「第78回JAXAタウンミーティング in マルヤガーデン」(平成24年6月24日開催)
会場で出された意見について
第二部「イプシロンロケットの挑戦」で出された意見
<固体ロケットのクラスター化について>
参加者: 液体ロケットの打ち上げ能力を大きくするときには、幾つかのエンジンを束ねるやり方が主だと思いますが、固体ロケットの場合は、そのようなアプローチはなされないのですか。
森田: 固体ロケットの場合もクラスターにしてもいいんですが、普通はそういうことはしないで、単にノズルという燃焼ガスの出口を大きくしてつくります。何でそれでいいかというと、固体燃料ロケットはエンジンが要らなくて、燃料の中にあらかじめ酸化剤と還元剤を混ぜてつくってあるので、一旦火につけると液体ロケットみたいに混ぜて燃やす必要がありません。だから出口の穴さえあればいいということで、大きなロケットをつくりたいときには、その穴を単に大きくするようにするというのが基本的なアイデアです。もちろん、小さな穴をたくさん開けて、大きな穴と同じような効果を生むというアプローチもあって、それもいろんないい点がありますが、現時点の技術だと大きい穴を1個つくった方が簡単かなということで、そういうアプローチを主にとっています。
<固体と液体ロケットの違いについて>
参加者: 固体燃料ロケットと液体燃料ロケットのつくり方や費用の違いはありますか。
森田: 液体ロケットは、例えば、液体の酸素と液体の水素を混ぜながら燃やしていくので、自動車のエンジンと同じようにエンジンが必要です。液体ロケットのエンジンは車のエンジンに比べるとものすごく高性能にできていて、構造も複雑で、開発にも時間がかかり、値段も高く、出来上がったもののお守も大変です。一方、固体ロケットというのはそれと真反対で、最初から燃料の中に酸素に変わるものと燃えるものが入っていますから、エンジンはいりません。だから君が多分打ち上げている筒ロケットとか、野球場で飛ばしているジェット風船と全く同じで、穴さえ空けておけばいいという非常に簡単な代物です。だからつくるのにも余り時間がかからないし、値段も安いし、でき上がったものというのは何もしなくていいので子守も非常に簡単です。そういう違いがあって、我々は固体ロケットの研究もしているということです。では、そんなに固体ロケットでいいことばかりだったら、世界中のロケットを全部固体ロケットにしてしまえばいいではないかと考えると思いますが、残念ながら1つ大きなデメリットというか、気を付けなければいけないポイントがあって、固体ロケットの燃料というのは、最初から酸素に変わるものと燃料に変わるものが入っていて、間違って火をつけてしまうと爆発するようなこともあり得ます。例えばH-IIAみたいな大きなロケットを丸ごと固体ロケットにしてしまうと、万万が一のことがあると、種子島が島ごとすっ飛んでしまうという心配が多少あります。ただ、誤解しないでください。そういうことは絶対ないようにロケットというのはつくっていますから、そういう心配は一切要らないですが、万が一のことを考えると、大きなロケットの場合には液体ロケットの方が向いていて、小さいロケットなら、万が一のことがあっても、被害が限られているので固体燃料ロケットのメリットが生かせそうということで、種子島のロケットはすごく大きい。内之浦から上げている固体ロケットはとても小さい。その大きさの違いはそういう性質の違いに由来しています。
<ロケットの残骸について>
参加者: 打ち上がった後のロケットについてですが、低い位置で離脱したものは大気圏に突入したときに燃えてしまうと思いますが、宇宙空間に行ってしまった後のロケットは、デブリになってしまわないのでしょうか。もしデブリになってしまうのであれば、JAXAとして対応を考えているのでしょうか。
