JAXAタウンミーティング

「第84回JAXAタウンミーティング in 伊那」(2012年10月20日開催)
会場で出された意見について



第一部「国際宇宙ステーションISSの目指すものて」 で出された意見



<宇宙開発における長野県の役割について>
参加者: 長野県初の人工衛星「ShindaiSat」の打ち上げ、油井さんの宇宙滞在が決まり、今後、長野県内でも宇宙に対する関心がすごく高まっていくと思っています。長野県はものづくりが盛んで、技術的にも優れたものをもっていて、我々長野県が宇宙開発の一端を担えるという実感を感じることができると、もっと宇宙に対する関心が高まると思うのです。そういうことを踏まえて、宇宙開発における長野県の役割とは何かというのを教えていただけたらと思います。
上野: すごく難しい質問です。アメリカやロシア、中国もそうですが、宇宙技術というのは大体軍事技術に支えられてやっているところが多数ですが、日本はそういうものなしで、システムや部品も含めてですが、宇宙のために品質の非常に高い、信頼性のあるものをつくることができています。私の個人的な意見ですが、長野は、そういう非常に信頼性の高い、精度の高いものづくりができる土地だと認識しています。それも大量生産するわけではなく、少量しかつくらないものにも、心を込めて、いかにきちんと作っていくかということが、これからの宇宙のものづくりの中で大事になっていくのだと思っています。この長野の地に根づく、ものづくりの技術や魂などが日本の技術を支えているという認識のもと、伸ばしていけたらいいなと考えています。
寺田: 長野は聞くところによると、非常に晴天率が高いということで、デブリの観測などにも非常に役に立っています。場所場所によって、それぞれいい特徴を持っていたりするので、そういうメリットを生かさせていただいているということが言えると思います。

<有人ロケットの開発について>
参加者: JAXAの予算がNASAに比べて少なく、年々減っています。有人のロケットを飛ばすというのは非常に大きな夢であると思うのですが、お金や時間があれば、有人のロケットというものは日本にとってはすごく開発しやすいものであるのでしょうか。
沖田: お金があればというのはおっしゃるとおりですが、やはり日本として世界に尊敬されるというか、世界に対してもっといい技術で、いいものをつくるというのが日本人の心ではないかといったところで、我々はそんなにたくさんはお金をもらわなくてもできますよというところを、今、一生懸命アピールしようとしているところなので、詳しくは第2部でお話します。
寺田: 有人ロケットを我々も開発したいなと思っていて、確かにできもしないことをやろうとしているわけではなくて、こういうやり方でやるんだということを後ほど解説したいと思います。後のお楽しみということで。
上野: 国土の広さの話をされたと思いますが、確かにロシアであったり中国は自分で打ち上げたカプセルを自分の土地の上に落としています。この間の「はやぶさ」は海に落とすのではなくて陸地に落としたかったので、オーストラリアの場所を使わせていただいたわけですが、いつまでもそういうわけにはいきません。日本は周りを海に囲まれていて、海の使い方というのも当然考えなければいけないのですが、我々としては有人宇宙船ができたら、それをぜひ日本におろしたいと考えていて、そのためには高い精度で誘導して、そこにパラシュートで安全に落とすということも今、研究を進めています。
寺田: そうですね。日本から打ち上げて日本に帰すということが、我々の夢かもしれないですね。

<臼田等の見学施設について>
参加者: この間JAXAの施設の臼田の電波望遠鏡の見学に行ったのでが、土日なのに見学者がほとんどいませんでした。長野県には、臼田の電波望遠鏡とか、野辺山の国立天文台とかに電波望遠鏡があります。そういうことを知らない人たちにもっと知ってほしいと思いますので、民間企業と組んでツアーをやったり、お土産を充実させたり、そういった工夫をしていただけるとファンの人も嬉しいですし、町が活性化されていいのではないかと思いますが、いかがお考えでしょうか。
寺田: 実は宇宙科学研究所の施設がある地元は銀河連邦といって、その地方自治体同士が連邦を組んでいます。そこの自治体がいろいろなキャンペーンをして、いろんな人に来てもらおうということもやっています。それについてJAXAもいろんなことに協力しています。全国ツアーでスタンプラリーなんかもおもしろいかもしれないですね。そういうのはぜひ企画してみたいと思います。ありがとうございます。広報に対する御意見もどしどしお寄せいただければ、私もできるだけのことは、予算の問題もありますが、やりたいと思います。

