JAXAタウンミーティング

「第79回JAXAタウンミーティング in 丸亀市」(平成24年8月4日開催)
会場で出された意見について



第一部「人工衛星の開発と利用」 で出された意見



<災害の原因の研究について>
参加者: 地震や水害などの原因を突き止める研究はしていないのですか。
伊東: 地震についてですが、地震が起こった後と前を比較してどうだろうかということで、地震学者あるいは地質学者に、どこの断層がどれだけ動いたとか、そういうことを調べるための情報を提供するということは可能です。風水害については、これも「ひまわり」で雲の写真あるいは雲だけではなく、どのぐらいの雨が降っているか、雨となる水滴がその上空の大気中にどのぐらいあるかということは、ある程度分かりますので、これを気象庁とか気象を研究しているような人にお渡しして、原因とか予測とかに役立ててもらっています。そのために私たちは人工衛星を使ってどのような変化が起こっているのかを観測しています。ただ、私たちは地球そのものを研究する機関ではないので、その原因や予測の研究については、その役割の機関にやってもらっています。
寺田: 宇宙開発というのはそういう意味ではまだまだ万能ではありません。いろいろなところと協力しながら、いわゆる地球そのものを研究している機関や、海洋、気象を専門にやっている機関ともJAXAは連携して、いろんな情報を提供して有益な活動をするということをやっています。

<デブリの回収について>
参加者: 地球に戻れずに宇宙に漂っている人工衛星を今後回収する予定はないのですか。また、宇宙空間の環境下にさらされているので、回収することで思わぬ成果につながるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
伊東: 後半のご質問については、過去に半年ぐらい宇宙に漂わせておいて、それをスペースシャトルで回収をし、宇宙空間にさらしておくとどうなっているか調べたことがあります。前半のご質問にお答えをしますと、やはり衛星には寿命があります。あるいは壊れて、そのまま軌道を周回し、高度が低くなってくると、宇宙とは言っても100kmから500km程度であると薄い空気の層が少しあって、その抵抗で少しずつ落ちていって、最終的には何十年後かには大気圏に突入します。非常に大きなものなどは、燃え尽きずに隕石のように地上に落下する場合もあります。「宇宙ごみ」という言われ方をします。使われなくなった衛星が3,000くらいと言われていますし、直径10cm以上のものは、地上からアメリカが観測をしていて、何万とあります。これが余り増えてくると、働いてほしい人工衛星に当たって壊れてしまうというようなことが起きますので、将来的には使い終わった衛星は、無事に燃え尽きさせて、なるべくごみが増えないようにし、危険な状態にならないようにしたいと国連の中でも議論されています。ただ、すぐには解決できない問題です。
寺田: 衛星が地球に落ちてくるときのデータは、非常に貴重です。「はやぶさ」のカプセルは戻ってきましたが、「はやぶさ」本体は燃え尽きてしまいました。その「はやぶさ」が燃え尽きたときの映像はものすごく貴重で、研究対象となっています。「こうのとり3号機」が9月ごろ大気圏に突入し、残念ながら燃え尽きるのですが、i-Ballというものを積んでいて、どういうふうに「こうのとり」が壊れて溶けていくのかという映像を撮ってきます。衛星が落ちて帰ってくるというのは非常に重要なデータです。

<宇宙開発の軍事利用について>
参加者: レーガンのスターウォーズ計画というものがありましたが、衛星が軍事利用される心配はあるのでしょうか。
伊東: 「dual use」という言葉があります。例えば銃刀法という法律があります。刃渡り何cm以上の刃物を持って歩いていたら、それだけで逮捕されてしまいます。でも、普通は家で料理する目的で、店で買ってくるわけです。ですから、包丁は、料理にも使えますし、使い方として犯罪にも使えます。人工衛星も同じで、道具ですからどういう意思でどういうふうに使うかによって、天気を見るということもできますし、敵国の軍事基地を細かく見ることも当然できます。レーガンのスターウォーズ計画というのがありましたが、宇宙技術を戦略的に使いましょうということで、明らかに冷戦構造の中で自分たちを守らないといけないという発想のもとで、技術を軍事目的に使おうとしました。表立って言わなくてもやっている国は多分ほかにもあると想像はしますが、日本は日本国憲法あるいは宇宙基本法の中で平和目的としており、そこで国としての意思を表していますので、それに則った開発、利用、運用がされています。
参加者: 本を読んで、利用されるかどうか心配だったので質問しました。
伊東: レーガンの戦略防衛構想(SDI)は公表されたことなので、ただ、結果的にどうなっているかというのは、まだ公表されていなくて知らないことはいっぱいあると思います。

