JAXAタウンミーティング

「第75回JAXAタウンミーティング in 各務原」(平成24年3月17日開催)
会場で出された意見について



第二部「JAXA航空部門の活動 ~中部航空宇宙特区への今後の貢献~」で出された意見


<航空産業技術者の確保について>
参加者: 航空機産業のGDPを上げるためには技術者の育成が必要で、航空機産業の魅力を高め、人材を集めなければいけないと思いますが、JAXAとして、技術者の育成に対しどのように考えていますか。
石川: JAXAは、東京大学、名古屋大学、九州大学など幾つかの大学と包括研究協力協定というものを持っています。その中で学生の受け入れや、あるいは客員教授として大学に教えに行くなど、いろんなことをやっています。名古屋大学の例を出しますと、スーパーコンピュータを使う数値流体力学(Computational Fluid Dynamics: CFD)という分野がありまして、最近の飛行機の設計に絶対不可欠なものです。このCFDの非常に初期の部分をを名古屋大学の学生さんに教えています。人材育成というのは非常に時間もかかる地道な作業ですが、航空宇宙みたいに大がかりでないといけない分野については、大学だけでは限界がありますので、世界の通例として、私どものような研究機関が人材育成に必ず手を貸すという面を持っていて、私どもも同様と理解しています。

<大学の在り方について>
参加者: 学校はアナリシス(分析、解析)だけで、シンセサイズ(統合して新しいものを生み出す)することを教えないので、会社で使い物にならない。この辺について、JAXAには考えてほしい。
石川: おっしゃることは、かなり共感できると思います。工学というのは研究の面でも純粋なサイエンスとは違って、必ず最後は判断というものが必ず入ります。研究のレベルでも入ると思っていて、企業の方とはまた違う立ち位置だと思いますが、私どもは大学よりはもう少し、エンジニアリング的な判断をしているつもりです。そういう意味では、私どもと大学の学生が交わるということは、それなりに意義があると思っていて、そういったことを心がけて教育、指導しているつもりではあります。

<(1)航空機の認証について、(2)中部地区との連携について>
参加者: (1)ジェット飛行実験機(ジェットFTB)を使って型式証明における飛行試験手法の事前確立というものがあります。これは非常に期待していて、JAXAが航空機の認証というものにどのように今後協力して、国としての認証技術をどのように上げていくのですか。
(2)今後、中部地区で航空機をつくっていくためには、コストを下げるという以外に、より良いものをつくっていかなければならないと思います。そのために「ナショナルコンポジットセンター(NCC)」や、「ぎふ技術革新センター」ができてきているわけですが、それらと連携を図って、特に複合材料技術をどのようにしていきたいかお考えをお聞かせください。
石川: (1)ジェットFTBが何をするかというと、最初は泥臭く、MRJ(三菱リージョナルジェット)のための飛行試験です。まず事前に空中からデータレコーダーシステムのバグ(瑕疵、欠陥)のデータをとります。それから、一緒に飛行し、例えば、着氷条件の試験を行います。着氷条件の試験は、最初からMRJでやるのはなかなか困難なので、まず先にジェットFTBで、悪条件の中を飛んで着氷についてしっかりした条件マップを出します。また、複合材料を使う実験ですが、型式証明のための大量の試験が必要になります。それは既に私どもの中でプロセスが一部始まっていて、国土交通省、あるいはFAA(連邦航空局)もときどき私どもの試験を視察にいらっしゃいます。三菱重工と私どもの試験のやり方が完全に一致しているかのチェックまで含めて、一応FAAの担当官にはエクセレントと言っていただきました。
(2)基本的には岐阜にも立派なセンターができたと伺っていますし、これから名古屋大学の中にもセンターができるわけですが、JAXAの中にも複合材の試験センターがありまして、そこに試験装置を大量に抱えて、アジアで随一の能力を持っています。重複投資を廃して、インターネットの世界ですから情報が瞬時に交換できるわけで、そこにどういうキーパーソンがいるかということをよく知った上で、言葉で言う交流だけではない、本当の意味でのデータ交換や情報共有をやらなければ意味がありません。そうでなければ、無駄な投資になってしまうと思っています。名古屋大学にできるNCCは、自動車産業が先進複合材料(CFRP)に着目しているので、自動車寄りの性質が強いですが、飛行機の仕事もあると思うので、タイアップしてやっていかなければならないと思っています。

