JAXAタウンミーティング

「第55回JAXAタウンミーティング in 秋田」(平成22年12月12日開催)
会場で出された意見について



第一部「国産旅客機開発に向けての、JAXAの技術協力」 で出された意見



<MRJと他のライバル会社との販売価格の違いについて>
参加者: MRJに関し、安全面や低燃費、騒音が話題に出ていますが、他のライバル会社と比較して販売価格面ではどのような対抗をしているのでしょうか。
石川: 飛行機の値段は基本的には秘密になっていますが、飛行機の値段のだいたいの推定方法を教えします。例えば100人乗りの飛行機だったら半分で割って50億円、1人当たり5,000万円、200乗りの飛行機だったら100億円、これは非常にラフな推定ですが、だいたいこの相場です。MRJは90人乗りの飛行機のため、今の式でいくとだいたい45億円になります。実は飛行機は相手によって値段を変える商品です。また、発展途上国の飛行機だと、購入先の借金を用意して売ったりといろいろなことをやります。そのため、なかなか一概には言えません。ただ、MRJに先ほどの推定で45億円の価格を付けると、販売に苦労するため、もう少しディスカウントされるのではないかと思います。勿論、一回で多くの発注があれば下がります。三菱重工さんは、今、世界各国で営業しており、最初、全日空から25機発注された後に、アメリカで100機売れたという情報がありました。それ以外にもアジアやヨーロッパに売り込みを行っているようです。

<能代市にある試験場が種子島のようなロケット基地になるための課題について>
参加者: 秋田市内に住んでいますが、隣が能代市です。40年くらい前、私が子どもの頃は、たしか燃料の試験場があったことを覚えており、遠足で行ったこともあります。最近は行ったことがないのですが、あの試験場がもっと発展して、種子島のようにロケットを発射するような基地になってもらえたらという夢があります。そうなるためには、どのような課題があるか教えてください。
舘: 固体のロケットモーターの実験は、M-Vの実験を行っていたと思いますが、これからも固体ロケットや飛翔体の実験には使っていくと思います。種子島のような打ち上げには向いていないと思いますが、実験にはこれからも続けていくと考えています。
参加者: もう少しいろいろな研究施設が誘致できるとか、そういったことはないのでしょうか。
舘: 我々も是非できればありがたいのですが、職員や予算が減っている中で、今すぐに能代でというのは難しいと思います。むしろ逆に集約していかざるを得ない状況にあります。
石川: 基礎研究の分野でも必要性はあり、能代でしかできない実験もあるため、必要に応じて活用していく方向にはあります。

<MRJと他のライバル社との関係について>
参加者: YS-11が退役してからだいぶ時間が経ちました。商売は、経験や歴史がかなり大事だと思いますが、本当にライバル社に勝つことはできるのでしょうか。
石川: 実際40年、間が開いています。例えばCFRP(先進複合材料)は昔はなく、新しく入ってきた素材であること、また、操縦系統でもパイロットが動かす操縦桿と舵の間にコンピュータが入ってきたりとかなり変化してきました。しかし、やはり昔の経験を持った人、エンジニアがいないのは、正直かなり痛いところです。ただ、そこは何とか防衛省機の経験のある人や、海外での開発経験のあるエンジニアを連れてきたりしていろいろと補い合っています。また、飛行機には、旅客機としてきちんと製造されていることを保証する型式証明があります。これを保証する組織は、日本では国土交通省航空局になります。この型式証明がないと飛行機は商品にはなりません。アメリカでは連邦航空局(FAA)が証明を与えますが、中国の旅客機は、アメリカの連邦航空局の型式証明を当分は取らない方針のため、中国国内だけで飛ばすことになります。中国国内は市場が巨大なため、当分は商売として成立しそうですが、アメリカに売れないということはヨーロッパにも売ることができません。その理由は、アメリカとヨーロッパは、この証明を共通にしています。アメリカでこの証明を取ったらヨーロッパに売ることができますし、逆にヨーロッパでこの証明を取ったらアメリカや日本でも売ることができます。中国以外の残りのライバル社は、勿論、アメリカあるいはヨーロッパの証明を取ろうとしているため、厳しい勝負になることは事実です。さらに、メンテナンス、いわゆる整備の問題があります。整備は、例えば他のライバル会社は既に世界に売っているため、世界各国に整備の拠点を持っています。しかし、MRJはこれから進出するため整備拠点がありません。そのため、整備の拠点をボーイングに助けてもらうための覚書を交わしたというニュースがありました。飛行機にとっては、整備も商売の戦略の中に入れていかないといけません。

