JAXAタウンミーティング

「第87回JAXAタウンミーティング in 浜田」(2012年12月2日開催)
会場で出された意見について



第一部「我が国の宇宙輸送システム~これまで、そして、これから」 で出された意見



<無重力状態での特性について>
参加者: いろいろ宇宙で実験をされるわけですが、無重力状態の良い点、困ったことなど事例がありましたらお聞かせください。
布野: 直接の専門でないので、答えられる範囲で答えさせていただきます。無重力状態でどういうことができるのかというと、国際宇宙ステーションでは、重力の影響を排除できるということで、非常にきれいな結晶を成長させることができますので、例えばタンパク質の結晶を宇宙で成長させて、それをもとに病気の薬をつくるなどの実験、取り組みを行っていると聞いています。困った事例として、宇宙飛行士が宇宙に行くと顔が膨らむというような事象があります。ムーンフェースといいます。なぜかというと、人間というのはもともと重力があるところで生活をしていますので、重力がないところで通常どおり心臓が働いてしまうと、働き過ぎになるため、体中の血液が頭に上がってしまうからです。無重力環境で暮らすということ自体、地球とは違う環境であって、宇宙飛行士というのはまずそこから順化しないといけません。
西浦: 実際に宇宙飛行士から聞いた話ですが、船酔いや乗り物酔いと同じように「宇宙酔い」というものをするそうです。ですから訓練をたくさん重ねていても並大抵な環境ではないということです。また、無重力空間にいると頭も当然ぼうっとしますし、味覚とか感じ方が鈍るそうで、宇宙食の味付けは、地上でいただくものよりも少し濃いめの味つけだそうです。

<(1)宇宙エレベータエレベーターについて、(2)北朝鮮の技術力について、(3)仕分けの影響について>
参加者: (1)国際宇宙ステーション(ISS)と地上とをワイヤで結んで、往復するロケットみたいなものができるかということと、(2)北朝鮮がミサイル発射を予告していますが、北朝鮮の技術をどのように思っているのでしょうか。(3)数年前、仕分けで大騒ぎしましたけれども、JAXAもその影響があったのでしょうか。
布野: (1)最初のお話は、宇宙エレベーターの話かなと思いますが、ISSというか静止衛星軌道までエレベーターのように自由に行き来できれば、ロケットなんか打たなくてもいい時代が来るというようなお話だと思います。まず静止衛星軌道まで3万6,000キロあって、それを行き来させるためには3万6,000キロではなくて、もっと長いところまでワイヤを張らなければいけません。だからそういう長いものを張れるだけの強度のある軽いものができるかというと、そこは技術革新が必要なところで、原理的にはそういうものがあり得ると思いますけれども、現時点でそこまでできるかというと、まだまだ技術開発とか革新というものが必要ではないかと思っています。
(2)北朝鮮の話ですが、私どもは宇宙開発の実施機関ということで情報を知っているわけではないので、北朝鮮の動向に関しましてはメディア情報以上のことを持ち合わせていません。どのぐらいの技術レベルかということに関しましても詳細に中身がわからないので、軽々に判断するのは適切ではないと思います。
(3)仕分けの関係ですが、輸送系の中でGXロケットというものが仕分けされました。それは、LNGという液化天然ガスを燃料としたロケットエンジンで、民間と一緒になって開発するというものでしたが、事業の成立性がないということで中止となりました。ただし、LNGロケットエンジンに関しましては将来性があるということで研究開発すべきということで、私の部門としてLNGの研究開発をやっていまして、軌道間輸送機にはそういうエンジンにメリットがあるということもありますので、基礎的な研究、エンジンの適用先の検討を続けているという状況です。
西浦: 非常に苦しいところでして、「しずく」などの観測衛星の場合は、長年継続した観測データを比べることで役立つものですので、継続が大事で、もし予算を打ち切られてしまうと、今までやったことが生かせずに無駄になってしまいます。また、世界から賞賛を浴びた「はやぶさ」でも次のミッションの予算が削られ、その中で細々とやっている状況ですので、皆様の応援とご御支持がますます心強く感じているところです。

