「第78回JAXAタウンミーティング in マルヤガーデン」(平成24年6月24日開催)
会場で出された意見について
第一部「種子島宇宙センターと液体ロケット」 で出された意見
<種子島での従事者の数について>
参加者: 種子島にJAXAの職員は何名ぐらい働いていて、ロケットを打ち上げる際には、種子島に何人ぐらい訪れるのですか。
長尾: 正確な数は分かりませんが、まずJAXAの正規職員だと、現在60名ちょっといます。JAXAの正規職員でない方(他企業職員、保全会社職員など)を含めると、その何倍にもなって、定常的に宇宙センターで勤務している人数は、300から400人ぐらいになります。打ち上げの際は、それぞれの技術者や打ち上げの見学のための人数も加算すると、種子島の宿泊施設がほぼ埋まってしまうぐらいの人数になるので、定常時の何割増しになっていると思います。
補足:常勤者は68人。打ち上げに従事するJAXA職員数のみ(HTVを除く)では、150名程度(後方支援系業務(広報、総務・渉外)は含まない。)
<種子島からの有人飛行について>
参加者: 種子島から人が乗れるロケットが飛ぶ可能性がありますか。また、私たちが生きている間に見られるでしょうか。
長尾: 我々は真剣に有人ロケットを考えて、将来打ち上げたいと思っていて、宇宙開発戦略本部にもそのように上げています。ロケットに人が乗るか乗らないかというのは、本当に万が一のときに脱出するシステムがちゃんとできるかとか、人間が乗った環境で打ち上げられるかというところですが、7月にも打ち上げます宇宙ステーションの補給機HTV「こうのとり」は、そのすべてではないですけれども、人が乗れるぐらいの環境で設計されています。それをまた回収するとか、安全に打ち上げて万が一のときには脱出できるとか、そういう装備を開発すれば可能だと思っています。ただ、かなりコストがかかるということで、日本の今後の戦略としてどのぐらいのコストをかけていくかということを含め、私たちが生きている間に打ち上げられればなと思います。
西浦: 技術面は既に有人飛行に向けて十分備えはあると思っていますが、大変なお金、予算が必要となるので、これは政府の決定事項になります。有人飛行に関しては、中国に先を越されてしまっているので、物資の輸送機である「こうのとり」の技術もあることですから、物の代わりに人間が乗ったらと考え研究開発を進めながら、宇宙に行くことを目指してやっています。皆様の支持、応援があったら後押しになるのではないかと思っています。
<LE-Xエンジンについて>
参加者: LE-Xエンジンは、爆発しないということですが、今までのエンジンと何が違うのですか。また、その技術はもう確立しているのですか。
長尾: 少し強調し過ぎているところがありますが、ロケットエンジンは、現在、2段燃焼サイクルというものを使っています。性能が高いエンジンが一応できていますが、ちょっとしたタイミングでガスの温度や圧力が上がってしまうようなリスクがあります。今は、信頼性が十分高いところまできていますが、人間を乗せた場合にどうしても初期開発時の試験での苦い経験があるものですから、技術者としては、頭から離れない部分があります。それに対してエキスパンダブリードサイクルでは、実際に試験をして、そういう現象は出ないということは分かっているので、このエンジンを適用した方が気持ちよく人が乗れるのではないかと思っています。安心して、精神的にも良い状態でいられたらとこのエンジンの発想としてあります。技術的には、このサイクルをどのように設計をすればいいか、だいたい分かっているので、現在は、設計を詰めている段階です。
<有人飛行の帰還方法及び場所について>
参加者: 有人宇宙飛行だと、必ず戻ってくる場所が必要になると思います。種子島で滑走路などの戻ってくる場所を考えると、種子島以外の場所も考えられると思います。今後も鹿児島で打ち上げから着陸まで行ってもらいたいと思いますが、戻ってくる手段や場所はどのように考えているか、今後の展望をお聞かせください。
長尾: 私見でお答えしますと、まず滑走路を使って戻ってくるというのはスペースシャトルのタイプです。以前、日本も「HOPE」という無人の有翼の宇宙船を飛ばして戻ってくるという構想もありましたので、滑走路として馬毛島、大樹町、海外なども検討もありました。現状は翼を付けて滑降するタイプというよりは、昔からの宇宙船で使用していますパラシュートによって、着水・着陸するタイプが簡単といいますか、一つの道だと思っています。陸地に降りるか、海に降りるか二つに一つだと思いますが、種子島にピンポイントで陸に落とすというよりは、海に落とす方が自然かと思いますが、陸地に降ろす場合にはある程度広いところが必要かなと思います。日本というか地球上のどこに落とすかというのは選択の余地があるんですが、どこに落としても人間、宇宙船をいかに早く回収できるかということが一番のポイントだと思っています。
