JAXAタウンミーティング

第73回JAXAタウンミーティング in 鳥栖」(平成24年2月11日開催)
会場で出された意見について



第二部「宇宙に出てはじめて分かる地球のこと~日本の太陽系探査・スペース天文学の挑戦~」で出された意見



<文科系のJAXAへの関わりについて>
参加者:JAXAで文系を雇ってくれる部署はありますか。
遠藤:JAXAは工学、理学の知識をベースに研究開発をしている人ばかりというイメージのようですが、文科系もたくさんいます。JAXAでは、世界中の宇宙機関や国々と一緒に協力して研究開発を進めています。そのときに科学者だけでいいかというと、そうではありません。宇宙法という国際的な法律があって、国連等でいろんな議論がされているので、そういう知識を持っている人が当然必要になります。このようなところに興味を持って入ってきて、活躍している人がたくさんいますので、文科系だからって宇宙は無理だろうと思わず、チャレンジしてください。
阪本:JAXAに入りたいのか、宇宙に関わる仕事がしたいのか、どちらなのかというと多分、後者だと思います。宇宙と関わる方法はいろいろあります。今、宇宙基本法というものができて、宇宙をいろいろな切り口で使っていこうということが進んでいます。JAXAに入るということにこだわる必要はなくて、それぞれの立場で、それぞれの専門を生かしながら、自分の分野で新しく宇宙に導入することを考えるのも、ひょっとしたら楽しいのかなと思っています。

<月の表と裏について>
参加者:長い間、引力で引っ張られたから月の上の方はツルツルになって、下がガタガタになっているのではないかと思っていますが、なぜこうなっているのかお教えください。
阪本:月のいわゆる表、いわゆる裏側が何であんなに違うのかというのは、まだ諸説あります。固まるときに当然引力の影響を受けますので、それが少しむらみたいなものを起こしてしまったのか。あるいは、月の表側の地核の部分はすごく薄いんですが、その下に溶けたマグマがしばらく残っていたのではないかと言われています。そうすると、表と裏側に同じような頻度で同じようなサイズの隕石がぶつかったとしても、表側は、ぼんと穴が掘れたときに下から溶けたマグマが出てきて、また平らに埋めてしまったのではないかと考えられています。ただ、月の状態というのは十分理解されていませんので、幾つかある説のうちの1つです。まだ現在進行形で調査が進められています。

<はやぶさ本体の形について>
参加者:「はやぶさ」の形状は主幹部分が立方体のような形をしていますが、熱の膨張とか安定性などを考えると、球体がいいのではと思います。今のような形になったのはなぜかお教えください。
阪本:つくりやすいからです。昔の衛星はスピン安定というものをやっていましたので、円筒形のものが結構ありましたが、最近の探査機は大体は四角です。
寺田:探査機に限らず人工衛星はほとんどこういう直方体になっています。それは製作しやすいからで、また、つくった後も蓋を開けて何回も中にアクセスする必要性もあって、大体こういう形状になっています。確かに昔は円筒状でスピン安定というものがあるんですが、今は中にリアクションホイールが入っていて、姿勢を安定させることができるので、こういう形になっています。
阪本:直方体でもいろいろなシミュレーションを行っていますので、特に設計が難しいということはないと思います。

<月と地球の関係について>
参加者:だんだん地球から月が離れていっているという話を聞いたのですが、月がなくなると潮の満ち引きがなくなって、佐賀県の海苔産業にも影響があると思いますが、もしそうなるとどういう現象が起こるのか教えてください。
阪本:確かに月は遠ざかっています。1年間に3.8cmです。しばらくは心配ないと思います。月が遠ざかっていくというのは要するに地球の回転するエネルギーを月の方に渡しているからで、どこでつりあうかというと、地球の自転と月の公転が完全にロックするようなものが一番安定で、何億年、何十億年とかかるのではないかと思います。また、潮の満ち引きというのは月だけでなくて、太陽によるものもあるので、その効果は3分の1ぐらいは残ることになります。

<人工衛星の衝突について>
参加者:人工衛星同士はぶつからない限り軌道は自由であるようですが、なぜぶつからないのですか。
阪本:旧ソ連とアメリカの衛星がぶつかった例もありますが、宇宙は広くて、人工衛星が小さかったので、それほど目立った事故は起きていません。しかし、このままデブリの問題を放置すると大変な事態になる可能性があるので、努力目標みたいなものがあります。例えばロケットの上段などがそのまま軌道に残らないように、安全なところに落下させたり、部品がばらばらにならないように固定して、小さなゴミが散らからないようにしています。
寺田:ぶつかりそうだということが予め分かると、衛星の位置をずらして避けることもあります。古川宇宙飛行士が今回宇宙ステーションに長期滞在していたときも、デブリが接近して、ぶつかると減圧して急に空気が外に漏れてしまうので、そういう部屋から出て、ソユーズに一時退避しました。ぶつからないように逃げる、ぶつかっても大丈夫なように備えています。

