JAXAタウンミーティング

「第88回JAXAタウンミーティング in 三沢航空科学館」(2013年1月6日開催)
会場で出された意見について



第一部「日本の宇宙開発の明日について ~有人宇宙ロケットの開発~」 で出された意見



<固体燃料と液体燃料の違いについて>
参加者: いろいイプシロンロケットでは固体燃料を使っているようですが、H-IIBロケットには固体燃料を使っていないのですか。
沖田: H-IIAでは2本、H-IIBでは4本の固体ブースターを使っています。
参加者: 固体燃料と液体燃料の違いは何ですか。
沖田: 固体燃料は推力を出すのには非常に適しています。また、充填作業が打ち上げ当日にありませんので運用性が非常に良いです。一方、液体燃料の場合は液体酸素、液体水素という組み合わせの場合だと、ロケットの性能が非常に高くできます。また、固体燃料の場合、大推力化しようとすると、大きくしなければならず、設備費が膨大になりますが、液体燃料の場合はそこまでいきません。通常、打ち上げ能力の低いものは固体ロケットのほうがコスト的には非常に有利で、推力が大きくなっていくと液体燃料のほうがコスト的に有利になります。
参加者: では、固体ロケットは、コストの低いほうということですか。
沖田: イプシロンロケットはそういう意味で大きな推力ではなくて、言われるとおり大体500キロぐらいのものを打ち上げることを想定しています。H-IIAロケットは、大体4トンぐらいのものを打ち上げることができます。1トンぐらいまでは、固体ロケットのほうがコストが安く、イプシロンロケットも将来的には1トンぐらいのものまで打ち上げられるように研究開発を進めています。
参加者: 大きくなればなるほど、液体燃料のほうがいいということですか。
沖田: そのとおりです。
参加者: なら、すべて液体燃料にしたほうがいいのではないですか。
沖田: 500キロぐらいの小型の衛星もありますので、小さいサイズのロケットがないと効率性が悪くなります。液体ロケットで相乗りして、打ち上げることもできますが、同じ軌道角度でないと相乗りできませんので、衛星側にとっては非常に不便なロケットになってしまいます。また、小惑星探査を行おうとしたときに、相乗りで実施しようとすると、別の推進ステージが必要になり、効率性を損なってしまいますので、500キロぐらいのロケットがどうしても必要だというのが我々が考えているところです。

<有人カプセルについて>
参加者:日本の有人ロケットのカプセル等は、どのくらいの重量になるものなのでしょうか。
沖田: 今の計装だと大体8トン級ぐらいで、ロケットの固体モーターがないシングルロケットになるのではないかといったところで、宇宙船のグループと一緒に研究しています。お互い機能を上手に配分しないと、片方が必要以上に重たくなったり、搭載コンピュータ関係も何台も置くとそれだけの冗長をもたないといけないので、一体的にどううまく整合させるか研究しているところです。
参加者: HOPE-Xのようなシャトル系の開発はしないのでしょうか。
沖田: 研究は進めていますが、我々もアメリカのスペースシャトルの失敗を重く受けとめていて、失敗した理由は、大きく2つあると思います。1つは運用まで見据えた機体の設計ができていなかったこと、もう1つは再使用性に耐える技術が十分でないところがあったことです。運用は今のロケットで徹底的に高めていって、次の再使用機につなげていきたいと思っています。再使用技術で足りなかった耐熱タイルの技術は、非常に難しい技術で、軽くて断熱性を高めなければなりません。シャトルはあれぐらい大きいサイズですから、あのタイルでいいですが、小さくなると入熱量が大きくて熱容量が小さいので、中のものが着陸した後、蒸し焼きになってしまいます。我々は大きいものを目指していないので、さらに高い断熱性が必要になります。その材料の研究開発を今、鋭意進めているところです。決してあきらめてはいなくて、どの部分を再使用にする必要性があるのか見極めなければなりません。例えば、惑星に物を送ろうといったときには、高いエネルギーのロケットが必要で、再使用の飛行機で行おうとすると、ものすごく大きな飛行機が必要で、エアバスA380よりもさらに大きいものが必要になってくると、それを開発するだけで数兆円かかります。そんなばかな話をしてもしょうがないので、こういったものはロケットなんだろうと思います。ただ、2地点間飛行とか、低軌道のものは再使用性のビークルが必要になると思います。こういうマーケットというか、利用価値を高めていけば、必然的にこういうものが必要になってくるので、そこを目指して、それに向けた研究開発は継続して実施しているところです。HOPEが2000年に終わって既に十数年たっていて、ほとんど立ち枯れかけているという中、何とか中堅、若手を引きとめながら鋭意進めています。
参加者: エアバススペースプレーンなど空気吸い込み式の実験機などは、実験はすごく面倒くさくなりそうな気がするのですが、開発はやっていくのでしょうか。
沖田: やりたいとは思っています。けれども、空気吸込み式実験機は、私も大変ハードルが高いと思っています。

