JAXAタウンミーティング

「第56回JAXAタウンミーティング in 福井」(平成23年1月9日開催)
会場で出された意見について



第一部「はやぶさ-地球への帰還を終えて-」 で出された意見



<「はやぶさ」が数多くの困難を切り抜けることができた理由について>
笹木副大臣:約7週間通信ができなかったり、着地も不時着だったり、サンプル採取が計画どおりいかなかったりと数多くの困難があったと思います。これらをどう切り抜けたか、特に着地の予想外の展開をどのように切り抜けて危機を脱出したか聞かせてください。
川口:プレッシャーで大変だったのではとよく言われますが、通信途絶の際は、これ以上悪いことはなかったため、それほどプレッシャーはありませんでした。ただ、着陸の際は、2005年11月末までに「イトカワ」を出ないと地球へ帰ってこられなかったため、本当にプレッシャーでした。必ず着陸させなければならないのですが、着陸させる技術の目途はありませんでした。分野を超えていろいろな人がアイデアを出せるよう、皆を励まし、技術的によい意見はどんどん採用しました。実際に着陸運用の新しい方法を提案した人は、軌道関係の人ではありませんでした。計算機で処理することを前提としていましたが、人間がオペレーションに入る処理を入れたおかげで、劇的な精度の改善と処理の高速化が図れました。ほかの分野の人でも自由な意見を出せる雰囲気を作ることが大事だと思います。
笹木副大臣:宇宙関係で失敗が起こると、ものすごいバッシングがあります。先日、「あかつき」の軌道投入の失敗がありましたが、今回の「はやぶさ」があったため、バッシングが今までに比べると非常に少なかったそうです。「はやぶさ」は最終的に快挙を成し遂げましたが、仮に失敗があってもそのトライが次の成功につながります。これを是非、皆さんに理解いただき周りの方にも伝えていただきたいと思います。

<イトカワを選んだ理由について(その1)>
参加者:「イトカワ」に照準を定めたいきさつを教えてください。
川口:小惑星は非常にたくさんあり、軌道が確定すると正式に登録されます。近年、地球に衝突する小惑星を早めに見つけようと精力的に探索が行われたため、この十数年の間に激増し、全部で約40万個登録されています。しかし、サンプルリターンという往復の宇宙飛行を行うとなると、例えばスペースシャトルを使用したとしても、実際に往復できる小惑星は十数個しかありません。小惑星が一番多く飛んでいる場所に往復できればよいのですが、そのためには途方もない量のイオンエンジンや電気推進機関を搭載した宇宙船が必要になります。現時点の技術では、往復できる小惑星は、候補としておそらく十数個しかありません。また、最初に選んだのは「イトカワ」ではなく「ネレウス」という小惑星でしたが、この小惑星は少し遠かったため、計画の初めの段階でもう少し行きやすいターゲットに変更しました。それが「1989ML」という小惑星で、40万個の中で一番往復しやすいターゲットでした。しかし、打ち上げるロケットのM-V4号機が不具合をおこし、1年以上遅れてM-V5号機で「はやぶさ」を打ち上げたため、目的の小惑星に行けなくなり、2番目に行きやすい小惑星「イトカワ」を選びました。

<イトカワを選んだ理由について(その2)>
参加者:「イトカワ」を選んだのは、小惑星そのものが爆発を経ていないため、採取された物質に熱的な影響がないことをねらったと聞きましたがいかがでしょう。
川口:基本的に小惑星は始原天体と呼ばれ、熱転換変性等をうけなかった天体です。「イトカワ」が特殊というわけではなく、小惑星の多くはもともと大きくなれなかった天体です。小惑星は、火星と木星の間にあり、木星の影響を受けて大きく成長しようとしたが、集合することがかなわなかったグループです。大きくなり集まってしまうと中が溶けてしまいます。直径が500kmを超えると丸くなりだし、1,000kmを超えるとほとんど球形になります。直径が200km以下の天体は完全に溶けなかったため、形がいびつなままで、熱転換変性を受けていないということです。

