JAXAタウンミーティング

「第55回JAXAタウンミーティング in 秋田」(平成22年12月12日開催)
会場で出された意見について



第二部「『はやぶさ』 から月探査へ」で出された意見



<現在の宇宙開発の状況について>
参加者: 私が小学校5年生のときにアポロ11号が月に着陸してから40年が経つのですが、子どもの頃に考えた夢は、21世紀になったらもっと宇宙開発が進んでいるイメージがありました。しかし、私の印象では、当時のイメージに比べると遅れているような印象があるのですが、予算の問題はあるかと思いますが、どのように考えているのでしょうか。
橋本:やはり予算が厳しいです。これは、世界的に厳しいというのが状況だと思います。昔も決して楽だったわけではないと思いますが、アポロ時代は、アメリカと旧ソ連のある意味競争があり、国家予算のかなりの部分を投入して行うことができました。ところが、やはりその後はアメリカもそんなに大きな予算は投入できないということで、現在、計画が揺らいでいます。なかなか今までと同じコストで同じようなことを行うのは難しいですが、10分の1、100分の1のコストなら可能だと思います。今、私が示した月探査、最初の無人の着陸は、予算さえあればすぐにでもできると思っており、我々もかなり技術検討・提案を行い、昨年、政府レベルで議論もされ内容そのものはよいとのことになりました。ただ、予算状況を見て考えるというのが結論になっている状況です。また、人を乗せてとなると安全性の問題などいろいろあるため、単に費用だけの問題ではなく、時間がかかるかと思います。
舘: 宇宙開発史という観点から見ると確かにアポロ時代は華々しかったと思います。ただ、現在行っている国際宇宙ステーション(ISS)は世界15か国の参加で行っており、国際協力としては世界最大の国際協力で、規模としてはアポロをしのぐくらいのお金や規模を持っています。もう一つ考えて欲しいのは、アポロ時代に比べ皆さんに宇宙開発の恩恵があるということです。例えば、BSテレビを見ている方は衛星抜きには考えられませんし、カーナビではGPSを使っていますが、当時はありませんでした。当時に比べると非常に宇宙開発は皆さんの暮らしに浸透してきています。もう一つよく言われるのが、当時はアメリカと旧ソ連だけが宇宙開発を行っていたのですが、中国、ヨーロッパ、日本、インドが行うなど、多くの国で宇宙開発を行っています。2強の時代から多くの国が参加する時代になったことなど、時代も変わってきたということではないかと思います。

<JAXAの現場への高校生の参加について>
参加者: 「はやぶさ」のオーストラリア上空での突入の映像を撮った観測用航空機DC-8にアメリカの高校生が乗っていたのを後で知り、現場で直接見ることができた高校生はどんなに素晴らしい刺激を受けたかと想像します。JAXAでも高校生向けの教育プログラムがありますが、できれば高校生ができる範囲でサイエンスの内容に直接生の現場で携われるような機会があれば刺激を受け子どもたちも頑張れると思いますが、研究者の間では議論があるのでしょうか。
橋本: 高校生に対しては「きみっしょん」という教育プログラムなどがあります。ただ、この教育プログラムは仮想ミッションを考え、そのプロジェクトの考え方を身につけてもらうところで、実際の専門職員が行っているのと同じ科学を行っているわけではありません。大学生レベルでは、勿論JAXAの研究は大学と連携して行っているため、大学の学生が中心に活動している場合もあります。
舘: 高校生が何かのミッションに関わったことは聞いたことがありません。例えば、打ち上げを見学することは当然やっていますし、特に高校生だけではありませんが、豆記者といって記者会見の場所に入ってインタビューをすることは種子島で行っています。それ以外の高校生以下の方が実際にJAXAの事業に参加したのは聞いたことがありません。