<技術盗用の保護について>
参加者: JAXA航空部門が目指すところにあるエンジンの国際共同開発における主導権の獲得や、エンジンの世界的開発の協力と国際共同開発のシェア拡大というのがあると思いますが、共同開発の名の下において技術などが盗まれたりしないのか疑問に思いました。
石川: 共同開発の場合、技術の交流と防護が重要な問題で、なかなか現実には難しいところもありますが、ジェットエンジンの場合では、大体場所で分けています。ぐるぐる回っているファン、その空気を圧縮するコンプレッサ、燃料を燃やす燃焼器などいろいろ並んでいます。そこでシェアを決めて、行っています。現在、エンジンの国際共同開発では残念ながら日本は、熱いところ、燃料を燃やした後のところはなかなか取れていません。その前のファンやコンプレッサは一応日本が取れています。ですから、場所で切り分けているので、全部自分の責任で引き受けたという形になっているので、細かい技術については共同とは言っても人には見せません。飛行機の場合は、ボーイングは全体の責任者ですので、細かいところを見る権利はあると思いますが、それでも細かい製造のノウハウは日本のパートナーの守秘義務が守られていることを理解していただけたらと思います。

<ヘリコプターの民需について>
参加者: ヘリコプターの全機周りの回転翼の流れの解析とか、そういうものを利用してMH2000とかの民間企業のヘリコプターの後継機をどうにか民需としてやる考えはないのですか。
石川: MHに関しては三菱重工の判断の中なので私どもからはなかなか言えませんが、できればやっていただきたいと思っています。川崎重工はヘリで頑張っていますから、ヘリの計算はJAXAの中でもすごくやっています。ブレードが上を回って、自分のつくり出した渦をたたくとき、ヘリ特有の強い騒音が出ることがかなりわかるようになってきました。それには大量の計算をしますが、そのメカニズムがわかるとどうやったら音を減らせるかということもわかるようになってきます。そういう地道な計算はできるのですが、残念ながらお金の制約は強いですが、できれば飛行試験をやりたいと思っています。

<航空機設計について>
参加者: 今でも航空機設計の仕事はあるのか、増えてきているのですか。今のMRJの開発の初期段階にしかそういう仕事は、なかったのですか。
石川: 飛行機を設計するときにまず全体を考える人、主に空力の人から始まって構造設計、それから、勿論一部並行で進みますけれども、飛行試験へとフェーズが少しずつずれて進んでいくわけです。開発の最初の段階、例えば空力エンジニアの人が大量にいるということはあります。MRJでは、そこは終わっています。勿論、ボーイングとかエアバスでしたら、その人たちは今度は次の開発に新しく移っていくわけで、日本も今MRJの次の開発を、これもまだ本格的に決定したわけではありませんが、150人乗りあるいは130人乗りを設計したらどうなるか、空力屋さんを中心に、あるいは計画屋といいますか、そういう方を中心にしたケーススタディをやっています。まだ開発を決めたわけではありませんが、例えば130人乗りでやったら日本単独開発かもしれない。150人乗りだったら共同開発かもしれないということで、そうしたどれくらいの飛行機、例えば翼の幅がどれだけにすげきかとか、そういう仕事は始まっています。

<安価な成形法の研究について>
参加者: VaTRM(バータム)成形法も考えられて何とか使えるところまで持ってきていただいたわけですが、勝つためには更に安くつくることが重要だと思っていますが、今後JAXAさんで更に安く作る研究はされる予定ですか。
石川: 現在は、VaTRMとプリプレグのハイブリッドで、さらに硬く作るという研究開発をやっています。胴体のフレームのような複雑な構造は、胴体の円断面はシングル曲率ですから、それにはプリプレグを貼って、その上にストリガーフレームをVaTRMでつくるのが一番安くて性能がいいだろうと考えて研究を行っています。胴体のデモ部品ができて、イプシロンロケットの段間部、上段と下段を接合する部分にも使えるだろうということも視野に入れて研究をしています。