<飛行機タイプ輸送機について>
参加者: 飛行機タイプのスペースシャトルですが、何回も利用するということだと思いますが、スペースシャトルタイプの場合は、費用の問題や、特に外壁の耐熱パネルの問題につきましてセラミック以外どのような材料を考えていますか。
布野: スペースシャトルが退役しましたのも135回飛んで2回失敗したということで信頼性等まだまだ問題があるということで、飛行機タイプの輸送機の時代が来るためには技術革新がまず必要です。宇宙から地球に帰ってくるときには、2,000℃という高温に耐えるような耐熱材が必要になります。これまでだと、セラミックスや、カーボン・カーボンというカーボン繊維の耐熱材を使ってきましたが、もろいなどの問題がありまして、例えば耐熱材でメタリックな耐熱材ができないかとか、耐久性の強いもの、それから、メンテナンスが少なくてすむもの、そういう基本的な技術開発が必要になりますので、まずそのような基本的な研究開発を進めて、早くこういう世界が実現できるように努力したいと取り組んでいる状況です。

<(1)1キロあたりの打ち上げ費用について、(2)有人飛行の目標について>
参加者: (1)1キロのものを宇宙に持っていくとしたら、どれぐらいの費用がかかるのでしょうか。(2)JAXA独自でNASAなどの他の国の研究機関の力を借りずに独自で宇宙に行けるようになるとすると、実際にはいつぐらいの目標でやれるのか教えてください。
布野: (1)宇宙に1キロのものを打ち上げるとどのぐらいかかるかということですが、宇宙のどこに運ぶかで変わってきますが、一番よく使われる静止衛星軌道の3万6,000キロですと、日本のロケットH-IIAロケットで2トンの静止衛星を打ち上げることができます。それで経費が約100億円かかりますので、だいたい1キロあたり500万円ぐらいのお金がかかっているということです。
(2)独自の有人飛行ということですが、我々としてもそんなに遠くない時代にはできると思っています。有人というとものすごいお金がかかると思われがちで、スペースシャトルは3兆円かけていたと話を聞いたことがありますが、今、我々が考えていますのはカプセルタイプで、兆をかけるようなものでなくても、日本独自の技術で有人ロケット、有人宇宙船は開発できると思っています。ただし、有人に関しましては、当然安全性が重要になってきます。事故というものが全くゼロになるということはあり得ませんので、我々の責務としては、今、申し上げましたようにコスト、それから、リスクとしてはこのぐらいのものがあるというのを国民の皆様にお示しして、どうするかという議論ができるようにお示しすることがまずは我々の責務かなと思っています。そんなに高くない、日常生活で遭遇するような危険を飛び越えるようなリスクのない有人ロケットというものは、そんなに遅くない時期に技術的にはできると思っています。

<「しずく」のデータ利用について>
参加者: 「しずく」のデータが、実際に私たちが利用できるようなところまで情報が届くのはいつぐらいかということと、海洋上の風速とか水温とがあるのですが、浜田エリアだけでそういう情報が出るようになるまでどのぐらいかかるか、教えてください。
名村: 「しずく」のデータですが、来年の早いうちに、今届いているデータが本当に正しいかどうかの確認が終わりまして、一般に提供できるようになると考えています。そのデータを利用するためにお金をとることはなくて、JAXAのホームページから情報が提供できると思います。まずは公的な機関への提供を始めまして、その後、一般への提供になります。浜田地区の情報ということですが、そこに限らず、人工衛星の場合、地球上全て見ています。「しずく」ですと2日間で地球上のほぼ全域を観測できます。ということでその膨大なデータ、もちろん浜田だけ選んでいただければそこのデータが出ますし、別の地区のデータも見られるという形になります。
西浦: 楽しみにしていてください。海面水温、海氷密度、土壌水分、降水量、いろいろ教えてくれることにあります。それも期待していただきたいと思います。