<SFを超える技術の開発について>
参加者:「はやぶさ」だとスイングバイ、「イカロス」の場合だと光推進がありますが、私は、これらの技術をScience Fictionの感覚で最初に知ったため、既に行われることにびっくりしました。SFを超えるようなアイデアはどこからくるのでしょうか。
川口:「はやぶさ」はイオンエンジン、「イカロス」は光推進です。SFのScience Fictionは実現するまではScience Fictionと思いますが、実現した段階でNon Fictionになります。もともとFictionで考えていたアイデアは、空想は空想ですが、それが実現すると高性能な推進機関、輸送方法につながると考えてきました。光子ロケット、光ロケットも話は同じです。原理としては勿論できるのですが、発電所を上げなければ打ち上げられないようなものです。例えば、木星にソーラー電力セイルを打ち上げる場合、「イカロス」の光子推進と「はやぶさ」のイオンエンジンを組み合わせた宇宙船の構想があります。なぜ光子推進とイオンエンジンの組み合わせが必要かというと、木星のところでイオンエンジンを運転しようと思うと大電力が必要です。木星は、太陽から地球の5倍くらいのところを飛んでいるため、同じ電力を得るのに必要な太陽電池の大きさは、地球の周辺を飛ぶ人工衛星に比べて約25倍必要です。しかし、かたい翼の太陽電池を広げることはできないため、軽量の薄膜を広げる太陽電池でなければならないということにつながっています。そういうものがあると木星に行くときもイオンエンジンが運転できるようになり、弾道飛行で通り過ぎることしかできなかったものが、相手の天体とランデブーできるようになります。そうすることで、これまでわからなかった科学的成果あるいは地質調査、資源調査もできるようになります。人間の活動範囲が広くなるわけですが、これらを後押しするニーズよりも種をまずつくり、能力を身につけようとする活動が先行していると理解してもらえるとよいと思います。

<太陽の光力が与える影響について>
参加者:大学の講義で「はやぶさ」が影響を受ける太陽から出る光の圧力を計算したことがあるのですが、少ししか光圧がないのですが、実際に運営するとかなりの影響があったのでしょうか。
川口:惑星探査機は、地球からずっと離れています。もちろん、太陽の引力を受け飛んでいるのですが、太陽の引力は一様で、大きな勾配はありません。惑星探査機で軌道に与える加速度は、一番大きいのは太陽の引力ですが、次に大きい力は太陽の光の圧力です。光の圧力で軌道が変わることを無視することはできません。「はやぶさ」が地球に帰ってくるときに一番大事な要素は、非重力加速度、重力によらない加速度成分をどれだけ正しく推定して管理できるかということでした。代表は太陽輻射圧です。「はやぶさ」をオーストラリアに着陸させる際に最も難しかったのは、光の力がどのくらい働いているか推定することでした。力の絶対値としては小さいのですが、大きな力です。「はやぶさ」はキセノンガスを節約するために太陽の光の力を使って姿勢制御を始めたのですが、1円玉を100等分したうちの1かけらに働いている力しか働いていません。しかも姿勢制御に役立つ成分はさらに1けた下ですが、その力で十分でした。宇宙空間は静かな場所で、ほんのわずかな光を受けるだけでも大きな影響を及ぼすくらい大きな影響があると理解してもらえたらと思います。

<学校教育の充実について>
参加者:私は、昔、学校にいた者です。子ども達には、学校の図書館で調べなさいとよく言ったものです。子ども達は図書館へ行って調べてくるのですが、現在の図書館は本当に貧弱で何も資料がありません。今回の「はやぶさ」のような資料があれば子ども達も調べ、このような資料もあると言って、皆の前で発表することもあると思います。それがこれからの科学技術にも結び付き、子ども達は本当に勉強したいという気持ちになると思うのですが、現在の学校の図書館はあまりにも貧弱で、教育のウェブ化、教科書でしか教えられないことになってしまい、子ども達も興味を持たない、いろいろなことを研究したいという希望をかなえることができないのではないかと思います。やはり学校教育にお金をかけ、子ども達の興味、関心を膨らませ、子ども達がこれからも勉強していくことができるようにしてもらいたいと思うのですが、いかがでしょうか。(拍手)
笹木副大臣:おっしゃるとおりだと思います。図書館ということではありませんが、スーパーサイエンスハイスクールや「科学の甲子園」といった分野では、かなり来年度予算で頑張っています。図書館機能を学校で充実することは絶対に必要と考えます。映像も含め最先端のものを見ることができるわけですが、その辺りは非常に遅れており、まだまだ使い勝手が悪いと思います。しっかりやりたいと思います。文部科学省も政府も国民に対する広報が今まで下手だったと思います。是非、文部科学省のホームページを見ていただきたいのですが、この1月から初めて科学技術白書のデザインやタイトルを皆さんから募集するようになりました。小中学生と一般向けそれぞれ別々に募集しています。今回は、科学技術に関係している方以外の方に募集してもらえるような公募を初めて行いました。皆さんには、ホームページなどに寄せていただく声は物すごく効きますから、是非声をあげてもらいたいと思います。