<MRJの耐空証明について>
参加者: セスナ サイテーションは国内に入ってくるときにも飛べる飛行機だと思いますが、改めて型式証明をとるということは、MRJのフライ・バイ・ワイヤ(航空機の操縦・飛行制御システムの一種。)だとか、そういうものを事前にデモ的にやって航空局の耐空証明の材料に使うのですか。
石川: 改めて型式証明をとるというのは誤解があるようで、セスナ サイテーションが日本に来るときに問題になったのが、飛行実験機用という改造をしますので、オリジナルのものより大容量の発電機を積むとか、非常に長いブームという正確に速度を測るためのものをつけるとか、胴体の下に丸いガラスの穴を開けるという改造に対して、連邦航空局(FAA)からいろいろ注文を受け、型式証明ではなく、耐空証明が随分遅れました。それで日本に随分遅れて到着し、日本での改造に関しての機体に対するいわゆる日本語で言う修理改造検査が遅れたということになります。これから、ノーズブームを改造して付け直す予定ですが、これに対しても国土交通省の耐空検査が必要になります。その作業が今後ありますが、ジェットFTBの耐空証明はMRJの型式証明でやる作業とは性質が違いますので、今、申し上げたことがMRJの練習台に直接なるということではありません。そのように御理解いただければと思います。

<(1)飛行試験期間について、(2)JAXA業務での東京と中部地区との住み分けについて>
参加者: (1)飛行試験業務というのはJAXAの方でどれくらいやって、それがMRJで言うとどれくらいの期間が必要ですか。
(2)JAXAとして中部地区で今後どういった業務をやっていくか。東京と中部との住み分けはどういうふうにお考えですか。
石川: (1)飛行試験の頻度はMRJが飛び始める前と後では随分違うと思います。飛び始める前は感覚的に言えば週3回ぐらいのオーダーになると思いますが、MRJが飛び始めたらMRJが飛ぶときは必ず飛ぶということになろうと思っています。天候もありますので週4回になるのか週5回になるかわかりませんが、結構頻繁なフライトになることは間違いないと思っています。期間は、基本的には型式証明を取るまでだと思います。それ以後もトラブルシュートに伴う飛行試験があって、そのときにジェットFTBが一緒に飛ぶケースはあると思います。今のところ公表されているスケジュールは初飛行後2年間を要して型式証明を取得するというのが想定の期間です。
(2)ジェットFTBの場合は愛知県に建物までご用意いただいて、格納庫と立派な実験場をつくっていただきましたが、飛行試験関係が東京と中部に分かれています。予算もまだ何もないし、飛行を担当する部署の中でも確実に決めたわけではありませんが、できれば飛行シミュレータの関係、飛行試験関係は全部名古屋に集合した方がいいだろうというぼんやりした意見はあります。順番としてはもう一機の飛行機、ヘリもありますし、もう二機の飛行機が名古屋に来る体制、それから、飛行シミュレータも付いて名古屋に来る体制、そういうものが順番としてあるかなと思います。その先の話は非常に巨大な風洞なんていうのは中部の方で議論をしていただいていますが、なかなかそこまでの絵はきれいに書けなくて、いつになるかよくわかりません。

<強い中小企業について>
参加者: 私が想像した以上に産業界に対する貢献、努力をされているのを聞いて感謝しています。スーパーコンピュータを使ってやる手法は、どこでもすぐ追いつきます。だからコンピュータで継承できない技術、材料とか生産技術を残していただきたいと思います。航空機は、安ければ売れるかというとそうではありません。確かに安くする方法は見つけなければいけないのですが、年に10機やそこら売ってもコストが成り立つはずがありません。中小企業の方は、この機会を利用して部品を開発して、部品の世界でいわゆるプライム・コントラクタを制御するべきです。トヨタの部品メーカーのようになるべきです。
石川: 私もほとんど同意しておりまして、いろいろ規格等の点で、なかなか難しい参入障壁がありますが、やはりサプライチェーン(製造から消費者に届くまでの一連の行程)の中に入っていただくことが必要と思います。そういうことをやっていらっしゃる中小企業も多少いらっしゃいますから、ぜひ見習っていただいて、強い中小企業がないと日本のものづくりはだめだと思いますので、私もそういうできる範囲で技術指導的なことで貢献できればいいなと思っています。長い道のりですが、そういうことをやっていきたいなと思っています。