「第58回JAXAタウンミーティング in 神戸」(平成23年1月30日開催)
会場で出された意見について
第一部「日本の宇宙開発」 で出された意見
<人類が月へ行かなくなった理由について>
参加者:アメリカが1960年代に月に行ったと思います。日本も取り組んでくれたら楽しいのですが、それ以降、どこの国も月に行っていないのはなぜでしょうか。
立川:アメリカが初めて月に行ったのが1969年です。アメリカ政府の財政も少し傾くくらい膨大なお金がかかりました。アメリカが月へ行ったのは、全部で6回です。もちろん、月の石を持って帰ったことはよかったことですし、科学的にも成果をあげました。しかし、アメリカの国民感情として、こんなにお金をかけるのかという話になったのも事実で、その結果、月へ人間を送る話は中断しました。ほかの国は追随しなかったかということですが、ロシアも同じ頃、国内にいろいろな問題があり、ムードが減ったのも事実です。最近、ようやく将来的に人間が地球を脱出し、ほかの惑星あるいはほかの星に行けないかという議論が活発になってきました。現在は、国際宇宙ステーション(ISS)までです。ISSは地球から400kmで、ほとんどまだ地球にいるといった感じです。日本は、まだ有人を打ち上げる技術を持っていないため、いかに早く獲得するかも重要になってきます。皆さんの関心が宇宙へ人間が行くという方向になれば、各国で協力した活動が再び始まると思います。
<「あかつき」の今後の対応について>
参加者:「あかつき」は金星への軌道投入が失敗し、6年後、再び接近の予定があると聞きましたが、6年後に接近するのを待つのと、新たな衛星を打ち上げて金星へ向かうのとではどちらが有効でしょう。
立川:再度打ち上げるには、相当なお金がかかります。また、「あかつき」を開発するまでには6年ほどかかっていますし、計画段階から考えると、もっとかかっています。そのため、同じものを再び打ち上げることはなかなか難しく、できるだけ打ち上げた衛星を活用し、最低限でも周回軌道に入るなり、あるいは遠いところからでも金星を観測できるよう持っていきたいと思います。ちなみに「はやぶさ」も安くつくったつもりですが、計画してから打ち上げまでに8年、還ってくるのに7年の15年もかかりました。結果的には安上がりでしたが、その時その時にかかったお金としては結構かかっています。宇宙科学もいろいろな分野があるため、できるだけ効率的にお金を使い、幅広く研究をしていきたいと考えます。
<JAXAのアウトリーチ活動について>
参加者:本日のタウンミーティングもそうですが、先日閉鎖になったJAXA i のようなJAXAのアウトリーチ活動をもっと活発化できないかと思っているのですが、そのような計画があれば教えてください。
立川:アウトリーチ活動は行いたいと思いますが、民間企業と違って広告経費がないため、どのように広告するかは大変難しいです。その中で考え出したのが、共催団体と協力して行うタウンミーティングです。今回で58回目ですが、少しは皆さんに認識をしていただいていると思います。しかし、政府から見ると広報にお金を使うのはもったいないということで、JAXA i も閉鎖になりました。JAXA i は、6年間で120万人もの方に来ていただき効果はあったと思いますが、残念ながら無駄なものはやめろということですので、我々としては更に効率のよい、お金のかからないPR方法・アウトリーチ方法を考えざるを得ないのが今の状況です。勿論、展示館をやめることばかりを考えているわけではなく、筑波にJAXAの拠点がありますが、そこにはスペースドームという展示館を昨年の7月に新たにオープンしました。また、打ち上げ射場のある種子島にも展示館がありますし、相模原や調布にも展示室があります。できるだけ皆さんに見ていただこうと思っていますので、是非のぞいてください。
<今後の宇宙開発について>
参加者:現在の日本の状況から予算が右肩上がりで増加することはおそらくなく、今後も減らされていく可能性があると思います。減らされて行く予算の中で、今後どのように宇宙開発を続けていけるのか、続けていく予定なのか教えてください。
立川:私が1点目に言いたいことは、国の予算は右下がりですが、だからと言って宇宙関連の予算も下げることはないのではないかということです。政治家の方には、もう少し日本の予算の使い方を重点化し、何を戦略的に伸ばしていくか、あるいはどれはやめて仕方がないかメリハリをつけないと、一律に全てを下げていったら日本国がジリ貧になってしまうと申し上げています。どの程度やっていただけるかは国家戦略担当大臣の話になります。実は昨日、国家戦略担当大臣兼宇宙担当大臣が筑波を見学され、やはり宇宙は大変重要だという言葉もいただいたので、何か考えていただけるのではないかと思っています。また、現在は、世界各国もお金がないと言っています。そのため、世界で協調し、各国の持ち出すお金は減らすが、効果としては皆で行っていこうということで、特に宇宙科学にはこの動きがあります。3つ目には、できるだけ安くつくればよいではないかということです。そのため、メーカーの人と共同で、できるだけコストダウンを図っていくことを考えたいと思います。その際も日本のメーカーだけではなく、世界のメーカーで協力し、分担生産も行い少しは安くできないかということも考えています。我々は、アメリカの予算の10分の1しか使っていません。NASAの10分の1で開発・研究を行っていますが、成果はほどほどあげているわけで、せっかくの研究開発をジリ貧にしては困ると思っているので、皆さんの支援をいただければと思います。
