JAXAタウンミーティング

「第64回JAXAタウンミーティング in 生駒」(平成23年8月21日開催)
会場で出された意見について



第一部「JAXAの宇宙開発について-JAXAが描く新しい社会」 で出された意見



<JAXAの予算について>
参加者:事業仕分けでJAXAもかなり圧力がかかったと思います。JAXAの現状、今後の予算について教えてください。
小澤:事業仕分けは2度受けました。1度目は「衛星等の予算の約1割カット」、ということでした。2度目はちょうど「はやぶさ」が帰ってきた後でした。そうすると、さすがに仕分ける側も余り厳しいことが言えない雰囲気があって、その年の予算は1,800億円程度でしたが、「今後3年間は、その水準を維持する」という結果になりました。「はやぶさ」のお陰かどうかはわかりませんが、他の組織と比べれば、良い結果だったのではないかと思います。2009年にできた宇宙基本計画では、5年間で34衛星を打ち上げ、それに必要なお金が2.5兆円と試算されました。これはJAXA以外の衛星も含まれます。その規模からすれば、今の予算水準ではなかなか追いつかない状況です。今、挙がっているJAXAの計画を予定どおり進行させるには、少なくとも年間予算を2,000億円ぐらいに増やしてもらえると、皆さんのご期待に添える宇宙開発ができると思います。現在の水準だと、打ち上げ計画の実施時期を少しずつ遅らせないと、なかなか難しいという見通しです。特に、今年は震災もありましたので、あまり宇宙ばかり予算が欲しいとは言えません。世の中の状況を見ながら、宇宙開発を進めていければと思います。

<民間からの寄付について>
参加者:宇宙開発は日本を長い目で元気にする大きな分野だと思います。JAXAでカンパのようなことをお考えになるなど検討される動きはありませんか。民間からの財を受け入れる方法という工夫はないのでしょうか。
小澤:ありがとうございます。ありがたいことにタウンミーティングではたびたび、寄附をしたいというお話をいただき、私どもは非常に喜んでいる次第です。今までは、少額ではありますが、目的限定で、特に宇宙科学の分野についての熱心なファンの方から、寄付をいただくということがありました。各方面からこういうお話を今いただいておりますので、監督官庁である文科省をはじめ、いろいろなところと相談をして、皆様のせっかくの御厚意を頂きやすくするように、検討を行っています。

<JAXAの認知度について>
参加者:「はやぶさ」が帰ってきたということで、みんなが注目しました。それまで「JAXAって何?」という人が多かったと思います。やはり公的機関という感じで、情報発信が足らないのではないかと。定期的に情報発信していく何か計画はあるのでしょうか。
寺田:JAXAの認知度調査を毎年やっています。毎年少しずつ増えてきています。「日本で宇宙開発をやっているところはどういう機関ですか」という直接的な質問をして、「JAXA」と答える人は33.5%、約3人に1人が「JAXA」という名前を答えてもらえる状況です。具体的な活動としては、こういうタウンミーティングのようなイベント等を開催しています。今回で64回目、間もなく全国をほぼ一巡する状況です。様々な活動を通じて皆様にJAXAの活動を紹介して、ご理解いただいています。

<民間企業とJAXAとのタイアップについて>
参加者:このごろ、もともと国立大学だったところが法人化して、かなり企業とタイアップして研究されているところが多いように思います。JAXAはそういうことはされている、またはされる予定があるのでしょうか。
小澤:既に宇宙の仕事にかかわっている大企業だけでなく、これから宇宙にかかわりたいという小さな企業も、仲間に入れる仕組みを作っています。JAXAの中に産業連携センターを設置して取り組んでいます。例えば「こういう技術を持っているけれど、JAXAの宇宙システムの中で使えないか?」と考えている人、「JAXAのあの技術は面白そうだから、自分の会社の事業にその技術を使ってみたい」という人、と一緒に研究できる制度として、宇宙オープンラボ制度があります。これは、毎年2回程、公募を実施しています。また、最近では「自分たちで衛星を作ってみたいのでJAXAの協力を得たい」とか、「宇宙へ打ち上げたいが何か手段はないか?」などと考えている人がいます。そこで、私たちから「では、JAXAのH-IIAロケットに載せてみませんか」というお話をさせてもらいます。ただあまり大きな衛星だと、JAXAの衛星の打ち上げもありますから難しく、50キロぐらいまでの小さな衛星なら、何個かすき間に載せられます。そのために、H-IIAロケットの相乗りの制度を設けています。これも公募しています。民間企業や衛星、学生さんが作った衛星が既に10機宇宙に行きました。

