JAXAタウンミーティング

「第86回JAXAタウンミーティング in 静岡」(2012年11月25日開催)
会場で出された意見について



第一部「衛星利用の今」 で出された意見



<衛星の軍事利用について>
参加者: 日本では余り評判がよくない軍事利用をやっていこうという動きもありますが、自衛隊とどういうかかわりを持っていくのか、あるいはどういったものが計画されているのでしょうか。
五味: 政府関係で衛星開発利用を実施しているのは、JAXAのほか、地球観測衛星関係は内閣府においてIGS(情報収集衛星)というシリーズを担当しています。それと経済産業省は比較的小型の地球観測衛星を開発していて、もっと小さな衛星での地球観測衛星となりますと、大学などでも幾つか作っています。軍事利用というストレートな話ではありませんが、国の実用的な地球観測利用としては内閣府で計画を立てています。

<打ち上げ予定の人工衛星について>
参加者: 先ほど登場した人工衛星以外に打ち上げる予定のある衛星はありますか。
五味: 今後幾つかの衛星を打ち上げることを予定しています。地球観測衛星につきましては、今年5月に「しずく」(GCOM-W)という水関係の衛星の打ち上げを行いました。来年には、「ALOS-2」というレーダ衛星を打ち上げる予定です。あと、打ち上げ年次はまだはっきりしていませんが、数年以内ぐらいに「ALOS-3」という光学衛星を打ち上げ予定で、80センチぐらいの高分解能の衛星となります。環境衛星関連ではGCOMシリーズで、先ほどのGCOM-Wというのが、WaterのWで水関係。あとGCOM-Cというのが、ClimateのCで大気や植生などに関わる観測を行う衛星で、2種類の衛星を打ち上げていくつもりです。
寺田: 今お話したような地球観測衛星などの実用衛星ではありませんが、科学衛星という惑星探査や宇宙科学を行う衛星ですが、「はやぶさ」の後継機「はやぶさ2」が2014年を目指して開発中です。それから、X線や赤外線などの電波を観測する衛星ですとか、水星に行く「BepiColombo(ベピコロンボ)」という衛星もヨーロッパ(European Space Agency(ESA):欧州宇宙機関)と共同で開発しています。いくつか打ち上げの準備を行っているところです。
五味: 地球観測衛星に追加します。「GOSAT」という、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスを観測する衛星の1号機は既に上がっていますが、2号機の計画が動き出していまして、より高精度化する予定です。あと、測位衛星である「みちびき」はJAXAほか多省庁さんが集まって打ち上げたのですが、その後継は内閣府さんがかなり実用的なものを何機か打ち上げる計画を聞いています。
西浦: ちなみに「GOSAT」の1号機は「いぶき」という愛称で知られていて、2号機の命名はまだです。今後、愛称の募集があるかもしれませんので、見守っていただければと思います。

<衛星のバックアップについて>
参加者: 衛星通信では、「きずな」「きく8号」が動いていますが、何かの理由で運用できない状態になった場合は、バックアッププランがあるのでしょうか。例えば、民間企業と連携して、民間が持っている衛星で対応するなど、たしか「だいち」が壊れてしまったときに代わりの衛星がなかったように思うのですが、お考えをお教えください。
五味: 地球観測衛星から説明しますけれども「だいち」の運用がとまって災害関係をどうするかということですが、これの対応としては、「センチネルアジア」という枠組みがあります。性能は「大地」とは異なりなすが、タイ、台湾やインドなどの衛星がありますので、協力を呼びかけて、アジアで起こった災害については、これらの衛星で撮像してもらうことになっています。特に台湾の衛星の「FORMOSAT」は、「だいち」が運用停止になった後、各国の要望にかなり応じてもらっています。通信衛星の話ですが、通信衛星は「きく8号」、「きずな」にしても、これを代替するバックアップ機能を持つような衛星は、これは残念ながら日本にもないですし、世界的にもありません。ある面では世界一の衛星であります。例えば「きずな」であれば、非常に小さなアンテナで高いビットレート、高速で画像を送れるとか、「きく8号」の場合は、Sバンドという周波数にしては性能が良く、世界にはない衛星です。できることなら、重要な衛星は、バックアップを打ち上げるなり、地上に置いておくような体制はとりたいのですが、他にも色々なミッションを行う必要もありますので、そういう体制はとれていません。ご指摘のとおり、民間の通信オペレーターさんと一緒になって、民間の衛星も部分的には使用できないかとか、逆に私どもの衛星の「きずな」を民間会社さんが使用することで、官民連携として色々なことができるのではないかと思います。実際、民間さんの衛星を使って実験をしたこともありますし、「きずな」を民間企業が使用して、商売の事前検証のようなものを行ってみようとしております。
寺田: 補足しますと、JAXAは実用運用まではなかなかやりきれていません。「きく8号」「きずな」は、まだ実用衛星まで至っていないので、バックアップというところまで整理しきれていません。こんなふうに役に立つんだというデモンストレーションをもっと行うべきで、測位衛星の「みちびき」は、こんなことができますということを実証したので、今度、政府がさらに衛星の数を増やして、衛星システムを構築し、1機が故障してもほかの衛星がカバーできるようなシステムをつくっていきます。そんな形でJAXAは開発を進めています。