<宇宙開発への民間資金の活用について>
参加者:日本にはGT500というレースがあり、GT500に参戦している某レーシングチームは、民間のキャラクターを登用し、スポンサーを集める方法でお金を集め、レースに参戦しています。レースと宇宙開発は、お金の規模がもちろん違いますが、民間を巻き込んでJAXA独自でお金を集めることはできないのでしょうか。
立川:民間の方の協力も得て日本の宇宙開発を進めたらどうかという話は、たびたび聞いており、実現に向けて少し考えていますが、集まる額の桁が違うため、まずは資金を得るよりも、むしろ関心を高めていただく方が重要かと思っているところです。ちなみに、例えば宇宙へ探査機を打ち上げる際、皆さんの名前を乗せますといったとき、名前を乗せる代わりに100円くださいというイベントを行い約100万人集まったら、1人100円でも1億円になります。このような方法で衛星開発の一助にならないかと考えています。実際、これを行う手間の方が結構かかり、手間もボランティアで皆さんにやっていただかなければならないことになってしまうため、大変と思っていますが、一生懸命考えているのでよい知恵があったら教えてください。
<衛星の部品を輸入に頼ることに対するリスクについて>
参加者:先日の「あかつき」は投入に失敗し非常に残念でした。新聞報道によると、以前、火星探査機も投入に失敗し、その原因の1つが外国から輸入した弁の部分がブラックボックスになってうまく働かなかったという情報がありました。一方、「かぐや」は、見事にハイビジョン映像できれいな映像を送ってきました。「かぐや」も月に投入する時、当然減速を行ったと思いますが、同じ部品だったのでしょうか。また、外国製の部品に頼らざるを得ない状況は何とかならないものでしょうか。
立川:なぜ部品が外国製で、それが壊れたとき、どうなったかという話をしたいと思います。宇宙開発は高価で、各国が多くのお金を出していない結果、どのようになったかというと、注文が少なくなるわけです。特殊な弁ではありますが、日本の企業でもつくることはできます。しかし、つくっても買い手がないためもうかりませんし、滅多にいない買い手のためにつくるのは大変です。弁は、外国の会社が他のものをつくる傍らで行っており、その会社がよい製品をつくり各国に提供し、各国がそれぞれ試験を行い使用しているため、必ずしもメーカーが悪いとも一概に言えませんし、組立てが悪かったかもしれないため、現在、一生懸命究明しています。しかし、発注量が少ないがゆえに、供給業者が限られていること自体が問題です。もう少し競争が働くとよいと思いますが、残念ながら商売にならないため誰も行わないのが現状です。また、外国から輸入する際、宇宙関係の情報は、いつミサイルに転用されるかもしれない技術が含まれており機微な情報なため、オープンにしないことになっています。そのため、公開しないからけしからんとも言いづらいです。こういう状況の中で、できれば全て日本の純国産の部品で組み立てたいと思いますが、なかなか難しいため、現在は、戦略的な部品だけは日本でつくろうということで13品目くらい選び進めているところです。
参加者:「かぐや」は同じ部品を使ったのですか。
立川:ブースターと言いますが、これを使うときは、燃料が過大に流れ過ぎないように止める、あるいは逆流するのを止めるための弁がどの探査機にも付いています。「かぐや」はうまくいきましたが、火星探査機「のぞみ」もこの弁が1つの原因でしたし、「あかつき」も同様な現象が出たということです。
<「イカロス」の推進方法を利用した次期探査機の計画について>
参加者:宇宙ヨット「イカロス」が成功したと思いますが、その推進方法を使った新しい探査機の計画はあるのでしょうか。
立川:当事者の川口教授は、次は木星に行きたいと言っており、木星への「イカロス」的な輸送方法を一生懸命研究しています。残念ながらまだプロジェクトにはなっていないため、何年先に飛べるかはよくわかりませんが、当然次も考えています。木星が成功すれば次は土星へと、要するに太陽より遠くへ行きたいと考えています。その理由は、太陽より遠くへ行くには、太陽からの光が弱くてなかなか太陽電池がもちません。今回の「イカロス」で小さなエネルギーでも行けることを証明したわけです。ただし、時間はかかることになると思います。
<日本のロケット開発の考え方について>
