「第56回JAXAタウンミーティング in 福井」(平成23年1月9日開催)
会場で出された意見について
第二部「宇宙開発と安全確保-安全・安心な国際宇宙ステーション開発-」で出された意見
<日本の衛星の故障・失敗の確率について>
参加者:以前からISASのホームページをよく見ていますが、日本の衛星の事故率は、どれくらいあるのでしょうか。昔のNASDAと比べるとISASは事故率が高い気がするのが私の考えで、日本の場合、有人飛行を行わないのが原因の1つではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
長谷川:事故がいわゆる不具合も含めてということになれば、難しいですが、完全に衛星がだめになった場合と、一部がだめになったがかなりの部分が達成している、ロケットの場合も人工衛星を完全な軌道に乗せられなかったけれども、ある部分までは達成できたといろいろあるため、正確に事故率を出すことはできませんが、少なくともロケットの場合では、95%以上の成功率に達していると思います。
川口:そもそもロケットはシリーズもので、繰り返しの生産品であるため性格が違います。衛星も地球観測衛星の場合は少し違いますし、共通のバス、プラットフォームのようなものの上につくられているものも違います。それ以外のものは、基本的には1個しかつくりません。人工衛星は基本的に試作機1つが実用機になって打ち上がります。そのため、前号機を活用してつくる衛星以外は、基本的には試作機です。したがって、例えばある衛星が飛んで不具合があると、次回同じものを飛ばす際は、その不具合を絶対防ぎます。つまり、試作機をつくりデータ化するという繰り返しの活動が必要で、我々は解析・調査・点検で、不具合を克服しようとしていると理解いただけるとよいと思います。ISASの事故率が高いというのは、おそらく1回きりで、次は全く違う衛星をつくる場合の話だと思います。繰り返し使うものに比べると相対的には新しい要素が入ってくると思います。ただ、決して諸外国に比べて高いことはないと思います。
長谷川:調達の問題は重要で、国内のものを調達する場合は、履歴を全部チェックすることができますが、海外から調達する場合、特にアメリカの場合は規制があり、技術移転させないため履歴はなかなか見られません。そのため、受入試験といって、履歴なしで受け取りチェックを一生懸命行っているのですが、過去の履歴からずっと見比べるのは難しいところがあります。そこを解決するために、特に基本となる部品については戦略的に考え、宇宙開発の中で自在性を確保するためには、お金がかかってもどうしても国産で行わなければならないものと、購入するものについてもアメリカだけでなくヨーロッパなどからどういう形で購入すればよいかを国際協議で話もしています。また、アメリカからしか買えないものについても、技術移転に対し、アメリカ人は他国の人には見せないが自国の人には見せるということで、アメリカ国籍の代理人に契約で見てもらい、結果だけしか報告が来ないのですがチェックしてもらうなど工夫はしています。
<安全な宇宙開発のリスクについての考え方について(参加者からの意見)>
参加者:ロケットという巨大な物で有人飛行の場合、人は乗っていくため、必ず危険がつきものであるというのが大前提だと思います。しかし、日本の場合、何か問題が起きるとバッシングが起こります。私はアメリカに長いこと住んでいましたが、スペースシャトルの大惨事があっても、アメリカのメディアの場合、日本のような大騒ぎ、バッシングはせず、こういったリスクはつきものであるという大前提があり、国民はそれをかなり冷静に受け止めていたように思います。国民性の違いも含め、やはり宇宙開発は危険だというところからいかにリスクを低減していくかというところへ進めていかないと、いきなり安全となってしまうと、事故が起こるとだめではないかとバッシングになると思います。
<イトカワへの着陸について>
参加者:「はやぶさ」は1回目の着地の後、しばらくとどまっていたとありましたが、それはなぜ起きたのでしょうか。おそらく事前に想定していたコンピュータプログラム、「はやぶさ」に搭載されていたソフトでは対応し切れない状態になり、混乱したのではないかと想像していますが、その緊迫したときにどういうことが実際に起きていたのか教えてください。