<アポフィスの地球への衝突について>
参加者: 2029年に地球に接近すると言われている「アポフィス」という小惑星のことが気になるのですが、これはスペースガードの話になるのですけれども、今どのように情報が入っているのか、わかる範囲内でお答えいただければありがたいです。
橋本: 専門ではありませんが、「はやぶさ」メンバーの中には、もちろん小惑星のスペースガードの専門家も入っていますので、聞いた話なので正確かどうかはわかりませんが、今のところ確実に地球にぶつかることがわかっている小惑星はないと聞いています。もし、ぶつかるとしても数十年後にぶつかるとかそういうことではなくて、ずっと計算していくと100年後、200年後にはぶつかるかもしれないという話で、もっと詳しく計算して、本当にぶつかるか計算しているような状況です。ただ、地上から観測して見つからないような小さい小惑星はまだたくさんありますので、これからぶつかる可能性がある小惑星が出てくる可能性は十分あるかもしれませんが、現時点で確実にぶつかるというものはないと聞いています。

<トップレベルの日本の宇宙技術について>
参加者: 日本はまだ有人宇宙飛行は実現できていませんが、今の段階で日本がこの分野では世界のトップレベルなんだよとか、技術的にも世界に並んでいるというものがあれば、お教えください。
布野: 基幹ロケットの世界比較もお示ししましたが、信頼性という意味ではトップレベルにきています。技術的には開発段階で非常に苦労しましたが、LE-7Aとか液体水素、液体酸素を使っているエンジンに関しましては、高性能で、信頼性も熟成してきたという意味では、世界のトップレベルにきていると思っています。
西浦: トップレベルについて橋本さんのほうからもよろしくお願いします。
橋本: 我々の所属している宇宙科学研究所では科学観測をいろいろやっていますが、科学ですと細かく、この部分は日本が得意、この部分はどこの国が得意というものが存在していますので、一言でこれが得意と言うのはなかなか難しいです。探査の技術ですと特に「はやぶさ」を成功させたということがありますので、探査機が自分で考える「自律機能」と呼んでいますけれども、そういうロボティクスの部分は日本はかなり強いかなと考えています。
西浦: 「しずく」に搭載されているAMSR2というレーダは、日本語に訳すと高性能マイクロ波放射計というものですが、これも日本独自の技術です。このように、たくさん胸を張っていただけるものがあります。

<独自の有人飛行のハードルについて>
参加者: 私としては有人宇宙開発をぜひ進めていただいて、早く国産宇宙船を見たいなと期待していて、「こうのとり」などを見ると技術的にはだんだん近づいてきているなと思っています。ところが、新聞に日本人が国産宇宙船で飛び出すにはハードルがあるということが出ていました。アメリカや旧ソ連などでは、昔の宇宙飛行士は大体軍人の人が多く、前提として、もし事故に遭って死んでしまってもしようがないというような認識があったようですが、日本人の宇宙飛行士はそうではないと記事が出ていました。国民性としても事故に遭うなんてとんでもないと考えるのが大半で、そこをクリアしないと日本人が国産宇宙船で宇宙に行くのは大変ではないかと思っています。そのことについて、どうお考えでしょうか。
布野: 有人ロケット、国産宇宙船に関して、完璧に事故がないと言い切れるわけではありませんが、身の回りで遭遇するような危険と少なくとも同等のレベルまで信頼性、安全性を高めなければ、日本独自の有人開発というのは難しいであろうというのは、新聞論調のとおりだと思っています。ただし、我々としましては、それに対する答えを見つけられないとは思っていません。少なくともクルーの命を守るという手段を今の基幹ロケットの延長線上に位置づけていけば、我々が身の周りで接するようなリスクと同等のレベルまで安全性のあるロケットに仕上げられると思っていまして、そういう姿をお見せして国としての判断をしていただくというふうに思っています。危険でも、有人をやりたいからやるのではなくて、許容できるレベルまでのものを打ち上げて、日本の有人活動につなげていきたいと思っています。