参加者:ロケットの分野では、H-IIシリーズロケットとM-Vロケットの主に2つの組織があり、コスト面からM-Vを廃止した経緯があったことを何かの情報で聞きました。その経緯がある中、現在、イプシロンロケットを開発するのは、H-IIシリーズとの兼ね合い、コスト的にどうなのでしょうか。
立川:日本は固体ロケットが先で、科学衛星の打ち上げ用に使ってきたミュー(M)シリーズです。M-Vが最後で、これは2006年に打ち上げました。廃止した理由は、値段が高過ぎ、衛星より高くなるという話があり、もっと安くできないかということですぐに次の計画を打ち出しました。それが現在のイプシロンロケットで、M-Vロケットをやめるときには後継機は当然考えていました。しかし、国の政策決定機関である総合科学技術会議でなかなか了解が出ませんでした。予算は申請しましたが、そこで止まってしまい、3年遅れたということです。H-IIAロケットは、液体ロケットで、固体ロケットとは異なり、大きいロケットをつくることができます。純国産でつくった液体ロケットがH-IIロケットですが、高い部品ばかりを集めてつくってしまい国際競争力が低くなってしまったため、H-IIAロケットに切り替えました。現在、基幹ロケットとして使っているのがH-IIAロケットで、日本としては、H-IIAロケットで大型衛星を打ち上げ、国際競争力を持たせると同時に、科学衛星用には割安の固体ロケットで打ち上げることを考え進めていきたいと思っています。また、H-IIBロケットは、三菱重工とJAXAで共同開発を行っています。大部分は、JAXAが払っています。なぜ共同開発にしたかというと、H-IIBロケットは、例えばエンジンはH-IIAロケットのエンジンを2個並べただけの格好にし、H-IIAロケットの派生機として、H-IIAロケットの技術を利用しています。H-IIAロケットの打ち上げ事業は三菱重工へ移管しており、当然その技術を使用するH-IIBロケットも三菱重工の能力を活かしてつくることになりました。
<中国やインドとの協力関係について>
参加者:現在の中国の宇宙開発はどういう状態になっているのでしょうか。国際協力という言葉が宇宙開発には不可欠かと思いますが、その中に中国の名前を挙げられることがほとんどないように思います。情報開示や宇宙的な領土問題、資源的な問題が発生したときに、協調性がとれるかが不安に思うのですがいかがでしょうか。
立川:中国はロケット開発を行っている国の1つです。そういう意味で、宇宙に対し、大変力を持っている国であり、パートナーにするかどうか考えているところです。インドについても同様です。今、問題になっているのは、中国とインドが国際協調で行っている枠外にいることです。この両国に対し、どうするか問題はありますが、ロケットの基本は、アメリカとロシアが中心となりこれまでは動いてきました。アメリカと中国の関係は冷たかったのですが、ブッシュ大統領のときに少し交流しようという話も出て、オバマ大統領もこれを引き継ぎ、今はアメリカのNASAと中国の宇宙機関との間で協議が始まったという段階です。ただ、その他の情報はないため、まだまだオープンにはなっていないと思います。我々日本と中国との関係は、まだ窓口交渉を行っているくらいで詳細まではなかなかわかりません。宇宙開発にいくらお金をかけているか、宇宙開発に何人携わっているのかもわかりません。同じことはインドにも言え、インドともまだ本格的な協力協定は結んでいない関係にあります。しかし、両国とも実力は持っているため、今後どうするかは相手方の出方次第というのが、アメリカ、ロシアをはじめとしたISSの参加国の宇宙機関長が集まったときの見解です。
<スペースデブリについて>
参加者:今後も各国が衛星を打ち上げていくことになるかと思いますが、スペースデブリの問題とか、衛星の軌道上の交通事故なども将来的に出てくるかと思われますがいかがでしょうか。
立川:スペースデブリは一度できるとなかなか消えません。長いものは200年くらいかかると言われています。したがって、今後打ち上げる衛星等については、寿命が来たら自分で始末するということになり、これは性善説に立った約束事です。日本の衛星は打ち上げると、寿命がきたら自分でエネルギーを使って落ちてきて燃やしてしまうことにしており、今後やたらと発生することはないと思います。2段目のロケットが意外にそのまま軌道を周って衛星になってしまい、これが時々落ちてきます。これもできるだけ打ち上げたときに自らの力で落とすということで、先日のH-IIBロケットの打ち上げの際にその実験も行い成功しました。昔打ち上げた衛星をどのように処分するかは困っており、どのように除去するかを今、研究開発を一生懸命行っており、1つのアイデアは出てきています。長い線をくっつけ、それに電流を流せば当然落ちてくるので、そういうものを昔の衛星につけにいくかということになります。実際つけに行くのもお金がかかります。一方、網を広げたらよいのではないかという考えもありますが、スペースデブリのスピードは速いため、網ではすぐに破れてしまい、衛星を捕まえることは難しいでしょう。