<コストの安いロケットの燃料について>
参加者: コスト削減の話が頻繁に出てきましたが、次の主力ロケットは液体水素をまだ使う方向でいくのでしょうか。液体水素というと打ち上げの後の性能にどうしても特化してしまうと思うのですが、地上設備とか打ち上げするまでのインフラが結構かかると思うのです。古いケロシンとか、ほかの国みたいにヒドラジンとか、技術的には後退するかもしれませんが、安くなる方法というのはまだあるのかなと思うところがあるのですが、そういう検討をされているのでしたら伺いたいと思います。
沖田: そのご質問は内閣府からもたくさんいただいてまして、そのときも答えましたが、同じ打ち上げ能力で今のケロシン系燃料の単価、ヒドラジン系燃料の単価、メタンの燃料の単価と水素の単価は、時価の3年の平均値で評価したのですけれども、液体水素が一番安いのです。運用性の問題がよく御指摘されるのですが、経産省さんの努力のおかげで、例えば水素社会に向けて水素自動車だとかいろんな検討をされています。そういった技術というのが我々はほとんど全部丸ごと使えていまして、水素の運用性に関して我々も1986年、H-Iの初号機を打ち上げて以来もう30年近くたっている中で、十分に運用技術も高まっていて、不便と感じてませんし、水素が一番効率性が高く、安くするのにも最も近道ではないかというのが我々の答えです。

<衛星のコスト削減について>
参加者: ロケットのコスト削減というのはあると思うのですが、そこに載る衛星などのお客様のコスト削減は何か取り組んでいるのでしょうか。
寺田: 私は、準天頂衛星初号機「みちびき」のプロジェクトマネージャーをしていましたが、一昨年8月に広報部長になりました。それまでは、実用衛星の開発をしていて、その中でコスト削減というのも大きな課題でありました。一番コスト削減で効いてくるのは、同じ技術を繰り返し使うことです。新しい技術をどんどん開発することによって、衛星そのものは性能が上がっていくのですが、必ずしも衛星にとってそれがベストマッチングにはならないので、とにかく成熟した技術を繰り返し使っていくことです。その中では例えば同じコンポーネントをまとめて製造するとか、そういう努力によってコスト削減するというやり方を行っています。