<宇宙飛行士になるために今からできることについて>
参加者: 中学3年ですが、宇宙飛行士になりたいと思っています。僕でも宇宙飛行士になるために今からできることは何かありますか。
名村: 私たちは今、有人ロケットも頑張っているという話をしました。私はあなたを「宇宙飛行士」にしたくありません。というのは、宇宙飛行士という職業をなくして、普通に宇宙に行ける世界にしたいと正直思っています。ただ、10年ぐらい後もおそらく宇宙飛行士という職業はあると思いますので、現実的なところで少しお話をさせていただきます。宇宙飛行士に一番求められるのは、1つは「コミュニケーション能力」です。これは単に語学が堪能ということではなく、外に出てしまえば死んでしまうようなあの限られた空間の中で、いろんな文化を持った人たちとコミュニケーションよく作業をやっていかなければなりません。それから、そのメンバーだけではなく、宇宙飛行士の作業というのは地球のサポートチームと非常に密接にかかわって作業しています。そういう意味で人の言うことを理解し、正しく自分の作業ができるようコミュニケーション能力を持っていただけたらと思います。それから、探究心や不思議だなと思ったことに対して深くかかわって探っていこう、そういった姿勢を大事にしていただくといいなと思います。まだそういうものが見つかっていないのであれば、いろんなことに触れていただいて、自分のやりたいことを見つけてほしいと思います。それから、あなたが宇宙飛行士になるころには、宇宙飛行士もいろんな仕事をしていると思います。だから自分は宇宙に行って何をするんだ、どんなことをしたいんだ、ということを考えてほしいなと思います。
西浦: 古川宇宙飛行士はドクターです。そのように、ただ行くということが目的ではなく、そこで何をしたいのかということ。それから、訓練センターがアメリカとロシアにありますので、宇宙飛行士は全員ロシア語も英語も堪能です。ですから、語学についても早めに勉強を始めたらいいかなと思います。

<地球外生命のISSでの研究について>
参加者: 私は地球外の生命とかに興味があるのですが、ISSでちりとかの中から生命につながるようなものを探す研究があるというのを見た気がしますが、どういう研究があるのか教えていただけたら嬉しいです。
橋本: 私ども専門ではないですけれども、地球外、惑星間にちりが漂っているわけで、その中に生命の痕跡があるのだとすると、地球外にも生命がある可能性があると言えるということがあって、そのために惑星へ行って、アメリカやヨーロッパは火星に行って火星に生命がいるかどうか調べたりしています。そのちりは地球にも降り注いできますが、大気圏に突入するときに大体燃えてしまって、なくなってしまうので、宇宙ステーションで何か捕獲するようなものを広げておいて、そこにくっついた細かいちりを後で回収して、分析すると、そこに生命の痕跡があるのではないかということで、そういう研究をされている方がいます。

<(1)NASAのプレス発表の予告について、(2)アメリカからの宇宙開発の制限について、(3)ロケットのオゾン層破壊の可能性について>
参加者: (1)12月4日に火星に関する重大発表をNASAがするとプレス発表があったのですが、それは多分、今の地球外生命とかそういう点であろうと私は思っていますが、それについてお教えください。
(2)戦後アメリカから宇宙開発について制限があったと思いますが、今もその縛りがあるのでしょうか。
(3)ロケットを発射するときにオゾン層の中を突っ走るので、オゾン層を破壊してしまうことがあるのでしょうか。
橋本: (1)私の聞いている話は、確かにNASAが記者会見をするというのを発表しているようです。ただ、内容については何も言っていないので、アメリカ国内でいろいろ憶測があって、そういう発表があるだろうというふうにメディア上で言われているのですけれども、NASAからはそれほど重大なことではないという発表が現在出ている状況で、内容は私も聞いてみないとわかりません。
布野: (2)ロケット開発の制限ですが、米国から技術導入した当時は第三国衛星の打ち上げを制限するということで、日本のロケットで日本の衛星を打つことはいいけれども、日本のロケットでアメリカ以外の衛星を打つことはまかりならないという制約のもと、運用していた時期はありました。先ほど苦労の末、全段自主技術で開発したH-IIからはそういう制限がない中で運用をしています。
(3)ロケットでのオゾン層の破壊についてですが、ロケットが直接的に大きな影響になっているとは私自身は余り認識していません。オゾン層の破壊ということではフレオンとかそういうものが破壊していくという中で、ロケット機器の洗浄などでフレオンを使っているものを減らしていくことで、オゾン層の破壊につながらないよう配慮しているところです。


