「第80回JAXAタウンミーティング in 川越」(平成24年8月11日開催)
会場で出された意見について
第一部「宇宙開発における日本人宇宙飛行士の活動」 で出された意見
<テストパイロットについて>
参加者: テストパイロットとしての仕事をしていたときに、何か思い出とか特別な経験のお話をお聞かせください。
油井: テストパイロットの仕事というのは特殊でして、いろいろ経験しました。日々の心構えではないですけれども、私自身がどういうふうに仕事に臨んでいたかというと、テストパイロットというのは他の人がやったことがないことを初めてやることが仕事です。ですから、それなりの危険はありますし、毎回飛ぶまで怖かったです。その恐怖をどうやって克服するかですが、それは準備しかありません。どういうところが危ないなどしっかり準備をして、それが安全だと納得できるまで探究し、最後の最後に離陸するときには、「ここまでやったんだから俺は大丈夫だ」という自信を持って上がっていけるような準備をして、日々チャレンジしていました。毎回毎回が新しいミッションなので、非常に大変ですが、新しいことをやっていると感動があります。日々感動の連続でした。
<ISS、宇宙飛行士の広報について>
参加者: 有人宇宙船で宇宙に行くということが、宇宙空間の閉塞された中で心と体のバランスがどうなるのかなど人間をより理解していくようなものに役立つとか、医療への応用になるなどもっとアピールしたほうが良いと思っています。また、宇宙飛行士として、学ばなければいけないことがたくさんあるでしょうし、問題解決能力、状況判断力など問題に対してどう対応すべきかみたいなことがたくさんあると思います。私たちも仕事に取り組む上できっと応用できるのではないかと思いますので、そのようなことを広報活動してもらえると勉強になります。
油井: 具体的な成果というのは多分ISSの方で今、挙がっている成果などは紹介があると思いますので、そちらを見ていただければと思います。日ごろ私たちが感じていることをどのような形で活かしていくかという話は、私たちも広報が足りないのかもしれないですが、私はTwitterをやっていて、ブログも書いています。そこでは私は渾身の思いを込めて毎日、素直に自分の心から魂を込めてつぶやいていますので、ぜひ読んでいただけたらなと思います。それを参考にしていただけると、会社などでも活かせるかもしれないですし、そこでまた意見を言っていただけると、私もそういうところでこういうことをつぶやかないといけないんだなというのもわかりますので、ご意見を引き続きよろしくお願いいたします。
<有人宇宙開発の時期的見通しについて>
参加者: 日本独自の有人宇宙船ということで、現役のうちに飛びたいということですが、技術的に今、写真にあるようなHTV-Rの発展形として、有人宇宙船の開発の時期的な見通しということをお聞かせください。
油井: 時期的な見通しというのはまだ立ってはいなくて、HTV-Rの計画についても予算の問題もありますので、少しずつ後遅れになっています。なので、いつ有人の宇宙船が飛ぶかというのは全くわからない状況です。ただ、JAXAとしては世界に乗り遅れないようにするために開発するには、そろそろ少なくともやるというぐらいの判断をしなければならない時期に来ているのではないかと思っています。航空機も宇宙船もそうですけれども、やると決めてからも10年とか15年とかかかりますので、ぎりぎりぐらいのところだと思います。
<ブルースーツについて>
参加者: 私は宇宙が好きになって半年ぐらいなので難しいことはわかりませんが、初めてブルースーツを着たときの気持ちを教えてください。
油井: この服を着ると緊張するというか、責任の重さを感じます。本当に人類代表という感じになりますし、更に日の丸も背負っていて緊張します。私自身、「本当に自分でいいのか」というふうに、自分に自信がない部分もあって不安になるときもあります。でも、その不安を解消するには努力しかないので、自分の能力を高めて、活躍ができればみなさんも認めてくれますし、自分の役割を果たしたことになります。本当に緊張もするし不安にもなりますが、不安を紛らわすために日々訓練しているというのが現状です。でも、ブルースーツを脱ぐと普通のおじさんに戻ってしまいます。そういう普通のおじさんですが、普段こういう仕事場になると緊張してしまいますので、一生懸命やっています。
