JAXAタウンミーティング

「第79回JAXAタウンミーティング in 丸亀市」(平成24年8月4日開催)
会場で出された意見について



第二部「日本の基幹ロケット開発」で出された意見



<打ち上げ時刻の決定方法について>
参加者: こうのとり3号機の打ち上げ時刻は今回午前11時6分18秒で、前々回「しずく」のときは午前1時だったわけですが、打ち上げ時刻はどういう判断で決めているんですか。
藤田: 判断というより、ミッションに応じて、どこにどういう軌道に人工衛星や荷物を運ぶことが必要になるかということで、逆算してロケットの打ち上げ時刻というものは決められています。衛星によっては、どんぴしゃで上げなければならないものもありますし、20分とか30分とか余裕を持って、その時間内に上げればいいものなど、衛星の軌道によって変わってきます。
寺田: 「しずく」は、A-trainという、ほかの衛星と同じ軌道を通る特別な軌道に入れようとして、その軌道に合わせるために時刻が設定されました。「こうのとり」は宇宙ステーションにドッキングしなければいけないので、その宇宙ステーションの軌道に合ったときに打ち上げるという、宇宙ステーションの都合で時刻が決まったということで、それぞれの衛星の事情に応じて時刻が決まります。

<(1)打ち上げ方法について、(2)宇宙エレベーターについて>
参加者: (1)飛行機に取りつけてとか地上からだけではない打ち上げ方法を検討しているという話を聞いたことがありますが、現在そのような研究を行っているのですか。(2)また、大林組が宇宙エレベーターをつくるという話がありますが、JAXAはどう絡んでいくのかお教えください。
藤田: (1)空中発射型ロケットとよばれているものだと思いますが、飛行機の背中または下にロケットを載せてというものですが、世界でもそういった研究なり実際に飛ばしているものもあります。JAXAで研究している人はいるかもしれませんが、本格的なプロジェクトには至っていないです。なぜかというと、やはり能力が飛ばせるものに限界がそれなりにあって、それに適したミッションで対応するということで、大きな人工衛星を静止軌道に打ち上げるとなりますと、飛行機が飛べる高さは、10km程度ですから、それほど大きなメリットはないということで、今は地上から打ち上げるロケットが、人工衛星などの打ち上げに多用されるということになります。全く否定されるものではありませんが、用途に応じていろんなタイプのロケットの打ち上げ方法が考えられています。
西浦: (2)JAXAでは、現在、宇宙エレベーターについては、プロジェクト協力はしておりませんが、ご指摘のとおり大手建設会社の大林組で行っています。ただ、宇宙エレベーター構想が世の中にあるということは夢のある話なので、私どもの理事長も講演の際にそういう計画も世の中にあるという紹介をすることもあります。若者の科学離れが叫ばれて久しいですが、これから20年先か30年先になるかわかりませんが、実現にあと一歩という時代が来ると、私も信じています。夢を実現化させる力が我々にあるのだということを若い人に気づいてもらい、大人になったらこういうプロジェクトにも携わってみたいと、科学の道に進みたいといったことと繋がっていってほしいと、ひとつの重要、かつ、ステキな要素と考えています。
寺田: (2)宇宙エレベーターが実現したら効率的に良いなと思っています。JAXAもまだ本格的な研究はやっていませんが、一番の要素技術のケーブルといいますか、ひもの研究、例えばナノテクノロジーを使ってやるとか、要素的なところが解決しないとなかなかシステム構築のところまでいきません。勿論、夢もあるし、これが現実になれば素晴らしい構想だと思っていますので、見極めながらやっていきたいと思います。