<協力企業について>
参加者: コストの削減ですとか、予算が少ない中でお金のやりくりとか大変だと思うのですけれども、そんな中で儲からないからという理由で協力してくださる企業がどんどん減ってきてるというお話でしたが、減っていく中でどのように協力者を得て、これから先、開発していくのかを教えていただきたいと思います。
沖田: 非常にいい質問で、不思議なことにやめるところが出てきても、やり続けたいという会社はたくさんあります。幾つか私もお世話になっている会社の中で、例えばHOPEのベアリングのリテーナーという、軸受けの1つの部品で、かなり高い技術が必要な製品があります。現にアメリカのロケットエンジンのベアリングにも使われていて、そういう高い技術を持っている会社さんで、我々が協力しないと日本の宇宙開発は止まってしまうという理由で、やってくれています。日本の経済状況上、会社がこのままできないとういうことで、泣く泣くやめた会社さんもいっぱいありまして、その中でも何とかやっていこうという意欲のある会社とうまくやっていきたいと思っています。この新しいロケットもまさにそういったベースのもと、作業を進められないか検討を進めています。
参加者: 一度やめると言われた会社には、また声をかけたりということはなさらないのですか。
沖田: 我々は国の法人でございます。昨今、随意契約というか、会社を指定をして契約するようにはしないようにという指導を受けています。そういう意味であくまで我々はオープンに業者を選定しています。
西浦: その辺の苦労は少なからず川口先生も経験されたと思います。何かエピソードがあればご披露いただけますか。
川口: 採算が合わないからやめていく会社があるからどうすればいいかということですか。国の組織、仕組みで行っている組織の人から言うと、ちゃんと予算をつけろということになるのかもしれませんが、違ったなと思うところもあります。違うかなというのは、お金がないのに頑張ってくださいと言うのは無理な進め方ですね。ですから進め方というよりも工夫が要るのだと思っていまして、先ほど寺田さんが言われましたけれども、これは寺田さんが答えたほうがいいかもしれませんが、転がしていくことを国が支援する部分も一緒に組み込んだ開発の仕方もあるのです。そんなやり方も輸送系もそうだし、あるのだと思っていて、そうしないと難しいのではないかと思っています。単に税金、予算をつければいいというのは簡単ですけれども、多分そうではないと私はそう思っています。
寺田: 今、川口先生がおっしゃった国が支援するという観点では、先ほど代替技術というか、継続した技術を繰り返し使うということがあったのですが、それだけだと衛星の技術が陳腐化してしまうので、4、5年に一度とか、そのぐらいのサイクルで新しい衛星を開発するわけです。それを国が支援して、衛星の姿勢などを供給する衛星の土台になるような技術、衛星バス技術というのですが、それを開発によって、新しくするというやり方もやっています。その辺も大事なところではないかと思います。
沖田: 次のロケットから「アンカー・テナンシー」という、いわゆる何年間に何機というようなことをしながら会社とつき合っていくことも考えています。もう一つは、重要な技術については5年に1回とか10年に1回、ちゃんと開発サイドで回してあげる作業を、それは大きくなくていいので、小さい開発で会社はそれでつなげていけるといったところもあるので、そういった仕組みも導入してロケットをつくり上げていきたいと思っています。
西浦: こういった困った現状を皆様と分かち合えて大変うれしいのですけれど、やはり最後は国の予算が定期的に確保されているという保障があって初めて研究開発に進めるわけです。次の予算がつかないと、次の開発がしたくても部品の発注もできない。部品の発注ができなければ、部品をつくっているところも存続できないといった負の連鎖に陥るので、やはりここは皆さまの応援の声の大きさに頼りたいと思います。どうか、引き続きよろしくお願いいたします。

<予算獲得の苦労について>
参加者: アメリカに比べて少ない予算の中で、これだけの研究をされているのはすごいと思います。その中で例えば予算を引き出してくる際の苦労話があれば教えてください。
寺田: 私のほうからは実用衛星的なところ、川口先生からは「はやぶさ2」とか探査衛星のところをお話いただこうと思いますが、実用衛星で言うと、例えば一昨年、3.11の大震災があったのですけれども、やはりこの影響がかなり強かったです。それから、災害を監視するとか、減災するとか、災害時に人をいかに救助するとか、そういう衛星の機能が非常に大事だということが言われました。私が担当した「みちびき」という衛星は日本版のGPS衛星なのですが、こちらは皆さんGPSってカーナビなどで必ず使っていると思うのですけれども、GPSというのは自分の位置を人に知らせることができないのです。だから例えば瓦れきの中に埋まってしまうと、どこにその人がいるか実はわかりません。ですから、今度「みちびき」の後継となる国が開発する準天頂衛星システムでは「みちびき」の衛星をさらに3つか4つ追加することになるのですが、こちらの衛星には自分がどこにいるかというのを人に知らせる機能をつけようと考えています。そういうことでいかに役に立つかということを訴えかけて予算をとっていくところです。
川口: 私は「はやぶさ2」をやっていないというか、実際のプロジェクトメンバーから卒業したと言ったら変ですけれども、人材育成をしなければいけないので、後進に道を譲っています。ただ、立ち上げのところは一生懸命しなければいけないということで、まだ、はやぶさが飛んでいる最中でしたけど、「はやぶさ2」を一生懸命開発をやらなければいけないと経営側に言っていくと、理事長が言うわけです。外国を回って打ち上げてもらえるロケットを探してこいと、あれほど1年間旅行に行ったことがないぐらい、散々探し回ってもどこもうんと言ってくれないわけです。それはそうですね。「はやぶさ」が帰ってきたらH-IIAで上げると、最初から上げると言ってくれればよかったのですが、経営に振り回されていることがよくありますね。