<日本の有人飛行の実現方法について>
参加者: 日本は、宇宙開発の分野を有人飛行ではないもので発展させていくと思っていましたが、油井さんの有人飛行に対する熱いものを聞いて、ぜひ実現させてほしいと思いました。そのために私たちが今日帰ってすぐできることはありますか。
油井: 応援いただいてどうもありがとうございます。やはり国として盛り上がらないといけないと思います。ですから、私の魂の叫びを聞いて感動してくださった方がいるとすれば、それをほかの方にも話していただいて、盛り上げていただければと思います。今の日本に足りないものはやる気です。やる気があればいつでもできるんです。確かにお金がなくて大変ですが、教育とか宇宙開発というのは未来への投資であって、家計で言うと教育費みたいなものです。子どもにかけるお金です。例えば、家計が苦しいときには、贅沢はしませんが、子どもにかけるお金は下げません。そういう考え方で宇宙開発あるいは教育にお金は使ってほしいなと私は思っています。そういう発言を皆さんが広げていただければ動くかなと思います。
<天体物の所有権について>
参加者: 輸送手段を持つ国は宇宙開発のみならず発言力が違うと私は思っています。もし、先に到着すればという考え方であれば、月と火星は既にアメリカの領土ではないかという疑問がありますが、世界の宇宙の研究機関の中で、領土という表現が正しいかわかりませんが、国際的に取り決めがあるのかお聞かせください。
油井: 国際的な取り決めがあります。月や火星などの天体物は、誰もが占有できないルールになっていますが、もしそこに資源があったとして、それを利用できるのは誰かというと、やはりそこに行って、持って帰ってこられる国が使えることになってしまいます。なので、その辺の取り決めをまだ誰もやっていないので、これから話し合いで決まっていく部分だと思います。ただ、そういう中でも実際に自分でビークルを持って輸送ができる国というのは強いですし、それをしっかり目指してお隣の国なんかも頑張っていますので、私としては日本も頑張ってほしいなと思います。
<宇宙飛行士の原動力について、宇宙旅行について>
参加者: 自分に全然自信がなくて、すぐ心が折れてしまい、自分の人生はどこに向かっていくんだろうとすぐ考えてしまうんですが、宇宙飛行士の方たちのバイタリティはすごいと思っていて、その原動力、自分の夢はここにあるということを思い出して、心折れずに頑張っていく源は、油井さんの場合どこにあるのかということと、自分は体にちょっと障害を持っていて、油井さん個人の意見でいいんですが、そんな人間でもいつか宇宙旅行に行ける時代が近いうちに来るのかどうか、興味本位ですが、お聞かせください。
油井: どうもありがとうございます。やはり心が折れそうになることは私もあります。でもそういうときに助けてくれるのは、仲間です。また、責任感もありますし、ここで自分がくじけるわけにはいかないなということもあり、自分の目標というものに固着して、それを目指していくというのは大事だと思います。私も人生の意味というのをよく考えています。2つの意味があると私は自分の中で整理していて、1つ目というのは、自分のために頑張って、自分でここのゴールまで行きたいというのをいかに繰り返し達成していくかということだと思っています。それをやることで、死ぬときに自分で俺はここまでやった、これもやったと納得して死ねると思います。でも、もう一つの意味の方が重要だと思っていて、私は永遠に生きられませんので、死んだ後は、ほかの人の心の中で私は生きていくわけです。ですから、その心の中で生きていく私が立派な人であってほしいと思うところがあって、ほかの人にどれだけ貢献できるかということだと思っています。この両方を達成するために努力しているのは、ゴールを設定するときに、ほかの人のために役立つようなゴールを設定することで、死ぬときにも満足いくし、自分が死んだ後も、あの人はこんなにいいことをみんなにしてくれたということで、長く、よく生きていけるという感じがします。この2つを心にとめています。2つ目の質問ですけれども、当然、私は来ると信じています。そのために私は仕事をしています。宇宙には重力がないので、障害のあるような方々は、その障害を乗り越えて自由に行動ができるはずなんです。あとはお年寄りもずっと寝ていると床ずれができたりして大変ですか。宇宙だったらそういうものはできませんから、ですから宇宙の利用というのは本当に無限の可能性があると思っていて、その無限の可能性を拓くために私たちは頑張っています。ですから早くそういう障害があったりとか、お年寄りの苦しんでいる方々も行けるような世界をつくりたいと私は思っています。
