JAXAタウンミーティング

「第77回JAXAタウンミーティング in サンシャインシティ」(平成24年5月6日開催)
会場で出された意見について



第一部「糸川博士生誕100周年 ペンシルロケットから始まった日本のロケット開発」 で出された意見



<国民への広報について>
参加者: 「しずく」が5月18日に打ち上げられますが、これがどういうふうに国民に還元されるのか、もう少し宣伝してみてはどうかなと思います。ロケットや人工衛星は重要だと思いますが、衛星が観測したデータを、我々の生活にどのように還元されているのか、どのぐらい広報しているのか教えてください。また、宇宙開発予算は、ロケットや衛星というようなハード関係に多くが使われており、「ひまわり」のように、もう少し国民に還元するような利用に目をむけたお金の使い方をして欲しいと思うが、JAXAは、どのような考え方でお金を使っているのか教えて欲しい。
舘: JAXAでは毎年国民の意識調査を行っており、一昨年12月時点で「しずく」の認知度は、0.1%か0.2%でした。630人にアンケートをとっているので1人か2人です。今年は4%に上がり、これが打ち上げ前になると、メディアの露出が増えて、10~15%ぐらいになります。このように徐々に名前も浸透し、役割もわかっていただけると思っています。人工衛星は、使われてなんぼで、気象衛星は、JAXAが開発したことを知らない方もいるぐらい日常的に使われています。しかし、最初は一般の国民には何をするのかよくわからないという時代から今のようになっています。
寺田: JAXAは初号機で技術実証を行い、その後は利用あるいは実用準天頂衛星は政府が打ち上げます。JAXAは研究開発し、実証して、実用に結び付けていく橋渡しの部分を行うのが基本的な考え方だと思います。ただ、どこまでやれば実用になるかというのは非常に難しい問題で、例えば環境観測の衛星というのは、なかなかビジネスに直結しないということもあって、かなりの部分JAXAがやっていかなければいけないのかなと思っています。政府あるいは民間が引き取るまでの橋渡しをどこまで行うかということが非常に大きな問題です。
西浦: 「しずく」は、宇宙から地球の健康診断をします。水循環と気候変動を観測することによって、環境問題の対策や災害時の助けとして役立ちます。また、宇宙技術の産業レベルでは、缶チューハイの缶の軽量化があります。軽量化することで、輸送時のエネルギーを削減してエコに貢献しています。あと、ゴミを再生する研究開発も行われています。災害対策や環境問題の宇宙利用は、幅広く認知して頂けるようになりました。民間需要分野でも、例えば漁業や農業、林業も入りますよね。遠隔医療・教育とか、他にもいろいろな可能性があります。国際的にも津波や山火事をピンポイントに現地に情報提供して、早急な災害対策に寄与貢献しています。

<(1)キセノンガスについて、(2)宇宙の資源開発について>
参加者: (1)「はやぶさ」のイオンエンジンの燃料のキセノンは、希ガスで非常に高価な物質だと聞きましたが、どのように採取するのですか。
(2)日本は資源が少ないので、宇宙から資源をどのようにして採っていくかということも考えなければいけないと思いますが、そのような研究は進めているのでしょうか。
的川: (1)キセノンをどうやって採るかは私はよく知りません。イオンエンジンの噴射物としては、水素もあったのですが、軽いと推力が非常に小さいので、重いキセノンを使用しました。キセノンより重い物質で水銀がありましたが、他の部品などに影響が出たもので使用できませんでした。
(2)アメリカで産業化の話がでて盛り上がっていて、良いことだと思いますが、宇宙で資源を採取して、持ち帰ることは、現実的にはなかなかできるようなものではありません。月の利用の仕方は各国でいろんな議論があって、日本でも幾つか基礎研究がだいぶ進んでいる部分があります。月で発電をして、マイクロ波で地上に送れば、発電所を一掃できるのではないかという話もあったりしますが、理論的には成り立ってもなかなか実現できないだろうと考えています。資源の問題に関しては、地球以外のところに資源を求めるよりも、地球の中の資源を最大限追求することが、正常なやり方かなというのが私の意見です。