<JAXAの応援の方法について>
参加者: 先ほど西浦先生から皆さんの応援、御協力をお願いしますというお話があったかと思うのですけれども、私たちは3~4年前に蓮舫さんが大臣だったときに、2番じゃ駄目なんですかと。私は小さいころから科学技術の本で育ったものですから、日本のお偉い方がああいう発言をすることに非常にショックを受けました。皆さんのような国の最先端の頭脳、技術にかかわる方を応援したいと思うのですけれども、具体的な方法がよくわからいので、どうやれば応援したことになるか、あるいはどうやって皆さんに私たち普通の市民が応援していますよということを意思表示することができるか。どうやれば皆さんに受け取っていただけるのか、その方法を教えていただければと思います。
西浦: ありがとうございます。大変ありがたい御質問をしていただきました。ご指名がありましたので、先ず私から答えます。やはり、幅広くマスコミに訴えかけていただくことで、市民の声というのが一番大きく世論を動かすことにつながると思っています。テレビ局や新聞に投書、投稿していただき、読者、視聴者のご意見を掲載、または放送するコーナーがありますから、そういう機会をフル活用する手段もあります。国のためにも、JAXAにもっと予算を上げたほうがいいとか、自国の安全保障のためにとか、いろいろな観点でサポートの声を広げることもできます。優れた頭脳、技術者に恵まれた国家でも、それらを活用といいますか、具現化できる予算がなかったらもったいない、といったお声をお手紙、お葉書で内閣府などの政府機関にお届け頂くことも重要だと思います。もちろん今、皆様からの大切なお金を御寄附としてJAXAのウェブサイトを通じてできるようになりました。お子さんがお小遣いを貯めて寄付してくださる場合もあれば、大きな御協力をしてくださる方々もいらっしゃいまして、いろいろですが、そうした直接的なものもあります。大きな予算が必要なのに、ほんの少しなんてと思わずに、よろしくお願いします。
寺田: 今、投書というお話もありましたが、極めて直接的にJAXAを応援するやり方として寄附金を受けつけております。これは先ほど少しあったのですが、インターネット経由で寄附することができまして、昨年4月から始めておりまして、これまでに3,000万円以上の寄附をいただいています。実はその半分以上が「はやぶさ2」への寄附金ということで、そうなるとやはり皆さんが「はやぶさ2」を待望されているかということの裏返しでもあって、その中で政府も「はやぶさ2」の予算をつけなければいけないのかなということにつながりますので、1つのあらわし方としてはそういった形で寄附いただけるというのは、こちらにとっても非常にありがたいですし、応援のメッセージとしても受け取れるのかなと思っています。

