「第59回JAXAタウンミーティング in 相模原」(平成23年2月16日開催)
会場で出された意見について
第一部「日本の宇宙科学」 で出された意見
<日本での有人飛行の実現について>
参加者:日本の有人飛行の可能性を教えて下さい。
吉村:有人飛行への移行となると、難しいのは安全性の問題です。ただ、有人技術そのものは、国際宇宙ステーション(ISS)で経験を積んでいるので、それをベースに十分できると思いますが、チャレンジするとなると、かなり大きな決断になるので、国や国民の皆さんのサポート体制がないとできません。他国は有人飛行に対して、新しい力をつけていこうと強力な政策を行っていますが、日本は、まだまだそこまでサポートされる状況にありません。技術的には、日本も有人飛行は可能だと思います。
<「はやぶさ2(仮称)」について>
参加者:「はやぶさ2(仮称)」について実現は可能でしょうか。
小野田:来年度予算内示には含まれているため、「はやぶさ2(仮称)」のプロジェクトは来年度には本格的に立ち上がると思います。
<小型副衛星の活用について>
参加者:今までの体制だと、予算が少なかったり、「はやぶさ」の構想で20年かかったりと、限られた中で時間をかけて打ち上げられていると思います。しかし、現状は厳しい状況だと思います。このような背景もあり、小型衛星や小型副衛星の話が出ていると思いますが、現在の参加基準を確認したところ、企業の営利を目的とした参加はまだNGになっていると理解しています。その基準を一部解除して、より大きな予算確保のために、参加企業に対して技術協力の担保を行うことは考えているのでしょうか。
舘:小型副衛星はメインの衛星があり、そのメインの衛星の空きスペースを利用して打ち上げています。
現在は、大学関係が製作した小型副衛星にスペースを提供しているケースが多いです。既に民間企業の衛星も打ち上げてはいます。ただ、現在、無償でその機会を提供していますが、商用衛星として、そのまま提供し続けられるかという問題もあります。まず、これらの衛星を搭載、提供することにより宇宙に対する親しみを持ってもらったり、技術の裾野を広げていくことが、小型副衛星のねらいになります。
<各国の宇宙予算の現状について>
参加者:「はやぶさ」は世界的にも日本の宇宙技術の高さを示したと思いますが、日本の宇宙開発の予算が少ない理由を教えてください。
舘:予算は、平成21年度が約1,925億円で、平成22年度が約1,800億円、来年度は約1,700億円です。本来は、宇宙基本計画に基づき、宇宙予算は右肩上がりになっていく予定でしたが、実情は減額しています。今ある予算の中でどうするか、JAXA内で、科学衛星開発を進めるか宇宙利用を進めるか検討していきます。是非、予算は増えてほしいと思いますが、なかなか難しいのが実情です。NASAの予算は日本の約10倍、国防省の予算もこれと同じぐらいあります。アメリカは日本の約20倍の宇宙開発の予算があります。カーナビなどに使用されているGPSは、現在、約30個打ち上げていますが、これは国防省が打ち上げたもので、NASAが行っているわけではありません。また、ヨーロッパにはESAという宇宙機関があり、日本の約3倍の予算があります。日本は少ない予算で頑張っています。
<大学との共同研究について>
参加者:宇宙科学プロジェクトについて、JAXAと大学との共同研究は、どのような手順で、どの程度の基準があればできるのか教えてください。
小野田:JAXAの宇宙科学研究所には、大学共同利用の仕組みがあります。これは必ずしも宇宙科学研究所と大学が共同研究を行う仕組みではありません。このシステムは日本独特のもので、本来大学に配られるべきだったかもしれないリソースを1か所に集中させることにより、科学衛星のように個々の大学では作ることができない規模のものを作り、その代わりに大学の研究室がこれを自由に使うことができるようにするものです。共同研究は、ギブ&テイクなのに対し、大学共同利用システムは日本の宇宙科学全体を発展させていく為にJAXAが研究者に貢献するということです。その仕組みの中で宇宙科学プロジェクトをどのように立ち上げるかというと、先ず、研究者コミュニティから色々なアイディアがわき上がってきたものを、理学委員会、工学委員会と言う委員会が育て、育ったら一番良いもの選定します。今の質問だと、研究者コミュニティに入り、理学委員会などに提案できるようになるための資格はどういったものかと言うことだと思いますが、研究者であれば誰でも理学委員会や工学委員会の班員になれますので、それに申し込んでいただければと思います。