<LNG推進系について>
参加者: LNG推進系のロケットを開発していますが、簡単に説明をお願いします。
寺田: LNG推進系というのは日本が独自に開発しています。ロケットの燃料にはH-IIAで使っている液体酸素、液体水素というのがあります。なぜLNGを使用するかというと、水素というのは非常に分子が小さく、貯蔵するのが難しいので、LNGというメタンガスを使うと貯蔵性がよいということで、将来の宇宙間輸送機に役立つと考えられ、開発進めています。それを技術立証するべくいろんな試験をやっている状況です。

<宇宙教育の現状について>
参加者: 小学生の親御さんなどに、宇宙教育の取組みをもっと広く知ってもらうことが大切だと思いますので、現状や取組みについてお話していただければと思います。
的川: 小学校も中学校も、達成目標の中には生きる力を養おうということがありますけれども、宇宙の成果というのは大事だと思っています。宇宙教育というものは、宇宙を一生懸命教育したり、気象衛星のことを教えたりということが目標ではなくて、それはあくまで入口とか素材であって、子どもたちの心を豊かにしていきたいということが一番ベースにあります。2005年に、JAXAができてから2年後に宇宙教育センターというものを立ち上げて、大変活発に活動していますけれども、そこで学校教育、社会教育、家庭の教育も含めてですけれども、いろんな形態の宇宙を中心とした素材をいろいろ提供して、皆さんといろいろと考えていきたいと思っています。宇宙の学校という宇宙教育センターと私の立ち上げたNPOが一緒になって、親子教室をやっています。親子の絆を深めながら日常的に子どもの心を、科学をベースにしていくという試みをやっております。

<(1)糸川先生の発送について、(2)日本の有人飛行について>
参加者: (1)昭和18年度版のドイツの宇宙ロケットの本に糸川先生が昭和30年ごろに新聞に出したロケットと発想が同じものが載っていました。先生のいろんな本を調べましたけれども、この辺のことを1つも触れていないので、ご存じであれば教えてください。
(2)H-IIBRを一生懸命開発されていると思いますけれども、早く有人宇宙に挑戦してほしいと思っています。
的川: (1)オイゲン・ゼンガーという人は、エンジンのシステムが違いますが、ロケットを使って世界中を旅して、そのうちまた帰ってくるという発想で、糸川先生が太平洋横断をやられたようなものと同じようなことを提唱していて、それが後にドイツで「ゼンガー2」というスペースシャトルのような2段式の往還機のアイデアに結実したことがあります。日本で提唱したときにはエアロポーズフライトと言って、成層圏の辺りまで飛行機で行って、今度はロケットで加速してというスタイルで、ゼンガーのものよりはもう少し飛行機を活用していましたが、発想としては恐らく根は同じなのではないかと思います。ゼンガーの本を読んで、それを糸川先生の得意な飛行機ということを最大限活用する形で多分プロジェクト化したのではないかと思っています。
(2)10年前に有人飛行を大きな声で言おうとすると、タブーなようになっていましたが、今は有人飛行を日本でやろうと言ってもだれも文句を言わないような時代になっているので、少し計画を立てやすい状況になっているのかなと思っています。有人のための技術をステップアップして、少しずつでもいいからそれに近づけようという努力は余り禁じられなくなったので、これからその論議を思い切り巻き起こしていく時代に本当になるのかなという気がしています。ただし、本当の宇宙旅行というのは、ジャンボジェット機のようなものが何百人もの人をばっと運んで、宇宙へ飛んでいくというのが本当の宇宙旅行の時代なので、いずれはそういうものを目指す時代の先頭を日本が切れるといいなと、そういう議論が少しずつ大きくなっていくように、できるだけ私は発言していきたいと思っていますが、まだ個人的な意見の域です。