<宇宙開発の世界協力について>
参加者: 約1,800億円の予算を国から計上されて行っている事業でありますので、かなりの額だと思います。各国と比べても低いのですけれども、JAXAの基本的な理念というのは、パンフレットに書かれています科学技術の向上などありますが、今、有人で月探査を最終的に目指すというのは、過去にアメリカが1回やっていますけれども、断念しています。この世の中の趨勢でなぜ今、有人飛行で月に行かなければいけないのか。本当に基本的なことなのですけれども、いっぱいお金のかかる事業なので、大体いろんな資料を見ればいろんな資源があるというのはわかるのですが、それではなぜ各国が足並みをそろえてやる事業と、中国とかインドとかも独自にただ有人で打ち上げればいいみたいな宇宙開発になりかけているところもあって、また1世紀宇宙開発が後退しつつあるような感じがあるのです。それを思えば、なぜみんな全部の事業を、世界各国の技術を足並みそろえて一緒の予算枠の中で地球的な規模で宇宙開発を推進していかないのでしょうか。
沖田: 御指摘はごもっともだと思います。現在、世界の14の宇宙機関がISECGというグループを2007年に組織しまして、いわゆる国際宇宙探査共同グループといったものの中でいろんな検討をしています。これは国際協力が前提で、今、結論として得られているシナリオは2つのシナリオです。1つは小惑星探査を先にやるか、もう1つは月を先にやるかです。では、何でこんな時期にそういうことをやらなければいけないのかですが、ISECGの中で6つの意義というものが整理されています。1つは宇宙科学技術の新たな知識を獲得する。太陽系の進化、生命誕生への知見の獲得とか、月面の問題といったもので新たな知見を獲得していきたいと。2つ目はフロンティアの開拓といったところです。人類の本能的な活動領域の拡大をしていくことで、地球との新たな関係、いわゆる外から地球を見て地球をどう維持していかなければいけないのかといったことが、きちんと見えるのではないかということです。3つ目は経済発展です。これは探査技術のスピンオフ効果、宇宙産業発展による財政への貢献、そういったものがメインになります。4つ目が国際協力で、国際化の話をより強力にしていくことで、今後こうすることによってグローバルセキュリティへ貢献していくことが挙げられるだろうと。5つ目が創発と教育で、宇宙探査という壮大なテーマへの驚異と感嘆。こういったものが脅威につながるのではないか。若い世代への勇気づけ、科学技術産業での人材確保、教育材料の提供といったところで、教育がより深まっていくのではないか。6つ目としまして、火星以遠への探査への準備で、月探査をやることによって低重力、高温度範囲での探査技術やリサイクル技術、人体適応能力研究といったものが高まるというもの。大きく6つの意義が掲げられています。日本で、有人宇宙輸送や有人宇宙活動を本格的にやろうといったときには、当然のことながら、国民的な議論が必要と思っています。
川口: 少し乱暴な言い方かもしれませんけれども、経費の支出を抑えて世界一様に同じレベルの国になることをみんな求めているかというと、そうでないということが最終的な答えだと思っています。みんな博愛の精神で世界がみんな同じレベルになればいい、日本もそうなればいいと思ってはいないからですね。ちょっと極端な言い方ですけれども。だからそのために1,700億円というすごく大きな予算の中で、これは貴重なお金ですが、世界の中でリードできる国になろうとしているのだと思っています。そういうことが国を豊かにしているのです。結局、最後は生活が豊かになることを求めようとしているのであって、博愛の精神で皆さん全世界一様になることを目的にしていないと思うのです。
西浦: いろいろな意見がありますが、私は大学で国際関係を教えていますから、常に学生たちと世界平和について考えるのです。歴史を振り返りながら、近代歴史も学んだ上で、今後どうやって足並みをそろえて、この複雑化された国際社会の中で、健全な競争力を持って存続していけるだろうかということも議論させています。理想論がある中、どうしても他国と歩調を合わせたくない国もありますから、世界平和のもとに全世界で協力してと、常識的に、ひとくちで片付かないわけです。ですので、川口先生のご指摘のように、人類にとってより豊かな生活のためにというのが一番、わかりやすい理由づけかもしれません。

<第二部「『はやぶさ』が挑んだ人類初の往復の宇宙飛行 その7年間の歩み」で出された意見



<LNGエンジンの開発状況について>
参加者: 天然ガスのエンジンを開発中だと聞いていまして、相当でき上がっている雰囲気でしたが、どういう状況でしょうか。
沖田: 推力が小さい3トンぐらいのエンジンです。このエンジンはできていますけれども、使い道がなかなかなくて、使い道も含めて今、検討しているところです。というのは先ほども惑星探査などでは、蒸発しない燃料で性能がいいエンジンというのは非常に有効で、そこに向けて今また研究を進めているところです。

<行くことのできる宇宙の範囲について>
参加者: 今の宇宙の技術で、宇宙のどこまでロケットは行けるのですか。
川口: どこまででも行けますが、問題は、時間がどのぐらいかかるかですね。非常に大きな加速をしなくては、時間がかかってしまいます。でも、加速をするには燃料が要ります。イオンエンジンはイオンを出すのですね。そういう高性能なエンジンがあれば短い時間で遠くに行けるようになります。でも、どこまでも行けることは確かです。