<日本の技術開発について>
参加者:実用衛星はまだ海外製がほとんどだと聞きました。それを日本製に代えたり、海外を衛星を売るには、様々な壁があると知りました。安価なものを作るべきという正論はわかりますが、まさに日本の国力、技術を上げるためには、また違ったアプローチも要るのではと思います。それについてはいかがお考えでしょうか。
小澤:まず、なるべく安い衛星を作って海外に売り込む。これも一つの手かと思います。でも一番大事なのは、やはり世界が欲しがる技術を開発することだと思います。今までは国、JAXAが中心になって「この技術が多分いいだろう」と思って開発していました。世界最高のトップ水準の技術開発を目指していました。ところが、それは車の世界で言うと、技術的にF1の車のようなものです。F1の車がビジネスとして売れるかというと、少し違います。売れ筋の車というのは、性能だけではなく、マーケットに出したときにそれなりに必要なものがないとだめで、それは別の技術です。最近JAXAでは、技術のロードマップをつくるようになりました。5年、10年先にどんな技術が必要か、だから今からこういう手を打ちましょう、ということを企業の皆さんと一緒に検討し、技術開発の目標を作っています。、その窓口としても、JAXAの産業連携センターが働いています。
参加者:民間企業と一緒にやっていくのは、すそ野を広げる意味でいい話だと思います。そのように研究開発中心にやっていくと、完成品として先行している諸外国と同額、もしくはそれ以下の価格でつくるのは非常に厳しいのでは、という不安もあります。そのあたりはいかがでしょうか。
小澤:企業だけで技術開発に投資すると、それは相当お金がかかるかもしれません。そこで、国、JAXAにも役に立って、企業の海外販売戦略にも役に立つような技術がもしあれば、両方でお金を出し開発しましょうという話ができるわけです。すると、企業だけで開発をするより、JAXAと一緒に共同開発をすれば開発費が下がり、製品の価値を下がるという効果があります。

<デブリについて>
参加者:数多くの衛星が打ち上げられると、宇宙にいろいろなごみが漂う。これを、今後、日本を含めて国際的にどのように対処されるのか、お聞きかせください。
小澤:衛星が宇宙に滞在し続けると、それがすべて宇宙のごみになります。今でも相当の数の衛星や衛星の破片が飛んでいます。そこで、衛星がいつまでも宇宙に漂うことなく、ある程度の期間の宇宙から落下させるという国際ルールが定められています。25年ルールと言って、25年以内に落下させ燃やしてしまうようにするというルールです。デブリについては、国連や各国の宇宙機関間で、活発な議論が行われています。JAXAもその話し合いに参加し、国際的なルール作りに協力しています。2つ目は、衛星をつくる際、不用意に衛星の一部の部品がはがれて小さなごみにならないよう、しっかりした衛星を作ることも重要となります。3つ目は、既にもう宇宙のごみになっているものの数を減らすための研究が、世界中で行われています。例えば、JAXAでやっている研究は、電気を通す2、3キロ程の長さのひもを、漂っている衛星に取りつけ、それに電流を通し、地球の磁場とうまく作用させる事によって衛星を地上へ落とすという方法です。これをテザー衛星と呼んでいますが、そういった技術を開発しようとしています。