森田: ロケットに限らず、人工衛星を含めてデブリ問題というのは、JAXAの研究テーマの中でも最も大きいもののうちの1つになっています。ロケットのお話をしますと、先ほどおっしゃったように1段目というのは割合、内之浦に近いところの海に落ちていきます。2段目はもう少し先だけれども、海に落ちていきます。イプシロンロケットは3段式で、3段目で人工衛星を軌道に乗せます。ということは、3段目は自動的に人工衛星の軌道と同じような軌道に乗ってしまいます。ただ、ロケットの場合、人工衛星と軌道が微妙に違っていて、近地点と言ってロケットと地球が一番近づくところの距離がやや低めなんです。そうすることによって何が起こるかというと、大気の比較的厚いところを何遍も通るうちに、割合早く大気圏に突入してくれます。要するにデブリに一旦なってしまうんだけれども、比較的短い期間で大気圏に突入することによって、デブリになっている時間を最小化しようという作戦で今はやっています。ゆくゆくはいろいろなロケットの物をあらかじめ決められた場所に速やかに落とすことによって、軌道上にデブリとして滞留することがないようにしようという研究を今、進めていて、実際にH-IIAロケットではそういったことの実験も始めているところです。
<イプシロン打上げ場の改良工事について>
参加者: 秋の内之浦の特別公開のときには、イプシロン(射場)の改良工事というのは始まっていて、完了した状態になっているのですか。
森田: 工事中の状態だと思います。内之浦の施設の中で何が一番大物の改修かというと、一番大事なところのランチャーの整備塔というロケットを打つ一番中心の部分です。その工事が来月ぐらいからようやく始まるという段階で、秋はまだ工事中で、終わるのが来年3月を予定しています。ですから来年3月ぐらいになると、どういう形でイプシロンを打つという地上の姿がようやくでき上がります。ただ、秋の50周年の施設公開のときには、それに近い状態だと思うんですが、いつもの目玉のランチャー出しの練習みたいなものがどういうふうにご提供できるのかというのは、少し考えた方がいいかもしれません。
<鹿児島の人材育成について>
参加者: 鹿児島はロケットや宇宙に興味深い人が多くて、人材の供給源だと思っています。育っていくと県外に出るというケースが多いという話を聞いていますが、鹿児島にロケット工学的なものをJAXAさん提供の下に開設して、優秀な人材を鹿児島から出ないように、JAXAからのバックアップは何か期待できませんでしょうか。
森田: 優秀な人材を外に出さないようにしようというのは難しいと思いますが、1つ壮大なスケールの話が既にあって、私が存じ上げていない部分なので後でフォローしてもらおうと思いますが、固体燃料ロケット関係で考えているのは、内之浦に観測所というか打ち上げ実験場があります。今は小型の観測ロケットと、来年以降はイプシロンロケットの打ち上げに使われるんでが、そういったところに研究、教育用の実施機関としての機能を持たせたりとか、例えば全国のいろいろな学生さんのロケット打ち上げ実験の基地にしようとか、あるいは小さな人工衛星、イプシロンのおまけに乗せるような、また、サンサットといったような小さな人工衛星をつくるような拠点もそこに置けないかというようなことを考えています。そういったことが実現したあかつきには、ロケットについて考える人、あるいは人工衛星について考える人が内之浦という、あるいは鹿児島県という現場に必要になりますから、高専の方とか大学の方、卒業生の方に積極的に参加していただく場というのが、ゆくゆくはつくりたいと考えています。
佐々木: 県外に行かないという直接的な答えの一歩手前なんですけれども、今、JAXAでは全国のいろいろな大学と連携大学大学院というものを進めています。鹿児島大学さんも連携大学院をJAXAと一緒に持っておりまして、要は大学にJAXAの技術者、サイエンティストなどが授業をしにくるということで、学習の協力を行い、宇宙のアイデアを学生さんに少しでも持ってもらえたらなというねらいがあります。勿論、その中から直接携われる方、そういう方は何がやりたいからそれをやれる場所に行くということにどうしてもなってしまうんですけれども、それとは逆に、先ほど私は第1部の冒頭で、宇宙を様々な形で皆さんに使っていただきたいというお話をさせていただいたんですが、例えば産業界にも宇宙を使っていただきたいと思っています。小さな町のいろんなアイデアでやられている方だったりですとか、工場だとかいろんな商品、商店街の企画、あらゆるところに宇宙は使えます。