JAXAタウンミーティング

「第57回JAXAタウンミーティング in 浜松」(平成23年1月23日開催)
会場で出された意見について



第二部「はやぶさの7年間の軌跡とその目指したもの」で出された意見



<「はやぶさ」後継機について>
参加者:「はやぶさ」後継機について、決まっていることがあれば教えてください。
吉川:まず「はやぶさ」があります。「はやぶさ2」があって、「はやぶさMk2」というのがあります。「はやぶさ」と「はやぶさ2」は探査機のスケールが同じなので、行ける距離は地球の近くの天体ということになります。「Mk2」とは、モデルチェンジをしたという意味で、「はやぶさ」の2倍か3倍ぐらいの大きな探査機です。より遠くからサンプルリターンをして、より始原的な物質の採取を行います。対象は、例えばD型小惑星とか枯渇彗星核で、これらの天体に起源を持つ隕石はほとんど地球で確認されていなくて、物質がまだわかっていません。そういったことを通して、太陽系の起源の究明をして行きたいと思っています。

<「はやぶさ2」のサンプル採取方法について>
参加者:「はやぶさ2」について、次のサンプルを採取する際に、爆発物を使って人工的にプレートをつくるという話がありましたが、その衝撃によって、地表の中にある物質が変質してしまう心配はないでしょうか。それを含めて分析するという前提になるのでしょうか。また、その方法は、無重力に近い状態の中でサンプルを採る方法として、一番いいと考えられたということでしょうか。
吉川:「はやぶさ2」は「イトカワ」と違う種類の小惑星に行って、まず「はやぶさ」と同じ方法で表面から物質を採取します。その後、円筒形の衝突装置を使うことを検討しています。本体からゆっくり切り離して表面に降りて行き、その間に本体は急いで危険を避けるために退避します。この後、上空で衝突装置が爆発して、表面に大体直径5m程度の小さなクレーターをつくる。そこに着陸して、クレーターの中から更に物質を採りたいわけです。小惑星の表面は、太陽の光を浴びて物質が変質している可能性が高いため、「生」に近い物質を採るのに、この方法を考えました。しかし、ぶつかったその場所は、確かに熱と圧力で変質してしまいます。ただ、たくさん破片が飛ぶので、変質しているものはごくわずかで、それ以外は特に影響がないはずだと思っています。上空で爆発させる理由は、地面に置いて爆発させてしまうと、爆薬によって表面がかなり汚染されてしまうので、それを避けるためです。

<「イトカワ」、「はやぶさ2」、「はやぶさ」のサンプラーホーンについて>
参加者:(1)たくさん小惑星がある中で、「はやぶさ」の目的地になぜ「イトカワ」を選んだのか。
(2)「はやぶさ2」が行くとなると、今度はどんな小惑星が選ばれるのか。
吉川:(1)どうして「イトカワ」を選んだのかというと、「はやぶさ」は小さな惑星探査機ですので、行ける領域が決まってしまいます。能力的に、行って帰ってくることができる距離は、大体火星軌道ぐらいまでにある軌道です。調べた結果、そういった都合のいい小惑星は、せいぜい4つか5つしかありません。そのうちの1つが「イトカワ」でした。実は「はやぶさ」の最初のターゲットは、別の小惑星でしたが、たまたま打ち上げのタイミングで「イトカワ」になったということになります。
(2)「はやぶさ2」は「イトカワ」とは別のタイプの小惑星に行くことになりますが、基本的に軌道は「イトカワ」とほぼ同じです。「1999 JU3」という小惑星が「はやぶさ2」のターゲットになりまして、「はやぶさ2」も「はやぶさ」と同じぐらいの規模の探査機なので、行ける領域は決まってしまいます。「1999 JU3」は表面の岩石に水とか有機物がたくさんありそうだと言われていて、この種類の小惑星で「はやぶさ」タイプの探査機が行って帰って来られるのは、実はこの「1999 JU3」しか今のところ発見されていないのです。大きさは900mぐらいで、「イトカワ」の倍くらいで形が丸いので、10倍ぐらい強い引力になるということが、今のところわかっています。
参加者:(1)「イトカワ」は微小な重力の中で、あの形をどのように保っているのか。
(2)微小な重力なのにどのように衛星を近づけていっているのか。
(3)サンプル採集ホーンはどうして中心にないのか。
吉川:(1)やはり重力のために物質が集まっていることになります。また、これは計算機のシミュレーションですが、小惑星同士がぶつかった後、破片に分かれて、それが重力で集まって合体し、このような「イトカワ」の形になったと想定します。
(2)「イトカワ」の上空20kmからだんだん高度を下げて、約7kmのところで観測を続けました。それから、3回接近して離れることで「イトカワ」の重力を確認、運用方法を確立し、4回目にタッチダウン。そのタッチダウンが予定どおりいかず、表面に不時着してしまいました。ただ、2回目のタッチダウンは予定どおり成功して、飛び上がりました。
(3)カプセルが端に付いていますから、カプセルへ物質の搬送がなるべく短くなるようにしたためです。それから、中心部分には燃料タンクがあるため、置きづらいというのもありました。

