JAXAタウンミーティング

「第74回JAXAタウンミーティング in 岩国」(平成24年3月4日開催)
会場で出された意見について



第一部「地球低軌道での宇宙環境利用~国際宇宙ステーション~」 で出された意見



<有人宇宙開発に必要なものについて>
参加者:アメリカではスペースシャトルの退役に伴ってスペースX社、オービタル・サイエンシーズ、ヴァージン・ギャラクティックなど民間企業による輸送ミッションが実現化しようとしていますが、日本では全くそのような有人宇宙開発へのシフトが見られない感じがします。それを乗り越えていくためには技術、予算や公的支援などで、最も必要なものは何であるとお考えですか。
横山:日本が宇宙ステーションに人を運ぶには、ロケットを高信頼性化させ、カプセルに脱出装置を付ければ可能な技術であり、JAXAでもある程度研究は行っています。アメリカの民間企業の「スペースX社」は、2015~2016年辺りから宇宙ステーションに人を運ぶ役割を担いたいと言っていて、アメリカでは民間が地球低軌道の輸送を、探査は国主体で行う方向の議論があります。しかし、スペースシャトル事故の際には、ロシアがソユーズを持っていたからISSは運用継続できたわけで、2番目、3番目の手段があれば、宇宙ステーションに通うことができるので、必要な技術だと思っています。H-IIシリーズは大体成熟しているので、次の新しいロケットにチャレンジしたいと思っています。すべてを国の予算でやることは不可能なので、選択をしなければならず、国際協力の中で行うものと、国の意思として技術を開発するものと、2つに分けて考えなければなりません。ストレートな答えになりませんが、国の合意がどうしても要る話なので、いろんな選択肢をを我々は提案していきたいと思っています。

<宇宙開発からの国民への還元について>
参加者:予算つけるからには、それなりの宇宙開発に対する見返り、費用対効果と言っては言葉が悪いですが、日本の国民に還元できるものはどのようなものでしょうか。
横山:宇宙ステーションは軌道上の実験室ですから、実験の成果をあげるというのがミッションで、さまざまな研究者の方に使っていただいています。研究成果を説明しながら、次のステップをねらっています。日本実験棟「きぼう」も3年以上使っていて、各国がどういうことを行ったか、目立つ成果があったかというのをまとめて提示し始めているところで、それを費用対効果として金額に換算して、理解を得るのは難しく、苦労しています。
川口:私はちょっと違う見方をしています。費用対効果というのを宇宙開発で議論してはいけないのではないかと、極端に言ったらそう思っています。宇宙開発は昨今は利用ということを叫ばれていて、利用重視というのが宇宙基本法という法律ができ、宇宙基本計画というものが出され、そちらの方に執行しています。利用は当然大事です。では利用のために宇宙開発をしているかというと、これは順番が私は逆ではないかと思っています。利用するものは、絶対に失敗しないものにしなければなりませんね。新しいことはするなということになります。アメリカはNASAのゴールディン長官の時代に「Faster Better Cheaper」という政策を出したことがあって、「早く、良く、そして安く。」「オフ・ザ・シェルフ・テクノロジー」と言って、今ある技術をそのまま使って、まずやったらどうかと言い出しました。しかし、数年後にこの方針は撤回されています。どうしてかと言うと新しい技術開発をしなくなったことで、どんどんアメリカの宇宙開発が後退していったからです。宇宙開発が目指すべきところは、最初は要するに行き着くところの拡大だと思っています。それが到達できてから、そこから利用が始まるわけです。宇宙科学も天文観測も地球観測も、放送、通信、気象観測もそうです。だから惑星探査も同じで、月に行って惑星に行くというのは、そこから次に利用が始まるのであって、最初から利用を目指して宇宙開発をやったのでは進歩はないと思うのです。最初に人工衛星を打ち上げたときに、その利用を最初に前提としてやったかと言うと、そうではありません。だから大きな勘違いが実はあるのではないかと思っています。ちょっと言い過ぎかもしれませんが、私の私見です。JAXAの見解ではありません。
寺田:今日はなかなかユニークな登壇者で、2人の登壇者は、宇宙ステーション、「はやぶさ」のプロジェクトマネージャで、私は、準天頂衛星初号機「みちびき」のプロジェクトマネージャをしていました。川口先生がおっしゃったこととある意味で対極の利用を主体とした衛星開発を行っていました。より確実なものをつくるというのが命題でした。JAXAにもいろんなタイプの開発があると思います。最先端の技術開発をする分野や「みちびき」のような利用を重視した開発というものを、それなりにバランスをとって開発をしています。費用対効果のことを考えると難しいですが、日本として必要な技術力を持つべく、開発をしているということは言えると思います。
西浦:費用対効果という見方で一番わかりやすいのは、先の災害でも活躍したALOS「だいち」ではないでしょうか。引き続き、皆さまがご理解を深めて頂けるように、しっかり広報宣伝していきます。