<(1)デブリの回避方法について、(2)ISSでのゴミについて>
参加者: (1)「はやぶさ」が60億km飛んできましたが、この宇宙空間に存在しているちりなどの障害物にそれだけの距離と時間を飛んでいればぶつかる危険性は当然あると思うのですが、例えば地上から事前に感知してコントロールするのか、または、ぶつかりっぱなしで飛んでいくのでしょうか。(2)国際宇宙ステーションで出されたごみ、スペースシャトルの運用終了となった現在どんなふうに持ち帰られているのか。先ほどの大気圏で燃え尽きるような処理を行うものは別としまして、「きぼう」で生活している方々の排出されたごみは、どのようにしているのでしょうか。
伊東: (1)宇宙のごみ、人工物の他にも、当然、隕石、惑星、小惑星、ちりが存在します。ただ、先ほども言いましたが、地上から観測をして地球の範囲でわかっているものについては、直径が10cm以上ぐらいのものでないと地上からは見えません。ですから、そういう小さいごみというのは、あるだろうというのはわかっていますが、何個、どこにあるかというのはわかりません。更に地球から離れた遠い空間に、どういう大きさのものがどういうふうにしてどこにあるかというのは、それはわかっていません。イトカワのような大きさのものは観測でわかっていたんですけれども、もっと小さなものというのは観測することも難しいので存在がわかりません。宇宙ごみの絵なんかで間違ったイメージを与えていると思われるのは、例えばですが、どのぐらいの空間の中に密度、数があるかというと、例えばこのホールの中に1クミロンのものが1個あるかないかぐらいです。ですから、それがぶつかる確率というと計算ができないくらい確率が低いということなので、少なくとも「はやぶさ2」も事前に察知してよけながらというふうにはできません。地球でわかっている大きなものというのは、これは危ないですから、実際に日本の人工衛星の場合も、国際宇宙ステーションの場合も、ときどきよける運用をしています。
寺田: (2)排出されたごみについてですが、「こうのとり」に載せて、地球に落として最終的に海に落とすことになります。大部分は、溶けてしまうという形で、宇宙のものは地球に持って帰ってきます。
西浦: 日本は、国際宇宙社会の中で宇宙ごみ(デブリ)に対して、細心の注意を払っています。お隣の大きな国は、デブリに対する感覚が我々とは異なりますので、国際的にも注視されているところです。日本は、世界でもこの件についても高い評価を得ておりますので、安心していただけると思います。

<(1)人工衛星の自動制御について、(2)電気エネルギーについて、(3)宇宙予算について>
参加者: (1)ほどリモートコントロールという話がありましたが、人工知能、衛星自体そういうのがどこまで進んでいるのですか。(2)先ほどありますしたようにマイクロ波ウェーブを利用してから電気化するような開発しているのですか。(3)宇宙開発法ができていたのに、予算が増えていないのは何でですか。
伊東: (1)人工知能化といいますか、人工衛星のコンピュータで、中央演算装置をもってどんどん進んでいきます。ですから、過去でしたら例えば何日に1回、月に1回は軌道制御のコマンドの指令を打たなければならないというものが、今、最新のものだとほとんど人工衛星が自分で計算します。ですから、過去は100個のコマンドを入れなければいけなかったものを、今だと1個で済んでしまいます。これは半導体の技術が上がって宇宙でも使えるパソコンの心臓部の能力が上がってきたということによります。勿論まだ放射線対策があるので最高性能のCPUが使えませんが、ここ何十年を考えますと、衛星搭載用のCPUの能力もずいぶん上がってきています。(2)2点目は言われた技術が何のことなのかとよくわからなかったんですけれども、最近はスマホを充電するのに、コネクタをつながなくても置いておけばいいものもあります。あるいは電気自動車を充電するのにプラグを差すのではなくて、ここに停めれば反応して充電するシステムが開発されています。要するに電線と電線をつながなくても電磁波を通じてエネルギーのやりとりをするというのは、地上でも始まっています。それも非常に大規模なものをもっと長距離でというのがこれなんですが、マイクロ波、あるいは、レーザーの中にエネルギーを載せて送ります。
参加者: 宇宙から来る電離線を利用して、それをエネルギーに換算することはできるかできないかがわからないので、そういう研究がJAXAの方で進んでいるかなということです。
伊東: 電離層自体の研究あるいは宇宙放射線の研究、宇宙の環境がどうなっているかという研究は、進んでいます。
西浦: (3)ご質問最後の、予算が増えていない、というのは誠にありがたい御指摘でございまして、こちらも常に困ったなと思っています。これだけ国際的にも高い評価を得る成果を多々上げていますし、国民の安全安心にも貢献させていただけている中で、それでも、事業仕分けにあっている状況です。冒頭にも、参加者の方から、震災時のだいちの活躍について大変うれしい御指摘と御意見を賜りました。2006年に打ち上げた、「だいち」(ALOS)は、あの3.11のときにも観測データを活かせる大活躍をしました。一通り、その後の役割を充分に果たしてから、運用停止になりましたけれども、3.11の悲しい出来事があったので、今後のALOSの予算をつけていただけたと思うと、有難い一方で悲しい気持ちでいっぱいです。本で読んだのですけれど、人工衛星の「衛」は守るという意味です。ですから、人工衛星というのは私たちの未来を守ってくれる星なんです。安全と安心のために、そういう意味でもそこはお金をかけていただかないと困ってしまいますよね。ですので、皆様、これからも引き続きしましての応援、御支援、御支持をお願いします。各メディアに投稿していただくとか、大いに騒いでください(笑)。そうした皆様のお声、熱い想いが、大きなプッシュになると思いますので、重ねてよろしくお願い申し上げます。