皆さんの地元が大好きだな、ここを離れずに何か宇宙でできればいいなと思うところも、実は御支援させていただいているので、そこはJAXAの中に産業連携センターという部署があったり、どこに相談していいか分からない場合には、広報に御一報いただければと思うんですが、地元で宇宙ができるという環境をJAXA、それから、地元のいろいろな経済界の皆様、学校、一緒になってやるとすると、どこに住んでいても、何をやっていても宇宙ができるよということにつながるのではないかと思います。1人だけではなく、みんなで協力して進めるのがこれからの我々の生きる道ではないかと思っていますので、是非いつでも一緒にやりましょう。
西浦: 宇宙に大変関心を高くお持ちいただいているこの鹿児島の皆様が、たとえ県外に出られても、宇宙に華麗に携わっているのは鹿児島出身者なんだという意識で、そうした方々が増えるということも、鹿児島県にとって誇らしいことではないかなと私は見ています。私が客員教授を務めております山口大学の工学研究科の大学院生たちが、JAXAがリモートセンシングで得た超大な解析データを、整理したり、更に詳細にデータ化したりといった手伝いもしておりまして、常に産学連携面の発展を意識しています。
<イプシロンロケットの能力向上について>
参加者: イプシロンロケットの能力よりも少しだけパワーが必要な衛星のリクエストがあった場合、イプシロンロケットの横にブースターをつけるようなやり方をとるのか、それともH-IIAロケットで打ち上げるという方法をとるのか、どちらの方をJAXAさんはとられるのでしょうか。
森田: 後者はなかなか難しい部分があって、例えば来年打ち上げるSPRINT-Aのような惑星望遠鏡は、惑星を見ますから惑星の位置というのが重要で、木星と土星と金星がこんな関係にあるときに打つと全部観測できるけれども、何も考えないと1個しか観測できないみたいなことがありますから、どうしても打つ時期が決まってしまいます。そうすると軌道も決まっているし、時期も決まっているというと、なかなか相乗りとかピギーバックというおまけのミッションでは対応できません。これがイプシロンロケットのような小型ロケットが必要な一番の点です。そうすると、簡単に考えるとイプシロンで能力を増やすことを考えようという話になりますが、サイドブースターをつけることが、一番簡単ですが、値段が高くなってしまいます。また、ロケットの本数が増えることで、構造が複雑になってシンプルさが損なわれ、イプシロンみたいになるべくみんなの宇宙への敷居を下げようという思いに対しては、余り具合がよくありません。今、私たちがいろんな要求に応えようとすると、能力を少し増やしておきたい部分もあるので、ロケットを軽くつくることによって、同じ燃料のパワーがあればロケット自体が軽くなるので、それだけ人工衛星の重さを増やすことができます。具体的にはどういうことかというと、イプシロンロケットの構造のパーツを見ると、アルミ合金などいろんなところに金属が使われています。そういったものは鉄よりは軽いですが、プラスチックよりは重たいということで、金属の部品を順次プラスチックに変えていくという改良をやろうとしています。例えば飛行機で言うと、ボーイング787は金属をプラスチックに置き換えて、今のところ成功しています。あのような取組みをロケットでもやろうとしています。もう一つ大事なポイントは電気部品です。ロケットにはいろいろな電気部品が載っていて、誘導制御とか通信とかいろんな役目を果たしています。ロケットは信頼性が大切で、信頼性というのは絶対壊れない確からしさのことですが、それを追い求めると何が起こるかというと、古い実績のある部品を使おうとするわけです。そうすると、ロケット業界とか衛星も同じですが、みんな手堅い古い部品を使っていて、古い部品というのは最新の部品に比べると重い、大きい、高い、3拍子そろっています。こんなことではこれからはやっていけないということで、最新の部品を安心して使えるような枠組みをつくろうとしています。最新の部品をロケットに載せることができれば、軽くて小さくて安いと逆の3拍子がそろって。結果的にロケットを軽くすることができて、打ち上げる人工衛星を重くすることができます。