<エンジン開発の燃焼試験について>
参加者: 種子島で燃焼試験をされているというお話がありましたが、エンジンを開発するときに大体どれぐらいの時間と費用が必要で、これぐらいの時間、年に何回ぐらい燃焼試験を行いたいなど、現状をお教えください。
長尾: 燃焼試験は各国特徴がありまして、アメリカはアポロ計画とかスペースシャトル計画のときには、とにかく量、たくさんの台数のエンジンでたくさんの燃焼時間をこなし、これが有人ロケットに対する絶対的な強みでした。相当な時間とコストをかけ、大がかりな実験装置をつくって行ってきました。その他の国になりますと、余り情報がありませんが、ロシアもたくさん物をつくり、たくさん燃焼試験を行ってきていると思います。日本の場合にはまだ有人を行っていないので、信頼度をある程度まで稼いだらいいのではないかということもあって、他の国の何分の1という規模で開発を行っています。実はそこにちょっと反省もあって、H-IIAロケットの前のH-IIロケットでは、打ち上げに2回失敗して、1段エンジンと2段エンジンとそれぞれ1回ずつ失敗しました。ただ、試験の規模を大きくしさえすればよいということでなく、実験の解析とか弱点を過去の経験や頭を使って絞り込んで、重点的に試験や解析を行い、確立していければいいのではないかということで、今の使っているエンジンの改良型はそういうような観点で試験をしています。それをやりますと、相当回数や期間を短くできます。具体的に何回で幾らぐらいという数字が出てきませんが、頭を使って安く開発するということを現在、目指しているところです。
<JAXAが一般市民に望んでいることについて>
参加者: JAXAさんから見てどのようなことをしてほしいか、どんな気持ちでいてほしい、また、どういうことを我々に望んでいるのか。例えば孫に宇宙飛行士になれという教育をしてほしいのか、それとも会社の社長になって機構に寄附するような人間になれと教育すればいいのか、どんなことを市民の方々に望んでいますか。
長尾: 個人的な意見ですが、宇宙に関して興味を持っていただく方々が増えることが一番だと思っています。宇宙飛行士になるとか、会社の社長さんになって寄附するというのも、いずれも好ましく、お願いしたいと思っています。JAXAが独りよがりで宇宙開発をすることはよくないと思っていて、日本国民のためになるような道を歩んでいけるような、その道に入っていただいても結構ですし、周りからサポートしていただく形でもいいと思っています。ただ、宇宙に対しての御理解と興味を持っていただければいいのではないかと思っています。
西浦: 非常にありがたいお志をお持ちのお客様で、是非お願いしたいと思います。私どもの組織の中で、この両名の登壇者のように、技術者、エンジニアは宝でございます。科学に興味を持って、エンジニア志望の方が増えてくれたらいいなと思いますし、宇宙飛行士も向井千秋さん、山崎直子さんのように、女性の宇宙飛行士も複数います。ですからいろんな形で皆様に応援していただける状況だと思っています。私どもの開発機構は、国民の安全と豊かな暮らしのためにということを最優先に考え、しっかりしたナショナルセキュリティによる安全・安心、防衛の面でも貢献させていただいておりますし、豊かな生活は衛星放送、ナビなど、身近なところで他にもいろいろあります。そして私ども広報も頑張っておりますので、宇宙関連の事務職系の人材の育成にも力を入れています。
佐々木: 宇宙開発に直接携わってくださることを期待するということもありますが、私たちは何のために宇宙開発をしているかというと、みなさんにいろんな意味で宇宙を使っていただきたいと思っています。得られた成果を地上の皆さんや企業、学校、地域の団体、もしくは個人のアーティストなど、いろんな方が使ってくださることをすごく期待しています。「はやぶさ」効果もあり、宇宙を題材にした映画や小説ができたり、また絵を描いてくださったり、音楽をつくってくださったり、そういう方々も増えてきています。宇宙が身近になってきているのかなと感じています。特に鹿児島県の皆様は地理的にも近いので、宇宙を身近に感じていると思いますが、夢の端っこに宇宙がいつもあるような感じになっていただけると、宇宙は新しい発見もあるし、便利にもなるということで、将来に対して明るい光の1つかなと思っています。その気持ちをどうやってJAXAにやらせるかということを考えていただき、厳しい御意見をいただければなと思っています。
西浦: その夢の部分もとても大切だと思いますし、その一方で具体的に地震、災害、火災、水害いろんなことにも実質的に皆様の安全のために役立たせていただいていますので、引き続き大きなご支持をいただければ、ありがたく存じます。