<(1)キセノンでの推進について、(2)ヒドラジンについて>
参加者: (1)キセノンでどのように推進力を出しているのか教えてください。(2)大抵は液体水素と酸素を使っていると思うんですが、なぜ北朝鮮はヒドラジンを使っていたのですか。
的川: (1)キセノンにマイクロ波を当て、プラズマ化し、プラスとマイナスの電気を持った粒が非常に高速で行き交う部屋があります。それにマイナスの電場をかけるとプラスのキセノンイオンというものが引き寄せられて、加速・噴出させ、その反動で推力を得るという方法を使っています。日本の開発したイオンエンジンの特徴は、プラズマ化するときにマイクロ波でやるので電極が要らないということです。電極を使用すると長く使っているうちにだんだん消耗していきますので、長寿命でありません。なので、「はやぶさ」のように非常に長い期間活躍できました。
(2)北朝鮮が本当にヒドラジンを使っているのかよくわかりません。正確には非対称ジメチルヒドラジンというのだと思いますが、これは中国でもロシアでも使っているし、そういうところから手に入れようと思えば使えるものなのかもしれません。どのようなルートでその燃料が手に入れられるかよくわかりませんが、ただ、液体酸素と液体水素を燃料としているロケットというのは、どちらかと言うと中国もロシアも苦手な技術で、結構高い技術が必要です。現実に非対称ジメチルヒドラジンだという証拠は余りまだありません。その程度しか私の知識はないです。

<衛星の軌道決定について>
参加者: 人工衛星の軌道をしっかり選ばないと、普通に考えたらどこかでぶつかってしまうような気がしますが、軌道というのは、どのように選ばれているのか教えてください。
的川: 軌道設計は、まず自分の飛びたい軌道を選んで、打ち上げ時刻などを次々に決めていきます。その後に打ち上げのときに邪魔はないかということを調べていますが、大体大丈夫です。宇宙空間はやたらと広いので、すごく運が悪い場合はぶつかるときがありますが、確率的にはまだまだものすごく低いです。だから、軌道を選ぶときには、自分の目的とする観測が一番うまくいくものを選びます。人間が乗っている場合には、国際宇宙ステーションなどが何らか大きな物体にぶつかりそうになったときには、回避行動をします。時々そういう危機がありますけれども、高度を上げて避けたり軌道制御をやっています。
寺田: ぶつかることはほとんど考えられませんが、電波干渉という問題があって、静止軌道だと、ほとんど同じところから同じような周波数の電波が出ているので干渉してしまいます。そこは国際調整で干渉しないように調整されています。

<糸川先生の海外での評価について>
参加者: 糸川先生は、海外でどのような評価を得られていたのでしょうか。
的川: 日本のロケットの父だと…海外では、「スペースヒストリアン」といって、その国で宇宙開発を始めたころのリーダーだった人の歴史を研究する人たちが非常にたくさんいます。ドイツだったらフォン・ブラウンとか、アメリカだったらゴダードとか、日本だと糸川英夫ですね。ただ、その人たちは全体としてよく見るとフォン・ブラウンもそうですが、科学者とか技術者として非常に狭い領域で超一流という評価ではなくて、どちらかと言うとプロデューサーとして非常に能力の高い人たちという評価だと思います。宇宙開発全体を立ち上げるためにはお金を取ってこなければいけないし、いろんな仕事をしなければいけないわけです。だから言葉としては宇宙開発のパイオニアというのはプロデューサーとして大変有名だという評価になったと思いますけれども、糸川先生もそういう人の1人だと私は思います。