<宇宙飛行士について>
参加者: 宇宙飛行士になりたいんですが、どんな勉強をすればなれますか。また、宇宙飛行士は宇宙から地球に帰ってきた後、健康に害があるんですか。
寺田: 一般的な話は、今、宇宙飛行士はまず人文社会ではなくて、算数とか物理とか、どちらかというと理科のバックグラウンドを持った方が応募をすることができるというふうになっています。あとは狭いところに何か月もいるので、狭いところにいても絶対に喧嘩をしない、仲良くできるという協調性、コミュニケーション能力が大事だと思います。地球に帰ってきたときは、まず平衡感覚がなくなってしまっているので、そのためにいろいろなリハビリテーションをします。古川宇宙飛行士も去年地球に帰ってきたときに重力を感じて、目がぐるぐる回って大変だったと言っています。それを直すのに2か月か3か月くらい地上に慣れる訓練をして、それでようやく普通の生活ができるようになります。やはり宇宙で長く過ごすということはなかなかつらいことなので、これからもっと快適に宇宙で過ごせるように、地球に帰ってきても過ごせるようになるといいなと思います。
伊東: 過去の宇宙飛行士が、もともと何をやっていた人かというのをざっと見ると、最初のころは飛行機のパイロット、戦闘機のパイロットという人が多かったです。ですけれども、最近はエンジニアであったり研究者であったり、そういう人が多く、お医者さんもいます。ですから、先ほど寺田さんが言っていたような、一般的なところと、そういう実際こういう人たちがなっていると、自分が一番面白くて、これならずっとやっていきたいなと思えるようなことが重なったところを狙っていくことが大事ではないかと思います。
西浦: 宇宙飛行士の訓練は非常に過酷なものが多く、暗の中や、零下何十度という雪の中、何日も孤独感を味わいながらサバイバルするとか、水中で長時間過ごすとか、体力づくりも重要なひとつです。あと、この間、ISSに行く星出宇宙飛行士をバイコヌールから見送ってきて現地で実感したのが、みなさん、コミュニケーションするために、語学に堪能だということです。宇宙飛行士はロシア語も流暢に話せなければいけない、英語も当然です。ですから、語学の勉強もすごく大切です。頑張ってほしいなと思います。

<ISSの重力について>
参加者: 国際宇宙ステーション(ISS)は、地球に近いですが重力はあるんですか。
伊東: 地球に近いですけれども、ISSは地球の表面から400kmぐらいの軌道をぐるぐる回っているので、外向きの遠心力があります。ボールに紐を付けて回して離したら飛んでいくこの力です。この外側に行く力と地球が引っ張っている重力が釣り合っていて、ほとんど無重力という状態になります。ですから、星出さんや若田さんがそこで泳いで楽しんでいる映像が流れていると思います。

<(1)射場のマスコットについて、(2)射場選定理由について、(3)ロケット燃料について、(4)巨大アンテナについて>
参加者: (1)ロシアのロケットで打ち上げ場の下にプレーリードックみたいな動物も住んでいるらしいですが、種子島にもマスコット的な動物が住んでいたりしないのですか。(2)それと、なぜ沖縄県ではなく、軌道投入が難しそうな緯度の高い種子島を使うようになったのでしょうか。(3)また、H-IIA・Bロケットは液体水素を使っていますが、もっとコストの安い灯油とか、そのようなものを使わない理由はあるのでしょうか。(4)最後の質問ですが、小さな無人探査機をマシンガンのように宇宙にばらまいて、その探査機同士のネットワークで巨大なアンテナをつくるというプロジェクトがあると聞いたことがありますが、そのような巨大なアンテナを使って、深い宇宙に向かっていく探査機に命令を送ったり、エネルギーを送ったりということはできないのですか。
藤田: (1)私が答えられる範囲で順番にお答えしていきます。まずはソユーズのロケットのシャトルの下に小動物がいることを余り承知していません。種子島、内之浦の射点にそのようなものが住んでいるということはありません。(2)2つ目の質問ですが、ロケットの発射場を選ぶのは、確かに静止軌道に衛星を打ち上げる際には、赤道に近いほうが良くて、緯度が低い方が有意になります。ただ、打ち上げの軌道は、静止軌道だけではありませんので、南極と北極を縦に回る極軌道もありますので、単純に赤道に近いところがいいということではありません。ロケットの発射場は、安全のために、適度に人がいなくて、無人島ではロケットの打ち上げは大変になりますので、一定のインフラ設備が整っているところで東側、南側の海が開けていて、もろもろのいろんな条件も加味して種子島につくられたということだと思います。(3)3つ目の質問ですが、例えばソユーズロケットは、灯油系のケロシンを使っています。勿論そういったものを使うエンジンも多数ありますが、やはり水素と酸素が一番性能がいいロケットなので、ロケット全体として安くできるという意味で、日本では水素エンジンを使っています。水素そのものは今、水素自動車とか、水素の需要も拡大してきていますので、それほど昔に比べてコストが高いものではないと思います。
伊東: (4)大きなものではなくて、小さなものを多数に集めて、それ全体として1つの大きなものと同じ機能を持たせるという質問ですが、それは考えています。例えばすごく大きなアンテナあるいは望遠鏡をつくるとなると、それをそのままロケットで打ち上げるのは難しいので、反射鏡の部分と焦点面の部分と別々にといろいろアイデアはあります。それが成り立つために必要な技術というのは、別々の衛星、物体なんですけれども、それがあたかも1つのように同じ距離、同じ位置関係を保ちながら動いているという状態をつくらないとできません。フォーメーションフライトという技術です。現在、日本のランデブー、フォーメーションフライトという技術は世界でもトップレベルで、十数ミリとか二十数ミリの相対精度でやる技術を持っています。でも、大きな天文衛星を作ろうとすると、更に1けた高い精度がないと性能が出ません。ですからフォーメーションフライトの技術、ランデブー誘導制御の技術をさらに高める研究を今、我々はやっています。10年以内くらいには、そういうことができるぞということを示せるように一生懸命研究しています。