<ニュートリノについて>
参加者: 最近、ニュートリノが光より早いという話が出ましたが、最新の研究は行っているのでしょうか。
寺田: すみません。今の質問に答えられる人がいません。JAXAは色々な宇宙科学や最先端の技術開発を行っていますが、本日登壇した関係者が宇宙科学関係に強くなくて、直接答えられません。申し訳ありません。
西浦: 様々な研究がされていますが、専門分野にピンポイントでそれぞれのエキスパートが存在をしていまして、何でもお答えしますと私が申し上げたのがいけませんでした。すごく高レベルなご質問をいただきましたので、次回の宿題にさせていただきます。ホームページもチェックしてみてください。本日の議事録がアップされるのに1~2カ月ほどかかりますが、何らかの形でお答えさせていただきたいと思います。

※「素粒子ニュートリノの速さが光を超えた」という発表は、名古屋大学などが参加する国際共同実験OPERAのチームが行ったものですが、2012年6月に実験機器に不備があったということで発表を撤回しています。ニュートリノの研究については、多くの大学によって行われています。

<小型衛星の能力について>
参加者: この間、星出さんが「きぼう」から10センチ角くらいの大学の学生さんたちがつくったものを放出するという実験を行いましたが、最近は地域おこしみたいなことで、小型衛星をつくってみようということを考えている地域もあったりします。そういう小型の衛星の能力はどのくらいあるものでしょうか。当然大きければ、高出力で高精度な測定ができるでしょうし、耐久性もあると思いますが、せっかく打ち上げるのであれば、それを使って何かができたほうが良いと思います。小さくても使える分野はあるのでしょうか。
五味: 実用的な一例として、船からくる電波を受けて、船の航跡をプロットするというタイプの衛星は、おそらく20、30キロぐらい必要で、これを10キロぐらいにするには、今の技術レベルではぎりぎりいくかいかないかぐらいです。世界の衛星でも、30~50キロぐらいの衛星は、打ち上がっていて、実用で商用活動に供されているものもあります。これが典型的な一例だと思います。
参加者: つくった衛星の運用はどうやったらできるのでしょうか。物をつくるのは、地域の優れた企業さんが集まって、1台つくるということはできるかもしれませんが。
五味: 現在は大学関係の方々が教育目的も含めて、大学のテーマに沿った衛星の開発と運用を両方行っています。民間企業でも部分的に、運用も含めて始めているところもあります。私が先に申し上げた既に実用になっているものは、海外の民間会社が自分で衛星の仕様を書いて、衛星メーカーにつくってもらって打ち上げ、運用を実施しています。今後、小さな衛星と言ってもいろんなタイプに応じて限度はあるのですが、50キロ、100キロ、300キロぐらいであれば実用に供されるようなミッションがたくさん出てくるのではないかと期待をしています。
寺田: 確かにいろんな小型衛星が出てきて、いろんな可能性も秘めていて、きょうは後半に小型衛星の話もあるかと思いますので、そちらでの話をお待ちいただければと思います。

<「はやぶさ2」の製作場所について>
参加者: 「はやぶさ」は相模原でつくっているということでしたが、「はやぶさ2」はどこでつくっているのですか。
寺田: 「はやぶさ2」は今、相模原にあります。これから本格的な試験を行い、2014年12月打ち上げを目指して開発しているので、そのころには種子島宇宙センターに行って、H-IIAロケットで打ち上げる予定になっています。
西浦: ということですので、どうぞ、楽しみにしていてください。応援のほうもよろしくお願いします。