<宇宙太陽光発電について>
参加者: 地球環境問題に興味がありまして、地球温暖化って危機迫るものがあるかと思います。それで、宇宙太陽光発電システム、宇宙太陽光発電所、これは地上の太陽光パネルに比べてどれだけ効率が良いものなのでしょうか。
上野: 今の仕事の前にいたところが、私が直接やっていたわけでありませんが、宇宙太陽光発電をやっている組織でした。基本的には地上で使っている太陽電池パネルを宇宙に持っていきます。宇宙で太陽発電をやる利点というのは、地表面まで来ると途中で空気の層を通り抜けて弱まってしまう太陽光になっているわけですが、宇宙に行けばかなり地上よりも強い太陽光を使うことができるということが1つと、そういうものを地上に置くとすれば、ここのように晴天率の高いところを選んで置くことになるのですが、それにしてもやはり天候に影響される。あるいは夜がある。夜は発電できないので、宇宙に行けば当然日陰に入る時間もありますけれども、それが非常に短くて済むとか、そういったメリットがあります。ただ、かなり大きなものを数キロメートル四方、もっと大きなものに商業的にそれがペイするようなものにしようとすればなりますので、そういったものを打ち上げるためのロケットにお金がかかる、組み立てるにも技術が要る、それをきちんと制御する、あるいは宇宙からそれを電力にして地上に送るための技術、まだいろいろ克服しなければいけない課題があって、それに優先度をつけて取り組んでいるところです。
寺田: とにかく太陽が当たっている時間が宇宙に行けば圧倒的に長くなるのですが、今、話があった大きな課題は、それを宇宙にどうやって持っていくか、その建設コストです。沖田さんはロケットのエンジニアなのでその辺を少しコメントしてもらいます。
沖田: 我々が宇宙太陽光発電システムを開発している方々と議論しているのは、年間100トン静止衛星軌道に送ってほしいと。年間100トン送るとなると、H-IIAの場合は、2トン静止衛星軌道に送るのに100億円かかるので、その50倍、5,000億円かかります。さらに不要になった太陽電池をまた地球に落とさなければいけないとか、そういったコストを考えると膨大な額になります。太陽光発電衛星を考えるときには再使用輸送システムを考えるのがまず前提です。原子力発電ベースで考えると、1kW当たり80円ですが、宇宙太陽光発電だと、今のコストで考えれば、160円から400円ぐらいになってしまうので、輸送コストを今より10分の1ぐらいにすれば、大体いいぐらいになります。
参加者: ありがとうございます。日本の技術で「はやぶさ」みたいに太陽光パネルを生かして地球まで帰ってきたということで、またコストが低くなるような技術革新、技術の向上を願っています。
寺田: 太陽電池パネルというのは、これもどんどん技術が進歩して、効率がいい太陽電池パネル、いわゆる太陽電池セルに加えて、薄膜でどんな形状のところでも貼れるようなものができつつあります。これは「イカロス」というソーラーセイル、太陽の光を受けてヨットのように進んでいくという実験も行われていたのですが、そこで実証されたのが薄膜の太陽電池セルです。太陽エネルギーを使う技術は、どんどん進歩していくのかなと思っています。

<宇宙飛行士になるためには>
参加者: 僕は毛利さんや油井さんにあこがれて、将来、宇宙飛行士になりたいと思っていて、いつかISSで研究したいです。宇宙飛行士になるためには、今から何をやっておけば将来役に立ちますか。
上野: よく聞かれる質問ですけど、これだけやっていればいいというものはありません。まず、宇宙飛行士になるためには、君が飛ぶころ、あと20年たったら少しまた時代は変わっていると思いますが、宇宙飛行士になろうとすると健康な体、健全な心、理科とか算数といったものを理解できる力、英語の力がない人がなれないのが現状です。もっと大事なことは、自分がやりたいことをきちんとはっきり持っているということと、それになるための努力をあきらめないで、そこに向かって少しずつでも進んでいく、そういう強い心が一番だと思います。それがあれば健康にしたって勉強にしたって英語にしたってついてくると思います。なので、宇宙飛行士になりたいと思ったら、その気持ちを捨てないことです。そうすれば、なれると思います。

