JAXAタウンミーティング

「第57回JAXAタウンミーティング in 浜松」(平成23年1月23日開催)
会場で出された意見について



第一部「JAXAの宇宙開発-現状と今後の展望-」 で出された意見



<静止衛星について>
参加者:静止衛星の軌道が大変混雑していると聞きましたが、日本に割り当てられている枠はありますか。
小澤:位置について日本に割り当てられたものはありませんが、打ち上げる前に国際的に調整されています。いろいろな衛星が打ち上げられるので、ずっとそこにいると邪魔になり混雑します。だから、完全に燃料がなくなる前に少し高度を上げて、ほかの衛星に迷惑をかけないようにするとか、一定の位置を維持するために軌道制御をしっかり行うとか電波干渉を起こさないようにするなどのルールがあります。
舘:確かに電波干渉はあります。しかし、昔のアナログ電波と違い、今はデジタルですから、割とそういう干渉も減っていると思います。

<国際競争と協力について>
参加者:(1)宇宙開発を競争ではなく、国連主導にして各国で協力して進めたらどうか。
(2)原子力などは、安全だと言われていますが、まだ疑問の余地があると思います。安全対策として、放射能の濃度や、発生場所などの観測をする計画はありますか。
小澤:企業の輸出力を伸ばすという意味での競争は必要です。ただ、例えば地球環境問題で、各国が競争するのは少し違うと理解しています。地球環境問題は、たくさんの国が協力して進めた方が効率がいいので、宇宙機関間で協力していくことは必要です。
(2)近い将来そういった話が出てくる可能性はあると思いますが、今のところ、まだ具体的な計画にはなっていないようです。

<GCOM-W(水循環変動観測衛星)について>
参加者:GCOM-W(水循環変動観測衛星)関連でお聞きします。氷河や南極、北極の氷が今、溶け出して海面が上昇しているそうですが、そういった観測調査もやられているでしょうか。
小澤:世界の気象学者や気象機関の中では、そういった検討をしているところはあると思います。GCOM-Wでは、北極の氷の面積を観測することができます。ただ、氷が溶けて、海水がどれだけ増えたかというのは、センサーも付いていないので、衛星からだけで知ることは難しいと思います。例えば北極あるいは南極の氷の面積を、衛星で一定期間観測して、その変化を見ます。季節変化などを除くと、全体的に氷がこれだけ減っているというのがわかります。その減った氷の量をもとに、海水の量にどういう影響が出るかというのを、計算することは可能です。このような掲載をする研究者に海氷の変化データが届くようにするというのが、JAXAの役目になるのだと思っています。

<H-III3段式ロケット(有人飛行)の構想について>
参加者:H-IIIの3段式ロケットの構想について、お聞かせください。
小澤:日本の有人計画について、「2020年ごろまでに有人の往還システムについて、それぞれの要素技術を高め、実現の見通しを得るための研究を進める」ということを政府が決めました。そして今、それに基づいて検討が行われています。ただ、実際に有人の往還システムをつくるとなると、2つのことが必要です。1つ目は、HTVのような宇宙船に人が乗れるようにする。2つ目は、H-IIBに有人化された宇宙船をのせて、打ち上げることが可能になるようにすることです。そのためには例えば、、何かあった時に途中で搭乗した人が地球上に戻って来られるような装置が必要になりますが、まだ本格的な検討は行われていません。先日、H-IIA、H-IIBの技術が日本独自の有人システムの一部として使える、という論文が発表されて、それが新聞記事になりました。それがH-IIIの構想だと思います。ただ、相当なお金と大切な人命を預かるシステムをつくるということで、日本として大きな判断が必要になりますので、まだ政府でそこまでの決意が固まっておらず、今は、必要な技術を研究しようという段階にあるということを御理解ください。

<「あかつき」について>
参加者:「あかつき」が行こうとしている金星は硫酸の風がすごい速さで吹いていると聞きました。どのように硫酸の中に入って観察するのでしょうか。
吉川:「あかつき」は、残念ながら金星周回軌道投入に失敗しましたが、もともと硫酸の雲には入らず、直接大気には触れない高い軌道の予定でした。金星には非常に速い大気の流れがあります。その気象現象を調べるために、遠くから観測するというのが「あかつき」の目的です。金星は、自転の速度が遅いのに、空気だけ早く流れています。その仕組みを調べるというのが、「あかつき」の1つの大きなテーマということになります。