<衛星のバックアップについて(その2)>
参加者: バックアップ衛星の話がありましたが、最初の地球観測衛星「MOS-1」の場合、「MOS-1」に続いて「MOS-1b」をつくってバックアップ体制をとっていましたが、「MOS-1」みたいに、同じ能力のものをもう一機トラブルのためにつくるという方法に戻すことは不可能なのでしょうか。
五味: 最初からそのような計画をして、重要なミッションであるという国としての方針もあり、そういう条件がそろえば、それは可能だと思います。同じ衛星をもう1機つくるというのは、予算上の話もありますが、重要なものについてはバックアップを用意することも検討することになるかと思います。
寺田: 確かに「MOS-1」、「MOS-1b」と2つありました。あと「DRTS」という衛星間通信衛星も当初は、バックアップ用で2つ開発する予定にしていましたが、経済上の事情などで1機しか開発できませんでした。当初計画から重要なものについては2機整備するという考え方で行っていきたいのですが、現実的にはなかなかバックアップも含めて衛星開発ができていません。

<インフラサウンドの研究について>
参加者: 衛星では電波やマイクロ波などの高周波を使用していますが、「インフラサウンド」という可聴域以下の音を使った調査というのは何かありますか。
寺田: すごく難しい質問で困ってしまうのですけれども、今おっしゃったのは音ですか。
参加者: 音です。
寺田: 音を宇宙から。
参加者: 宇宙に音は届かないのですが、低周波ですと、自分の持っている資料ですと1ヘルツの音波だったらボリュームにより100キロまで届くと、理論上あるそうです。雑誌のコピーを今、見ているのですが「はやぶさ」が再突入したときに衝撃波を観測して、実測値と理論値が合っているかどうかの確認をしたという報告の記事が載っていたので、そういったことで地上との連携なんかも予定とかあるかどうかということをお聞きしたいと思います。
寺田: すみません。私自身も勉強不足で申しわけありません。これまた持ち帰らせていただいて、何かわかることがあればお答えしたいと思います。
西浦: 本日は、大変ハイレベルで、たじたじでございます。でも、こうして関心を寄せていただいているということがわかって、本当に嬉しく思っています。ここは持ち帰って宿題とさせていただきます。

※JAXAの事業としては、実施しておりませんが、高知工科大学の山本真行准教授のもと、インフラサウンド(人間の聞くことができる周波数を下回る音)による大気リモートセンシングの研究が行われているようです。
http://www.isas.jaxa.jp/j/researchers/symp/2012/image/0227_plasma_proc/22.pdf

<登壇者の経歴について>
参加者: 先生方の専門というのでしょうか、普段どういうことをやっていて、どういう経緯でJAXAの職員になられたのかなど、お教えください。
五味: 私はほとんどの期間は、大体30年ぐらいになりますが、衛星関係の設計、運用、利用、衛星のミッションの立ち上げ等にいた期間が長いです。
西浦: 最初に関わりがあった衛星は、何という衛星だったのですか。
五味: 先ほど話がありました「MOS-1」という海洋観測衛星です。
西浦: 渡戸さんにもお伺いしたいと思います。まずJAXA、宇宙との最初のかかわり、歩み始められたときからご紹介いただけますか。
渡戸: 私が宇宙関係に入ったのは、30年ぐらい前になりますが、宇宙開発事業団で、最初のプロジェクトは、皆さんご記憶があるかと思いますが、毛利宇宙飛行士がスペースシャトルで宇宙に行きましたけれども、そのときの色々な実験装置の開発を担当しました。30年間の大体半分以上がスペースシャトルや宇宙ステーションを使った宇宙での実験関係の仕事を行ってきました。産業連携センターには、今年4月からきまして、その前6年間は宇宙科学研究所というところにいました。
西浦: 因みに産業連携という場所は、宇宙の技術でいろいろ開発されたものを産業に、ビジネスにどういうふうに取り入れ、生かして展開していくかということを考えたり、事業化のお手伝いをしたりも致します。商品化されたものもあり、後で渡戸さんからお話がたっぷりあると思いますので、私は控えます。それから、隣の広報部長の寺田は「みちびき」という測位衛星のプロマネをしていました。GPSは皆さんカーナビもご利用いただいていると思います。携帯電話にも入っていますし、随所でお役に立っているはずです。私は、総理府(現内閣府)政府広報インタビュアを皮切りに、20年以上、各メディアでグローバルコミュニケーションズのプロとして、内外問わず、自国の素晴らしさを広めてきました。宇宙は、2005年に評価委員をしていた日赤医療センターの広報誌で、野口宇宙飛行士と対談したのがきっかけです。