川口:1回目の着陸のときは、30分以上着陸していました。1回目の着陸は、ターゲットマーカの自動捕捉と自分の位置制御がすべてうまくいっていました。次に何が起きたかというと、「はやぶさ」には太陽電池の下に岩などがあると危険なため、それを検知するセンサーがありましたが、そのセンサーが障害物を検知したという信号を発しました。誤作動でないかと思われるかもしれませんが、実は2回目の着陸のときにも起きています。これは誤作動ではなく、私はおそらく非常に小さな微粒子が光を反射していると思っています。機器としては「イトカワ」表面から離れろといった検知もしていないため、センサーとしてはおかしくありませんでしたが、障害物を検出したため着陸の中止を指令しました。そのときの姿勢は、表面に対して傾いており、そのまま離陸すると翼を引っかけ離陸する可能性があったため、待機、地上からの指令待ちになりました。しかし、「はやぶさ」は、「イトカワ」の重力にまかせて自由落下を始め、どこかでバウンドし、何回もバウンドしてだんだん極側の方に流れていきました。そして何回かバウンドしていくとバウンドが小さくなり、最後には表面に着陸してしまいました。地上からわからなかった理由は、20分くらいのタイムラグがある中で見ていたため、地上で見ていたのは最初のバウンドが起きたところまでです。何が起きているかわからず、弾んでいる、手前側に飛んできたということだけがわかりました。それに対し、我々は非常の指令を送りました。送達されてその指令が届くのは更に20分先です。そのため、指令が届くときには、「はやぶさ」は既に「イトカワ」の上に着陸していました。
<少ない予算の中でのプロジェクト遂行について>
参加者:今回「あかつき」で軌道投入失敗があり、新聞報道で逆流防止弁が詰まったことがわかったという記事がありました。予算が少なく、バックアップのパーツなどいろいろなものがないと新聞報道で読みましたが、「はやぶさ」も同様で、かなり無理をして大変だったと思います。予算が少ない中で「はやぶさ2(仮称)」は大丈夫でしょうか。
川口:「はやぶさ」に積んでいるロケットエンジンは、推力が小さいスラスターです。逆止弁はついていますが、逆止弁を流れる流量はわずかです。「はやぶさ」を運用しているときは、上の弁はすべて閉じて運用していました。閉じて運用しても構わないミッションでしたが、「あかつき」はそうはいきません。「はやぶさ」と「はやぶさ2(仮称)」に関して言うと、逆止弁に関しての依存度は、ほとんど関係ないに近いというのが率直なところです。
参加者:部品で海外のリアクションホイールや姿勢制御の機械が次々と壊れたと記憶しています。同じ部品が一度にたくさん積め込むことができたら、壊れても対応できると思いますが、衛星が小さいため限度があると思います。
川口:海外調達の部品をどのように信頼性高く入手するかは大きな課題です。
<予算と宇宙開発の失敗の関係について>
参加者:NASAの予算と人員はどのくらいでしょうか。日本の国力は、アメリカのGDPや人口に比べるとだいたい3~4割と思います。日本は、科学技術立国で同じくらいお金をかけ、日本の体力に見合ったものであれば、NASAの3~4割の差はあってもアメリカ並みの力が届くと思います。しかし、お金がないため、無理矢理、最小限の機械にいろいろつぎ込むと、どうしてもいざというとき、不具合が出たときに残念なことになってしまうのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
舘:予算規模は、JAXAは1,800億円と話しましたが、アメリカのNASAの予算は、もちろんレートにより変動はありますが、10倍の1兆8,000億円くらいです。国力、人口比で言うと日本はアメリカの2分の1くらいですが、予算で言うと10分の1くらいです。しかもNASAの正規職員は2万人はきったと思いますが、JAXAの10倍よりもまだ多いくらいです。それ以外にもコントラクター(契約人・請負人)がいるため、おそらく数万人の規模でいます。また、アメリカは、同じ規模の予算を国防省も持っています。結局、トータルとして予算は20倍くらいの規模です。アメリカはGPSを31機持っていますが、このくらいの数の衛星が打ち上がり、皆さんの車や携帯に使われています。GPSはただで使っていますが、アメリカの国防省が打ち上げています。そのため、アメリカの国防省がやめと言ったらカーナビは使用できません。実感がないためなかなかわからないですが、予算規模は全く違います。必ずしも予算規模と衛星の開発が同じとは思いませんが、やはりチャレンジするときはどこかに開発ミスがあったりします。ただ、予算があり直せるのであれば直せることはできます。