<「かぐや」で行われなかった実験について>
参加者: 「かぐや」で、最初は2つに分離し地上にデータを送るという話もあったと聞いたのですが、なぜできなかったのでしょうか。
橋本: 「かぐや」は、打ち上がる前は「SELENE」というコードネームでした。着陸機があり、定常観測、十分観測が終わった後で推進エンジンの部分だけを切り離し、着陸する実験を行う計画でした。そのときにいろいろな議論があり、一番決定的だったのは、技術的にまだ着陸技術が日本にとって十分でなかったということです。当時は、どこに降りるかはわからないがとにかく切り離そうということでした。その中で確率を計算すると岩にぶつかってしまう確率が、たしか5%くらいありました。95%成功するならよいではないかという考えもありますが、当時の宇宙開発委員会等では万全を期して失敗することはあるが、最初から95%しか成功しないということには認められないということがありだめになりました。現在考えているのは、着陸するときに障害物を回避する技術を研究しており、ほとんど目途がついたのでできるだろうと考えています。もとから岩などがない安全な地域に着陸するために画像を使ってどこのクレーターが見えているから、今どこを飛んでいるというのを見ながら誘導する技術も実は研究してきました。そのうちの一部、これは地上で行いましたが「はやぶさ」にもこの原理を使っており、イトカワの地形地図を自分たちで持ち、どこに岩があるから今「はやぶさ」が飛んでいる位置はどこだというのを推定しながら誘導したこともあり、かなりこの技術も実証レベルに近づいていると思います。その当時、もう一つあまり表立った理由にはなっていませんが、やはりただ着陸するだけでかなりのコストをかけるため、ただ着陸実験するのに多額のコストをかけてよいかという議論もありました。現在は着陸するからにはきちんと科学的に世界トップの成果が出ることを考えて計画を立てています。

<「はやぶさ」が最後に撮影した写真について>
参加者: 「はやぶさ」のラストショットは、かなり感傷的で何度も放送されましたが、5~6枚挑戦してやっと撮れた1枚ということですが、残りの写真はどのようなものだったのでしょうか。
橋本: ラストショットは、数枚撮っていましたが、非常に早いスピードで回転し、姿勢がきちんと整わなかったためまともに撮れない状況でした。いろいろ補正などを行いまともに撮れたのが最後の写真でした。実は、カプセルを分離すると姿勢が非常に乱れ、この乱れをもとに戻すにもいろいろなものが故障しリアクションホイール1台しか稼働していなかった中で非常に難しかったのですが、非常に難しいテクニックで戻しました。地球と通信できる時間が限られており、最後の映像も結局、途中で通信が途絶えてしまいました。

<月探査の今後について>
参加者: 「はやぶさ」でサンプルリターン技術を確立し、その後、月の探査技術に移行するという説明もイトカワの低重力という条件がありますが、月はそれ以上、地球の6分の1ほどの重力がありますが、月からのサンプルリターンという技術確立はできているのでしょうか。月探査の将来的な展望は、あくまで地球との比較のための月探査なのか、もしくは月に居住施設をつくるための基礎探査が目的なのでしょうか。あるいは居住施設をつくるためにはどうしても水資源や鉱物資源を解明する必要があり、「かぐや」でも水があるかどうか探査したと思いますが、そちらの目的に重点を置いて研究を進めることを目的にしているのでしょうか。
橋本: 「はやぶさ」はイトカワに着陸し浮上しましたが、非常に重力が小さいため月や火星といったある程度大きな重力を持った天体へ着陸する技術とはまた異なる技術です。ある意味ランデブー、接近し着陸して帰ってくることであるため、あくまで「はやぶさ」で実証できたのは行って帰る技術です。着陸はかなり共通しているところもありますが、重力が全然違いこれはまだ行っていないため、我々が新たに習得しなければならない技術だと思います。ただ、共通するところもあり、画像を使って認識する技術は、スピードは全然違いますが、例えばレーザー高度計で距離を測るセンサー等は全く同じものが使えると考えており、新たに行わなければならない技術はたくさんありますが、「はやぶさ」の技術もかなり使えると考えています。もう一つ、月に行って何をするかについてもいろいろ議論があり、人によって、あるいは国によっても随分重きが違っていると思います。日本では科学的に月を研究する研究者が多いため、科学の面をかなり重視していますが、外国ではやはり月で活動をする、科学といっても月そのものの研究というよりは、月で何か実験をすることに重きをおこうとする国もあります。我々からしてみると、当面、月の資源で地球で使えるものは少ないと思っていますし、月の環境を利用し実験することについても、6分の1Gは特殊な環境ではありますが、地球の1G、ISSの0G、この2点があれば6分の1Gで行わなくても、おおかたの研究はできるのではないかと個人的には思っており、やはり月そのものを知って調べて地球の歴史を調べることが非常に大事だと思っています。月で人が活動するためには、水やいろいろな材料が必要です。月の資源を地球に持って帰ることを考えるとすごく大変なエネルギーが必要なため、これはおそらくペイしないのは確実です。しかし逆に、地球のものを全部月に持っていき月で使うのも、非常にたくさんのエネルギーを必要とするため、できれば現地にあるものはなるべく使いたいということもあり、水を使うこともいろいろ研究されています。ただ、問題は、酸素は月の石に結構含まれているため、酸素を抽出することは可能ですが、水をつくるためには水素が必要で、その水素が月にはあまりありません。氷が大量にあるのではないかといろいろなところで言われていますが、どの程度あるかはわかっていません。わかっているのは太陽風という太陽から粒子が主に水素イオンやヘリウムイオンがたくさん吹きつけているわけですが、それが月の表面にはたまっているため、例えばサッカーグラウンド全部の砂を集めると、ペットボトル1本程度の水がとれるかもしれません。短期間活動するのであれば、当面は水を地球から持って行ったほうが経済的かと思います。
舘: NASAは月を基地にして火星に行くようなアイデアもありますが、このような考えはありますか。
橋本: 月は一度着陸するのにものすごく燃料が必要ですし、上がるのにも燃料が必要です。それよりは地球の周回軌道で飛ばして待機し、そこから行った方がかなり得になるので、月から出発することはないのではと思います。ただ、重要なことは、火星へ行って活動するためには、いろいろな実験をどこかで行わなければなりません。その時、地球上だけで大丈夫かということがあり、月である程度実験し技術を持たないと、いきなり火星に着陸するのはあまりに危険ではないかと思います。