<エンジントラブルについて>
参加者:イオンエンジンについて、今回のようないろいろなトラブルを事前に予想していたのでしょうか。それともたまたまエンジンを開発した人が、バックアップ機能などそういう回路を組み込んだのでしょうか。
吉川:結論を言ってしまうと、こういう回路が組み込まれていることを私も知りませんでした。イオンエンジンはプラズマをつくってイオンを出すところと、出したものを中和する2つの機能を持っていて、どちらかが一方でも壊れてしまうと使うことができません。イオンエンジンは同時に3台までしか使えませんが、イオンエンジンのグループが、万が一のときに使う可能性もあると、開発中に1本のバックアップの回路を組み込んででいたそうです。ですから、たった1本の回路があったおかげで命拾いしたということで、そのあたりはエンジニアの直感なのでしょう。

<宇宙開発の産業化について>
参加者:宇宙研究開発というのは、非常に先端科学技術の集積体だと思います。この技術が、航空技術の研究や航空産業分野の基礎別基盤の研究といったところに、大変な貢献をされていると思います。その成果が、特許権などで確立されて、民間企業や海外へ販売して収入を得る可能性があるのか、この研究開発の成果のゆくえは、どうなるのでしょうか。
小澤:JAXAで今、持っている特許は約800ありますが、他産業でJAXAの特許が使われているというと、まだ非常に少ないと思っています。我々としてもこれからどんどん、情報提供を行って、使っていただけるようにするつもりです。しかし、宇宙分野においては、海外に日本の衛星メーカーの部品が売れているところはあります。それを広めて、ゆくゆくは衛星システムが売れるようにするという取り組みを現在しているところです。また、ロケットのフェアリングに使われている断熱塗料がありますが、それを一般の家の屋根や壁に塗料として使用することよって、断熱効果が出るように改良した企業がありまして、今、相当売れているそうです。もう少し時間が経てば、もっといい事例を紹介できるのではないかと思います。
参加者:「はやぶさ」の部品の中には、大手ばかりではなく、中小企業がつくったものもあると聞きしました。今後は、そういった部品開発にしても、中小企業にまで門戸を広げてもらえればと思いますが、お考えをお聞きしたいです。
小澤:JAXAには、産業連携センターという組織がありまして、いろいろな企業の相談を受けるようにしています。大手のロケットや衛星のシステムをつくっている企業はもちろん、大手の下請けになっておられるような企業からの相談もあります。ロケットや衛星がどういう企業によって、あるいは協力によってつくられているかを紹介した本も出しました。協力いただいた企業は全部で200~300社あったと思いますが、その会社のリストなども掲載しています。挙げさせていただき、「あそこがやったんだから、うちも何か参画できるのではないかな」という気持ちになっていただければと思っています。更に「うちの企業にはこういう技術があるんだけれども、宇宙に使えないか」という場合には、JAXAと共同研究でその可能性を検討しようというオープンラボ制度というものも設けています。それから、よくフランスなどで開催されているエアショーという航空機の祭典に、中小企業の皆さんをお連れして、小規模ですが、展示会などで海外の企業と話ができるような機会をつくるようなことも行っています。
参加者:日本の衛星探査機に外国製のパーツが結構使われているとお聞きしました。純国産でつくることはできないでしょうか。
吉川:「はやぶさ」の場合、リアクションホイールという姿勢制御用の装置が外国製になっています。日本でもリアクションホイールは開発して、もう使えるはずです。それを使っていきたいとは思っていますが、まだ宇宙実証がされていません。やはりすぐに間に合わないものは、外国から輸入して使うしかないという状況です。

<国際宇宙ステーションについて>
参加者:国際宇宙ステーションでは現在どのような実験がされているか。
小澤:まず、宇宙環境をよく知るための科学実験や無重力空間を利用して金属をつくる材料実験などをしています。また、重力の影響で地上ではつくりにくいタンパク質の結晶ですが、宇宙では、大きくてわかりやすい結晶をつくることができます。製薬会社が宇宙で作られたたんぱく質の結晶を分析して、新薬の開発に役立てています。また、これからやろうとしているのは、高齢化社会の役に立つような技術の開発です。宇宙に行くと、地上と同じようには生活できません。例えば排泄は宇宙だと非常に制約がありますので、それをサポートする技術を地上の介護に利用できないかなどの検討です。また、宇宙に行くと骨が溶けてしまうため、骨を溶かさない薬の研究を行うことによって、骨粗鬆症に効く薬ができるかもしれません。宇宙ステーションを地球環境を監視する場に使えないかのアイデアもあります。このようにいろいろな取組みを考えています。