<ロシアの訓練で感じたことについて、仕事と家庭の両立について>
参加者: ロシアでの訓練で印象に残っていることは何かということと、油井さんは自衛隊出身だったということで、ロシアにいろんな思いがあるかもしれませんが、そのときにロシアの中に入ってみて、日本人だけではなくて地球人として何かを感じたかということをお聞かせ下さい。また、すごく多忙な日々をTwitterやホームページから拝見しています。長期出張もあると思いますが、どのように仕事と家庭を両立していますか。
油井: 私は今年1月から3月ぐらいまで、6週間ロシアにいました。それが初めてでした。私は自衛隊に勤めていましたので、ロシアはそこに行くまでは、はっきり言って心の中では敵視していました。何かされるのではないかと思って非常に不安でもありましたし、敵地に乗り込むような気持ちでロシアに研修に行きました。でも、実際行ってみると、ロシアの方は非常に優しくて、すごい親日家の方が多かったです。正直に話すと政治の問題はあるにしても、その方は「小さい島なんて返せばいいのにね」とか、「うちはこんなに広いじゃないの」とか言っていました。(笑)ですから、政府レベルの話と国民レベルの話というのは違うところがあって、私自身を恥じました。私は今、ロシア語が本当に必要だから猛勉強していますが、言葉だけではなくて文化と歴史も一生懸命勉強しています。それで何とかロシアと日本人がうまくわかり合えるような架け橋になりたいと思っています。何かが間違っていて相互理解と相互援助を妨げています。それを何とかしたいと私は思っています。そのために将来も働いていきますので、皆さんも私はTwitterとかでそういう話をすると思いますので、ぜひ聞いてください。もう一つ、どうやって家庭と仕事を両立させるかですが、これは実は家族にすごい迷惑をかけています。私は家族の面倒なんてほとんど見ていないです。Twitterを見ていただければわかりますけれども、そこは本当に妻にお世話になりっぱなしで、私は非常に妻に感謝しています。宇宙飛行士に関しては妻に、家族に手伝ってもらわないとできません。ただ、私が思うのは、妻の夢というのはわかっているつもりで、妻は私と一緒に暮らして幸せな家庭をつくるのが夢だと思っています。自分勝手かもしれませんが、時間があるときには妻の話を聞いて、一番重要なのは感謝の気持ちだと思います。私も夫婦喧嘩をしますが、そういうときというのは「俺がこんなに頑張っているのに、お前は何をやっているんだ」みたいな気持ちになりますが、それは絶対にだめです。基本的には私の妻はここまでやってくれた。俺は何ができるかなと考えることが夫婦円満の秘訣だと思っているので、妻に感謝を忘れずにいるというのが秘訣かなと思っています。
<スペースシャトルについて>
参加者: スペースシャトルは飛行機ですか、ロケットですか。
油井: スペースシャトルはロケットでもあって飛行機でもあります。打ち上げるときはロケットとして行って、帰ってくるときは飛行機になって帰ってきます。両方です。スペースシャトルは今、アメリカはプログラムが終わってしまったので、また新しくつくらないといけません。もし、日本がつくったら乗れるかもしれません。
<タウンミーティングの在り方について>
参加者: この会が始まっていて言うのもおかしいし、私が理解できていないのかもしれませんけれども、こういうミーティングは子どもさんとか若い方の夢を宇宙飛行士の方に御説明していただく会なのか、それとももう少し今、予算とか何かの面で国の事業としてある場合に、一般の市民も含めて、そういう問題点を話し合うという会なのか、そういうことも含めますともう少しセッションを分けて、今から子どもさんとか何かの夢あるいは課題や責務を語ります。もう一つではJAXAはどれぐらいの予算を使ってどれぐらいの人間でどういうふうにしていますというような、その分け方あるいは技術的な問題でも、今は電機会社みたいなものが中心になってやっているようですけれども、その下の下請なんかも技術論を含めて限界になっていないのか。例えばこれをやめると中小企業の技術力が絶えるというようなことも聞くんですけれども、そういうような部門がある。だからヒト・モノ・カネと言いますが、お金の分野、人の分野、ノウハウの分野、あと夢の分野を分けてミーティングをやらないと、2時間ぐらいの間にいろんな方がいろんなことを言ってまとまりがつかないのではないかと思うんですが、その辺はいかがですか。できたらそういうふうに分けてほしい。
