JAXAタウンミーティング

「第69回JAXAタウンミーティング in 長崎」(平成23年12月4日開催)
会場で出された意見について



第一部「日本人宇宙飛行士と宇宙ステーション」 で出された意見



<日本の有人飛行の可能性について>
参加者:日本独自で人間が、宇宙に行くための技術を発展させる予定はあるのでしょうか。
長谷川:すごくいいテーマですが難しいです。一応、国の予算として昨年から正式に有人宇宙船に向けての研究はしても良いということになりました。そのために多くはないですが、研究費をいただいています。それで将来の宇宙船の基幹技術から滞在技術、要するに空気を再生したり水を再生したり等の技術の研究を始めました。野口宇宙飛行士は現在、拠点が筑波なので、その開発チームに当然入っていますし、若田宇宙飛行士もヒューストンからサポートしてくれています。実際に人間を帰還させる技術、上げる技術の最高峰はロシアなので、ロシアの技術をとり入れています。日本独自で行いたいですが、国は研究はしてもいいけれど、開発していいと言ってくれてませんので、早く戦略本部及び内閣府で決定してもらい、予算をつけていただければ技術的には可能だと思っています。

<国際宇宙ステーションでの研究について>
参加者:無重力の世界で様々な研究や実験をしてきたと思います。地球上でできない素材、新たな素材で新しいものにつながるデータやこのようなものをつくっていきたいというものがありますか。
長谷川:無重力だからこそ宇宙でやる意義があるということで、素材と生命科学の話があります。素材自体は日本では今、ガリウムとインジウムとヒ素のようなものを3つ混合させて作ろうとしていて、その実験を始める準備をしています。現在までに、製品として産業界に出たかと言うと、アメリカでは出ましたが、日本ではまだ出ていません。真球の玉をつくって、それを校正用として使うというものを実際にやっています。具体的には少しずつ成果が出始めています。どちらかと言うと生命科学の方に重点化が始まっています。タンパク質の結晶は地上だとつぶれてしまうけれど、宇宙だと成長します。タンパク質の結晶を大きくして、地上に持ち帰って強力なエックス線放射光を当てることによって、中の亀の子の構造が見えます。そうすると水素原子が一番小さく、そこまで見えるために相当大きくしないといけませんが、この技術は既に確立しています。実は、動物実験に大阪大学のグループが入っていて、実際にその阻害剤もわかってきています。その阻害剤がきちんとうまくいっているかどうかというデータもとり始めています。インフルエンザについても今回うまくいったようなので、インフルエンザもいろいろな種類があるけれど、その中心の部分のものがわかると、副作用がない薬ができるだろうと力を入れています。

<(1)日本の予算について、(2)情報収集衛星について>
参加者:(1)日本の予算額がNASAの10分の1、ヨーロッパの3分の1しかない理由はあるのでしょうか。
長谷川:1つはアメリカの場合はNASAだけではなく、国防総省も宇宙の予算を持っています。日本以外の国々では、民生と安全保障の両方が絡んでいます。日本は平和目的の憲法がありますので、民生の場合だけに宇宙予算を使っているというのをまず前提として知っておいてください。そのために国の予算としては安全保障には使用せず、民生としてはこのレベルだろうというのがたぶん財務省及び政府の意向だと思っています。ところが、アメリカの場合は、NASAと防衛の仕事を、当然のことながら企業は、両方から受けています。宇宙の技術というのは民間にも使えますが、安全保障にも使えます。現在、使用しているカーナビは、もともと海軍の測位軍事衛星で、海や砂漠で自分の位置をはっきりさせる目的で開発されました。それが民間利用になったものです。我々は別に軍事をやりたいわけではなく、民生の技術はいろいろな分野で地上の技術、将来の安全保障にも活かせるので、どんどん成長させた方がいいのではという話を政府とさせてもらっています。
参加者:(2)インターネットにしてもみんな軍事技術から出てきたもので、それを標準化して一般に使われています。アメリカはそのようにして開発を行っているから、日本はどんどん太刀打ちできなくなっていくというのは、よく聞きます。最近、人工衛星で軍事用というかスパイ衛星のようなものを打ち上げていると聞きました。軍事と言っても攻撃でなければ可能な範囲はあるのではないかと思いますが、日本は、憲法上で壁があるのでできないのでしょうか。
長谷川:情報収集衛星みたいに防衛省や内閣府が行っているものは、JAXAの予算では行っておりません。憲法の話は置いておいて、予算自体は防衛省や内閣府の費用は別途ありまして、情報収集衛星は我々ではなくて、我々が技術を受託して、それをサポートしているだけです。多分、解釈としては情報収集衛星は、多目的にあるからということだと思います。攻撃用でないならいいのではないか。私もそう思います。でも、問題は政府の方々及び官僚の方々がそのように思ってくれないと予算がつかないので、その辺は国民の皆さまにパブリックコメントなどで発言していただき、サポートをお願いします。