<衛星観測による予測について>
参加者: 東日本大震災の地盤の変動を観測した映像がありましたが、短期の宇宙予測など人工衛星の観測の利用というのは、今後将来期待できるのでしょうか。
五味: 何枚かお見せしましたスライドでは、地震が起きた後の救援活動への利用や地震が起きてしまった後の事後の画像と事前の画像を比較して、その変化を抽出して、その後の対策に役立てるというタイプのことを中心に説明してまいりました。ご指摘の予測的な活動というのは、今後は非常に重要になってくるわけです。現在、衛星でできていることというのは、光学の衛星画像を専門家に見てもらい、私ども素人が見てもここが活断層なのかということは全くわかりませんが、見る人が見ると、こういう地形のところには活断層がある可能性が高いなど分かるようです。衛星画像から活断層の可能性のある場所を幾つか候補を挙げてもらうなど、このような研究活動というのは継続して行っています。

<ISSからの小型衛星放出について>
参加者: 星出飛行士がISSから放出した小型観測衛星について詳しく教えていただきたいのと、先ほど衛星は大体500~800キロ圏内を飛んでいるという話で、ISSは400キロの位置を飛んでいて、そこから放出された衛星は、どの軌道を飛んでいて、どういうふうに活用しているのか教えてください。
渡戸: まず宇宙ステーションから放出された衛星は、日本からは3機ありまして、大きさは10センチ角で、大体重さは1~2キロぐらいの非常に軽いものです。どういうことに使われているかといいますと、そこまで大学の先生にこちらのほうから首は突っ込んでいないのですが、例えばLEDという光を出すものですが、それを幾つかつけて地上との間でモールス信号みたいな形で通信してみようとか、そういったものが今回上がっています。飛んでいる軌道は、400キロより少し下のほうに向けて放出しています。同じ軌道を飛んでしまうと宇宙ステーションとぶつかってしまうと危ないので、ちょっと下のほうに向けて飛ばしています。ですから軌道の高さは400キロより低くなります。軌道が低いので寿命も余り長く飛んでいられなくて、多分1年飛んでいられないのではないかと思います。こういう小型衛星の場合、なかなか自分で上に上がっていくようなエンジンを積んでいないので、残念ながら放出された場所で制限されてしまうので、そういう制約があって寿命が短くなります。
寺田: そうですね。寿命が短くなりますが、宇宙ステーションから放出することの最大のメリットは、ロケットで小型衛星を持っていくと、ロケットの環境はすごく厳しくて、例えば振動ですとか衛星を分離するときの衝撃ですとか、小型であってもそういう環境に耐えなければいけません。ところが「こうのとり」でそれを運んでいくと、普通の荷物みたいにして運んでいけるので、衝撃や振動に対して、そんなに厳しい試験を衛星にしなくてもよいということで、衛星を開発する側からすると楽になります。ただ、残念ながら軌道が低いので長いこと運用することができないという衛星です。

<衛星の寿命について>
参加者: 寿命というのは高度が低くなって、寿命になるのかと思うのですが、もう一回地球から新しいものをつくって打ち上げるよりは、落ちてきたものをもう一回上に上げるほうが安いのかなと単純に思ってしまうのですが、そのあたりを教えていただければと思います。
五味: 数百キログラム以上の衛星ですと、自ら燃料を搭載していまして、少し落ちた分の軌道を上げられます。燃料にも限りがありますから、そこの限度はもちろんありますが、そういうことをしています。ただし、およそ100キログラムより小さな衛星になってきますと燃料も搭載ができないということで、軌道が落ちるに任せるということになります。ある衛星が400キロメートルの円軌道に投入されますと、だんだんと近地点と申しまして地球に近いほうがじわりじわりと落ちていくのです。250キロメートルぐらいになりますと一気に加速度的に落ちるスピードが速まって、1週間ぐらいしか多分もたないでしょうか。それで大気圏突入ということになってしまいます。大きな衛星は軌道変更のための燃料を所要の年数だけ持って運用をしていることになります。
寺田: とてもよいご指摘で、衛星の寿命を決める要因というものが幾つかあります。軌道が変わることを補正するための燃料が、ある意味で一番大きな寿命を支配する要因です。そのほか特に地球観測衛星は1日のうちに太陽が当たるのと当たらない、いわゆる日陰と日照を繰り返すのでバッテリーが充電、放電をかなり繰り返すのです。それなども結構寿命の要因になってしまいます。ですから燃料がたっぷりあっても残念ながらほかの要因で衛星が運用できなくなることもあるので、この辺が衛星開発にとってはとても悩ましいところです。

