「第80回JAXAタウンミーティング in 川越」(平成24年8月11日開催)
会場で出された意見について
第二部「国際宇宙ステーション・利用活動について」で出された意見
<国際宇宙ステーション(ISS)の運用について>
参加者: 国際宇宙ステーション(ISS)が2020年で終わってしまった後、どうするのですか。
吉村: ISSの2020年問題なんですが、技術的には多分2028年、2030年まで使えると思います。ただ、そのときにこれだけ大きな投資を伴っているものですから、どうやって使っていくかというのは、議論が必要になってくることで、ある時期にもう一度議論することになると思います。宇宙ステーションも、月にベースをつくるでもなければ、宇宙に行っても行くところがないので、必ずああいう類のものが必要になると思います。
<ISSからの回収方法について>
参加者: ISSで行った実験に試料などを地上に持ってくるときには、どういうふうにしているのでしょうか。
吉村: ついこの間までスペースシャトルがありましたので、大量に持って帰られるのでごみも一緒に持って帰ってきていましたが、スペースシャトルがなくなりましたので、現時点で完全に持って帰れる保証ができるのは「ソユーズ」だけです。ただ、この間、幸いにしてアメリカのスペースXという会社が「ドラゴン宇宙船」の回収に成功しました。これができ上がるとスペースXの「ドラゴン」とロシアの「ソユーズ」と、この2つで持って帰ることが今できるようになっています。これからも多分、回収システムが作られる予定ですし、日本も貢献したいと思っています。
<こうのとりの有人化について>
参加者: 日本のロケットは、打ち上げに関してはある程度確立していると思いますが、「こうのとり」を有人化に向けて動くとことはないのですか。
吉村: 「こうのとり」を打ち上げるだけならいいんですが、何かあったときにその危険をいち早く検知して、宇宙飛行士を安全にそのロケットから切り離すという技術が必要で、この技術は、経験の蓄積が必要な技術で、日本はまだ持っていません。それから、帰ってくるときの技術ですけれども、帰ってくるときの技術は、回収がある程度コンスタントにできるようになってくれば、帰ってくるシステムの中でアボートシステムというのはほとんど存在しないので、確実にこうのとりの中の状況をコントロールして下に落とせる技術があればいいんですけれども、そちらの方がむしろ簡単かもしれません。先ほどリスクと申し上げたのは、例えばスペースシャトルだと事故確率は100分の1ぐらいで、今度新しくつくろうとしているものは2,000分の1とかです。ロケットそのものの信頼性というのは限界があって、それ自体でいくと200とか300分の1とか、それぐらいの安全性しか確保できません。それに緊急脱出装置をつけると1けた増えて、それでも2,000分の1です。だから2,000回に1回あるかもしれませんし、ないかもしれません。そういう状況のリスクというのは結構大きな話になります。
<ISSの回収について>
参加者: ISSは最終的に回収するのですか。
吉村: ミールという宇宙ステーションがありました。これは最終的にどうしたかというと、南太平洋上に燃やして落としました。多分同じようなことになると思います。ばらばらにして持って帰るという手段がないので、同じように捨ててしまうと思います。個人的には、せっかく作ったものですし、サッカー場ぐらいの大きさがあって、400tもあるので、これを軌道の上の方に上げるのは比較的容易なので、上の方に上げて、世界遺産にしたらいいなと思っています。宇宙に行ってツアーをやるときに、みんなで見に行くという形になればいいなと思いますけれども、基本的には落とすと思います。
<日本の有人飛行について>
参加者: 有人飛行ですが、仮に日本国内で行ったとして、どのように使っていくか現状で青写真はありますか。
吉村: 有人飛行の場合、1つは先ほども申し上げたように宇宙ステーションに対するアクセスに使えるということと、今、国際的に議論していますが、将来の有人探査に使えます。多分、一番初めのターゲットというのは小惑星とかいろいろありますけれども、現実的なものを考えると月になってくると思います。このような有人システムを考えるとき、アクセスの手段が、1つしかないのは脆弱で、例えば今、ロシアのソユーズにトラブルがあって使えなくなったら、宇宙ステーションそのものも運用できないですし、せっかく油井さんに訓練していただいても何もできなくなってしまいます。ついこの間までシャトルとソユーズの2つありましたが、現在はソユーズだけです。できれば少なくとも2つ、3つぐらいになっていると非常に安定した運用ができるので、そういうことが便利かなと考えています。
