「第62回JAXAタウンミーティング in 山形」(平成23年6月18日開催)
会場で出された意見について
第二部「我が国の宇宙輸送システムについて」で出された意見
<こうのとりの依頼先及び打ち上げ費利用について>
参加者:「こうのとり」が輸送船ということで、非常に物資を運んで役に立ったというのを新聞やニュースで見てすごくうれしく思いました。国際宇宙ステーションは世界各国で運営していると思いますが、日本が「こうのとり」を開発して物資を運ぶというのは、依頼があって日本で作ったのでしょうか。
また、「こうのとり」の打ち上げた費用というのは日本で出しているんでしょうか。
長谷川:国際宇宙ステーション(ISS)は、5つの機関が参加しています。アメリカ、ロシア、カナダ、日本、ヨーロッパ(11か国)の15か国です。5つの機関がそれぞれの役割を持ちながら、提供した割合に応じてリターンをもらえるという仕組みです。日本の場合は、8分の1になっていますので、12.5%ぐらいのリターンになります。これは1年半に半年間、宇宙飛行士をあげる権利を有しますし、ほかのモジュールでも実験を行える権利を有します。ISSでは、電力、酸素供給、二酸化炭素除去などの共通運用経費が当然発生しますが、5つの機関での現金のやりとりは行わないことになっています。そのかわりに、物資の提供、あるいは何らかの作業での提供を行います。日本は、「こうのとり」を1年に一遍上げて、「こうのとり」の物資の半分をアメリカに提供することで、費用を支払ったことにしています。こうのとり1号機の打ち上げは、定時に打ち上がり、到着の時間も正確だったので、ロケットの技術だけではなく、HTVのランテブー・ドッキングの技術もNASAから完全に信用してもらえ、現在、アメリカも似たようなものを民間が開発しており、技術支援を行っています。また、エンジン、電力系統、近接通信装置などについては、民間同士での売買も行っています。最近は更に、民間の運用要員の訓練もNASAも含めてやらせてもらっていて、費用をもらう場合とNASAに提供してもらっているものなどと相殺する方法を取って、できるだけ儲かるようにうまくやっております。
<人工衛星の空白期間について>
参加者:「だいち」が運用停止になって、また赤外線天文衛星「あかり」も運用停止となりましたが、運用停止と新しく打ち上げるまでの間が開いてしまい、空白期間が発生することについて、JAXAとしてどのように考えているかお聞かせください。
長谷川:「だいち」は、当初3年ミッションでしたが、2年延ばして5年使用しました。できれば、もうあと1~2年使用できることを期待していましたが、残念ながら運用停止になってしまいました。本当は「だいち」の2号を早めに開発したかったですが、予算がつきませんでした。予算が下がってきていて、JAXAの中でやらなければいけない作業は決まっており、年間予算の中では足りませんので、結局後ろ回しになってしまいます。
「だいち2号」「だいち3号」というのはもともと用意していたので、本当は切れ目なく行いたかったです。「あかり」の場合もよく活躍してくれたと思います。結局、皆さんの応援がなくてはできませんし、政府の予算の応援がないとできません。頑張っていろいろと工夫をしていますが、産業に対して幾ら貢献したか問われますので、できるだけ説明はしていますが、なかなか予算がつかないのが現状で、苦慮しています。
佐々木:気象衛星「ひまわり」という名前で皆さん御存じかと思いますが、もしデータが取れなくなって運用ができなくなれば、台風の情報や雲の動き、海面の温度などの情報が入りませんので、皆様の日々の生活に欠かせないものとなっています。まさに「ひまわり」は、切れ目なくやらなければいけないという判断になります。しかし、地球観測衛星、科学衛星は、研究開発と位置付けられており実績を1回つくって、よければ次もということになります。実績を積めば、早く次の成果を出した方がいい、切れ目なく観測していた方がいい、日本がこの観測で世界をリードするんだと皆様の声があがって、政府の判断があれば切れ目なく衛星を打ち上げられると思っています。是非皆様の大きなお声で、応援していただければと思っています。
<宇宙望遠鏡について>