<打ち上げのマーケットシェアについて>
参加者: 現在も、これからも各国の衛星打ち上げの請負ということで需要が大分高まってきていると思いますが、世界のマーケットの規模と日本のそれについてのシェアはどれぐらいとれているのでしょうか。聞くところによるとコスト競争力についてはそんなに強くないということを聞いています。今後のコスト競争力をどれぐらい強化できるのか、事業方針をお聞かせください。
沖田: 商売として打ち上げるのは、我々独立行政法人ではなくて、技術移管をしたMHIさんがやっています。マーケットについてですが、これは20年前から今後将来もっと増えるという予測もあるのですが、大体20機ぐらいだと考えてもらえばいいかと思います。世界のシェアは、ロシアのプロトンロケットやソユーズロケット、それから、アリアンロケットが大体半分ずつぐらいが今までの傾向でした。今後の状況では、昨今、宇宙ステーションに物資補給したアメリカのスペースX社が民間衛星の受注を受けていまして、今後かなりシェアを伸ばすのではないかと思いますが、ただ、残念ながらスペースX社はまだコマーシャル衛星を一度も打ち上げたことがないですし、今のロケットでは多分上がらないので、改良しないとだめだと思います。そういう中で今、契約をとっているような状況です。では、日本はといいますと、H-IIAロケットが完成したときに、海外の衛星メーカー2社から20機の衛星打ち上げ契約をとっていました。しかし、H-IIAロケットの前身のH-IIロケットの5号機と8号機の失敗がありまして、その結果、契約書上も信頼性がないとロケット打ち上げ契約はキャンセルするということで、自動的にキャンセルとなりました。また、もう一つの衛星メーカーからもう少しコストの安いところと契約したいという話もあって、結局その20機の契約はなくなってしまいました。為替レートは、大体契約をとった時点では1ドル100~115円ぐらいでしたが、昨今は80円ぐらいになってしまい、そういう意味でも契約をとるのは厳しい状況になっています。過去にどういうコマーシャルの契約をとっているのか、同じ価格であれば、そちらを参考にするわけで、ちょっと高いぐらいでも前にコマーシャルの打ち上げの実績があれば、そちらにみんな行ってしまい、ますます不利な状況に現在なっているのが現状です。今後については、この後、御説明したいと思います。
寺田: ちょっと補足しますと、日本の衛星をどうやって売り込むかというと、いわゆるパッケージと言うのでしょうか、衛星に付加価値をつけるのです。最近の例ですと、トルコに日本の衛星を売ったのですが、そのときに単に衛星を売るだけではなくて、どういうふうな試験をやれば衛星ができるのかと、そういう技術的な教育やプログラムを一緒にして、海外に売っている例もあります。単に値段だけではなくて、日本ならではのある種のサービスというか、そういうものをつけて売るというやり方もやっていて、いろんな工夫がされています。

<文系出身者のJAXAへの関わりについて>
参加者: 宇宙をもっと近くして、広く深く広めるというところで、何かしらデザイナーと呼ばれる人たちがかかわっていけないかなと思っていて、芸術系のデザインの大学で宇宙のデザインの授業をやっています。例えば先ほど予算が出ていましたけれども、企画して、あのグラフをもう少しグラフィックを磨いて、どれだけ少ない予算で、どれだけハイパフォーマンスな日本の宇宙開発かというのを出したり、宇宙で人が暮らすようになったらトイレの標識はどうするかとか、そういったものを実験的にやっていて結構おもしろい回答が学生から出ています。そんな中で学生から出た質問で、JAXAさんというと一流のエンジニア、テクノロジーの集団という印象があります。この授業を通して文系の学生の中にJAXAさんに入社したいという学生が大量にこの半年で出てきまして、JAXAさんの業務の中に文系の職域というものはどういったものがあるか聞いてこいという依頼を受けまして、ボーダーは引きにくいかもしれないのですけれども、お聞かせいただけると幸いです。
上野: 宇宙ステーションの仕事に関係したところで言いますと、宇宙ステーションだけに限らないですが、宇宙でいろんな活動をするといろんなリスクがあったり、実際に事故が起きたりするわけで、そういった紛争、当然宇宙ですから国際的にどこの国もつながっている中でそういったものをどう解決するかとか、基本的な共通ルールをどうするかというようなことを国際間で決めて、その運用をするといういわゆる法律の仕事があって、うちの部門だけでも4~5名います。あとは広報、まさに御関心のあるところだと思いますが、もちろん理系の人間もいますが、文系のセンスでどういうふうに見せればよりわかっていただけるかとか、テレビや雑誌などのいろんなメディアに、我々が持っているコンテンツをどのように使っていただくのがいいか考えている人間もいます。また、宇宙ステーションの利用の中で、タンパク質の結晶を成長させるとか、流体力学が無重力の中でどうなるとか、純粋な自然科学的な研究実験もやっていますが、日本がやっている取り組みの1つとして、ほかの国は余りやっていないのですが、人文社会学的なテーマを取り上げて募集をして、おもしろそうなものを採用して宇宙飛行士を使ってやってみたりというようなことをやっています。例えば宇宙でお茶を立てたらどうなるかとか、羽衣のようなものをつけて天女の舞いみたいなものをしたら、どう布が動くのかとか、一見ばかばかしいと言われかねないようなことでも我々としては勇気を持って、余り時間とお金をかけない範囲でできることをやって、そういったところからもいろんな関心を持っていただいて、地上の重力のあるところから解き放たれたときにどういう感性が働くようになるかということも、人間がこれから先、宇宙に出ていくときに、それも1つの大きな変化だと思っていて、そういうものを探るという意味でも意義のあることだと思って、そういう取り組みをしています。
沖田: 私の部署は、衛星やISSの補給機を打ち上げるためのロケットを維持・開発する業務で、研究開発の中で、国内の大学や研究機関と共同研究のようなものをたくさんやっています。そのような協定の調整や権利関係のある意味法律的、経営学的なセンスという中で、一緒にやっていただいている人はたくさんいます。安全に関する基準を世界共通化させようといったときにも、理系だけだと数字にはこだわるけれども、全体が見えていないというケースがあって、事務方にも一緒に来てもらって、効率的に解釈などを一緒に手伝ってもらってやっています。海外の宇宙機関との共同研究や開発もあって、契約書や実行計画などの文書を仕上げてもらうために手伝ってもらったりもしています。事務の方にいわゆるグラフィックとかそういったものを勉強してもらって、モデラーというか模型をつくってもらうとか、一緒に喜びを分かち合うようなことはいろいろやっています。
寺田: 広報部にはたくさんの文系出身者がいます。メディアが多種多様になっているので、表現のうまい方というのはすごく大事だと思っています。ぜひJAXAに興味があったら採用試験を受けていただければと思います。ちなみに私はエンジニアでございまして、衛星プロジェクトのプロジェクトマネージャーをやっていたということで、JAXAはかなり理系が多いのですが、文系の方も活躍の場所は十分にあります。
参加者: では、学生に伝えておきます。ありがとうございました。