参加者:大学との共同研究は行っていないのでしょうか。
小野田:共同研究も勿論あります。ただ、大学共同利用の仕組みでは、大学等の研究者の方々が、共同研究よりももっと自由にJAXAのリソースを使えるようになっています。
吉村:宇宙科学の世界とは違いますが、ISSで行われる活動は、公募にて行うものもあります。大学でも民間企業でも応募することができます。宇宙科学の世界とは少し違うカテゴリを対象にしていますが、オープンにしています。活動自体も公募のタイミングも少ないですが、そのような機会を設けています。
<人工衛星の信頼性について>
参加者:最近は、ロケットの打ち上げは順調で成功が続いていますが、人工衛星搭載のロケットエンジンに関してはいまいちだと聞きました。今後の信頼性についての考えをお聞かせください。
小野田:金星探査機「あかつき」の金星軌道投入の失敗と火星探査機「のぞみ」の火星への周回軌道投入の失敗についての質問だと思います。地球から打ち上げるロケットは、一般論として、衛星に搭載するスラスターよりも高い信頼性が担保されないといけません。一方、衛星搭載のスラスターは重量やコストとの闘いとなります。大きなロケットがあるから、もっと重くなっても冗長系をしっかり取り入れた「あかつき」を打ち上げればよいのでは、という意見があるかもしれませんが、H-IIAロケットで打ち上げても「あかつき」と「イカロス」でほぼ能力の限界でした。従って冗長系をいくらでも取り入れれば良いと言うわけには行きません。「のぞみ」のときに推進系のトラブルを引き起こした部品については、「あかつき」では冗長系を組み、1つ故障しても大丈夫なように設計していました。しかし、今回は、信頼性が高いと思われたた部分が故障したようです。今後どうするかは大変難しい問題ですが、挑戦をしなければならない面もあるので、一つ一つの部品の信頼性を見極めて対処してゆくことが必要だと思います。
<ロケットの産業化について>
参加者:ロケット産業の目的は何でしょうか。ただ単にいろいろな研究開発のためなのか、あるいは商用のためなのか。当然予算の問題もあるかと思いますが、商用となると成功率を高めることによってお金が入ってくると思います。いかがでしょうか。
舘:H-IIAロケットは、現在はJAXAのロケットではなく、三菱重工のロケットで、商用化しています。商用化して利益が出ているかというと、まだ韓国の衛星を受注したくらいです。競争的には厳しいところです。JAXAとしては、海外の衛星を受注して産業としてしっかり育ってほしいと思っています。H-IIBロケットは、現在、JAXAと三菱重工の共同プロジェクトになっていますが、いずれはH-IIAロケットと同じように民営化し、商業衛星を多く受注して欲しいと思います。
吉村:私はロケットの専門家ではありませんが、ロケットそのもの、今の衛星を打ち上げるという観点で考えると、マーケットはさほど大きくありません。現在のところ、民間がいわゆる自動車産業のような形で、自らマーケットに対して売り出していくようなものではありません。しかし、最近、民間で動きが出ているのは、宇宙旅行のような話です。宇宙旅行と言っても人工衛星を打ち上げるようなロケットではなく、100kmほど打ち上がり降りてくる程度です。約1,000万円~2,000万円かかるようですから、対象は個人の方々ではなく、教育者や、地方自治体、企業など、グループとしてお金を出せる人たちを相手にしているようです。今、アメリカがISSに人を運ぶことについて、企業に対して、民間でできないかという募集をしています。また、ロシアでは実際に宇宙ビジネスを少しずつ始めています。民間が参入しなければ質の変化は起こせない、というのはわかっていますが、まだマーケットがありません。
<民間との共同研究ついて>
参加者:人工衛星の技術などは、民間を巻き込んで支援や共同研究することはないのでしょうか。
吉村:人工衛星の技術ではありませんが、ISSに関して、JAXAとしては、民間との共同研究はメリットがあります。ISSを使っての研究に関しては、いろいろな方のアイデアをいただいて、一緒に組ませていただき行っています。日本だけでなくアメリカの有人宇宙開発をこれからどのように行っていくかという視点でいくと、次の世代を背負う人たちに支援していくことになります。