第二部「JAXAにおける産業連携活動」で出された意見



<スペースコロニーについて>
参加者: スペースコロニーって今の技術でできるのか、教えてください。
渡戸: 楽観的過ぎるかもしれませんが、技術的には何とか頑張ればできるのではないかと思います。ただ、スペースコロニーは確か1万人以上の人が暮らすことを考えていて、現在の国際宇宙ステーションで暮らせるのが10人程度なのに開発に20年以上かかったのを考えると、とてつもなく長い時間と大きな予算がかかりそうで、大変だなと思います。
西浦: 国際宇宙ステーションもご存じのとおり設計運用を世界の11カ国が力を合せてしています。お金も出し合っていますが、今後ということになりますと、今、渡戸さんのお話しの通り、先立つものがないと無理です。技術的には我が国は非常に優れたところまで来ていると思いますが、それを実現化する予算が欲しいということにつきます。

<ロケットの打ち上げ割合について>
参加者: 打ち上げるロケットについてですが、NASA、ESA、JAXA、先ほど予算の規模の話が出ましたが、衛星を打ち上げるロケットの数もNASA、ESA、JAXAというふうにだんだん数が減ってくると思うのですが、全地球規模で言うロケットの打ち上げの中に占めるJAXAのロケットの割合というのは、どれくらいあるのでしょうか。
寺田: 正確な数字はわかりませんが、ロシアですとこれまでに1,000機以上のロケットを打ち上げています。これはソユーズという1950年代から活躍しているロケットです。日本はそれに比べてH-IIAが連続十数機成功ということで、H-IIA、H-IIB合せてもまだ30機までいっていません。それで日本は大体年間2~3機ぐらいの衛星を打ち上げるというのが現状です。それに比べてロシアは毎月1機ぐらいの数でどんどん打ち上げています。アメリカは、スペースシャトルが引退しましたが、民間のロケットでかなりの数の衛星を打ち上げています。ヨーロッパは主力ロケットのアリアン5で2カ月に1回ぐらいずつ打ち上げが行われているということですので、確かに予算規模に比例して衛星の打ち上げ機数というのは少ないです。
参加者: 当然それだけ数が違ってくると、打ち上げ技術についても数多く上げているほうが有利なのかなと思うのですが、そんなことはないのですか。
寺田: 今、日本が打ち上げに対して、苦しんでいるのは打ち上げコストです。ロシアのロケットやアリアンロケットに比べてどうしても割高になっています。ただ、それに比べてほかのロケットに負けないぐらいの信頼性はあるということで、そこで勝負をしようかなという感じになっています。
参加者: 信頼性というのは打ち上げ成功率というか、失敗率の低さということでしょうか。
寺田: そうです。大体世界水準が95%以上ということで、今、H-IIA、H-IIB合せて今96%ぐらいにまで上がっています。
参加者: そうするとやはりコストの関係からすると、衛星はいろんな国、いろんな会社、大学とかで打ち上げて、いろんな研究をやりたいと思うのですが、安いところへ、あるいは回数の多いところへ頼むようなことになろうかと思うのですけれども、そういった現実もありますか。
寺田: そうですね。ちょっと紹介がありました小型衛星などは余剰スペースを使って、大型衛星の隙間を使って打ち上げる。そういうやり方でできる衛星です。
渡戸: 大型衛星の余剰スペースを使っての打ち上げにつきましては、経費はいただいていません。逆に海外のロケットを使おうと思うと、だんだん海外のほうがロケットの打ち上げ費が上がってきているようで、日本で打ち上げたいという声が増えてきています。
参加者: ロケットの打ち上げの回数が増えるためにも、依頼が増えることが必要になってこようかと思いますが、増えてきていますか。
寺田: 増やす努力をしているというところで、実際問題、予算の問題等でなかなか新しい衛星開発に着手できないということもあるのですが、とにかく民間の努力にも支えられてロケットの衛星受注、それに伴うロケットの数を増やそうという努力はしています。ただ、現実なかなか民間の衛星を日本のロケットで打ち上げるという受注にまで至っていないというのが現状ですが、一生懸命努力しているところです。