<宇宙旅行について>
参加者: 有人ロケットなどをつくっている国がNASAとかほかの国もたくさんあると聞いたのですけれども、宇宙旅行とかそういうものが実現する日はあと何年ぐらいですか。
川口: 宇宙旅行というのはどこからが宇宙かという話になるのですけれども、今でも地球の大気圏の外側を回る飛行は、往復して帰ってきています。月もアポロで往復しています。宇宙旅行とおっしゃっているのは、もっと遠くへ行って戻ってくるということでしょうか。
参加者: 火星とかに行ってみたいです。
川口: 火星の飛行は、技術的には既にできる要素が全部そろっていると私は思っていますけれども、でも、すぐ実現しない理由は非常に簡単です。そこに行って何をするかということにかかっているのだと思うのです。往復の飛行には巨額の投資が必要です。お金がかかっても行くべきか。そのとおりなのですが、それにしても余りに巨額過ぎるので、先ほど沖田さんがおっしゃったように国際共同で進めざるを得ないと思っていて、今、協議をしているところです。技術的にはできる状態にあると思います。

<ロケットや衛星のリサイクルについて>
参加者: 私は環境問題で聞きたいことがあるのですけれども、昨今、日本のみならずなのですが、リサイクルの問題等々も出ていると思うのですけれども、ロケットを打ち上げる技術にしましても、探査衛星にしても、打ち上げたもののリサイクルはどうなっているのか。結局、巨額な費用で打ち上げるわけですね。そうしたときに宇宙に行ったものに対して2段、3段ロケットが落ちるわけですけれども、それを回収してリサイクルしているのかどうか、お聞きかせください。
沖田: 今のロケットだと2段、3段は地球の大気に再突入する際にほとんど溶けます。蒸発してほとんどなくなってしまうので、リサイクルをするとすれば1段ではないかと思います。1段をリサイクルしようとすると、これは過去に簡単な検討をやったことがあるのですけれども、小笠原の南近傍に1段目が落下するわけですが、そこで回収して持って帰るというと、相応のコストがかかるということと、もう一つは落下する際に破壊されてしまうのです。だからそこをどう落下傘でうまく回収させるかというところがありまして、コスト的にはなかなかペイしないのかなと思います。それよりも翼をつけて1段をフライフォワード・ブースターとして、どこかで着陸させる。例えば種子島から静止軌道に打ち上げようとすると、硫黄島あたりに着陸させるとちょうどいい感じかなというのがありまして、そういった検討結果もあります。
川口: 私が最初にスペースプレーンと言ったのは、今、沖田さんが言った1段目にあたります。その1段目と私は言わないでスペースプレーンと言ったのは、先ほどの深海潜水艇ができるとアメリカなどの船の運賃が安くなるかというと、安くならないのです。だから宇宙空間に向かう輸送系をつくろうという投資をしたからといって、アメリカに渡る航空運賃が安くなることはないです。先ほど言ったのは、極超音速機というのは1段目にも使えると申し上げさせていただいていて、飛行機です。1段目はそれに置きかわっていくのだと思います。2段目、3段目はかつてのスペースシャトルのように降りてくるわけです。ですからリサイクルではなくてリユース、再利用なんです。今の航空機と同じように何度も使うことができるような輸送機が登場するようにならなければならないと思っています。

<イオンエンジンの力について>
参加者: イオンエンジンって、どのぐらい力があるんですか。
川口: イオンエンジンは非常に力が弱いのです。大きさによってもちろん違いますけれども、燃費がよいということと、力があるということは両立できないのです。これは普通のロケットもそうです。だから燃費をよくしていくと推力は落ちていきます。「はやぶさ」のエンジンというのは、とりわけ小さいのですけれども、エンジン3つ併せて1円玉2枚を手に乗せたくらいの力しかないのです。もっとエンジンを大きくすれば、もっと大きな力が出せますが、とんでもなく電力をくうようになります。でも、そういう時代が来るかもしれません。発電所が空を飛ぶ時代は来ると思うのですけれども、電力次第です。ですから先ほど往復の火星飛行という話がありましたが、例えば木星よりも向こうに行ってしまうと太陽電池は役に立たないです。ですから、発電所が飛んで、その電気で、エンジンを動かすという時代が来るかと思うわけです。今のところ力は弱いのですけれども、燃費はよいエンジンです。