<宇宙ステーションでの他国の研究について>
参加者:前から特殊な医薬品の製造、無重力状態での合金の製造とかよく言われていて、あと、アイデア募集でメダカを飼ったりなどもしていますが、ほかの国はどういうことをやっているのでしょうか。
横山:日本独自の試みですが、「文化芸術的利用」というものをやっていて、例えば、古川宇宙飛行士が行いましたが、抹茶を立てて飲んでみたり、宇宙連詩という詩をつくるのを地上の人とのかけ合いで行ったり、費用対効果の外の話です。今は、時間が少しあるので、こういうものを使いながらすそ野を広げてみようとしています。皆さんの関心にぴったりはまらないかもしれませんが、使う人が増えることはいいことだということで、いろんな試みを行っています。
参加者:日本以外の国がやっていることをお伺いしたんですが…ほかの研究内容がダブらないように、お互い国際的にそういう内容を調整しているのでしょうか。
横山:研究者たちは分野ごとに国際的に連携しています。例えば日本が代表になって実験を行っても、その共同研究者に外国人が入っている。その逆のケースとかもあります。研究者同士の競争もあって、他の国より先にやろうとしているものもあります。ライフサイエンスや観測など、そういう分野の人たちがうまい連携をしてくれていて、切磋琢磨したり、協力したり、両方を使い分けて、いろんな形でやってくれています。参加国が15か国と言いましたけれども、世界60か国もの研究者が宇宙ステーションの実験に何らか携わっています。

<古川宇宙飛行士のコマーシャルについて>
参加者:ソフトバンクのコマーシャルで古川さんが出られましたが、コマーシャルなどで収入もあるのですか。
横山:「有償利用」といって、実費を払っていただければ場所を提供しています。勿論、変な使い方は困りますからちゃんと審査しています。宇宙飛行士が宣伝に直接加担するのもいけないので、そういう基準でもって判断して使ってもらっています。
西浦:宇宙飛行士のポケットに収入が入るわけではございません。JAXAの事業費として使わせていただくという形になります。

<これからの航空宇宙産業について>
参加者:東京大学航空宇宙工学科の方も就職先が航空宇宙ばかり行くというわけではなく、自動車関連会社などに進まれる方もいらっしゃいます。国費利用して勉強をして、院まで行っている方がそういったところに流出してしまうというのは、JAXAや航空宇宙業界にとって損失だと思います。航空宇宙分野がある程度日本の産業として立ち上がっていけるためにどうしたらいいか、私見で結構ですので、どうなっていく、あるいはどうなっていけばいいか、お考えをお聞かせください。
横山:予算規模がフラットな状態ですから、抱えられる研究者、技術者の限界があるというのは、我々の悩みです。大きな重工メーカー、電機メーカー中心に今までやってきて、チャンスを広げようとはしているが、総量的になかなか越えられません。大きな新しい開発が欲しいというところが現実です。
川口:難しい質問です。日本の航空宇宙産業というものが航空宇宙産業だけで1つの産業を構成できるかと言うと、これはほとんど不可能です。では、もっとパイを大きくすればいいではないかと思われるでしょうが、需要と供給のバランスなので、それはなかなかできない。唯一できるのは国が国のために行う国需です。宇宙開発というのは総合科学技術の集大成ですから、それを引っ張っていくことで、ほかの産業が牽引されるとか、スピンオフが出る。そういうことを総合的に考えた結果としてポリシーをきちんと打ち出していけるならば、それは国が牽引できると思います。だけど、国が役に立つ、利益の上がるものだけをやるという姿勢ではポリシーがありません。自分の国の将来をどういうふうにしたいかという明確なポリシーがあれば、国次第で伸ばしていけると思っています。
寺田:川口先生から国のポリシーというお話がありましたが、JAXAそのものの役割としてきちんと民間事業者を援助、助言せよという方向で議論されているので、JAXAの役割として、ある種の責務を負うことに近々なっていくと思います。

<月への移住について>
参加者:宇宙ステーションを足がかりにして、これから月への移住や、スペースコロニーの建造など、少しSF的な話になりますが、そういうことを見据えて将来的な宇宙ステーションの利用というのは、どれぐらいまで考えられていますか。
横山:技術的な議論は、ここ半年ぐらい行っています。宇宙ステーションから月近傍まで持っていくとか、それは割と論理的には難しくありません。そのためには、ロケットブースターが必要で、「はやぶさ」で使っていたイオンエンジンの大きなものを束ねて、人は乗る必要はないので、1年ぐらいかけてゆっくり運べばいいとか、そういう可能性の検討の議論はしています。なぜ月に行くのかという議論もあって、最終的には人が火星に進出することが、当面の究極目標だと思っています。それに向けて月のような重力天体で試す必要があります。尿などを再生して飲めるようになっていますが、再生率を更に上げる必要があります。水処理技術というのは日本は割と進んでいて、再生率を上げる技術を宇宙ステーションで試して、後々、月、火星で使えるだろうと考えています。こういう話は秘密でやっているわけではなく、各パートナーと協議して進めています。
参加者:この世代では無理でも、孫の世代ぐらいには何とか実現をしてほしいものです。
横山:私も同様の考えです。実験できる場所まではつくったので、その次に行くための準備にも使ってほしいものです。