<ロケット打ち上げの地理的条件について>
参加者: ロケットを打ち上げるに当たって地理的な条件で優位とか難しいとか、地理的な条件について教えてください。
寺田: 静止衛星はできるだけ赤道直下で打ち上げるほうが得です。静止衛星というのは赤道上空3万6,000キロなので、緯度が高いところから打ち上げると、軌道傾斜角と言うのですが、軌道を赤道上空にまで持っていく余計なエネルギーが必要になります。したがって、静止衛星を打ち上げるならばできるだけ赤道直下で、実際ヨーロッパのロケットはギアナというほとんど赤道直下から打ち上げています。それに比べて種子島は緯度30度ぐらいなので、その分、不利になっています。ただ、衛星は静止衛星だけではありませんので、いわゆる地球観測衛星のように軌道傾斜角が90度に近いものもありますので、そういうものについてはそれほど不利ではありません。特に日本は東、南のほうが種子島宇宙センターなどは海で開けているので、打ち上げ射点としてはその部分は有利なのかなと思っています。
参加者: ロシアのロケットの打ち上げ数の多さというのは、衛星の種類とかに関係なく技術的に長じている部分があるので、たくさん上げられるということもあるのでしょうか。
寺田: ロシアのソユーズはほとんど設計を変えていなくて、固まった設計を使い続けているということで、それで信頼度を確保しています。ただ、最近失敗が多少あるようで、技術を維持するのが難しいという現実もロシアであるということを聞いています。
参加者: ありがとうございます。オートバイ産業や自動車産業と同じで、これからはロケット産業で日本が頑張れればいいなと期待している1人です。
西浦: ありがとうございます。今の励ましの言葉、大きく受けとめたいと思います。
渡戸: どうもありがとうございました。先ほどオープンラボというお話もしましたが、宇宙分野以外の企業にもいろいろ入ってきていただけるような仕組みをつくっていますので、もし興味がありましたら手を挙げていただければ嬉しく思います。
西浦: 打ち上げというのは非常に精密な技術ノウハウや経験が伴う大変なことです。広報部長から案内がありましたように、世界の成功基準というものが95.6%で、日本は今、成功率が96%です。ここ数年間、6~7年全部成功していますので、そこだけ見れば日本の打ち上げ成功率は100%です。冒頭でもありましたように、NASAの10分の1の予算でも、ここ数年は100%の打ち上げ成功率を確保しています。あと、安全性、信頼性の話も出ましたが、我が国では宇宙ゴミにも注意を払い、処理などの国際協力もしていて、宇宙の国際社会では大きな信頼を得ていますので、誇りに思っていただけると思います。

<デブリについて>
参加者: 衛星が燃料切れなどで使われなくなった後、そのまま宇宙に滞在して地球の回りをくるくる回っているという認識があったのですが、宇宙のごみを出さないとおっしゃったのは、使われなくなった衛星を片づけるという意味でしょうか。
西浦: 出さないではなくて、出さないようになるべく努力をしている国であるということです。
寺田: 宇宙のごみはどうやってできるかというと、例えば最悪なのが宇宙にある衛星が爆発してしまって、小さい破片をたくさん出してしまう。これが最悪です。ですから、まずそういうことがないように軌道上でタンクが爆発するようなことを無くします。衛星がそのまま飛んでいるうちは、大きいので地上からも観測できてどこを飛んでいるかもわかるので、対応することもできます。低い軌道の衛星は400kmとか500kmぐらいから徐々に落ちてきて、高度200kmくらいで急激に地球に落ちてきます。そのときに大事なのは燃え尽きることです。全部燃えないで残って地上に落ちると、どこに落ちるかということで大騒ぎになるので、燃え尽きてしまうこと。そのためにいろんな工夫もされています。それでも大きくて、燃え尽きることができないときには、安全に海の上に落とすとか、ある程度軌道をコントロールしながら落とすようにしています。それが基本です。今度、軌道上にある衛星も先ほど言った破片にならないようにするということと、静止衛星は静止軌道で邪魔になってしまうので、静止軌道に残らないようにより高い軌道に持っていって、静止軌道を邪魔しないようにするという工夫もされています。とにかくいろんな工夫をして邪魔にならないようにしている。最悪なのは破片になること。これが最悪なので、まずはそうならないような取り組みとか工夫をしています。

<デブリの除去について>
参加者: 年間に20、30本打ち上げている国もあるということで、宇宙に衛星のごみが増えていくと思います。ごみをどうするのかという問題がこれからあると思いますが、宇宙に残してきたものに関して、これから取り除く計画というのはあるのでしょうか。
渡戸: そのような計画はまだ具体的には出ていませんが、その代わりに役目の終わった衛星は少しでも早く軌道を落として大気中で燃え尽きるようルールができています。大型の衛星は、小さなロケットエンジンを積んでいますので、それを逆噴射して軌道をなるべく早く下に落ちるようにしています。一方でロケットエンジンを積んでいない相乗り小型衛星のような小さな衛星などでは、幾つかの大学で、パラシュートのような膜を広げて早く落とせないかなど実際の衛星を使ってデブリをつくらないための研究をされています。