<はやぶさ2の予算状況について>
参加者: 「はやぶさ2」を打ち上げたいんだけれども、予算が足りないと吉川先生も非常に困っていましたが、打ち上げの予算はどのような状況ですか。
寺田: 確かに予算を大幅に削られました。それで、タウンミーティングなどで、寄附ができないかというご意見が多数ありまして、寄附の受付制度は、今までもやっていましたが、インターネットから簡単に寄附できるような仕組みをつくって、寄附を開始しました。4月から開始したのですが、4か月で2,500万くらいの寄附をいただきました。この寄附金はこのために使ってくださいという目的を選ぶことができるのですが、2,500万の半分以上が「はやぶさ2」にたいしてのものでした。皆様から「はやぶさ2」がいかにサポートされていることがわかりました。国の予算は削減され、とにかくやりくりして、予定どおり打ち上げようという形で進めております。今年もらえなかった予算が来年つくように予算要求していますし、皆様からの暖かい支援もいただいておりますので、予定通り進めてまいります。
西浦: 「しずく」1号機ですけれども、これも継続的にデータを積み重ねていく必要があるわけです。その役目を果たすためにも、1号機だけでは駄目ですし、人工衛星というのは、大体5年間くらいが寿命とされています。開発にも年月がかかります。1号機を打ち上げた後にすぐ2号機の開発に取りかかるくらいで間に合うかという感じです。ですので、潤沢な予算を継続的につけていただかないと、メーカーさんに部品をつくってもらう発注もできません。お金の目途もないまま勝手に進めてしまうわけにもいきませんけれど、研究費の中では開発費にはならないけれど、何とか技術研究は続けなくてはと、大変です。せっかく集積したデータを5年で終わらせてしまえば、最大限、役に立たなくなってしまうわけです。積み重ねて比べていくということで、ひとつの貴重な情報にもなるわけですから、そういったことを広くご理解いただけるように、広報体制を強化しなければと思っています。

<深宇宙探査について>
参加者: 太陽光が届かないようなところに行くことが将来あるような話を川口淳一郎さんの本に出てきていました。宇宙大航海時代というんでしょうか。そのような場所に行くときには、どのようなエネルギーになるのでしょうか。また、「はやぶさ」のときもありましたが、指令が届かないという現象があったと思うのですが、そのような場合にどのように克服していくのかお教えください。
伊東: 太陽光が届かないところでエネルギーをどうするかというのは難しいですが、既にアメリカは、「ボイジャー」という探査機を随分前から計画を遂行していまして、深宇宙に行く探査機のエネルギー源としていわゆる軽い小さなものですけれども原子力、ラジオアイソトープそういうものをエネルギーに使った衛星を打ち上げたことがあります。ただ、日本ではそれはまだ考えていませんし、そのような計画はないと思います。
寺田: 「あかつき」と一緒に「イカロス」という衛星を打ち上げました。それはソーラーセイルといって太陽光を使って、将来的には電気推進と組み合わせて深宇宙を目指しています。それでも残念ながら木星ぐらいにしか行けないので、それ以上に行くには、太陽電池が使えないとなると原子力を使うというのが今の見方です。ただ、原子力を日本から打ち上げるとか、地球から打ち上げるというのは、非常にリスクが高いので、川口先生の宇宙大航海時代の話によれば、ラグランジュポイントという地球と月の重力がつり合ったところに港をつくって、そこから原子力エネルギーを使った船を飛ばして遠くへ行こうという発想のようです。
伊東: 2つ目の御質問の電波のコントロールについてですが、電波による遠隔制御は電波が届かないといけないですから、「ボイジャー」も一番大きなものが、地球と交信するためのアンテナです。先ほどもありました自分で知能を持ってあらかじめプログラムされたとおりに動くというメカニズムか、電波でコントロールするしか、どちらかしか方法がありません。今のところ電波が届かないところに行くということは、今まだ考えていません。

<日本の地上施設について>
参加者: 「はやぶさ」のときもそうだったのですが、地球と通信するアンテナは日本では臼田ぐらいしかないということで、その他はNASAの深宇宙ネットワーク(DSN:Deep Space Network)で援護したということですが、日本もこれから宇宙開発をするにしたがって、DSNのような大規模なアンテナが必要なのかなと思いますが、NASAの10分の1という非常に少ない予算の中で大変かと思いますが、将来的にはそういったものの建設の計画などお教えください。
寺田: 我々も宇宙開発と言うと飛ばすものばかり考えがちですが、それを支援するための地上装置、特にアンテナあるいはロケットの打ち上げ装置、こういうものは老朽化していって更新しないといけない状態になっています。これに手を抜くと大事故につながるので、見直しをして、きちんと予算をつけるという方向で考えています。