第二部「『はやぶさ』から月探査へ」で出された意見



<NASAの月面着陸と日本の月面開発について>
参加者: NASAの月面着陸についてですが、当時の技術力で可能だったかどうかと、今JAXAがもし月面離着陸、有人を今後していくかどうかということを教えてもらえますか。
橋本: よく「本当に宇宙飛行士は行ったんですか?」と聞かれます。NASAの担当者ではないので、本当のところはわからないというのが科学者として正しい答えかと思っています。当時の技術力としては、国家の威信をかけて開発していましたので、それだけの技術はあったのではないかと思います。また、彼らのやり方は、どこでもいいからとにかく安全なところにおりるというやり方でしたので、その技術としては十分あったと考えられます。ただ、我々は、もう一個上の、ねらったところに障害物をよけながら着陸するということを考えていて、それについてはまだ世界で行っていません。あと、日本が宇宙飛行できるかということですけれども、先ほどのロケットの話などとも関係しますが、ある程度の時間は必要ですが、技術的には十分可能と考えています。ただ、予算を国民の皆さんがそれにかけるべきと言っていただけるかどうかにかかっているかなと思っていますし、日本独自ではできなくても、国際協力しながらやろうとしていまして、日本がどの部分を分担するべきかという議論を国際的にもしています。まだどこをどう担当するかは決まっていませんが、日本人宇宙飛行士が月面に行く時代は、そう遠くないのではないかと考えています。

<宇宙兄弟の世界について>
参加者: 宇宙兄弟の漫画の話ですが、たぶん20年後ぐらい先の世界の話だと思いますが、JAXAからも情報提供されているようですが、あの漫画は、フィクションで考えたものなのか、それとも実在というか、今後これぐらいのことはできるだろうというものとしての情報提供なのか教えてください。
橋本: 多分、あの漫画自体は2004年2月にアメリカのブッシュ大統領がまた月に行こうという発表をしまして、しかもそれを国際協力でやりましょうという提案をしました。それの計画に基づいてできているので、どういうシステムでいこうとしているのかというのはかなり正確に表現されていますので、現実的なものだと思っています。ただ、現状とちょっと違うのは、その後、オバマ大統領になって少し計画が遅れているとか、日本がどのくらい参加するかというのはまだ議論していて、決まっていないところです。その辺はフィクションで、このくらい日本が協力するのではないかということでつくられていると理解しています。

<イオンエンジンの原理について>
参加者: 「はやぶさ」のイオンエンジンの原理を教えてください。
橋本: ロケットというのは放出する「物の重さ」にその「速度」をかけたものを「運動量」といいますが、それを後ろに出せば出すほどたくさん推進力が得られます。ということは、燃料を少なくして推進するためには、速度を速くすれば良いということで、どういう物質を混ぜると一番温度が上がって、燃焼ガスが速くなるかということをロケットの方々は研究されていると思います。イオンエンジンは、ちょっと発想を変えて、キセノンというガスをプラスのイオンとマイナスの電子に分離して、プラスのイオンだけ電圧をかけて加速してやると、ものすごい速いスピードで飛んでいきます。これは量が少ないので力はすごく弱いですが、燃料に対する速度は非常に速く、飛んでいきます。ただ、プラスイオンだけ飛ばしていくと、機体がマイナスになってしまい、故障につながってしまいますので、中和器から電子を出すことで、出てきたプラスイオンとくっついて、中和された状態になります。このイオンをつくる部分と中和器と両方ないとイオンエンジンは動かなくて、壊れていないものを組み合わせたことで「はやぶさ」は帰ってくることができました。