舘:昨年、ロシアの通信衛星とアメリカのイリジウムという商用衛星が衝突するということが初めて起こりました。よく宇宙はゴミだらけと言われますが、数で言うと、だいたい10cm以上の大きさのものが13,000~18,000個です。決して多くはありません。ただ、なぜ問題かと言うと、スペースデブリは秒速8kmでまわっているため、一度当たるととんでもないことになります。数自身としてはそんなに多くはありませんが、当たると危険ということで、今、人工衛星は国際的な取決めで、25年の間には地球に落して燃やしてしまおうという取組みを進めている状況です。
<ISSの各国の負担割合について>
参加者:ISSで日本が使えるリソースが12.8%とありました。使っているお金を考えたら非常に高いと個人的には思うのですが、まず12.8%が何を基準に決まっているのかというのと、日本として、この割合をこの後どのようなことで貢献し、上げていくことを考えているか教えてください。
立川:この貢献割合は計画当初に決めたもので、これから増減はしません。その理由は、ISS全体をつくる際にどのくらいの貢献をするかという計画で行いました。そのため、日本は「きぼう」実験棟をつくることも行いましたし、宇宙ステーション補給機「こうのとり(HTV)」は毎年1機ずつ打ち上げるといった全ての分担を計算し、日本は12.8%の貢献になると計算してあります。アメリカが約77%と圧倒的で、日本が2番目です。アメリカに次いで日本、その後にヨーロッパ、カナダとなっています。ロシアは別です。4か国で考えると、日本は第2位を占めているため日本の宇宙飛行士がたくさん長期滞在できるわけです。今後はおそらく増減はしませんが、2016年以降延長することに決まったため、延長に参加しない国が出てくれば増減がでてくるかもしれません。
<ISS及び日本人宇宙飛行士の今後について>
参加者:ISSに関して運用延長が決まったが、ISS自体の建造にかかった年数を考えると、「ISS2」がもし考えられるとしたら、今から計画がないと間に合わないのではないか、ISSと後継機の間にギャップができてしまうのではないかと考えているが、そのあたりの話は何か検討されているのでしょうか。また、ISSの今回の延長による宇宙飛行士の枠は、前回2008年で採用が決定された方で足りると考えているのでしょうか。
立川:現在、ISSは2016年から2020年くらいまで延長して使おうと考えています。物理的寿命は1998年から製造を開始しチェックすると2028年までは大丈夫というのが各国の見解です。そのため、2028年までは物理的には使えると思います。もし継続する気になれば、古くなった部分は交換して使えばよいため、延長しようと思えば半永久的には延長できると思います。ただ、お金を出す気があるかが問題で、ISSは地球から400kmしか離れていません。新しい基地をつくるなら、400kmしか離れていないところではなく、もっと離れたところにつくれないかという意見も世界的には出ています。1つは地球から38万km離れた月につくったらどうかという考えです。もう一つ、太陽系のなかには、ラグランジュポイントという安定点があり、そこにつくればよいではないかという意見もあります。ラグランジュポイントは地球から150万キロ離れている点です。人間の宇宙基地としては400kmよりよいのではという意見もあり、これは今後の課題だと思います。また、中国はISSに参加していないため、自分で独自に宇宙ステーションをつくると言っていますが、これも400kmくらいです。しばらくは400km離れたレベルが人間の滞在場所かと思いますが、20年後、30年後を考えると月やラグランジュポイントに基地をつくるという話も出てくるかもしれません。そうなると、永遠に宇宙へ人間を送る発想になってくるため、当然、宇宙飛行士が必要になるわけですが、そのころには、私の印象では宇宙飛行士でなければならないということではなくなる時代がくるのではないかと思います。しかし、少なくとも2020年までは宇宙に行ける資格をきちんと訓練し、体調管理も全て行った人でないとなかなか行けないと思います。現在、3人新たに選抜し訓練中で、間もなく合格してくれると思いますが、宇宙飛行士になって、その3人で回していけば2020年くらいまでは対応できると思います。現在、既存の宇宙飛行士は5人います。5人と現在訓練中の3人の合計8人でまわしていけば十分対応できると思います。10年ごとに宇宙飛行士を募集してきましたが、次はどのくらい先になるかは宇宙飛行士の必要性、いわゆる需要によるわけで、宇宙基地がもっと大きくなれば当然たくさん必要になりますし、やめてしまえばいらなくなってしまうということで、微妙なところです。私の希望としては、今後、もし宇宙飛行士を募集するなら、今までは理系に限ってきたわけですが、そろそろ理系には限らず誰でも受験資格はある格好にして、人文科学系の方も入っていただいたらと思っています。