参加者:光学宇宙望遠鏡を日本から上げてほしいと思います。ハッブル宇宙望遠鏡は、そんなに長くなく終わりになると思うので、研究用と、一般の人が使えるような宇宙望遠鏡があったらいいなと思っております。
佐々木:宇宙科学といっても、いろいろな分野があります。世界一を狙うには、誰もやったことがないところを狙って、世界一を目指そうとしております。人がやっているところの二番煎じでは意義が薄まります。例えばX線天文学もそうですし、誰もやっていないところを狙って頑張っているところです。
長谷川:SPICAという国際プロジェクトがあって、それが大きな望遠鏡を日本とヨーロッパを中心に、アメリカを交えてつくろうという計画があります。2018年にたしか打ち上げだと思うんですけれども、予算が付けばですが、応援をしていただけるとありがたいです。いろいろなところで、役所に対して意見を出していただければと思います。JAXAもメーカーさんもやればできるので、是非とも応援していただければと思います。
<宇宙へ行ける時期について>
参加者:一度日本を飛び出して逃げてみたいなと思っているのが宇宙空間ですが、これからどのような形で宇宙に住むことができるのか。私が生きているうちにできれば、自分で家を設計して住みたいと思っています、見通しをお聞かせください。
中村:大変壮大な、実現すると大変すばらしいことだと思います。現実には、宇宙に宇宙飛行士を打ち上げられるロケットを保有しているのは、ロシアの「ソユーズ」とアメリカの「スペースシャトル」がありますが、「スペースシャトル」は、来月で退役してしまいます。あとは中国にもありますが、日本も是非、有人ロケットの技術を確立したいと思っています。ただ、宇宙に行くのは単独ではできませんし、ブッシュ政権のときは2020年までに月に人をという「コンステレーション計画」というのをやっていましたが、オバマ政権になって見直されました。現在は、2030年ぐらいを目途に有人の、月も含めた探査をしようということで、どんな仕組みをつくろうか検討している国際的なチームもあって、日本もそれに参加しています。
長谷川:御自身が上がるにはという観点で、正確に答えられないんですけれども、今、国際宇宙ステーションに古川が行きましたけれども、一般の方も行くことができます。実際に40、50億を払って1週間の旅に行かれた方が何人かいます。訓練そのものは、1年ぐらいの訓練で、異常があったときにどうするかという訓練で、それを除いてしまうと、一般の方がそんなに難しくなく行けるようになりました。通常の地上の生活と違うのは、空間が、天井だとか壁だとか関係ありませんし、移動するときに足を使いません。また、重力がないので、血液が上に上がってしまい、最初数日は宇宙酔いがあります。食事はそんなに変わらず、日本食もたくさんありますので、問題ないと思います。今度、古川さんは、寿司やせんべいを持っていったと思います。寝るのも、暗くして寝るので、寝袋みたいなところに入って寝ればいいので、別にそこも悪くないと言っていました。ただ、昼夜が45分に一遍来ますので、その辺を気をつけないと、いつ夜で、そろそろ寝ようかというわけにはいかないみたいです。すごく難しいのはトイレだそうで、重力がないので勝手に落ちないらしく、小便はいいんですけれども、大便は便座の中でちゃんとしないとはじけ飛んでしまうので、気をつけないといけないと言っていました。そこさえ気をつけていれば、なれ始めると面白いそうで、若田さん、野口さんが言うには、途中からもう半年いさせてくれないかと思うらしく、重力から解き放されて、分からないことが分かってきて、新しい発見があるそうです。
<宇宙医学等の研究発表について>
参加者:タウンミーティングの場では、エンジニアの方がいらして話をしていただくことが多いのかなと個人的に思っています。JAXAの研究などを調べるようになったんですけれども、宇宙医学とか、生物学系の研究などもされていると思うんですけれども、そういった研究内容を発表する場、実際に研究を行っている方がいらして発表をしてくださる場とかはあるのでしょうか。