<隕石の衝突情報について>
参加者: 数年前にテレビで見たのですが、もし地球が全滅するような隕石が降ってきたときに、NASAは混乱を避けるために人にはお知らせしないというようなことを聞いたことがあります。もし日本上にそのような隕石がふってきた場合、JAXAはどのような対応をされるのか、教えてください。
橋本: 小惑星の発見などはいろんな天文台の方々の協力で観測していますので、宇宙機関が秘密を守れるような状況ではなくて、すぐに全世界にわかる話かなと個人的には思います。
名村: 昨年、外国の衛星が落ちてくるのではないかというニュースが流れたと思います。衛星は地表に達する前にほとんど燃え尽きてしまい、人が死傷するような可能性も極めて低いので、昔であれば発表されることもなかったかもしれません。このように、今は少しでもリスクがあれば公開して、みんな対策を練ろうよという考えですので、決して皆さんに黙って我々が逃げるようなことはないと思います。

<打ち上げ見学の可能性について>
参加者: 息子が「はやぶさ2」の打ち上げを見に行きたいと言っていまして、あくまで予定と思うのですけれども、その予定で行って、打ち上げを見られる確率があるのか、予定が変更されて可能性が低いのか、どれぐらいの確率でしょうか。
橋本: まず、打ち上げの日付が決まらない原因、変わる原因が幾つかあります。一番大きいのは開発が遅れるとか、いろんな事情で何年何月ごろと言っていたのが何カ月か遅れてしまうということはあります。「はやぶさ2」は、今のところスケジュールどおりいくと思っていますけれども、トラブルが今後発生したり、あるいは予算が足りなくてこの部分がつくれないということがあって遅れる可能性はありますが、それは何カ月か前にはわかるということになります。もう一つ、最後までわからないのは天候です。天候が悪いと打ち上げられませんので、それは我々も行ってみないとわからないし、多分、次の日とかその次の日ぐらいのこともなかなか予想は難しいです。多分打ち上げに来られる方は、それが一番問題になると思います。確実に見るには、長期滞在する覚悟がないとなかなか見られないかもしれません。
布野: 惑星間飛行の場合には、種子島の射場できめられた期間内に打たなければいけませんが、まず遅らす要因となるのはロケットの故障、設備の故障です。我々はそういうこともロケットの改善という中で取り組んできていまして、「オンタイム打ち上げ率」という、決められた時間に打つというロケットや設備の性能を示す尺度がありますが、H-IIAロケットは、諸外国と比べてトップレベルで、ロケットとして安定してきていて、そういう意味では打ち上げ延期になる確率が少なくなりつつあります。もう一つの要因として天気の問題があります。しかし、天気はどうしても避けられないところがあって、その中で一番我々が頭を悩ませているの「雷」です。雷というのは上空で細かい氷晶が摩擦すると電気を起こして雷を落とすのですが、雷雲がある中でロケットが飛ぶと、もし雷がロケットに落ちると、打ち上げ失敗ということになってしまいますので、天気がよくてもある程度冷たい、氷晶を生むような雲があると打てないこともあります。専門用語で「氷結層」というものがありまして、マイナス0℃から20℃ぐらいの温度の雲の厚さが1.8キロ以上あると打てないという打ち上げの制約があります。結構そういう制約で打てないということもありまして、、制約が過剰とならないように、できるだけ打ち上げ機会を生かせるように雷の研究もあわせて行っています。極力貴重な打ち上げスロットを延ばさないということの取り組みも輸送ロケットの研究として取り組んでいるところです。直接的な答えにはなりませんでしたけれども、「はやぶさ2」の打ち上げられるときに種子島に行っていただいて、打ち上げが見られたらいいなと思っています。