<知的所有権について>
参加者:技術のノウハウ、知的要素を保護するというのと、情報自体、撮ったイメージ自体の知的権利があると思います。その辺の知的所有権の問題を教えてください。
小澤:地球観測衛星の撮った映像の権利については、データポリシーと呼んでいます、例えば、これから打ち上げる水循環変動観測衛星などは、そのデータを使う人は主に研究者です。そういう人たちに対しては、無償でデータを相互利用できるようにしています。日本の研究者も外国の同じような衛星のデータを無償で使えるようになっています。インターネットで公開する様な方法がとられています。外国の衛星の中には、民間の会社が地上の様子を撮影して、その画像を売るというビジネスが行われているものもあります。それと同じような画像、例えばJAXAの「だいち」で言うと、災害地の画像や原発の画像などは、商業衛星と非常に区別をするのが難しい状況です。
公共機関や研究などで防災業務に利用したいという人に対しては原則無償で提供していますが、「だいち」の画像を商業利用をしたいという人が中にはおいでになります。そういう方については、関連の民間企業を通じて入手してもらっています。
参加者:外国の画像を日本で入手したいとき、逆輸入もその企業の窓口を通さないといけないということですか。
小澤:外国の衛星は、販売代理店が多数あり、1桁オーダーが違うぐらい高い金額ですが、そこを通じて外国の商業衛星の画像は購入できるようになっています。

<JAXAの関西サテライトオフィスの役割について>
参加者:東大阪にJAXAの研究拠点があると思います。あちらは、衛星に使われる材料を提供する拠点としていろいろ集積しているとのことですが、順調に発展しているのでしょうか。
小澤:JAXAの東大阪の施設(関西サテライトオフィス)には小さな衛星の試験設備を置いています。最近は様々な企業や、大学の方々が自分で衛星をつくりたい、打ち上げたいというご希望が多い。その途中で、試験をしないといけない。本格的な試験設備はJAXAの筑波宇宙センターにあります。筑波まで足を伸ばすのは大変なので、特に関西、九州の大学、企業の方については、東大阪の設備を使って試験をしていただいています。

<大学とJAXAの連携について>
参加者:ここ、奈良先端大というのは、新しい大学院大学ということで、いろいろな研究をされていますが、JAXAと先端大学とで、何か新しい研究技術開発はやっているのでしょうか。
小澤:奈良先端大とは、情報分野でおつき合いがあると思います。JAXAは、今、日本全国で宇宙に関心のある大学と協定を結んでいます。理工学の分野だけでなく、文化的な分野、あるいは法律の分野でも、JAXAの仕事に少し助言をいただけないかという試みをやっています。そのためにJAXAには大学連携室という部署があります。

<エネルギー問題や所領問題への宇宙技術の転用>
参加者:日本の宇宙産業は、約5兆円ぐらいの市場規模だと聞きました。今後、10兆円程度にされたいとのことですが、研究開発の成果として生まれた技術が、産業用に転用されるというのとは別に、例えば今の原子力に代わる自然エネルギー、のようなものを宇宙で産業化していく。あるいは食物を宇宙で産業化していく。そのような形で宇宙における産業化というのは現在、進展してないのでしょうか。
小澤:まず、エネルギー問題について、宇宙技術を今すぐに活用するというのは非常に難しい状況です。宇宙に大きな発電衛星を打ち上げて、それを電波、マイクロウェーブや、レーザーで地上に下ろし、地上に大きなアンテナをつくり、そこから給電する。そういう太陽光発電衛星構想というのがあります。しかし、とてつもなく大きな衛星で、それを実現するためには相当数のロケットの打ち上げが必要になります。そうすると、コストが合いません。そのために必要な技術は何か、それが本当に可能なのかを確かめる実験をしています。ロケット輸送技術に革新がおき、非常に安いロケットが開発されるなど、条件が整えば30年後、50年後ぐらいには実現できる可能性があるというレベルの話です。それから、食物を宇宙で産業化する宇宙農場というコンセプトがありますが、これについては私どもの有人宇宙技術、人類のフロンティアを拡大していく活動の中で、宇宙に行った場合の食料の需給方法として研究を行っていますが、実用はだいぶ先の話です。半分話題づくりもありますが、例えば宇宙ステーション、あるいはシャトルにいろいろな食物の種を持っていき、放射線の影響を受けていい方に種が突然変異をして、それを地上に持ってきて栽培する。すると、今までとは違った何か新しい植物ができるのではないかなどの実験を行っている研究者もいます。