<日本実験棟「きぼう」の維持費用について>
参加者:1,700億円というのは非常に少ない予算で驚きましたが、「きぼう」のメンテナンスや、維持費用などはどうなっているのでしょうか。
長谷川:「こうのとり」をつくってロケットで打ち上げる物資輸送費用が結構高いです。二百数十億以上します。この物資輸送費を含めて、「きぼう」の維持及び実験、宇宙飛行士の養成、海外との調整・交渉、広報も全て含めて、国際宇宙ステーション費用全体で400億円となっております。「きぼう」は国際的な協定に基づくので、政府もサポートはしてくれていますが、もっと削れという話もあります。

<ロイヤリティフィーについて>
参加者:最近テレビで見てびっくりしました。白い犬の通信関係のコマーシャルに古川宇宙飛行士が出ていました。あのような感じで盛んに宣伝を行ったり、また、「はやぶさ」のイオンエンジンはNECが開発されて、アメリカに商売を始めたと聞いたのですが、その収入はJAXAには入らないのですか。
長谷川:イオンエンジンの場合はロイヤリティフィーというものがあるので、そこで少しは入ると思います。「こうのとり」の中にある通信装置や電源装置をトータルで60数億分アメリカ、ドイツに売っています。LED電球を実際に「こうのとり」に載せ始めまして、それも非常にほかのものより安いので、NASAやほかのところが調達するなどの話もあります、できるだけスピンオフして売っていこうとはしています。それでもたくさん利益が出るわけではありません。もともと利益を出すために行っているわけではないのです。研究開発で10年、20年先にも我々が世界の一流国でいるように目指しているので、そこは工夫していこうと思います。白い犬のコマーシャル、見た方はいらっしゃいますか。あまりやると批判されるのであれが限界ですが、古川宇宙飛行士が帰ってくる1週間前に無理やりやってもらいました。
坂下:「きぼう」のあのコマーシャルに関しては有償利用ということで実費をいただいています。

<広報パンフレットについて>
参加者:お金のことばかり言って申し訳ありません。例えばパフレットなどは出来るだけ工夫して、限られた予算でしょうから上手に使ってください。
長谷川:そうですね。パンフレットは立派過ぎるかもしれないですね。
橋本:確かにそういう御意見もあって、今、非常に部数を減らしています。今回もお配りするのをどうしようか思いましたが、是非皆様に見ていただきたいというので限られた在庫の中で配らせていただきました。パンフレットもどこまでお金をかけるべきか。ウェブでダウンロードすればいいではないかという御意見もありますが、やはり最初に見ていただくためには配った方がいいのかなと私は判断させていただきました。
長谷川:工夫させていただきます。
坂下:広報の方で意見として取り上げさせていただきたいと思います。