<浜田での打ち上げ射場の可能性について>
参加者: 20年ぐらい前にスペースシャトルの打ち上げの見学にケネディ宇宙センターまで行ったんですが、朝5時のシャトル打ち上げ予定が、天候の理由で朝4時に変更になっていて、先に打ち上げられてしまったということがありました。もう一点、打ち上げの発射場を浜田でつくれるかなと思ったのですが、浜田での打ち上げ場の可能性はありますか。
布野: 打ち上げには、ローンチウィンドウというものがありまして、何時から何時までに打ち上げますときまっているミッションもあれば、宇宙ステーションの「こうのとり」の打ち上げのように、まさしくオンタイム打ち上げで何日何時何分何秒に打ち上げる、そのタイミングで打たないといけないというミッションもあります。それは国際宇宙ステーションは軌道傾斜角51.6°で回っていまして「こうのとり」もその軌道にランデブードッキングをさせるために、定刻どおり打ち上げるというのが一番効率的であるため、そういう打ち上げ方をしています。普通、何時から何時というのを最初に決めていて、例えば時間帯が1時間あるならば、その中で最大限打てる努力をするというのが普通の取り組みではないかと思っていまして、予定の時間を早めて打つというのは私の経験では余り知らないことです。浜田射場の話ですが、まず周りの住民の方に被害を加えてはならないということが前提としてあります。ロケットは、静止衛星は東側に、観測衛星は南側に打ち上げるので、位置的には東側及び南側が海の開けている場所であれば、住民がいないので適しています。もう一つは、打ち上げ射場は基本的に南のほうが良いです。なぜかというと、静止衛星を打ち上げるときには、地球の自転をできるだけ利用することで少ない燃料で済みます。そういう条件のもと射場を決めているという意味で、浜田射場というのは非常に難しいのではないかと思います。

<イトカワ微小サンプル研究結果について>
参加者: 「はやぶさ」で微小サンプルを持ち帰られましたけれども、今は分析されているということで、わかる範囲でいいのですが、分析結果、分析されていることについて教えてください。
橋本: 現在の状況は、国際的に研究を公募して優れた研究提案してきた方にサンプルを渡すということが行われました。それらの結果は、まだ出てきていないと聞いていますが、日本で初期分析した成果としては、幾つかあって、例えばこのサンプル自体20ナノメートルですごい小さい粒子ですが、そこにさらに小さな微粒子がくっついていたり穴が開いていたりしています。こんな小さな微粒子が宇宙空間に存在していて、あるスピードまで加速するというふうに今までの常識では考えられていませんでしたので、これ自体非常に大きな成果と言われています。それから、太陽光が吹きつけたところの微粒子についてとか、そういう研究に非常に進展していることがあります。この微粒子からでも小惑星イトカワがどういうふうにできたかというのがかなりわかってきていて、何度まで高温になったか、どこまで溶けているかというのがわかってきています。太陽系ができたばかりの未完成の状態を完全に保存しているのが小惑星であると言われていましたが、このイトカワの場合にはちょっと大きな小惑星になったのが砕けてあの大きさになったようです。最初からあの大きさだったら溶けたりしていなかったはずで、地球や火星のように完全に溶けたわけではなくて、たしか800℃ぐらいで途中まで溶けて、一度溶けたものが分割されたということが分かっています。イトカワの素性というのがこんな微粒子からでもわかってきています。

<故障や失敗に対する研究者の心情について>
参加者: 「はやぶさ」のエンジンが何度も故障したというお話がありましたが、研究者の方は故障とか失敗の危機に、どのようなお気持ちであるのかお聞かせください。
橋本: 故障の状況等にもよりけりだと思いますが、例えば自分が設計したところ、自分が提案したところで失敗した場合には本当に申しわけない、対応しなければいけないというのがあると思いますし、ほかの方がつくった部分についても、何とか頑張って俺が解決してやろうというような気になったりします。ともに言えることは「はやぶさ」の場合には地球に帰さないといけないということがありましたので、どんなことをしてでも地球に帰すには、どういうことが考えられるか、今、何ができるかということを考えるというふうに心がけていました。

<国際協力での月面開発について>
参加者: 月面着陸の方法をめぐる現状で日本独自の考え方と技術で今、計画を進めていると思うのですが、例えば火星で今、NASAの機械が活躍していると思うのですが、そういったノウハウを国際協力のもとでアメリカもしくはほかの国と協力して日本の月面着陸の検討を進めていく、いろんな国の技術が入って月に行って帰ってこれる夢がある話だと思いますので、今後可能性があるのかお伺いします。
橋本: 国際的なビジョンの中で、この国はここが得意なので、ここをやろうというふうな議論をしています。ただ、宇宙ステーションの計画のときの国際的な反省事項として、NASAのスペースシャトルだけに頼っていたということがあると、スペースシャトルがだめになると全部遅れてしまうということがあるので、国際的には主要な部分については2カ国以上が技術を持っていたほうがいいのではないかという話があります。必ずしも一国が持っているからやらなくていいということにはならなくて、複数の国が持っていたほうがいい技術と、ここは一国でいいだろうというところなどを議論しながらやっているところです。日本としては、まず複数の国が持っていたほうがいいものは、基幹的な技術については得意でなくても、今、追いついておかないといけないと考えているところです。その上で、得意技術については日本がリードして実施したい。この二つを両方使い分けていこうと考えています。