<JAXAと国との関係について>
参加者: JAXAと国会の関係、また、審議会等での決定事項、文部科学省との関係をお教えください。
寺田: 文部科学省を通じてJAXAの予算を国会に出すことになります。この予算というのは大事で、どういう事業をやるかというものと対でありますので、例えば地球観測衛星をやるとか、宇宙ステーションをいつまで継続するとか、こういうものは事実上、国会の中で予算を通して決まっていきます。続いて審議会ですが、審議会もいろいろありますが、重要なものですといろんな方針を決定します。例えば宇宙開発の全体的な方針など、今後国際宇宙ステーションで何をやるのかというようなものが、各種審議会で議論されて決まっていきます。文科省のチェックに関しては、ロケットの打ち上げの安全審査というものが文科省の傘下にあった宇宙開発委員会で決まっておりました。今後もロケットの打ち上げが安全に行われるかどうかという審査は、そこの機能として行われていくと思っています。それから、最近法律ができまして、JAXA法が改正になって宇宙の主務大臣、主務官庁の変更がございました。その中で主務官庁はこれまでどおり文部科学省ですけれども、主務大臣に内閣総理大臣と経済産業大臣が追加になりました。内閣総理大臣は、宇宙の利用の推進について、経済産業大臣は、人工衛星の開発、打ち上げ、運用に関して、民間事業者に対して援助、助言を行う業務に対して追加になっております。また、内閣府に宇宙戦略室というものができまして、こちらがまさに司令塔となって我が国の宇宙開発の方針を作成し、宇宙基本計画を策定することになりました。
<きぼうでの実験の選定について>
参加者: きぼうの実験はどういうふうに決定しているのですか。
吉村: きぼうの実験ですけれども、現在、こちらからはこのようなシナリオで使いたいと基本的な考え方を提示させていただいています。また、それに関わらず、色々な研究者の方々、企業の方々に毎年こういう機会がありますと機会を紹介させていただいて、提案していただきます。その提案をもとに外部の専門家の先生方から意見をいただいて、これからこういうテーマを採用してはどうかということを決めて、その結果をもって実験につなげています。
<JAXAのミッションについて>
参加者: 「SELENE」や「ALOS」が好きだったんですが、 現在のJAXAのミッションの中で、これはというものがありましたら、お教えください。
寺田: 今、イチ押しなのが「しずく」です。「しずく」が打ち上がりまして定常運用に移行しました。こちらは水循環の観測をしていまして、天気予報の精度も上がっていくだろうと思います。また、南極あるいは北極の氷の様子がわかります。最近グリーンランドの氷がこんなに溶けているのかというのが話題になっていますけれども、北極の氷がどれだけ溶けているかということもわかります。その溶け方によって船の航路が確保できるかどうかというのがわかりますので、大陸の方を回らずに北極海を通るルートでヨーロッパやアメリカに行くことができ、大幅な経済効果を与えることが期待されています。「だいち」という衛星が活躍していました。震災のときには、いろいろデータを提供していましたが、震災の直後に運用を停止しました。こちらの後継機が来年打ち上がる予定になっています。「ALOS-2」という衛星です。あと、これはJAXAの活動ではありませんが、準天頂衛星「みちびき」という衛星は、実は私がプロジェクトマネージャーで開発していましたが、「みちびき」という衛星がうまくいき、その後、政府でこれを更に3機つくって、合計4機で、実用準天頂衛星システムをつくることが決まっています。これは2018年以降ぐらいにシステムが整備されるということで進めているようです。宇宙科学の方では「はやぶさ2」です。こちらはいろいろ予算の事情で皆さんにもやきもきさせていますが、予定どおり2014年に打ち上げる予定で開発を進めています。何とかJAXAの方でも資金を工面し、かつ、来年も予算を再度つけてもらうような努力もして、予定どおりの打ち上げを進めています。天文観測衛星なども、ASTRO-Hとかそういう準備もしていて、それからGOSAT「いぶき」も二酸化炭素を観測する衛星ですが、運用中でございます。こちらも世界の中でどれぐらい二酸化炭素の増減の観測データを提供しています。
西浦: このように、様々なミッションで皆様の生活の安心安全、そして豊かな暮らしのために貢献させていただいていおりすので、引き続き御支援、御支持のほどをよろしくお願い申し上げます。