<ロケットの打ち上げ方向について>
参加者: 効率的な問題はあると思いますが、どうしてロケットはまっすぐ垂直に打ち上げるのですか。
藤田: ロケットは飛び立ってしばらくの間は真っ直ぐ上がりますけれども、人工衛星にするためには地球の周回の速度が必要になりますので、それを効率よく得るために横向きに徐々にしていきます。M-Vロケットなどは斜めに打ち上げますけれども、あれは斜めに打ち上げるためにそれなりに支えないといけないので、ロケットのタイプの複雑さを考慮したときに、大体、世界の主流は真っ直ぐ最初は上げていくことになります。
参加者: もし斜めに打ち上げていいのであれば、揚力が得られる大気圏内であれば、若干小さな翼とかで打ち上げる方が安全率や、燃料の消費量の問題があると思いますが、揚力を用いながら打ち上げるということで、垂直に打ち上げた直後に倒れたり、打ち上げに失敗する危険性というのはなくなるのではないでしょうか。
藤田: ロケットの場合は非常に短い時間で、とても速い速度を得るようになりますので、羽をつけてもそれほど大きな役には立たなくて、かえって制御したりするのに邪魔になったりすることもあります。ただ、本当にその姿勢制御の能力が大きくないロケットでは、空気力を使って姿勢を安定させるということで、ロケットの一番下に尾翼を4枚とか3枚とかつけたりするロケットもあります。

<フォトンベルトについて>
参加者: 銀河系にフォトンベルトという大きな電磁波の輪っかがあって、その輪っかに太陽系がどんどん近づいていっているということで、その電磁波を発している大きな輪っかに近づいていっている中に地球で異常気象が起こっているらしいのですが、そのことについてお聞かせください。
西浦: これは天文学のほうに入ると思いますが・・。興味深いので、我々も勉強してみたいと思いますので、御指摘ありがとうございます。
伊東: 宇宙の構造がどうなっているかということについて、スティーヴン・ホーキング博士のような世界の、太陽系は太陽を含む銀河系の中の1つであって、そういう銀河がいっぱいあって、そのぐらいしか私は分かっていません。電磁波についても、例えばブラックホールになったような恒星の生き死にのサイクルの中で、ブラックホールになった近くから非常に強い電磁波が出ているのを観測しましたというような発表がされていたり、そういう記憶はありますが、それが地球の気象に影響があるかないかというところは、私はわかりません。
藤田: 私も不勉強で、その分野の話はほとんど存じません。そのあたりのことももう少し勉強したいと思います。

<打ち上げ時のレーダーについて>
参加者: ロケットの打ち上げのとき、レーダーで捕捉しながら打ち上げているということでしたが、自衛隊が持っている弾道弾を捕捉するようなレーダーというのを活用しての打ち上げというのは考えていないのですか。
藤田: 現在、使っているレーダーはロケットに搭載している「レーダートランスポンダ」という電波中継機器と地上からもレーダーを送って、行って帰ってくる電波をもって、その位置とか速度を測距しているものです。世の中には、ドップラーレーダーといって、単に反射波を物に当てて、速度や位置なりを測距するものもあります。これはスペースシャトルなどでも使われていますので、当然これからいろいろなことを研究していく中でそういったものも視野に入れて、なるべく効率的に地上の設備を整えていくということを考えていきたいと思っています。