<H-IIA・Bロケットの色について>
参加者: 海外のロケットは白い色が主に使われているのですけれども、日本のH-IIBなどは何でオレンジ色をしているのですか。
沖田: H-IIAもですが、塗料を塗るのをやめて、安くするためです。また、安くなるだけでなくて、塗料を塗るとそれだけ重たくなるので、止めると少しだけ能力も上がります。
西浦: 因みに、オレンジ色は、ビタミンカラーといって、元気を与える色ですから、いいかなと思っています(笑)。

<川口先生の発想の源と現在の教育について>
参加者: 川口先生の出された本を読ませていただいて、すごい斬新な発想だなという思いで読ませていただきました。例えばきょうの講演でも「三日坊主は良いのでは?」など、そういう話を受けて、大変勉強になりました。先生が宇宙研究の社会に入っていったから、こういう発想ができるようになったのかなとも考えたりしますし、興味があるのは、子供の頃、どんな子供だったのかなと。どういうふうにこういう発想ができるようになったのかなということを、子供時代のことも含めてお話してもらいたいなということと、今、教職にあるのですけれども、そういう学校現場に対してこういう子供を育ててほしい。何かいい御示唆をいただければお願いしたいと思います。
川口: 別に変な子供ではなかったと思います。どちらかと言うと先ほど話が出ていたかもしれませんが、私は大学が終わって研究所に入って、そこで出会った集団が非常に不思議な人たちばかりだったのが、とても大きいのかなと思っています。廣澤先生は非常に紳士な人ですね。皆さんから尊敬される人だったのですが、私はほかの人がそうではないと言っているわけではないですか、言ってみれば新しいことをすることを重んずる文化がそこにはあったので、そこから大きく影響を受けたかもしれません。いいことなのかもしれませんが、なかなかつらいことですね。つらいことというのは、人と違うことをやるというのは大変つらいことだと思いますけれども、おかげ様でちょっとぐらい変人でも、変人だと思われないぐらい周りが変人だらけだったので、それがよかったのかもしれないですね。学校現場、ちょっと変な話ですが、議論の発信というのでしょうか、意見の発信とかプレゼンとかディベートとよく言いますけれども、なかなかそういう機会は少ないですね。私も同じなのですが、なかなか日本人はそうはなれないのです。人と違うことをすることを窘められる世界ですからね。なかなかそうはなれないのですけれども、積極的にそういうところを引き出していくような人材育成が必要なのかなと思います。特にこういう国際グローバルの時代になってきますと、いろいろなことをきちんと発言していくことは重要になってくると思うので、そういう部分を伸ばすためには教える側もいろいろ変わっていかなくてはいけないと思います。子供さんをサマーキャンプとかに向かわせる親御さんがたくさんおられるのですけれども、子供をサマーキャンプに送ると子供が変わってくるかって、多分違うと思うのです。嫌な言い方ですけれども、教える側が変わっていかなければいけないのではないかと思うのです。サマーキャンプに向かうのは子供ではなくて先生ではないかと思ったりもします。教える側が変わらなければ変われないので、なかなか難しいことですけれども、そんなことを感じずにはいられません。
西浦: まとめますと個性を尊重する、発信力を養う。そういうことだと思います。先ほど川口先生の本の話がありましたが、もうひとつ、『はやぶさ 世界初を実現した日本の力』という川口先生の本があります。そちらにも教育のヒントがたくさん出てきますし、面白い本ですので、機会がありましたら、ご一読ください。