<こうのとり2号機(HTV2)について>
参加者:先日打ち上がった「こうのとり」について、例えるとバス1台分が宇宙ステーションに向かっているのと同じとのことですが、どのような状態で結合するのか教えてください。
小澤:バスという例えが出ましたが、長さが10m、直径は約4mです。重さが荷物も全部合わせると16.5t。その規模のものが打ち上がります。宇宙ステーションは、地表面から高さ約400kmの高度のところを飛んでいまして、HTVは徐々に軌道を上げて、ステーションの下に近づきます。約10m手前のところで一旦止まり、バーシング方式といって、宇宙ステーションのロボットアームにつかんでもらいます。宇宙飛行士がそのロボットアームで宇宙ステーション側に引き寄せて、HTVを取りつけます。ちなみに、ロシアの「ソユーズ」や「プログレス」という宇宙船は、ドッキング方式といって、自ら移動して結合するやり方です。
舘:「こうのとり」のメリットは何かというと、結合するときのハッチの大きさが120cmで、ロシアのものは80cmと小さい。ですから、唯一大きなものを運び込めるのは日本だけというのが現状です。

<デブリ問題について>
参加者:地球の周りの衛星の中には、もう現役を引退したものもあると思います。今、地球上でもリサイクルや、物を大切にするという意識が高まってきている中で、宇宙へ上げた衛星というのは、どんどん増えていってしまうのか。それとも回収する方法などを検討しているのか、教えていただきたい。
小澤:宇宙には現役を引退した衛星の破片などの、スペースデブリが飛んでいます。それが衛星にぶつかると、システムが壊れて社会的に影響が出てしまうので、国際的に議論されています。また、国連でもスペースデブリを何とかしようという議論が始まっています。宇宙機関の間では、上がった衛星について、少なくとも25年以内に、地球の大気圏に落として燃えるようにするというルールもあります。今、JAXAで研究しているのは、長さ2~3kmの電気が通る帯のようなものを衛星から出して、地球の周りの磁気と電流を反応させて、衛星を地球の方向に向かって落とす「テザー衛星」という仕組みを検討中です。このように少しずつですが、宇宙のごみを減らすこういう方法を世界中の宇宙機関なり、国連が、検討し始めています。

<JAXAの広報活動について(1)>
参加者:「あかつき」が失敗した原因やその改善策をJAXAはどんどん知らせるべき。失敗はしたが、今、もう一度チャレンジしていますという話をすれば、もっとみんな興味が湧くと思う。今やっていることをもっと国民に伝える。そういったやり方をお願いしたいと思います。
小澤:貴重な御意見ありがとうございます。一番大事なことは、皆さんの御理解と御支援が必要だということです。例えば「あかつき」の失敗の原因でも、プレスリリースなどでお知らせしてはいますが、皆さんとのこういう生の対話ができる機会が非常に意義があるのではないかと思っています。「あかつき」についてですが、金星に近づいたときにエンジンを吹かして金星の周回軌道に入ることになっていましたが、途中でエンジンが止まってしまいました。調べてみると、エンジンを吹いていたところ、姿勢が大きく揺れたので何か故障が起こったのではないかと衛星が判断して、噴射を自動的に止めてしまったんです。そのため推力が足りず、そのまま金星のそばを通り抜けてしまったのです。今、わかっているのは、燃料が逆流しないように調節する逆止弁というものの調子が悪くて、エンジンの燃え方が異常になったため、衛星が回転したとか、エンジンの一部に穴が開きそこからガスが出て衛星が回転したとか言われています。まだこれという断定はできませんが、今、そこまで検討が進んでいます。これから仮説をたてて再現実験をしてその仮説どおりになるかというのを調べていきます。その後、それに基づいて6年後と言われています。再チャレンジの可能性や方法が検討されています。

<JAXAの広報活動について(2)>
参加者:現在は情報化社会なので、情報をどこからでも入手できてしまいます。しかし、その情報が正しいのか、間違っているのかは、私たちでは判断できません。ですから、JAXAが主体となって、テレビや新聞などの媒体を通して、きちんとそれが正しい情報である、というのをわかりやすく伝える形をどこかでとってもらいたい。
舘:テレビ番組を通してというと、JAXAという公的組織では予算的に難しいところだと思います。だからといって何もしないわけではなく、いろいろな形でお願いをしています。また、JAXAのホームページのアクセス数は1,000万ページビュー。しかし、ホームページを見たがる方しか見ないという問題もあります。何と言ってもJAXAの広報で一番効果があるのは、プロジェクトが成功することだと思いますが、成功したことをいかにうまく伝えるかは、広報の手段だろうと思っていて、ここはもっともっと方法はあると思います。