<リアクションホイールについて>
参加者:リアクションホイールは、国産のものは開発されているのでしょうか。もし、あったとして「はやぶさ2(仮称)」には間に合うのでしょうか。
長谷川:リアクションホイールは、既に国産の開発を進めています。それまで、リアクションホイールは米国企業のライセンス生産で国産を実施してきましたが、ライセンス切れや、「はやぶさ」でのホイール不具合の時に必要な情報が入手できなかったなど輸入品の制約が大きくなったことなどで、国産化を促進してきました。大型のもの、中型のもの、小型のものと、大きさにより技術が随分違うため、順次開発を進めており、開発が出来たものから実際の人工衛星に搭載しています。
川口:「はやぶさ2(仮称)」には、当然問題を起こしたリアクションホイールを積むことはないと思いますが、最終的には、入札で決定することになります。「はやぶさ2(仮称)」のときに大丈夫かという点は、「はやぶさ」が打ち上がる前に私が姿勢系の担当者へ言ったのは、リアクションホイールを使わない運用方法を考えろということでしたが、間に合いませんでした。ただ、実際、帰ってくるときは、ほとんどリアクションホイールは使わない状態で帰ってきました。リアクションホイールを使うときは使う、使わないときは休むという運用方法は、運用性が悪くなるから担当者は考えたくありません。しかし、本当はそういう方法も考えるべきと思っています。それも含め「はやぶさ2(仮称)」では大丈夫だと思っており、もちろん、「はやぶさ2(仮称)」ではリアクションホイールの数の増加も図るため貢献すると思います。
<イカロスの運用について>
参加者:イカロスはガススラスターがなくなった後、どうなるのでしょうか。
川口:イカロスは、推進剤がなくなると運用できなくなります。大きな膜を積んでいますが、膜も必ずしも完全に対称にはできていないため、膜が絶えず光を浴びるとスピンの回転数が低下する側に小さな力が働いています。それはジェットで補って飛ばしていますが、イカロスは、いずれ燃料がなくなると、回転低下を抑えられなくなってしまいます。しかし、将来、同様の光子セイルがスピンの低下にさらされるかというと、そうではありません。これは、イカロスで得られた成果で最も大きいところですが、世界で初めて液晶のデバイスで姿勢制御することに成功しています。電気的、ガスの消費なしに姿勢を変えられます。我々は、当初、姿勢を変えられるだけかと思ったのですが、回転数を制御することもできそうだというアイデアにいたっています。将来、膜構造のものはスピンの制御、三軸制御が光の液晶のデバイスでできるということがわかったということが大きな成果だと思います。繰り返しになりますが、残念ながら「イカロス」は、ガスがなくなると帆が縮んでしまうため、操縦できなくなります。
<JAXAは子ども達へ夢を与え続ける存在であって欲しい(参加者からの意見)>
参加者:私は福井市内の小学校に勤めています。カプセル展示場で実物を見せてもらいましたし、実物を見る前には、ビデオも見せてもらいました。大変感動しました。小学生にこの感動を与えてあげたいと思いました。小学校には、夢を持って来る子どもたちがたくさんいます。おそらく川口先生や長谷川技術参与も宇宙への夢を持って今の仕事に携わっているのではないかと思います。そのような子どもたちが夢をなくすような教育は行いたくないと思っています。「あかつき」にも子どもたちが卒業の際、メッセージを送らせてもらいましたし、「あかつき」の軌道投入失敗がありましたが、その際にも卒業した子どもたちが6年後、7年後に日本に戻ってくるかなと言いにきました。私は、今後もJAXAという存在が日本の将来を担う子どもたちに夢を与え続ける存在であって欲しいと思います。(拍手)