<(1) 今までの国際協力について、(2)宇宙太陽光発電の実現性について、(3)宇宙旅行について>
参加者: (1)「しずく」はA-Trainという国際協力プログラムに参加するということですが、今までこのような国際協力はなかったのでしょうか。
(2)宇宙で発電をすると大気の影響などなくて、地上よりも簡単にできると単純に考えてしまったのですが、地球に送信して実際に家や企業などで使うことは可能になる未来は来るのでしょうか。
(3)宇宙飛行士になる以外で例えば宇宙エレベーターとか、大量に人を運んでいくなどで、将来、私が宇宙に行ける可能性はあるのでしょうか。
的川: (1)学術交流だとどこの国でも簡単に行けますが、国と国が正面切って協力するような形の大きなプロジェクトになると、なかなかそう簡単にできないこともあります。だから科学の国際協力が一番メインに進んできました。大規模な国際協力は、80年代にハレー彗星の観測が一番初めだと思います。
舘: (1)一番大きい国際協力といえば、国際宇宙ステーションだと思います。地球観測関係の国際協力は、実は結構古くからやっています。日本は「みどり」という人工衛星を打ち上げましたが、NASAとフランスのセンサを積んでいました。今回のA-Trainは、衛星自身が小さくなってきていて、1個の衛星が1つの機能しか持っていないので、同じ軌道上に並べることでほぼ同一の時間と場所を違うセンサで見ることができるという特徴があります。これは、アメリカが先導して、国際協力で進んでいます。
(2)将来は多分そうなるだろうと思いますが、それが2050年なのか2060年なのかわりかません。いくつか大きな課題があります。1つは宇宙太陽光発電の構造物をどうやって運ぶのか。そのコストを考えただけで今の技術では莫大な金がかかります。続いて伝送です。エネルギーを伝送するにはマイクロ波かレーザビームで伝送する予定ですが、伝送でロスしてしまえば、宇宙での発電の意味がなくなってしまう。最後に、伝送されたエネルギーをどうやって運ぶか。このような問題をこれから解決しないといけません。
(3)皆さんが宇宙に行けるのかですが、多分行けると思います。私個人的には、将来、20年後か30年後かわかりませんけれども、飛行機に乗る感覚で行ける時代が来ると思ってます。
的川: (2)太陽発電は発電して送って、受けて、配るという一連のことが必要で、基礎的な研究は日本では進んでいます。基本的に宇宙の発電施設から送って、受けて配るという研究は、非常に小さな規模だったらできるところまできていると関係者は言っています。東京都全体でいきなりは難しいと思うので、無人島などの非常に小規模で実験を行えばいいと思っています。物理的には地球というのはインプット、アウトプット、熱その他が非常に収支のバランスがとれていて平穏な環境ができています。そこに、地球の大気の外からエネルギーを送ることで、そういうバランスが崩れるのではないかということを物理学的に言っている方たちもいます。そういう問題も学問的には解決していかないと問題が起こるのではないかと思います。
(3)宇宙に行けるかですが、今、25億円あれば行けるらしいです。なかなかそれは普通の人ではできません。大勢の人がビジネスワークで行けるような時代が来ないと、本当の宇宙旅行時代ではないと思っています。まず最初にできるのは、3時間ぐらいでアメリカに行ける太平洋横断の旅客機ではないかと思っています。今は、10kmより上では空気が薄くなるから、ジェット機としての機能が果たせません。だからその辺でロケットエンジンに切り替えて、その後一定時間の後は、無重力になりますから、スチュワーデスさんが「そろそろ無重力になりますので、シートベルトを外してください」と言って、みんな30分ぐらい楽しんで、「もうじき着陸しますので、またシートベルトをしてください」というようなシステムが最初に開発されるのではないかと思っています。そうすると、朝起きてからアメリカに「ちょっと出張してくる」と言って3時間ぐらいで飛んで、向こうで2~3時間会議をやって、また2~3時間で帰ってきてお風呂は日本で入るというような生活が、今の小学生ぐらいには私は待っているのではないかと思っています。ビジネスとして使用すれば、安くなりますから、普通の人が2~3時間でアメリカにそんな技術を使って宇宙へ行くと、それこそ飛行機のようなものが宇宙空間を飛んでいくという時代が来るのではないかと、私は個人的には思っています。
西浦: いろいろな可能性が見えてきました。宇宙エレベーターや宇宙旅行、夢が膨らみます。国民の安全や安心、豊かな生活のたに活動していますが、と同時に、皆様といろいろな夢を持ち続けていくことも、尊いことだと認識しています。