<木製の飛行機の製作について>
参加者: 秋田県のあるNPOが木製の飛行機をつくろうと頑張っています。技術的な面も含め、例えばJAXAに相談したら、アドバイスをいただけるものなのでしょうか。
石川: 「木」については、私も昔研究したことがあります。大きい飛行機は難しいですが、グライダーや軽飛行機クラスは、きちんとつくれば木を使っても立派な飛行機ができます。木は結構よい材料です。木とCFRPは性質が似ている面があります。木の合板であるベニアはいろいろなものを張り合わせてつくってあるため、方向によって強さが違いますし、この点はCFRPも同じです。CFRPの研究を行っている私たちは、全部答えられるかどうかわかりませんが、技術指導の相談には十分乗れると思います。

<JAXAと鉄道総合技術研究所(鉄道総研)との関係について>
参加者: 先ほどの資料に鉄道総研の風洞実験がありました。飛行機と鉄道との関連があるとすれば、新幹線の断面の研究だと思いますが、鉄道総研とJAXAで技術交流はあるのでしょうか。
石川: 本来、JAXAで日本で一番の風洞実験設備をすべて持っているとよいのですが、残念ながらそうではありません。音を計測する低騒音風洞というジャンルでは、JAXAの風洞よりも鉄道総研にある風洞が日本一なため、音に関する実験を行う際は、鉄道総研の風洞を借りることもあります。理由は、新幹線がトンネルを出入りする時の音や新幹線が高架の近いところの人家に騒音を与える問題があるため、鉄道総研は騒音に対しては、昔から非常に深く研究を深めており、立派な風洞を持っています。勿論、研究者、技術者の交流、知識の交換も行っています。

<CFRPが破断した際の補修方法について>
参加者: 例えば金属面が破断、破損した場合は、溶接などさまざまな補修が行われると思いますが、CFRPの繊維が破断した場合の補修などは、飛行機だとものが巨大になることもあり、パーツを丸ごとつくり直すことになってしまうのか、あるいは新しい補修技術があるのでしょうか。
石川: CFRPも修理、補修はできます。CFRPは、非常によい材料ですが、素材は、ガムテープのようなもの(プリプレグ)を張り合わせ固めてつくっています。ガムテープの層の中は炭素繊維があり強いのですが、層と層の間は比較的簡単に割れます。そのため、一番の問題は、CFRPに何かがぶつかると剥離ができ、剥離ができたところを面に平行に押す荷重が加わると、強度はものすごく下がってしまいます。簡単に言うと、CFRPの敵は層間剥離という、層と層のはがれです。普段、頻繁に非破壊検査を行うわけにはいきませんが、飛行機によって、例えば6,000フライトに1回検査をすると決まっており、徹底的に検査を行います。安心して欲しいのは、今の飛行機は剥離があってもすぐには壊れない構造になっています。しかし、永遠に放置するわけにはいかないため、剥離があったら修理します。修理方法は、グラインダーに似た機械で行うのですが、非常に浅い円すい状に剥離部分をくり抜き、損傷のあるところを削って、そこへ新しいプリプレグを当て熱をかけて固めます。そうすることで、元の強度がほぼ100%くらい回復します。飛行機には修理法がマニュアルに書いてありますが、それに従って修理したら、強度が完全に回復しているかは、実はまだ研究の必要な部分が相当に残っています。さらに修理しにくい薄い部分だと、修理が必要な部分を切りとり、周りを含めて、上と下からチタンの板ではさんで、強引に鋲で止めることも行います。ただ、この方法は、できれば避けたい方法ではあります。

