「第77回JAXAタウンミーティング in サンシャインシティ」(平成24年5月6日開催)
会場で出された意見について
第二部「身近な人工衛星利用」で出された意見
<衛星の寿命について>
参加者: 衛星の寿命はどのぐらいなのでしょうか。
舘: 衛星はいろんな理由で寿命が決まっています。1つは燃料です。月や太陽の引力などで軌道が少しずつ変わっていきますので、そのたびに少しずつ燃料を使って維持しています。燃料が尽きてしまうと制御できなくなって寿命となります。太陽電池パドルもそうです。宇宙放射線に当たって劣化し、発電量がどんどん減っていきます。更にはバッテリーも寿命があって、車のバッテリーがだめになるのと同じです。ほかにも電子機器にも寿命があったり、あるいは駆動してぐるぐる回っているところにも摩耗などで寿命があります。通常は5年から長いものでは10年ぐらいで設計されています。
寺田: 地球観測衛星などの高度700kmぐらいを飛んでいる衛星は、太陽が当たる時間と地球の影に入る時間が交互に90分のうちにやってくるので、バッテリーの劣化が激しく、軌道も頻繁に変えないといけないということで、寿命は、だいたい5~7年ぐらいです。GPS衛星は古い世代のものが7年、新しい世代になるともう少し長くなって10~12年ぐらいです。初号機の「みちびき」は10年が寿命で、実用準天頂衛星は15年を目指していて、静止衛星の標準的な寿命は10~15年くらいになっています。
<(1)衛星での災害支援について、(2)衛星の機能について>
参加者: (1)東日本大震災のときにも人工衛星が活躍したという話がありましたが、回線を使ってその情報を提供するとかではなくて、映像の精度を上げて被災されている人を探すとか、電波で人を探すことができるのか教えてください。
(2)人工衛星には1つの機能しか持たせられないのか。例えば2つ機能を持たせて効率よく運用することができないのですか。
舘: (1)まず人が見えるかということですが、分解能を30cmとか10cmにできないわけではなくて、やろうと思えばできると思います。ところが、先ほど言いましたように静止衛星ではないのでずっと同じ場所を見ていることができません。来た時には見えるかもしれないけれども、その時に人がいなかったら見えません。ですから、人を見つけ出すのはなかなか難しい技術です。
(2)1つの衛星で2つの機能はできないかということですが、それはいろんな組み合わせがあると思います。具体的に言うと「ひまわり」の7号機は通信衛星の機能も持っています。正式には「運輸多目的衛星(MTSAT)」と呼ばれていますが、2つの機能を併せ持つものです。組み合わせによってはうまい組み合わせをつくることができるし、なかなか組み合わせが難しいものもあったりします。
<衛星のコスト削減について>
参加者: 日米衛星調達合意でもって、気象衛星を打ち上げるときに国際競争入札でやらないといけないと伺っていますが、コスト削減の努力というか、民間でやらせるという意見もあると思いますが、JAXAとしてはどういうことをやっているのでしょうか。
舘: 衛星には機能的にバスと、それに載せるミッション機器に分けることができます。ミッション機器は、最先端の技術。バスについては、今まである技術を使って、昔に比べると相当コストを押さえています。JAXAではなかなか難しいですが、「しずく」はシリーズ化しようとしていて、同じものを何機もつくることで、2機目以降はコストダウンを図ることができます。日米衛星調達合意はあくまでも民間企業がやるような調達に対してであり、いわゆる研究開発の要素がないものについての調達合意です。これは一般的にJAXAとしては影響するものではありません。
<温暖化の原因について>
参加者: 温暖化の原因は炭酸ガスなのか、太陽活動の問題なのか研究は進んでいるのでしょうか。
舘: 一体どれぐらい二酸化炭素が増えているのか、あるいは排出しているかもわからないまま二酸化炭素の影響だということではなくて、まず本当にどのぐらい排出しているか知ることが大事だと思います。その一歩として、「いぶき」という衛星を打ち上げています。今までも地上での観測はありましたが、太平洋の真ん中などは観測点がありません。ところが、人工衛星は、地球上を回っていますから、全球を観測することができます。まずは知ることが大事であって、二酸化炭素がどれぐらいあるかということを知った上で二酸化炭素の影響なのか、あるいは別のものなのかというのは、これから研究していけばいいと思います。
<(1)GPSの日米合同開発について、(2)GCOMについて>
参加者: (1)日米首脳会談でGPSの日米の合同開発という話がありましたが、それにおいてのJAXAの関わりについて教えてください。
(2)GCOMでWとCと分けて開発されていますが、分けた理由があれば教えてください。
寺田: (1)野田首相はアメリカで、宇宙開発について3つほど協力の話をしました。1つはGPS、準天頂衛星の協力。2つ目は地球温暖化ガスの宇宙からの観測。3つ目が、宇宙ステーション2016年以降の継続した運用です。今まで日本の首相とアメリカの大統領で宇宙の話をするというのはほとんどなかったのではないかと思います。野田首相も宇宙開発に対して御関心があるということで、宇宙開発に携わっている者としては非常に嬉しく思っています。準天頂衛星でどんな協力をするかというと、実はGPS衛星というのは30機ぐらい運用しているんですが、ビル影や山影だと十分な測位ができないという欠点があります。そこに対して準天頂衛星がアジア・太平洋地域でGPSの補完補強するという機能を持っていれば、非常に有意義であるということで合意されました。JAXAがこの件にどう関与するかというのは、まず先ほど技術実証という言葉を出しましたが、準天頂衛星初号機「みちびき」を使って何ができるか、どんな成果が出ているか実証しているところです。