<ロケットの方向性について>
参加者: H-IIAとH-IIBでは大きさが違うのですか。
渡戸: H-IIBのほうがより大きなロケットになっています。
参加者: 軌道エレベータや宇宙太陽光発電などの話もあったりする中で、宇宙に持っていく物量の絶対量が大きくならないと、そういうことは実現できないと思っています。当然、予算獲得の必要性はありますが、せっかく日本では水素、酸素のいいエンジンができているわけですから、もっと大きなロケットをつくることによって、一度にたくさんものを運ぶことができるようになるので、そういう努力は重要だと考えますが、いかがでしょうか。
渡戸: そうですね。より大型のロケットをつくろうという話は、まだ具体的に予算が認められているわけではないのですけれども、JAXAの中でもいろいろ考えられています。一方で、できるだけ大きいロケットを作って一度に幾つかの衛星を効率的に打ち上げるという方法は考えられますが、衛星ごとに希望する軌道や打ち上げのタイミングがいろいろあって、一緒に打ち上げられる衛星を探すのは案外難しいものです。その点をよく考えておかないと、大きいロケットをつくったけれども、空席だらけで打ち上げるということになるかもしれません。今あるロケットで何回か分けて打ち上げるという方法もあるかもしれませんし、ヨーロッパやアメリカなどに比べると日本のロケットは積み込める重量が若干少なめになっていますので、他国に匹敵するぐらいのロケットをつくってみるというのもあるのかもしれません。
寺田: JAXAは、現在、H-IIA、H-IIB、それから小型ロケットのイプシロンというロケットが準備されています。イプシロンにつきましては、来年夏ぐらいに打ち上がる予定で今、準備しています。H-IIA、H-IIBに続く次期基幹ロケットについても今、JAXAの中でも検討が進んでいて、その中に、より大きなものを打ち上げられるということ、さらにはその先に人が乗れるようなところまで見据えて、コンセプトを検討しているところです。

<γ線バーストについて>
参加者: ISSにX線を測る機械があると思うのですけれども、それで中性子星から出るγ線バーストというのが、もしかしたら地球に当たってしまうのではないかというのが、原発よりもそちらのほうが自分的には怖いのですけれども、それに対する何か対策みたいなものは何かありますか。
渡戸: 私も専門家ではなくてうまく答えられないのですけれども、実際に宇宙からはいろいろな放射線が飛んできていますが、地球には大気があって、それが宇宙からの放射線をうまく防いでくれています。γ線のバーストが起こっているということですが、起こっているのは地球から光で行っても何万年、何億年とかかるはるかかなたの場所だそうですし、大気が守ってくれていますので、すぐ近くでバーストが起これば別ですが、人間の体に影響はありません。(ガンマ線バーストという現象はいつ、どこで起こるか分からない上に短時間で終わってしまうため、その発生メカニズムなど、まだわからないことが多くあります。ISSにあるX線観測装置では90分で宇宙全体のX線の様子を調べることができるので、ガンマ線バーストなどの現象を素早く見つけ、その結果を30秒以内に世界各地にいる研究者に知らせることができます。この知らせを受けた研究者はX線天文衛星(日本の「すざく」など)を使って現象をより詳しく調べることによって発生メカニズムなどを解明することができます。)
寺田: 宇宙ステーションに積まれている全天X線監視装置(MAXI)という装置が載っていて、これはその名前が示すとおり全天を見ることができるのです。そういうことで監視していますが、今あったように幸いにして近くでそういうものは観測されていないので大丈夫だろうと思っています。もし観測されたら、それはすぐにでも避難しなければいけなくなるかもしれないです。でも幸いにしてずっと遠いところで観測されているということで、こういうことも宇宙での関心というのはいろんな意味で役に立つのかなと思います。

