにするために、背景が過度に目立たないよう、あくまで人物にフォーカスした色使いだったり、白を残したりなどの工夫をしました。

原画からは 'オーラ' が出ている?

JAXA

原画を実際に拝見してびっくりしたのですが、事前に見ていた完成品の電子データと比べて、原画の方が遥かに緻密に見えて、何か“オーラ”のようなものを感じました。
JAXAの公開WEBサイトでもイラストを紹介しているのですが、原画のもつこの“オーラ”をどうしても表現し尽くせていないのが残念です。

田村

それが手書きの作品の良さであり、課題でもありますね。
細部まで心を籠めて描けば、電子データや印刷物になっても、何かしら伝わるものがあると信じてやっているので、そうおっしゃっていただけて、本当にうれしいです。

オーラという言葉が出たので、ついでにお話ししますが、実は以前「モナ・リザ」の実物を観たことがあるんですけど、すごいオーラを感じました。作者がキャンバスとモデルを前に、何日も何時間も苦悩・葛藤したうえで、ものすごいエネルギーを込めて描いたのではないかと想像していて、きっと、それが見る人たちに自然と伝わってくるんじゃないかと思うんですね。いわば、タイムカプセルだと思っています。時間が経って、いずれ絵だけが人の目に触れる状況になったとしても、まるで対話できるように作者が作品に込めたメッセージを受け取る。生命を注ぎ込んで描いた絵はタイムカプセル的な役割も果たせるんじゃないかと思ってます。

JAXA

今聞いていて、作品を通して作者と対話ができるというのは、すごく重要なキーワードだと感じました。

「宇宙」のイメージについて

JAXA

田村さんにとって「宇宙」とはどういうイメージなんでしょうか。1つは空を見上げた時に見える「宇宙」、もう1つは「宇宙開発」に対してどういうイメージを持っておられるのか。今回、宇宙飛行士の絵を描いたことによって何か変化があったかも含めて、お話を伺えますか。

田村

まず、宇宙を見上げたときのイメージですね。地球上の砂の数よりも宇宙の星の数は多いと聞いたことがあります。想像がつかないくらいの規模で、大きすぎて想像を超えることができなくて、考えても分からなくなってしまう、そういうのが僕にとっての宇宙のイメージですね。

一方で、今回、宇宙で作業している宇宙飛行士を描いてみて、アポロの時代、まだテレビの画面が白黒だったころから積み上げてきた技術の上に、つまり先人たちの努力の上に、今の私たちの活動がある。ゼロから開発していたら同じところで留まってしまうかも知れないものを、知識や技術を蓄積してバトンを渡し続けてきたことによって、新たな世界に辿り着いている。そういう直向きな努力を感じることができました。

今後の挑戦について

JAXA

ありがとうございます。
田村さんの今後の活動について伺いたいのですが、ご自身としては今後どういうことに挑戦していきたいと考えておられるのでしょうか。

田村

僕自身がアーティストと名乗っている理由にも関係するのですが、イラストとアートには違いがあって、イラストは誰かの世界観にフィットさせたある意味デザイン的要素が強い絵であるのに対し、アート活動は見る人たちを創作者の世界に引き込むようなものだと思っているので、イラストだけではなく、アーティストとしての活動にも力を入れて世界で戦いたいと思っています。それが今、挑戦したいことですね。

JAXA

いまのお話ですと、イラストは対象物を指定されて描いていく行為、アートはこれまでの膨大な量のインプットのおかげで自分の中から溢れ出てくるものを表現していく行為。おおざっぱにいうと、そういう理解でよろしいでしょうか。

田村

そうですね。実際には明確な境目はなくて、イラストのオーダーが来た時に自分の世界観を出すこともありますし、アートのイメージにこだわりすぎて人に伝わらない一方通行の作品にならないよう、アート作品を描く際にもデザインの要素を入れたりもしています。

「宇宙の日」作文・絵画コンテスト 未来の応募者の皆さんへ

JAXA

最後に、JAXAは毎年9月12日の「宇宙の日」を記念して小中学生向けの作文・絵画コンテストを開催しています。もうすでに30年近い歴史があるのですが、未来の応募者も含めて絵を描こうとする子供たちへの応援メッセージをいただけますでしょうか。

田村

宇宙ってロマンとかワクワクとか希望がすごい詰まっているイメージをみんな持っていると思います。分からないことが多いからこそそう感じるのかも知れないけど、皆さんそれぞれがイメージする宇宙について、想像をたくさん膨らまして描いてください。頭の中だったら宇宙旅行もできるし、いろんな星にいるかもしれない宇宙人だって想像できるから、実際にあるかどうかなんて考えないで、頭の中に描いたイメージをそのまま描き写して表現してもらえればと思います。
絵を描くことの楽しさを是非味わってください!

JAXA

ありがとうございます。約1時間ですけども、重要なキーワードや発見が幾つもあり、たいへん面白い対談ができました。
田村さんの今後のご活躍を応援しています。

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