舘: (2)GCOMというのは、Wという、これはWater(水)の略で水循環。CというのはClimate(気候)で気候変動。ともに15年ぐらいそれぞれ観測しようということでやっています。例えば太陽の活動が11年周期ですから、それを考えるなら15年ぐらい観測しないとわからないということで、WとCともに1~3までつくる計画です。なぜそれぞれ分けたかというと、従来は非常に大きな人工衛星にたくさんの機器を載せていましたが、これは開発費がかかるということで、現在では、大体1つか2つのセンサを搭載した衛星というのが世界の潮流となっています。
<衛星の打ち上げ順位について>
参加者: 観測衛星、通信衛星、探査衛星などの打ち上げの優先順位というのはどこで決めて、打ち上げは何年ぐらい前から決まるものですか。打ち上げる衛星が決まってからロケットをつくるのか、ロケットの計画があってそれに乗せる衛星を決めているのかお教えください。
舘: まずこういうミッションの衛星をつくりますと、国に認めてもらってから開発を進めます。通常の人工衛星をつくるのにだいたい4~5年、長いものだと10年ぐらい開発にかかります。ロケットは、通常3年ぐらい前から開発をしています。衛星の順番についてですが、難しい問題です。地球観測衛星も打ち上げなければいけないし、寿命でミッションを終えた後継機も上げなければならない。そのほかの衛星もあったり、いろいろと勘案した上で決まっていきます。どうしても予算の枠の中で切ることがあって、探査衛星、科学衛星、地球観測衛星、通信衛星、それぞれ万遍なく打てるのが理想ですが、多少でこぼこがあると考えてください。
<JAXAの広報について>
参加者: 今後JAXA i のような施設を今後設置されれば、大変ありがたいと思っている人が大勢いらっしゃるのではないかと思っています。また、JAXAの職員の方がテレビ、ラジオ、新聞、雑誌等にインタビューあるいは寄稿された記事が掲載されるという情報をまとめたものがあると大変ありがたいと思っています。何か取組みがあれば、教えてください。
寺田: ご指摘を改善すべく、いろいろ努力したいと思っていますが、残念ながらJAXA i というものを再構築するというのは、なかなか難しいかなと思っています。JAXAの事務所は現在、丸の内にありますが、来年4月に事務所を移転しますが、移転した際にはもう少し情報が発信できるような機能を付けていきたいなと思っています。また、活動の紹介をするチャンネルとして、科学館と協力して情報をお見せできるような取組みを行いたいと思っています。JAXAの情報が手に入りにくいということですが、最大の問題は今のホームページかなと思っています。行きたい情報にアクセスしにくい、欲しい情報がすぐに手に入らないという課題があります。ちょっと時間がかかるかもしれませんが、全面リニューアルでホームページの改善を図ろうとしています。またそれについては皆さんから、こういう情報にアクセスできるようにという御意見をたくさんいただければなと思っています。
西浦: ホームページに関しましては、少なくとも二年ほど前から改善しなければという意見を内部でも述べていて、皆様からのご指摘にも後押しされる形で、改善事項の議題に上がりました。ただ、民間企業と違って、公の機関JAXAでは、仕分けられながら来年度予算の中に、これは入れることができるかとか、どういうふうに業者を選定するかとか、越えなければ前に進めないハードルが多々あることも確かです。ですので、心苦しくも、現実の再スタートに漕ぎ着けるまで、ちょっと普通の感覚よりもお時間を頂戴することになってしまうのです。決して放っておくつもりはないので、もう暫くお待ち下さい。また、なぜ「しずく」の打ち上げのことをもっと前から宣伝しないのかというご意見も頂戴しましたが、我々のロケット開発の遠藤理事が、先週の杉並区タウンミーティングでもご紹介させて頂きましたとおり、打ち上げ事業自体は三菱重工業さんに移行しています。今回は、JAXA「しずく」打ち上げに際し、韓国の衛星も同じH-IIAロケットに搭載することになっているのです。昨年来、韓国の衛星の準備が期日に間に合わず、打ち上げ日を延期したこともあり、余り前もってこの日とか、断定の上、早々と発表ができない事情がありました。今後は、我々の都合で内部的な延期があるかも知れませんし、随時、諸事情に配慮しながら、できるだけ確定してからの発表を目指しています。閉鎖的で通用する時代ではありませんから、こうして、少しでも情報開示を出来るときに可能な範囲で行い、いち早く、皆様にお知らせできるよう、心がけています。
JAXAの広報施設についてですが、新たに土地を用意し、建物を建ててとなると、実現が遠くなってしまうでしょうから、あくまで、私個人の意見ですが、北の丸公園内にある科学技術館のようなところが、もし、将来、建て替え計画が持ち上がったときには、一部でもJAXAの情報発信拠点、そして日本が誇る宇宙開発や成果の展示スペースとして使わせてもらえたら有効的かつ合理的なのではと思うんです。理想と現実のひらきは大きいので。でも皆さん、くれぐれも、これは私の個人的な願望に基づいた話ですから(笑)。
とにかく、これからも応援していただけると嬉しいです。