<衛星による農作物の収穫について>
参加者: 人工衛星のデータから、おいしいお米やお茶がつくれるというお話がありましたが、たんぱく質が少ないほうがおいしいということでしたが、宇宙のデータからということが関係なさそうに思えるのですが、具体的にどのような実験やデータに基づいて、人の味覚に作用するようなことがわかるのか、教えてください。
渡戸: たんぱく質が少ないとお米はおいしいとか、お茶についてこういう成分があるとおいしいというのが、農業関係の研究機関で研究されています。では、そういうたんぱく質が少ないとか、お茶のおいしい成分があるというのを宇宙から見分けられるのかというのは、実際に衛星で観測したデータと、地上で調べたお米やお茶の成分と比べながら、データを積み上げていきます。そのデータをもとに、宇宙からこのように見える場合、その田んぼのお米はたんぱく質が少なくて、おいしいだろうから、そこのお米を厳選して売り出してみましょうというやり方をしています。ですから、まずは地上で、どういう成分があるとおいしいのかという研究が既にあって、それが宇宙からどのように見えるのかという地道な研究を重ねながら、行っています。
参加者: 地上での条件というか、例えば土壌の条件とかそういったものがきっとあるのだと思うのですけれども、それが宇宙で見てわかるとか、そういったようなことなのでしょうか。
渡戸: 皆さんも果物を見て、まだ青いから熟していないなとか、だんだん赤くなってきているから食べごろだなというふうに見ると思うのですけれども、衛星でも同じように宇宙から、人間の見えない種類の光なのですが、眺めていて、こういう色の組み合わせになったときに食べごろなんだということが、いろいろ研究を重ねてわかってきています。ですから、土壌を調べるというよりは、実際の植物の様子、稲とかお茶の葉ですとか、そういうものを見て選んでいます。
西浦: 今、渡戸さんからお話があった果物の話ですけれども、糖度を測る技術も宇宙開発の技術のスピンオフの1つです。こうやって安全安心、役に立つプラスおいしいとか楽しいというほうにも、どんどんつなげていけたらいいなと思っています。

<宇宙エレベータについて>
参加者: 宇宙エレベータというのを聞いたことがあるのですけれども、その宇宙エレベータの企業とかあるのでしょうか。また、それに協力してくれそうな企業とかはあるのでしょうか。
渡戸: まだJAXAでは直接手がけてはいないのですが、建設会社が興味を持っています。本当にできるとロケットを打ち上げないでもすぐに宇宙に行けるので、非常に便利で、早く作っていただけるといいのですが、その辺の研究をされてみてはどうですか。期待しています。
西浦: 未来の僕たち、私たち、よろしくお願いします。今、渡戸さんにおっしゃっていただきましたが、スカイツリーでも有名な大手建設会社の大林組が、宇宙エレベータの研究開発に絶大な資金力と優れた技術者を用いて情熱的に取り組んでおられます。これは主に無重力空間のところまで人が、旅行やレジャーとして行けたらいいなということが最初の思いつきだったようです。ただ、現在、JAXAとしてはそういった研究開発には携わっていませんけれど、人類の英知というものは際限ないと思っています。日本が元気になる夢のあるプロジェクトなので、応援の気持ちで見守っています。

<静岡での産業連携について>
参加者: 静岡県で産業連携している事例とか、これから開発しているものがあったら教えていただきたいのと、開発コストがどのぐらいかかるのかということも教えてください。
渡戸: オープンラボでは、静岡県から2件、手を挙げていただいています。1つがエー・エム・テクノロジーさんというところですけれども、先進の耐熱複合材の開発ということでJAXAと一緒に研究しています。もう一つが、ARMONICOSさんというソフトウェアやシステムの開発をされているところで、人工衛星を利用した車両走行情報の収集及び分析に関する研究をしています。測位衛星を使って車がどこら辺を走っているかを調べるシステムをつくりましょうということで、一緒に研究をしています。開発コストですけれども、研究のテーマでそれぞれですが、JAXAとしては、これが事業化していけるかどうかというのを、最初にオープンラボという形で一緒に研究をします。年数としては最長3年間、JAXAも一緒に協力してやりますので、JAXAの担当する部分について年間最大3,000万円負担することになっています。当然、共同研究となりますのである程度一緒にやっていただく企業の方にもそれなりの負担をしていただくことになりますし、このオープンラボが終了した後の事業(商品)化に向けた研究は、企業の方にやっていだくことになります。トータルでのコストにつきましては、研究次第で、なかなか言い難いところですが、数千万ぐらいはかかってしまうのではないかと思います。ですので、本日は静岡県さんのご協力でこういうタウンミーティングをやらせていただいているので、ぜひ地方自治体の方も一緒に入っていただいて、補助金などのいろいろな支援策があると思いますので、JAXAと企業の方と地方自治体の方とで連携して進められると、非常にいいのではないかと期待しています。静岡県さんとも一緒にやれるといいなと思っています。