<宇宙開発の平和的利用について>
参加者: 最近、日本の宇宙開発でも国防面での利用というものに政府が注目してきていて、少ない予算の中でそれに食われる部分がかなり多くなってきているのではないかと心配をしています。また、国防面で得られた情報というのは東日本大震災のときも100%活用されたというわけでもなく、国際的な協力といったときにもデータを開放するというふうにもなかなかいかないという中で、日本の技術、国際的な協力に使える予算というのが、あのグラフよりもさらに減っているのではないかと心配しています。それがいいかどうか、いろいろな方がいらっしゃって判断のこともあるのでしょうけれども、もし純粋な科学的、平和的な利用というものを拡大していこうと外の者が望むなら、タウンミーティングも1つのその機会だと思いますが、どういう機会でそういうことを申し上げていけばいいのかということをお教えいただけますか。
寺田: JAXAの実感として確かに予算の伸びはありません。新しいプロジェクトを立ち上げて新しいことをやるということに対する自由度が、何となく実感として、ある種の閉塞感を感じているのは本当にそのとおりです。ただ、1点だけ誤解しないようお願いしたいのですが、新聞報道などで平和利用をしなくなるのではないかというJAXA法の改定ということも報じられているのですが、もちろんそうではなくて、こちらは日本国憲法の平和主義の理念にのっとって行うということがあるので、新しいJAXA法によって平和利用しないというのは間違いです。安全保障ということが1つのテーマになっています。最近の宇宙開発の大事なものとして、例えば準天頂衛星、実は私は準天頂衛星初号機「みちびき」のプロジェクトマネージャーでしたが、初号機の開発がうまくいって、日本として4機あるいは7機開発しようということで、その後ろにあるのは国民生活の利便性だけではなくて、やはり我が国としての安全保障、自律性というものも持っているわけです。それに比べて例えば「はやぶさ2」の予算がなかなかつかないと。安全保障と科学とどちらが大事だみたいな天秤にかけられているような議論もあり、なかなか予算が伸びない苦しい関係にいるのかなと思っています。では何をすればいいか。「はやぶさ2」がこういう状況であっても強いかと言うと、国民の皆さんの支持です。「はやぶさ」が帰ってきた後、そのおかげで「はやぶさ2」が立ち上がりました。「はやぶさ2」の予算が削られそうになったときに皆さんから、2014年に打ち上げてほしいという強い心がありました。いろんなところでそういうメッセージを受けました。そういう気持ちが結局ある意味で政策を動かしたりするのです。来年の「はやぶさ2」の予算要求を行っていますが、きちんと通るかどうか大事な時期に来ていまして、皆さんにいかにサポートしていただけるか、いかに願いが込められているかによってプロジェクトは強くなるのだと思います。これから話をする有人ロケットもきっとそうだと思います。そういうことで、その気持ちを我々に伝えていただければ、我々も予算要求するときに力をもらって要求することができると思います。