太陽に近く地球からは遠い 謎だらけの惑星「水星」

2015年3月20日(金)

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欧州宇宙機関(ESA)のロゼッタ探査機は、10年かかって目的のほうき星、チュリモフ・ゲラシメンコ彗星にたどり着きました。太陽系でいちばん内側を回る惑星である水星も、やはり行くのがとてもたいへんなところです。ESAとJAXAが共同で進めている国際水星探査計画「BepiColombo(ベピコロンボ)」では、地球出発から水星周回軌道の到達まで、7年間・40億kmの長旅となる計画です。打ち上げが2016年度で到着予定は2024年1月。東京オリンピックのさらに4年後となりますが、オリンピックの開催地すらまだ決まっていない未来です。

日本が担当する磁気圏探査機「MMO」のプロジェクトマネージャーであるJAXA宇宙科学研究所の早川基教授は、以前の記事で水星に向かう困難さを次のように語っています。

「水星の軌道に入るためには、月や金星、水星のスウィングバイを何度か行い、惑星の重力を使って減速しながらだんだん水星の軌道に近づいていきますので、時間も燃料もかかります。地球から水星に行くのと同じくらいのエネルギーや時間を使って、地球よりも外側に行くと、土星まで行けるほどです。」

探査機を水星に送るには、距離にすればはるかに遠い木星に向かわせるのと同じほどのエネルギーが必要だというのには驚かされますが、さる3月15日に行われた「MMO」機体公開では、早川教授はこうコメントしていました。

「水星に行くのと同じエネルギーを使えば(最遠の惑星である)海王星の周回軌道まで探査機を送り込むことができる。場合によっては太陽系を脱出させることも可能なほどです。」

早川 基プロジェクトマネージャ

当時に比べ水星が“遠く”なったわけではなく、より精緻な検討が行われたということなのでしょうが、大変さがスケールアップしていました。
しかも水星まで行けば太陽はもうすぐそこ。探査機は最大で11.4倍の太陽光にさらされることになります。

それを実感してもらうのに、たとえばアドベンチャーアクション映画のワンシーンのような、こんな比喩はどうでしょうか。
崖から身を乗り出して噴火口を除くと、はるか下方に探し求めていた秘宝が見える。手に入れるためには、地底でグツグツ煮えたぎるマグマの熱にあぶられながら、切り立った崖を降りていかねばならないが、もし手が滑ったら……。
すぐそばに見えているけどなかなか手が届かない場所、それが水星なのです。



具体的なミッションシナリオとしては、地球スイングバイを1回、金星スイングバイを2回行った後、水星による減速スイングバイを5回行って、探査機と水星との相対速度を小さくしていきます。スキーの初心者が急斜面に向かうとき、ゲレンデを斜めに滑ってはターン、斜めに滑ってはターンを何度も繰り返し目的地にたどり着くのと似ています。

「水星の重力を借りて(斜面で)ターンをするというイメージです。厳密なことを言わなければ、そのような例えで差し支えありません」

前島弘則サブマネージャ

ゲレンデを直滑降し雪煙を飛ばしながら急制動(つまり、水星近傍で急減速)する手法もあり得ますが、その場合には探査機に大量の推進薬を搭載せねばならず、観測ペイロードが厳しく制限されてしまいます。イオンエンジンも併用したこの手法で、それなりの質量の探査機を水星に送る道筋が見えた……。これがBepiColombo計画の始まりに大きく関わっているそうです。

そもそも計画に名前を与えたジュゼッペ・コロンボ博士も、惑星のスイングバイで水星に行けることを提案した人物。博士のデザインした軌道により、アメリカの「マリナー10号」で人類初の水星のフライバイ観測が実現しています。

「水星を透かして惑星科学そのものが見えてくるはず。惑星探査は、行けばぜったいに面白い! と思っています」

プロジェクトサイエンティスト・藤本正樹教授

回り道でも、時間がかかっても、現在考え得る最高水準の観測機器を搭載し水星の謎に迫る「MMO」。観測結果が出るのはまだまだ先の話ですが、これからも折に触れご紹介していきます。


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