<ロケット打ち上げのコスト削減について>
参加者: 日本としての有人飛行を成功していただきたいと願っていますが、コストが心配です。今、H-IIBを1台打ち上げると100億円ぐらいかかっているという現状を聞いたことがありますが、昨今、民間のロケットがかなり飛び始めていて、コストとしても競争力という点では厳しいところがあるのではないかと思っています。その辺が足かせになって有人飛行のプロジェクトというのが成功しなくなると寂しいなと思っている部分がありますが、コスト削減についての計画というのは何か考えているのでしょうか。
吉村: 当然に、いかに安くロケットを打ち上げることができるかというのは日々努力していますが、つくってしまったものを安くするというのは極めて難しいです。安くした結果、何が起こるかというと、いわゆる品質管理の活動を抜いていくことになります。そうすると、あるところまで抜いていくとトラブルを起こします。今やっているのは、実は全体的な利用する量を減らそうとしていて、1年に1回飛ばすのではなくて、1年半に1回飛ばします。そういうふうな形で軌道上での活動に必要な物資をできるだけ小さくつくって、全体の運用スケールを小さくして、必要になるものの量を減らすという活動方法を我々としてはとっています。アメリカの方は、逆に民間の活力を活用してやろうとして、先ほど申し上げたようなITの長者なんかが投資している企業が参加してきているのですが、実際のところ彼らが言うほど安くはなっていません。政府の補償も相当入った状態で、外に出ているお金は安く見せていますけれども、どうしてもある一定の品質を確保しようとすると、なかなか難しいところがあります。多分、自動車でも同じで1台しかなければ一体幾らかかるかということなんです。あれも10万台、20万台というスケールでつくっているので、スケールメリットが出てくると値段が下がりますけれども、そういう世界に少しでも早くいかないとなかなか難しいかなと思います。皆さんよく御存じだと思いますが、戦闘機なんかは何百機、何千機つくっても1機100億円です。戦闘機のエンジンと比べてロケットのエンジンは難しく、1けた違う燃焼が起こって、何かあれば吹っ飛んでいますので、そのようなものをつくるときに品質を落とすわけにはいきませんので、本当に苦しんでいます。
<広報活動について>
参加者: 今、日本は閉塞感に包まれていて、夢もない時代、子どもたちもサラリーマンになることすらも難しいという時代で、夢に飢えている状態です。そんな時代背景の中で今、宇宙開発というのは大きな夢になっていると思います。そこでは有人飛行というのはみんなにわかりやすくて、子どもたちにもお年寄りにもみんなに理解しやすいですし、国民の共感が得やすく、1つの大きな目標になり得ると思います。いろいろコストや技術的なこととか難しいことはたくさんあると思いますが、広報に力を入れてほしいと思います。私は、ここに来る前までは、JAXAは有人飛行に対してそんなに力を入れたいと思っているというのが伝わってきていませんでした。みんなが夢を持つためにももっと強くアピールしていただいて、国に対して説得するよりも国民にアピールして、国民の土壌をどんどん育てて、それを受けた国が動かざるを得ないような状況に持っていく方が話が早いと思いますし、予算面でも都合がつきやすくなると思います。映画、本、ホームページなどのメディアを使ってアピールされていると思いますが、もっと子どもたちに夢を見させるような広報活動に力を入れていただきたいと思います。
油井: 貴重な御意見をありがとうございます。私も広報は大事だと思っていますので、こういう形で機会をいただいて、意見交換の場に参加させていただきました。忙しいところもあって限られた時間の中での交流になってしまうんですけれども、私もこれからもずっとTwitterもやりますし、ブログも書きますし、できることは何でもしたいと思っています。私は、会って直接話をしたいと思っているので、なるべくそういう機会を設けたいと思いますので、また協力してやっていきたいと思います。書くだけだと私は一生懸命書くんですけれども、気合いが伝わりません。相当気合いを入れて夢を語っていますが、書くだけでは無理かなという部分があるので、できるだけ多くの方、子どもたちとも交流を図って夢のある世界をつくっていきたいと思っています。今日は本当にお忙しい中、わざわざ来ていただきましてありがとうございました。私も本当に楽しみましたので、みんなで楽しく夢を語って、明るい未来をつくっていけたらと思いますので、本当に貴重な御意見ありがとうございました。頑張ります。