<探査機を着陸させる場合の誤差について>
参加者: 例えば秋田に探査機等を着陸させる場合、どの程度の誤差があるのでしょうか。
橋本: 着陸の精度にはいろいろな要因がありますが、「はやぶさ」の際の誤差は20kmでした。最終的にはうまくいきましたが、いろいろなことを考慮しなければならず、まず探査機の誘導精度が大きく影響します。また、今回の「はやぶさ」の場合、影響したのは、パラシュートを開いた後、風で流されるため、パラシュートがどこまでいくか、風がどのくらい吹くかという予想でした。今回一番難しかったのはオーストラリア政府に安全を説明すること、シドニーの上に落ちないことを信じてもらうことが一番大変でした。ウーメラ砂漠自体は、軍事演習場で広大な砂漠だったため、多少誤差があっても人家に影響を与えることはほとんどなかったのですが、精度が悪いと我々が探すのが大変になって探せなくなってしまうため、非常に高い精度が必要でした。探すために必要な高い精度であれば世界中いろいろなところに着陸可能な場所はあるのかもしれませんが、安全まで考慮して何があってもその範囲に入るところをとれるのは、世界中そんなに多くはなく、アメリカの砂漠や中国の本土、ロシアにはあるかもしれませんが、日本の中はなかなか難しいと思います。