<エンジンの使い分けについて>
参加者: 燃費を抑えて威力が小さいエンジンをたくさんつけるのと、燃費は悪いけれども、威力が大きいエンジンを少なくつけるのだったら、どちらがコストを抑えられるのですか。
川口: 先ほど燃費と力というか、推力は相反するものだというお話をさせていただきました。どちらがコストが安いかというよりは、できるできないという区別があります。例えばイオンエンジンで地面から離陸できるかというと、できないのです。ですから幾ら燃費がよいエンジンで離陸しようと思っても、そのままではイオンエンジンの力がなさ過ぎるので、使う場所次第だということです。ただ「はやぶさ」もそうだったのですけれども、惑星との往復を飛行しようと思ったら、減速を含めて非常に多くの加速が必要になってくる。そうなると燃費がよくないと機体が全部燃料タンクになってしまって何も積めなくなってしまうので、燃費は非常によくなくてはいけないことになります。なので、1回地球の重力圏から出てしまったらイオンエンジンで十分なのです。だから燃費のよいエンジンを使えばよい。でも地面から飛ぶときにはロケットでなくてもジェットエンジンもそうかもしれないしれませんが、力が要ります。少なくとも摩擦には勝たなければいけないので、空気の抵抗にも勝たなければいけないですね。ですから地球上で重力が大きいところで使うには燃費よりも力が必要になる。使う場所で違うと考えていただけたらいいと思います。

<はやぶさのヒット理由について>
参加者: 先ほど予算関係の話をされていたときに、国民が興味のあることは政府もその研究とかに予算をつけざるを得ないというお話があったと思うのですけれども、そこで思い出されるのが川口先生が携わっていた「はやぶさ」プロジェクトだと思うのです。映画を3本ですとか、本もかなり出版されていたと思うのですが、JAXAで研究されているプロジェクトはいろいろあると思うのですが、その中でなぜ「はやぶさ」だけがあのように注目されて、マスコミに取り上げられたのかなと思いまして、そのきっかけは何だったのかなとお聞きしたくて質問しました。もしそういうマスコミ利用がうまくいけば、他の研究プロジェクトも国民の方の知名度が上がって予算がつくのではないかと思いました。
川口: お答えするのが適当かどうかわかりませんけれども、別にJAXAが売り込んだわけではないですね。売り込んで、それでつくっていただくのはこんないいことはないと思うのですけれども、意外と思う方もいるかもしれませんが、「はやぶさ」は非常にちっぽけなプロジェクトなのです。JAXAから見ればかなり小さなプロジェクトなのです。JAXA全体の予算が1,700億円ですけれども、例えば宇宙ステーションで1年間に使うお金は400億円。「はやぶさ」は15年間で二百何十億円ですから話にならないほど小さいプロジェクトなのです。「はやぶさ」にお金をかけたからどうのこうのという話ではなくて、そうやってマスコミに売りつけに行ったわけではないです。たまたまいろいろな関心をいただいただけだと私は思っています。うまく利用する方法があったらぜひ御教示をいただければ、いろんなところで使えるのではないかと思いますけれども、そうじゃないですね。JAXAの寺田広報部長がきっと一番責任を持たなければいけないところかもしれませんが、そういう発信は鋭意努力しているところです。
寺田: ありがとうございます。私は「はやぶさ」が帰ってくるときに「みちびき」を打ち上げたのですけれども「みちびき」は「はやぶさ」と違ってあまり注目されなかったですね。なぜかというと、極めて順調にいったからかもしれません。今、順調にいっていなくて四苦八苦している衛星が「あかつき」で、まだ金星の周回軌道に入っていないのですが、2015年だったと思いますけれども、周回軌道に入ると思います。そうするとまたみんながわっと注目してくれるのではないかと思っています。一方「はやぶさ2」はそういうドラマチックなことが起こらないように、バックアップのシステムをたくさん積んで「はやぶさ」みたいなことにならない、確実にサンプルをとってくるという手法をやろうとしているのです。そういうことで、どこに注目してもらうかというところがいろいろあるかと思いますが、我々もいろんなことを発信して、みんなに理解してもらうような広報の努力をしていきたいと思います。どうもありがとうございます。
西浦: 「はやぶさ」は、順調でなかったから注目されたというだけでなく、部品故障という、異例の状況の中でチーム全員が力を合せて工夫を重ね、7年間、諦めずにやっと帰還までこぎつけたという事実、その尊さ、素晴らしさが、多くの国民の琴線に触れ共感を呼んだのでしょう。また、有難くも、天皇皇后両陛下から激励と称賛の御言葉を賜わりました。ゆえ、メディア露出の頻度にも恵まれました。大方、物事はシナリオどおりにいきません。ですので、地道な努力を積み重ねるしかないと思っています。今後とも、応援、御支持をよろしくお願いします。