<今後の日本の宇宙開発について>
参加者:日本の宇宙開発で盛り上げていきたいところや、強みのようなものがあれば教えてください。
長谷川:予算が限られているし、伸びる見込みも少ないので、重点化しようという方向に進んでいます。日本の技術として獲得することによって10、15年先にそれが大きく成長するようなもので、かつ、それが国際的に見ても日本が優位性を持てるという分野、陸域観測衛星「だいち」はこの間、5年間の寿命がきて運用を終了しました。「だいち2」「だいち3」で引き継いで防災関係を行っていこうとしています。分解能を上げるので、いろんなものが見えるようになりますが、残念ながら浮遊物の特定まではできません。1m、50cm、10cmまでいかないと浮遊物の特定は無理なので、そのレベルに上げるには相当の技術レベルになります。しかし、そこはアジア諸国も望んでいて、フィリピンやタイなど、洪水の範囲がどこまでどうなんだという特定を行いたいのですが、できていません。それをやるためにはセンサーが必要になります。航空機を飛ばしてやってもいいのですが、大きな土地だとそれを全部把握するのが難しいです。今、タイとJAXAの衛星本部が協力して、タイの洪水のマッピングの協定を結んでいます。今は、航空機を飛ばしてセンサーで行っていますが、将来的に衛星で行おうというときに、一部分を通過する時間というのは朝、晩で限られています。衛星の軌道というものがあるので、衛星が何個かないとカバーできないのです。
2つ目は地球温暖化の話で、「しずく」という衛星があります。地球全体の炭酸ガスや窒素酸化物の状態は、実は一体どうなっているのかだれも知りません。COP17で話し合っていますが、推測値だけで、10年、15年先に何%減らしましょうと言っています。しかし地球全体の現状がわかっていないだけではなく、それがどう動いているかもよくわかっていません。フロンガスや炭酸ガスだけが害ではなく、窒素酸化物からいろんなものがあって、それを判断していかなければなりません。そうすると、地球観測を衛星で行うしか手がありません。「いぶき」で測って分かってきましたが、その測ったものが本当にその地域から出た炭酸ガスなのかもわかっていないこともあって、そこに力を入れていきます。
3つ目は国際協力です。日本が優位性を持っている「きぼう」は2020年までの運用を政府は決めてくださいました。その代わり、その中で有益なもの、先ほどの創製薬もそうですし、材料もそうですし、いろんなもので日本の優位性を上げる。それは日本がこのステーションに参加することによって5つの宇宙機関の常任理事国になりました。一種のG5になっているんです。常に年3回ぐらい機関長会議を行いますが、特定の席があります。かつ、うちの理事長も出ますが、「こうのとり」での物資輸送や「きぼう」での実験も行えているためアメリカもロシアも日本をないがしろどころではなくて、常にいい関係であります。それは日本が供与できているからで、日本の装置を使いたいというときには使ってもらって、その代わりにソユーズを使わせてとか、要するに持っている装置と技術があると、それをお互いにやりとりすることができるカードになります。カードを持たないと日本は二流国から三流国に間違いなく落ちます。しかし、相当重点化しなければ無理なので、そこは工夫しながらやりたいと思います。できれば予算はアップしながら重点化の割合を増やしていければいいと思います。

<国際協力について>
参加者:日本のロケット打ち上げというのは種子島にしても内之浦にしても、漁業権とかいろいろ問題があって、限定した期間にしか打ち上げられない。H-IIAなどのいいロケットを作って、商業化してどんどん打ち上げようと思っても期間が限定されるので日本ではなかなか数が打ち上げられないんだという話を聞いたことがあります。国際協力というので人工衛星だけで国際協力するだけでなくて、ASEAN諸国と協力して、打ち上げ場所をインドネシアで行わせてもらったりだとか、技術を日本が提供して、ASEAN諸国からお金をもらって、事業拡大をし、研究開発を進めていくようなことはないのでしょうか。
長谷川:種子島の打ち上げの期間というのは、ようやく去年から1年間を通じて打てることになりました。ただし、種子島の周辺の漁業の方だけではなくて、日本全国の漁協と相談した上で繁漁期を避けながら、国際約束は優先にしましょうということで打てることになりました。来年の3月か4月ごろに上げる観測衛星の相乗りは「コンプサット」という韓国の衛星です。他のアジア諸国とも連携協定を結んでいて、ベトナムの衛星も上げることになりましたし、トルコの衛星も上げることになりました。政府がいろいろなODAを使って行うような協力も始まりました。宇宙ステーションでも今はアジア諸国、中国も一応入っていますが、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、オーストラリアも入っていまして十数か国。その中で日本の今、進んでいる技術及び持っているものをお互いに使いあいましょうということで、APRSAFというアジアの宇宙協力機構みたいなものがあります。そこを通じて先ほどの話のタイへの協力や、フィリピン、ベトナムなどの水資源の探査というものを行い始めました。できるだけ向こうから資金が出ないかなということで、アジア開発銀行もJICAも絡んでいただいて、我々はあくまで技術供与であって、資金についてはアジア開発銀行が出すような仕組みで政府としても動き始めています。