<JAXAの広報活動について>
参加者: 私の意見及びそれに対する意見を聞けたらと思います。「はやぶさ」が撮影した写真を見て、非常に感動しました。私は、宇宙開発はもっとエンターテイメントという言葉が適切かどうかわかりませんが、皆さんにもっと楽しんでもらう、皆さんに例えば科学知識には発見の驚きがあることを知ってもらうことで、たくさんの人に驚きや感動を与えられると思います。かつてアメリカにはカール・セーガンという科学者がおり、この人は本当に幅広い知識を駆使しながら、科学というものの面白さを伝えてくれました。『コスモス』という本も、また、テレビシリーズも見てものすごく感動した覚えがあります。あるいはウォルト・ディズニーもサイエンス、科学というものの面白さを伝えることに対して情熱を傾けたと思います。このような科学の楽しさ、科学の面白さを例えばプロジェクトの中に組み込んでいくことによって皆に勇気を与え、若者にもっと希望を与えることができると思います。このようなことをプロジェクトの柱の1つに据えてもよいのではないかと私は思うのですがいかがでしょうか。
橋本: 現場の研究者側の意見としては、まさにそのとおりだと思います。エンターテイメントと言うと誤解があるかもしれませんが、科学技術がどんなにすばらしく、その楽しさを伝えなければ、我々はただ研究だけ行っていても意味がないと思います。ただ、これをどのような形で現すかというところが次に問題になります。宇宙開発は、非常にお金がかかります。1億、2億でできることならある程度エンターテイメントでもよいのかもしれませんが、100億以上かかるものがエンターテイメントのために行うとなると、なかなか国民の皆さんの理解も得られないということで、あくまで科学技術の発展のために行うという中で、うまくエンターテイメント性を出していかなければいけないと思っており、ここは非常に難しい課題だと思います。
舘: 広報の立場から皆さんの意見も聞きたいと思いますが、まずJAXAが現在行っているのは、例えば打ち上げの機会などいろいろなところでインターネットを使って公開を行っています。1月20日にまた宇宙ステーション補給機(HTV)という輸送船が打ち上がります。これもインターネットで放送するので、見ていただければと思います。まず行っていることを伝えることが基本だと思います。次にどこまでできるかですが、例えば「かぐや」には14のセンサーがありました。センサーと呼ばれていないのがハイビジョンカメラでした。ハイビジョンカメラからの映像が皆さんに月が非常に親しく、月探査は非常に面白いという感動を与えたわけです。科学的価値はわかりませんが、皆さんに月に対する考え方を変えたという意味では、おそらくハイビジョンカメラはものすごく影響があったと思います。こういうことを少しずつやっていきたいと思います。ただ、我々のできる範囲とできない範囲があります。例えば先ほどありました『コスモス』とか、カール・セーガンのような有名なサイエンスコミュニケーターの育成は、残念ながらJAXA単独ではできないと思います。優秀な研究者がいて伝えていくことは、是非大学でもそういう方を育てていただきたいと思います。先日、理化学研究所の方とも話しましたが、やはり難しい研究をやさしく国民の方に伝えるのは非常に難しいとのことです。だからこそ、そういう方を是非育てていくような環境にしていただければというのが私の広報の立場からの意見です。何か皆さんの考えがあれば聞かせてください。
参加者: JAXAの広報についていろいろ聞きたいことがあります。JAXAはやはり研究機関ということで、主体が研究になってしまうため、エンターテイメント的なことにはどうしても予算がさけない、人員がさけない問題はあると思いますが、逆に日本宇宙少年団(YAC)が主に子どもたち向けては大きく動いていると思います。例えば宇宙の好きな人の中には、例えば天文が好きな人、衛星が好きな人、ロケットが好きな人などさまざまな人がいますが、JAXAがその人たちに例えば衛星の写真集やロケットの写真集を販売することは可能ですか。JAXAはなかなかそういうものを出していないと思います。今回、「はやぶさ」があり宇宙が好きな人が増えたというのは、やはりわかりやすいということや、きれいという客観的なものがあると思います。そういうものを直接販売できないのであれば、例えば民間会社がJAXAと協力して販売することは可能なのかを教えてください。
舘: 例えばカレンダーはJAXAが販売しているわけではなく、ある会社が自分たちでつくりたいと提案し、JAXAは承諾して販売しています。カレンダーであればカレンダーの業者が、つくりたいと言えば、その写真の使用はOKとなります。ただ、組み立て中の人工衛星なり、あるいはロケットの組み立てに興味のある方はたくさんいると思いますが、セキュリティの問題があり、どうしても技術が海外もしくは他の業者に見られるとまずいということになり、なかなか写真を公開するわけにはいきません。
参加者: 広報戦略としては、充実された方が国民の同意が得られると思います。今回、「はやぶさ2(仮称)」が現実味を帯びてきたのも、「はやぶさ」の成功を多くの国民が知ることになったからだと思いますが、ただ研究機関としてはエンターテイメントに傾注し過ぎるのも問題かと思うので、どのようなバランスをとりたいと考えているのでしょうか。
舘: 非常に難しい問題です。もっとJAXAは広報をしっかりしろとよく言われますが、一番広報効果があるのはプロジェクトが成功することで、これに勝る広報はないと思います。残念ながら「あかつき」は今のところ調子がよくありませんが、プロジェクトがうまくいけば皆さん拍手喝采です。どんなにパンフレット等を配布してもだめです。それよりは、プロジェクトが成功することが第一の宣伝です。それに向けて次は何か。プラス広報がうまくいくとすれば、それを支えるような広報ができればよいと思います。我々も何十億円も広報予算があればよいのですが、毎年予算は減り、12月末には東京駅近くにあるJAXA i も閉鎖します。広報予算はますます減少する方向ですが、我々としてはプロジェクトが成功し、それを支えるように映像などを公開することが、国民にとって一番のコストパフォーマンスがよいやり方ではないかと考えています。
参加者: 予算が厳しいのは日本国中どこを見渡してもあると思いますが、例えば宇宙開発とかに興味がある一般の市民たちで何か協力ができないものでしょうか。協力したいと思っている人たちの力をJAXAとして活用していく考えはないのでしょうか。
舘: 非常にありがたい話です。1つはパブリックコメントが政府から幾つも出されます。我々としては、それに答えていただきたいと思います。政府の政策コンテストみたいな形で出されるものがあるので、それに対し、皆さんから是非宇宙開発についての要望を出していただくことが一番手短な方法ではないかと思います。