西浦: 大変素晴らしい御指摘をありがとうございます。確かにおっしゃるとおりだと思うのです。今日は諸事情で遅れたスタートでございましたので、通常の形を飛ばしまして、お待ちかねの油井宇宙飛行士のプレゼンテーションに入らせていただいたのですが、実は、通常ですと、冒頭に広報部長からJAXAの概要、その中に、今まさに御指摘いただいた予算配分がどうなっているかとか、技術面ではどういうところまで来ているのか等を御説明するお時間をちょうだいしております。本日は、第二部の初めにそちらをさせていただきますので、今、御指摘いただいたことも含めて数々のお答えが出てくると思います。どうぞ、第二部もよろしくお願い申し上げます。
<国際宇宙ステーション(ISS)での楽しみについて>
参加者: 国際宇宙ステーション(ISS)に行ったらミッション以外に油井さん御自身が楽しみにしていることは何ですか。
油井: ミッション以外で楽しみにしていることは、あの青い地球を早く外から見てみたいです。先輩の宇宙飛行士の方々が皆さん言われます。言葉に尽くせない美しさで、人生観が変わると言うんです。私もそれを見てどんなふうに感じるかというのと、どんな言葉が出てくるのか。もしかしたら言葉が出ずに、ただ涙が出るのかもしれないですけれども、そういう体験を早くしてみたいなと思います。そこで感じたことを、私は言葉にするのは余りうまくないですが、何とかTwitterなんかでお知らせしたいですし、それをみんなが共有できる時代を早く築きたいなと思っています。
<コマーシャルについて>
参加者: 政府からもらうお金というものには限りがあるのかなという気がいたしますので、この間の古川さんが宇宙に行かれたときにコマーシャルに出ておられました。ああいったことをJAXAとしてやって、お金をいっぱいもらって、それを有人宇宙船の開発とか「はやぶさ2」とか、次の探査機といったもののお金の一部にはなるように工夫して、稼いでいただいて、それがベースとなって国が認めてくれるような方向性というのはないのかなと思っています。
吉村: 有償利用という話もありますが、実は寄附をお願いしています。おかげさまで100万円近くが有人宇宙活動ということでいただいています。これが非常に貴重なお金なので、これからそういうものを含めて一生懸命励んでいきたいと思います。アメリカの状況をちょっとお話すると、宇宙ステーションの低軌道までは民間に任せようという動きが出てきています。これにはIT、土地、証券などで随分お金を稼いだ人たちが資材を数百億円投資してやっていて、それを国がサポートしています。もし事故が起こったりいろんなことがあったときには、自治体のような大きな組織でサポートしないとどうしようもないので、例えばテキサスですと打ち上げ法案というものをつくって、民間が打ち上げするときにサポートしているというようなことをやっています。このような活動が今、アメリカでは起こっていますので、そういうことに日本も同じような形でならえれば良いのですが、お金の問題がありますし、それよりももっと大きいのがリスクです。いわゆる何かがあったときに、これをどう処理するか。人命を失うようなことが起こったときに民間では背負えませんので、それは国とか大きな組織体で背負わざるを得ないので、それをいかにサポートできるかということが1つの大きな課題になってくるのではないかと私は思っています。
寺田: コマーシャルの話ですが、これは枠組みとしては有償利用で、宇宙ステーションを使うということでお金をその分いただいて、コマーシャルに出ています。ただ、宇宙飛行士そのものには勿論お金は行きませんので、先ほど寄附の話もありましたが、確かにお金を払っていたただける意思のある方から、お金をいただけるよう少しずつ変えようとしています。
西浦: なかなかこれもいろいろな課題がありまして。何分にも所管省庁から指導を受けながらやっておりますので、民間企業や個人のようには出来ないことが多いです。只今、仰っていただいた心からの熱いお気持ちを有難く頂戴したいと思います。誠に嬉しい御意見をいただきました。