<MRJの売りについて>
参加者: MRJの製品として、他のライバル会社と比較してのアドバンテージ、一番の売りは何になるのでしょうか。そして、その売りをつくり出すために、例えば技術開発の部分で力を入れていた部分、ここの部分だけは負けないようにしたこと、この部分はすごく挑戦したという部分があったら教えてください。
石川: 基本的には、燃費の良さがMRJの最大の売りです。まだ飛んでないのに、なぜ燃費がわかるのかと思うかもしれませんが、風洞試験のデータ、重さのデータ、ライバルのデータもだいたいわかっていますし、あと新しいエンジンのデータは実際飛行試験が始まっており、データは本物です。それらを組み合わせて検証した結果、ライバル会社の機体より28%くらいよいとの結果がでています。他社の飛行機は相対的に胴体が太いのですが、MRJはいろいろなことで燃費の少なさをつくっていますが、割と細い胴体を採用したり、勿論、翼の空力設計もJAXAのスーパーコンピュータで徹底的に計算して抵抗の少ないものにしています。また、MRJは胴体が狭いのに標準サイズの荷物をキャビンに収納することができるのも一つの売りです。胴体が細いのに居住性を一生懸命確保していますし、椅子も工夫しており、非常に厚みの薄い椅子ですが座り心地をよくしています。

<秋田で実施されている航空宇宙関係の実験について>
参加者: 先ほどJAXAの事業所で、能代でロケットの打ち上げをとの話がありましたが、能代でしかできないことと、例えば今回の「はやぶさ」や「あかつき」に能代の力が役立ったということがあったら教えてください。
橋本:固体ロケットの燃焼試験は、基本的にすべて能代で行っており、「はやぶさ」の1段目、2段目、3段目、4段目も能代で試験を行いました。燃焼実験は、なかなかほかの実験場ではできないところもあり、現在、再使用ロケットといって液体酸素と液体水素のエンジンですが、一度飛んで、また下りて戻ってくる研究をしており、この実験も基本的に能代で行っていると聞いています。
石川: ジェットエンジンの地上騒音試験の一部も能代で行うこともあります。これもいろいろな制約で能代でしか行えないという事情があった時にそうなります。
舘: 秋田には、JAXAの施設ではありませんが、三菱重工の施設で田代に液体燃料ロケットの試験場があります。そこでもかなり試験を行っています。秋田県には施設が2つあります。

<飛行の際の騒音ついて>
参加者: 私は秋田市内で騒音の測定を行っています。騒音低減の話がありましたが、飛行する際に音が出ると思いますが、どの程度音が出るのか予測が出ていれば教えてください。
石川: 騒音の測定を行っている方ですと、例えば20db下がるのはすごいことだとわかってもらえると思います。20dbは、ものすごくうるさい音がほとんど聞こえない音になるくらい変わります。20db下がることはあまりありませんが、10db弱くらい下がるケースはいろいろあります。もう一つ、ある周波数で音の圧力のピークが際立つのは非常によくなく、なだらかに下がっていってほしいわけです。まずどうしたら音が出るかということを研究し、その次に、ではこの形、ここの渦を工夫すると、実は音が下がるということもわかってきました。幾つかの研究の積み重ねを行っていって、飛行機全体として相当静かにする努力を、今、一生懸命行っています。

<想定外の事項が発生した場合の対処について>
参加者: リハビリの仕事をしている者ですが、人間の体の場合、例えば指の関節だと握るという機能に対して、逆方向にも曲がるという遊びが人間の関節だと設けられています。今回、発表された飛行機の場合、だいぶ燃費を追求するためにいろいろ必要なところを強化し、必要でないところを落としてということを繰り返して開発を進めていると思います。海外の輸送用路線でアフリカとかでたまに砂漠地帯のところで燃料を補給したが、フィルターなしで燃料を入れて大変なことになったという話も聞くので、機体そのものの万が一に対する許容量、遊びに関しての設計や想定はどの程度行われているのでしょうか。
石川: 想定外のことが起きることについてもいろいろと工夫しています。典型例として、最近の飛行機の開発で必ず行うことに、非常着水のシミュレーションがあります。去年の冬にニューヨークのハドソン川で、パイロットがうまく操縦し、川に下りて助かった事例がありました。着水時の挙動予測は、今の飛行機では、必ず行うことが求められます。ただ、本物の飛行機にパイロットが乗ったまま非常着水するわけにはいかないため、大きな模型をつくって、船用の水槽に波を立て着水させ実験するとともに、スーパーコンピュータで計算し、その計算したモデルと実験がきちんと合うかを確かめる要求があります。これを必ず確かめないと型式証明を発行してくれません。MRJでも現在行っているようです。あとエンジンについては、エンジンに鳥が入ったときに、最低火事にならないとか、鳥がたくさん入ってきてエンジンが止まってしまった時の対策をいろいろと考えています。