<長崎の宇宙開発への関わりについて>
参加者:民間の関わりが重要になってきていると思います。日本全国いろんな企業の協力の上でこの宇宙開発が成り立っていると思いますが、今、苦労して金星に向かっている「あかつき」のメインスラスターや「かぐや」の姿勢制御もここ長崎の三菱重工さんが関わられているという話をちらっと聞いたことがあります。地元としてはそういう身近な企業が宇宙開発に関わっていることを知るだけでも、心の中で応援もできますし、地元に夢を与えるというか、そういう意味では大事な部分ではないのかなと思いますが、御存じの部分だけで結構ですから、長崎がどういう役目をしているかということを御紹介いただければありがたいなと思います。
橋本:三菱重工長崎造船所さんとは我々、特に宇宙科学の衛星はほとんどすべて、そこのエンジンを使って探査機は動いています。「あかつき」の例もありましたし、「はやぶさ」のエンジンも、イオンエンジンではない化学推進エンジンは長崎の三菱重工ですし、イオンエンジンのタンクつくられたのもそうです。ただ、大変残念なことに、輸入したバルブが結構故障しやすいもので、三菱重工の技術は高いレベルなのですが、あまり宣伝されていないのでは無いかと思います。
坂下:「こうのとり」の船外貨物を乗せている部分、土手っ腹に大きな穴が空いて引き出しを出すような形になっていますが、そこの部分の構造の設計と試験を三菱重工長崎造船所さんにお願いをしています。また、「きぼう」と「こうのとり」もそうですが、アルミ合金の表面処理を諫早のメーカーさんにお願いをしています。
長谷川:三菱重工さんの系統でいろんなサポートするメーカーさんが長崎や九州の上の方の部分で結構ありまして、宣伝をなるべくしてくれとメディアにお願いをして、産業界の方を紹介しながら、新聞記事を書いてもらっています。しかし、それが日刊工業にはよく記事を出してくれていますが、朝日、産経、日経さんなどが大きく出してくれていないので余り目に触れられていません。知られている人は長崎から諫早、佐賀の方の技術は高いというのを知っています。なるべくJAXAの「きぼう」のホームページの中でも、JAXA以外の産業界及び大学の方が関わっているのをなるべく出そうとして、いろんな紹介をしています。

<HTV有人利用するための技術について>
参加者:HTVは、有人利用可能なレベルまで基礎技術はできているのではないかと受け取りました。もし実際に有人で運用するようにするのであれば、どのような技術あるいは運用方法を開発しなければいけないのかお教えください。
長谷川:大きく分けるとロケットと、その上に乗せる「こうのとり」と2つあります。まずは、ロケットの安全性ですが、今はH-IIBで上げていますけれども、燃料の液体酸素と液体水素は爆発を起こす可能性があります。もし、爆発したときに爆発しないようなレベルのエンジンまで高めるというのが1つと爆発があったとしても、その上に乗っけた有人宇宙船が安全に避難できるという2つが必要になります。今、うちの輸送本部で研究しているのは、エンジン自体の温度を下げることです。要は今は高温・高圧なので当然それを点火するとあっという間に2,500℃、3,000℃になってしまいます。ロシアのソユーズでは、「ケロシン」という石油系の灯油みたいなものに酸化剤を入れます。灯油は普通常温で燃えませんし、酸化剤も通常燃えないような純酸素ではない状態にしてあるので、ほとんど問題ありませんし、圧力や温度を下げることが、ロシアがガガーリン以来失敗していない理由の1つだそうです。
2つ目は、もしロケットで爆発があった場合、直ちに検知させて、上の部分の宇宙船をぼんと飛ばして、地上に落下傘で下ろす。そのときにGが相当かかります。10G以上かかるので、それは訓練しなければなりません。実際にロシアでも1回だけそういうことがありました。バックアップ装置を三重に備えているので、安全だと言っている背景があります。そこまで持っていけるよう、研究していかなければいけません。もう一つは、「こうのとり」は中に乾燥空気を入れていますけれども、数日間人間が乗ると空気が持ちませんので、空気循環をしてやらなければいけません。炭酸ガスが出ますから、炭酸ガスを除去してあげなければいけません。エアコンの技術だけでない生命維持の技術がキーなので、そこの研究を始めた段階です。