佐々木:たしかにJAXAというところは何となくエンジニアリングというイメージがあるみたいで、タウンミーティングを開催する前に地元の団体さんといろいろお話をして、どういうテーマがいいか決めるのですが、どうしてもエンジニアリングの話を希望されることが多い。しかし講師派遣という制度がありまして、大学、地域の集まりなどでも、宇宙生物学の話を聞きたいなど要望を出していただければ、JAXAにも宇宙医学生物学研究室というセクションがあるので、都合がつけば、どこでも駆けつけさせていただけると思います。JAXAが主催してやっているイベントも、大都市圏にどうしても偏って開催せざるを得ない部分がありますが、宇宙飛行士の向井千秋さんは宇宙医学生物学研究室の前室長ですがこの分野の認知度・理解度をあげる活動として一般向けのシンポジウムも多く企画されています。
長谷川:リクエストがあれば、今、話した向井千秋が東京近辺でセミナーを行っています。骨の劣化の防御とか、筋肉とか、毛根から病系を探るとか、感染症とか、結構やっているので、リクエストをしてくださって、山形でも山形大学でもどこでもいいんですけれども、そこで講演とかセミナーをやってくれないかという要望を広報に言ってくれると、行けるようにアレンジしてくれるのではないかと思います。
<(1)国際宇宙ステーションの運用期間について、(2)こうのとりについて、(3)子供たちへのロケット打ち上げ見学について>
参加者:(1)国際宇宙ステーション、各国で使われているんですけれども、これはいつまで運用される予定なのですか。
(2)「こうのとり」は、大気圏で燃えてしまうということでしたが、完全に燃え尽きるんですか。
(3)山形に勤めていた人間が、種子島の方に行っています。彼から聞いた話ですが、ロケットを打ち上げたときは感動的だったと言っていました。たくさんの子どもたちに見せてあげれば、感動して、自分も将来こういう仕事に就きたと考えると思います。山形では、なかなかロケットの打ち上げを見る機会がなく、子どもたちをロケットの打ち上げの瞬間を見せる企画などできないでしょうか。
長谷川:(1)国際宇宙ステーションは、2020年まで運用を継続する話になっています。カナダ以外は各国OKが取れたんですけれども、カナダは政権の変動もあってもう少しかかるようです。アメリカは2028年までやりたいと言っており、ロシアも2040年までやりたいと言っております。
(2)HTVの2号のときに、NASAが実験用の落下装置を入れてわかったんですけれども、チリとオーストラリアの間に落ちているのは間違いないですが、全部燃え尽きてはいないです。チタン合金という燃えないやつが残ってしまいますが、アルミは全部燃えます。その領域には、ノータムというのを出して、飛行機と船の航行を停止してもらっています。
中村:(3)子どもたちにロケットの打ち上げを見てもらうという、それに勝る広報はないと思います。私自身は、実はこの大型ロケットを外で見たことがありません。いつもモニターで見ていて、昔は外で見ていましたが、H-Iロケットのあたりまでです。非常に感動的です。子どもたちに直に見てもらうというのは、本当に一番いい企画だと思います。結局、また金の話になってしまいますが、予算の制約があります。政府も「科学技術立国」と言っていますので、未来を担う子どもたちがそういうふうに本気で思うような環境づくりを、皆さんで後押ししてくれればと思います。
長谷川:HTVのIIが上がる前に、「こうのとり」の名前を募集したことがあります。その当選者に景品として、1名と同伴者を種子島の宇宙センターに打ち上げのときに招待しました。現在、考えているのは、HTV-IIIのときに「こうのとり」の絵を募集しようかと考えています。
佐々木:実際には1名様ペアで御招待という程度ですが、今の「こうのとり」の話もそうですけれど、人工衛星の名前を募集したときなどにもやらせていただいております。ただ、グループ単位で行きたいとなると、全部JAXAが費用を持ってというところはなかなか難しいと思います。是非そこは地元の教育委員会さん、新聞社さん、テレビ局さんなどで青少年向けの“種子島に3泊4日で宇宙学校”といったような企画をしていただいて、来ていただければセンターの中では懇切丁寧に御案内・対応させていただきますし、間近でロケット打ち上げ司令体験とか、そういう企画もできると思います。是非来ていただくまでのサポートは地元と御協力していただいた方が、長い目でもお互いにメリットがあるのではなかろうかと思っております。最近そういう企画をやりたいと思っているところであります。