<ターゲットマーカーについて>
参加者: 「はやぶさ」がイトカワに向かう前に世界中から88万人の名前をターゲットマーカーに刻印するのに私も応募して、家族の名前を書いてもらったのですが、それで「はやぶさ」のカプセルが戻ってきたときにすごくうれしくて、ターゲットマーカーはイトカワにいるのかなと気になっていますが、その後どうなっているのでしょうか。
橋本: ターゲットマーカーは3個積んでありました。1個が皆様の88万人の署名が入ったもの、1個は本番の着陸前に試験のために分離してしまって、どこまでちゃんと見えるのかという試験をしました。本物はちゃんとイトカワの表面に着陸しております。最後の1個は予備でとっておいたのですが、結局使わなかったので、「はやぶさ」本体が大気圏に突入して燃え尽きたときに一緒に燃えてしまいました。皆様の署名が入ったターゲットマーカーはちゃんと、今もイトカワの表面にとどまっていると思います。

<(1)将来の宇宙開発の方向性について、(2)将来の宇宙輸送について>
参加者: (1)我が国の昨今の財政状況が厳しい中で、限られた予算になると思いますが、例えば無人輸送機であるとか、無人探査技術に特化すべきなのか、それともやはり有人を含めた部分にも少ない予算でも分配していって、それぞれ開発を進めていって国際的な宇宙開発での発言資力を維持したほうがいいのか、それに対するお考えと、(2)最後のスライドに有人飛行の将来をイメージされたものがありましたが、水平離陸による宇宙へ旅立つようにするには、今後技術的にどれぐらいのときに可能なのかお教えください。
布野: 確かに厳しい中で満艦飾で進めるというのは厳しいところがありますが、輸送系に関しましては、信頼性の高いところまで来たわけですが、やはり宇宙開発利用をこれまで以上に効率的に促進するという意味では、輸送系がもっと使いやすいものにならなければなりませんので、革新が必須だと考えています。つまり、輸送系がなければ活発な宇宙活動ができないという中で、ある程度重点を上げてでも輸送系の技術は育てていくべきというのが担当としての意見です。なかなか難しい議論でありますが、少なくてもそういう安価で自在な輸送手段というのは日本として持つべきではないかと、その中で優先度をつけてやっていくという取り組みかなと思っています。
(2)それから、水平離陸による宇宙への輸送についての将来の話についてですが、ゆくゆく将来そういう世界を目指してやっていくという中で、研究開発等はたゆまずやっていくべきかなと思っています。それで財政事情がよくなればそこを促進することが大事で、ただし、根絶やしにしてしまったら終わりかなと思っています。将来に向けての努力は続けるべきだと思っています。いつごろできるかというところですが、どれだけ研究開発を進められるかにかかっていると思いますが、20年とか30年にはそういう世界になりたいなというのが私の夢です。

<原子力の放射性廃棄物の処理について>
参加者: 原子力発電の廃棄物の問題についてですが、人類のエゴですけれども、輸送ロケットで宇宙に持っていき、太陽に向かって放り投げるなどの廃棄ができるようになるしか道がないのではないかと思っていますが、そういう考えはないのでしょうか。
布野: 絶対事故がなければ、それは答えになるかもしれないですけれども、絶対に事故がないというところまでの技術がない限り、万が一打ち上げのときに失敗したら、それは放射性廃棄物をぶちまけるということもあるわけで、現時点でその考えはなかなか難しいのではないかと思います。担当者としても絶対にそういうことはできますというふうには、今はお答えできる状況ではないというのが正直なところです。