<宇宙技術の産業との関係について>
参加者:新しいミッションを達成するためには開発費の援助と、総合的な技術協力が必要だと思っていて、宇宙の技術がインフラの1つとして認められれば、航空、自動車、鉄道、電力、通信関係などとうまく連携できるのではないかと思いますが、お考えをお聞かせください。
阪本:航空産業とは、JAXAも航空のセクションがありますので、非常に密接な関連があります。カーボンの複合材は材料のレベルで、さまざまな開発、材料の評価方法といったものの研究を行っています。カーボン複合材という意味では「はやぶさ」の再突入カプセルもで、あのような耐熱材料もJAXAを中心として開発したものではありますが、最終的にまた別の分野で使われていく可能性もあります。また、リニアモーターカーに必要とされるような大型の冷凍機というのは宇宙においても非常に重要なもので、日本が機械式冷凍機の技術においては最先端を走っています。これが宇宙でも実証され、そして実際の民生品でも応用され、それが1つの大きなマーケットをつくれるよう結び付いていくことが重要かなと思います。通信については、太陽の活動がかなり悪さをしますので、「宇宙天気予報」というものが既に始まっていて、NICT(情報通信研究機構)の方で、宇宙お天気お姉さんが出てきてインターネットで放送しています。このように既に実用化されているものもあり、それが次第にもう少し大きな色合いを見せればいいのかなと思っています。ゆっくりではありますが、着実に進めていきたいと考えています。
遠藤:JAXAのいろんな活動が我々の生活、産業等に役に立ち、波及しているということの説明がまだ足りなくて、研究開発費が少ないと言っているが、まだそういう理解を求める姿勢が足りないのではないかというお叱りだと私は理解しました。我々としては努力しているつもりでしたが、更に努力をするように頑張ります。

<宇宙の研究をしていく中での価値観の変化について>
参加者:宇宙の研究をしていく中で、身近なことを改めて見たときに、世界を見る目はどのように変わったかお聞かせください。
阪本:私自身は天文学の研究をしています。太陽系の外の星がどのようにして生まれるのかなどの研究しているわけです。そうすると、地球という星がいかに貴重な星なのかということに気づかされます。だから世界とか国際的とかそんなことを言っている場合ではなくて、我々は地球人なんだぞという視点を私たち天文学者は常に持っている気がします。宇宙の研究をして考え方が変わったとしたら、そこかもれしません。
遠藤:ロケットの開発、打ち上げを天職として36年間も仕事をさせてもらえたということで、私は非常に幸せだと思っています。しかし、3回ロケット打ち上げ失敗があって、マスコミからは吊し上げられて、つらかったですが、たたかれても自分が思うところ、こうやりたい、こうすべきだというものを、めげないというか、チャレンジすることが大切ではないかと思いました。
寺田:私は準天頂衛星初号機「みちびき」という衛星のプロジェクトマネージャーをやっていて、現在、広報部長をやっています。そのときに感じたのはGPSというカーナビなんかで使われているシステムですが、あのシステムの素晴らしさを物すごく感じました。誰でもただで使えるんです。宇宙開発は人類の役に立つものであるべきだなと思っていて、役に立たなければ世界に通用しないと思っています。
西浦:JAXAには天文学、ロケット、準天頂衛星など本当に優れた才能あふれる人財がおります。また、そうした人たちを支える存在も大切です。様々な研究成果、世の中に貢献できたことなどを、皆様に楽しく広めると言いますか、ご理解を深めて頂けるようにお伝えすることができる喜び、そして、国際関係並びに広報を担当するということも、たいへん遣り甲斐のある仕事です。宇宙は本当に広いですから、世界観もふくめて、何でも大きく、広く、もっとひろく、それこそ、空(くう)のこころになって仕事に邁進できることも、有難いことと受け留めています。それらの活動の一環として、こうして皆様方にお会いできることは、一番うれしく感じるところです。

<宇宙教育について>
参加者:私はボランティア活動で、「国際宇宙ステーションきぼうを見る会」というものを発足しました。今やろうとしていることが教育委員会を通じて、宇宙のことに子どもたちが携わって、一生懸命になってほしいという火付け役をしています。子どもたちに宇宙開発に魅力を感じてもらって、自分たちも携わっていこうという考え方を持ってもらえば、予算の方もしっかりもらえるのではないかと思っています。
西浦:JAXAには、「宇宙教育センター」というものが2005年に設立されました。その中で、宇宙子ども教育に非常に力を入れていますし、2008年に設立された「KU-MA」といって、子ども・宇宙・未来の会でも、宇宙の学校が好評を得ています。宇宙教育センターでは、教える側の人材教育にも力を入れています。
寺田:JAXAという名前を聞いたことがあるという割合が10人に8人、80%ぐらいの認知度を得たんですが、これから更に理解を深めていただく活動をしていく必要があって、教育委員会や科学館などと協力しながら理解を深めていくという活動を今後やっていきたいと思っています。是非これからも協力をよろしくお願いいたします。