<パンフレットの絵について>
参加者:今日は美しいパンフレットたくさんいただいたんですけれども、「はやぶさ」のパンフレットは想像図ですか、それともどこかで撮っているんでしょうか。
佐々木:パンフレットの絵はイラストですが、「はやぶさ」に積んであるカメラで、「イトカワ」に太陽の光を浴びて反射した自分の姿が映った写真というのは実際にあります。「はやぶさ」の目的はただ単に砂を持って帰るだけではなくて、「イトカワ」の遠隔から撮った写真でどういう成分かというのをまず地球に送ってきて、どこに着陸したらいいのか、どういう形状なのか、どういう惑星かというのをまず調べるというのを最初に行いました。
<(1)宇宙関係への就職について、(2)日本とアメリカの衛星の解像度について>
参加者:(1)何とか宇宙に近づきたいということで、日々努力している子どもたちがいて、例えばJAXAに入りたいとか宇宙関係の仕事につきたいなど、そのような子どもたちに何か示してやることができればと思っています。どういうふうにすれば自分の夢を達成できるのか、どういうふうにすれば就職できるかなどお教えください。
(2)日本の衛星写真が出ますが、アメリカの民間の衛星よりも解像度が落ちるとか、日本のは使い物にならないという話を聞きます。工学技術というのは日本は相当すぐれていると思いますが、どうしてそこまで近づけられないのかお教えください。
中村:(1)JAXAでもほかの企業さんでも一緒ですけれど、実際に書類選考から面接して、同じようなフェーズを経て選ばれます。JAXAに入って何をするかというのが一番大切で、JAXAに入ること、あるいは有名企業に入ることがゴールではないんです。すごい難関を突破してきたにもかかわらず、若い人を見ていてると不満なところが実はあります。宇宙航空学科だけではなくて、機械でも電子でも何でもいいんですが、自分の一番好きなことを大事にして、目的意識を持って、勉強をして、社会人になってから何を目指すかというのを考えられる子どもたちになるよう御指導いただきたいなと思います。
長谷川:(1)的川さんのお答えを少し拝借して答えると、今、中村さんが言われたのと同じように、入った後、自分が30年から40年そこで仕事をするわけですけれども、そこで本当は何をしたかったのかというのをはっきり自分で思ってくださいと、自分はものづくりが好きだとか、日本の技術はすごいんだぞということを伝えようとすると広報になりますし、ぶれないことが重要だとおっしゃっていました。JAXAの場合、大体35~40名の新卒を採っていて、更に中途も大分採るようになってきました。定期的に数回の募集をかけて、数人ずつ採っていると思います。分野は技術系だけではなくて、法務、広報、財務関係もあり幅広い分野があります。また、JAXAだけではなくて、うちの仕事の中では、たくさんの契約をしている会社とか、サポートしている会社がたくさんあります。その方々も、実際にはJAXAの職員と同じことをやっている方もいますし、JAXAでは面接まで行かなかったけれども、サポートしている大きな会社に入って一緒に仕事している方もいます。一体何をしたいのか、どういう活躍をしたいのか、どんな分野で働きたいのかをはっきりさせることです。
(2)地球観測衛星でマスコミがよく言うのは、アメリカの地球観測衛星で、精度を1メートルとか、分解能を出しています。アメリカというのは、民生用の宇宙の技術と、安全保障・防衛の技術とは表裏一体で行っています。投下した費用はNASAが1とすると、防衛が10出していますので、ものすごい費用が出ています。JAXAの費用の10倍ほどがNASAの予算で、その10倍が国防省の予算です。その中で開発を行えば、たくさんの衛星ができます。8~9割はスパイ衛星ですので、それは一切公表しません。一部はそのスピンオフしたものを地球観測と言って、ビジネスにしている会社があります。それに比べて日本は、フランスの方が少し上ではないかみたいな話をしていますが、日本でもできます。次の「だいち」のIIとかIIIはその精度を出しますが、問題は予算になります。予算が早くつけば、いくらでもできます。技術的には負けていないと思います。日本のマスコミがすぐ自虐的に、日本を批判しますが、技術的には大丈夫です。