<ロケットの量産効果について>
参加者: コストの面で年に何例ぐらい打ち上げたら、量産効果というのが出てくるとお考えでしょうか。
森田: ロケット業界では、1年間に10基ぐらい打てば量産効果があるということになっています。携帯電話とか自動車は月産何万台ですから全然けたが違うんですが、大体年に5基、10基と打っていくと量産効果が出てきます。数を増やすことによって小さい効果をどんどん増やそうというのは、イプシロンの目的の1つです。むやみに人数や値段を減らそうとしているわけではなくて、回数を増やすことによって人の教育とか製造原価の売上げといったところもしっかり確保していきたいというのが、イプシロンの狙いです。同じ予算だったら数多く打ちましょうよというのがこういうことなんです。そういうことで年に5基とか10基打てばロケット業界には量産効果が出ますから、頑張っていきたいと思っています。
<将来のロケット像について>
参加者: スペースプレーンなどの空港から離陸して宇宙に行って、そのまま帰ってくるというものにイプシロンロケットのモバイル管制を活かせたらなというお話がありましたが、具体的にどのような感じになるのでしょうか。
森田: 今のロケットの点検とか、打ち上げの準備は何週間もかかっているわけです。未来のロケットというのは、私のイメージでは飛行機で、先ほど飛行機のように飛んで行って、飛行機のように帰ってきて、また飛行機のようにすぐ飛んでいくとお話しましたけれども、ああいう世界が未来の宇宙に行くロケットの姿だと思って一生懸命やっています。そのために何が必要かと言ったら、帰ってきたらすぐ飛んで行けるような素早い点検、整備というものが一番大事だと私は思っていて、そのために必要なことを今イプシロンで世界に先んじてやろうというのが目的です。ですから何もここまでやらなくても、今のロケットというのは別にどうってことない部分もあるんですが、未来のロケットを考えたら今こういうことをやっておくべきだろうというのが、私たちの考えなんです。私が生きているうちにそういうロケットができるかどうかわかりませんけれども、是非若い人たちはそういう気持ちで宇宙開発にも興味を持っていただけたらと思います。
<ミッションバッジについて>
参加者: 皆さんが付けているバッジの意味を教えてください。
西浦: 一番上はJAXAの職員バッジです。そして下のバッジは「しずく」という、先月5月18日に打ち上がりました水循環変動観測衛星の「しずく」(GCOM-W1)のミッションバッジで、ADC賞など、多数授賞された高名なグラフィックデザイナーの天野幾雄先生にデザインしていただきました。なけなしの予算の中で、おがみ倒して、JAXAの活動がいかに我が国、そして人類の発展に寄与しているかということにご理解とご賛同を得て、チャリティ価格でお引き受けいただきました。少し補足させていただきますと、毛筆で「しずく」と平仮名でどなた様にもわかりやすくしております。海外でも評判でして、NASAの方にもうちのバッジと交換してくれ、欲しいんだけれどと。日本の墨で描いた筆文字は、世界の方々が強いあこがれを抱いています。それを見越して、こういうデザインをお願いしたので、それが的中いたしました。その下が、7月15日にバイコヌールから星出宇宙飛行士がISS長期滞在のため発ちます、そのミッションバッジです。これまでも、たくさんのミッション実績がありますが、最近のものだけを付けてまいりました。
森田: 私が付けているイプシロンのバッジは、毎年内之浦の実験場で行っている施設公開という公開イベントがあるんですが、去年の公開イベントで一般の方にお配りしたバッジを、私が一人の参加者としてもらったものです。おそらく今年11月にも、また施設公開が内之浦であって、もしかしたら何かあるか、あるいは最近宇宙予算も厳しい中で、なかなかこういうものをつくっている余裕もそろそろなくなってきたので、ないかもしれませんが、何らかのサービスが実験場であると思いますので、期待いただければと思います。皆さん11月に内之浦の観測所で、内之浦観測所開所50周年という記念のイベントがありますので、ふるって御参加いただきたいと思います。