<若い科学者への教育について>
参加者:皆さん将来のことについていろいろ質問がありますが、私は恐ろしさを感じています。テレビで宇宙のごみについて取り上げていました。こういうことがどのような影響を与えるか、少し立ち止まって振り返ってみることも考えてもらいたいです。また、二者択一的なアメリカ的な民主主義。戦後、日本の文化をアメリカによってものすごく破壊されました。そういう意味で科学と心をよくリンクして考えてもらいたいと思います。ついこの前、学者さんが講演に来たとき、参加者が「聞こえません」と言ったら「話の腰を折るな」と申しておりました。今日の先生方は、非常にお顔が素晴らしく、余裕があります。その先生には余裕がなかった。要するに、これからの若い科学者を育てていく上で、しっかり教養を学ばせてほしいと思います。
横山:確かにアメリカ追随型で日本のいろんなことが動いています。私自身は、このパートナーシップというのはロシア、欧州もいて、ここ20年の仕事というのは異文化訓練をしたようなものです。民主主義の定義はいろいろ違うと思いますが、彼らは例えばあるプログラムをばさっとやめてしまいます。大変な無駄を彼らはしています。そういうものは我々は見て他山の石としています。宇宙ごみ(デブリ)の話がありましたが、あれは確かに増えてきていて、宇宙ステーションも避けざるを得ないことが年に2回ぐらいあります。今年も1回避けました。この問題に関してはJAXAの中でその研究と国際的な対策協議をしている部隊もいますから、宇宙にごみを残さないようにしたいと思っています。
西浦:いろいろな国が宇宙開発に参画しているわけですが、その中でも日本のデブリに対する姿勢は、国際的に評価が高いです。科学者への教養の教育ですが、私自身、山口大学の工学部工学研究科と、共通教育科で、国際関係+コミュニケーション論を教えています。科学・工学系一辺倒で偏った人間にならないように、そして、せっかく専門分野の研究をして素晴らしい成果を上げられたとしても、発信能力が不十分ですと、もったいない結果になりますから、先ず、日本を知り世界を知るところから入って、幅広い教養を身につけながら、コミュニケーション術を磨いてもらうべく、参加型、ツーウエイの講義を行っています。今日の複雑化された国際社会で健全な競争力を持って、国内外でも貢献でき、世界の中の日本の品格を意識できる若い科学者の育成を行っています。

<宇宙開発の民間移管の問題について>
参加者:宇宙開発が民間になった場合、情報が流出しないのか心配です。
横山:アメリカに代わってお答えします。現在の開発は、政府が助成金を出してやっています。契約社会で、どこまで達成したらどこまで支払うということをやっているようです。スペースX社は、昨年12月にでも打ち上げられると言っていましたが、少し遅れぎみで、公式には発表していないと思いますが、現時点では4月30日ぐらいに打ち上げるかなという状況です。我々も彼らが何をやっているかは聞いています。情報の流出は、アメリカは非常に厳しくて、きちんとやっているように見受けられます。我々も見せるものは見せるし、見なくていいものは見ないように、そういう関係を国同士では行っています。会社はそういうことを学んでいかないと事業が成り立たないわけで、彼らはきちんとやっていくと思います。

<インターネットでの情報管理について>
参加者:インターネットの環境は世界的に整っていて、クリティカルな部分まで、私たち民間人が触れるところまで来ていると思っています。どこまでが私たち民間人が触れることができて、どこから触れると非常にまずいことになるのか、どこまで想定していますか。例えば、スペースシャトルの最後のフライトのとき、NASAの管制室をインターネットから見ることができました。管制室に映っているディスプレイに軌道情報が映っていました。そこまで調べることができる現在の環境について意見をお伺いいたします。
横山:筑波の「きぼう」の管制室は、後方から遠景での映しなら良いというところまできました。最初はテレビカメラも入れさせないということで2008年は始めました。日本よりアメリカの方が公開度は高く、別にこれは隠しても漏れるという覚悟はしなければならず、軌道情報というのは非常に大事な情報だけれども、漏れることはあるという理解です。インターネットで入り込んでコントロールされてしまうと困るわけですが、そこは非常にかたく、ネットワークを分離するような形で大事なところは守っています。各極の情報セキュリティの専門家同士がそういう情報交換をしています。それでも我々JAXAもNASAもコンピュータはアタックされています。NASAの情報管理がずさんかのごとく言われていますが、彼らは彼らなりにやっています。アタックする方が上だという前提で、総合的に守った方がいいと思います。