JAXAタウンミーティング

「第75回JAXAタウンミーティング in 各務原」(平成24年3月17日開催)
会場で出された意見について



第一部「日本の宇宙開発」 で出された意見


<はやぶさ2の予算について>
参加者: 「はやぶさ」は世界に誇れるような成果であると私は考えています。国民にも非常にアピールができたと思いますが、残念ながら「はやぶさ2」は予算が決まるのが非常に遅かった。最終的に首相の判断で予算が決まったような感じがします。最初の予算から大分削られたと思いますが、こういった世界に誇れる、国民が誇れるようなことを、もっと重点的にやっていただかないといけないような気がしますが、いかがでしょうか。
立川: 「はやぶさ」は世界で何が立派かと言うと、惑星に行ってサンプルを持ち帰ったというのが世界で最初です。月から石を持ってきたアメリカではないかと思われるでしょうが、月は地球の衛星であって、太陽の惑星ではありません。だからそういう意味では日本が惑星から最初のサンプルを持ち帰ったというのは、世界的に初めてのことで、世界各国から大変評価されています。「はやぶさ2」は、23年度の予算のときに最初仕分けられましたが、「はやぶさ」の成功で国民の皆さんの評価が高まったので、政府としても認めざるを得ないということで、23年度予算で30億円つきました。24年度の予算で、JAXAは70億ぐらい要求しましたが、財務省は前に仕分けされているからゼロだという話になったのですが、JAXAの所管である文部科学省にお願いして、全額はムリでしたが、前年並みになったのが実態です。それだけの予算では足りませんが、26年度の打ち上げに向けて、頑張っています。引き続き御支援ください。
西浦: 世界的偉業を成し遂げたということで、「はやぶさ 世界初を実現した日本の力」という本も出ていますので、読んでいただけると、その偉大さがわかっていただけると思います。

<(1)はやぶさへの技術協力企業について、(2)はやぶさ2の帰還について>
参加者: (1)「はやぶさ」はいろいろな企業の技術が使われたと聞きました。
(2)「はやぶさ2」は、燃え尽きずに済むのかという思いがあります。
立川: (1)「はやぶさ」は日本の力の結集で、関わったのは、中小企業も含めて118の会社で、たくさんの会社の力でもってできました。地元でいいますと、宇宙関係では川崎重工にいろいろやっていただいていて、その傘下にも関連会社がいっぱいあると思いますので、これからも宇宙関係で大いに活躍していただければと思っています。
(2)「はやぶさ2」は燃え尽きないで地球に帰ってきて欲しいということですが、もっと観測に使ったらどうかという意見もあります。今度行くところも遠いところまで行って戻ってくる予定です。そのときにもサンプルを戻したいです。だからサンプルは地球に戻って本体はその後、どこかへ行って観測を続けてもいいですが、たぶん燃料がもたないだろうと思います。

<日本の有人飛行について>
参加者: (1)種子島宇宙センターから宇宙に日本人が行けるのは、何年ごろだと思っていますか。
(2)ロケットの打ち上げ成功率が90%以上を誇っているのに、なぜ日本で有人飛行ができないのか教えてください。
立川: 日本のロケットで日本人も宇宙へ行けるよう我々も念願していますが、残念ながら2003年にまだ有人ロケットはやらないと国が決めています。今、一生懸命それを覆そうとしているところです。実は、月探査ワーキンググループをつくってもらったのもその1つで、日本でも有人探査をやりたい、そのためには当然、日本人も行きたい、行くなら日本人の分は日本のロケットで、と我々は主張していきたいと思っています。これはある時点で国に決めていただかないと、研究開発に着手して、つくるためには、約10年近くかかります。早く決めてもらいたいと思っているところです。どういう段取りかというと、まず種子島からでも打てるロケットをつくらなければなりません。そして、ロケットはさらに信頼性を高くしないといけませんし、もし仮に故障した場合でも、脱出できればいいわけですので、アボートシステムを入れることによって人命については信頼性は2けたぐらい上がります。このアボートシステムを早く開発したいと思っていて、人間の乗る部分だけをうまく切り離して緊急事態から逃げればいいわけですので、今、国が決めてくれれば、2020年代には可能性がでてきます。

<GPSやIMES(室内測位)について>
参加者: JAXAはIMES(室内測位)という技術で世界最高だと思いますが、車や携帯のGPS以外に今後どういうものに発展していくのか、教えてください。
立川: 測位衛星は今、アメリカが打ち上げたものを使っていますが、これは日本からでは、すべての衛星がうまく見えないことがあるので、精度が悪いです。それで日本の上空にできるだけ滞留する衛星をつくれば、精度が上がるので、準天頂衛星初号機「みちびき」という衛星を打ち上げました。「みちびき」を打ち上げると、日本の上空に1個当たり8時間は滞在する。だから3個打ち上げれば常時いることになります。どういう効果が出たかというと、実証実験の結果、位置の精度が10cm程度になりました。今は大体よくて1~10mぐらいで、それが10cmの誤差になると、無人運転ができるようになり、農業用のトラクターとか、瓦れきの処理を無人のトラクターでできるようになります。また、人間のナビゲーションに使えば、幼児の安全確保の問題や、徘徊老人の捜索などにも役に立つのではないかと思っていて、これからいろいろ使い道を考えています。内閣府が今年度予算をとったので、4機の衛星をつくる作業に入ります。
寺田: 少しだけ補足しますと、今、質問された方が「IMES」とおっしゃったと思いますが、これは室内の測位をサポートする装置です。衛星の測位は残念ながら屋内や地下街では使うことができません。そこでIMES(インドアメッセージシステム)を屋内に配置すると外にいても内にいても、位置がわかるという装置です。この装置については、民間企業と協力しながら普及を図っているところで、いずれどこにいても自分の位置がわかるという時代が来るのではないかと思っています。

<デブリ問題について>
参加者: 運用が終了した衛星や、故障して使えなくなったものが、デブリとして地球上に落下するなど、不安材料がいっぱいですが、今後どのようになっていきますか。
立川: 衛星の寿命が来たらどうするかという問題で、どんどん増えるとごみになります。宇宙空間から比べれば大した大きさではないし、数も大したことはないですが、ぶつかる確率はゼロではありませんので、最近はこのデブリについては世界各国が注目をしていて、今後打ち上げるものについては、ごみにならないようにしましょうと原則をつくりました。低い軌道に打ち上げた衛星は燃料を残しておいて、最後は速度を下げて地球に落とす。遠いところのものは、よそへ出してしまう。問題は、過去に打ち上げたものをどうするかで、現在、アメリカが観測してわかっているデブリは、10cm以上の大きさのものが約1万8,000個です。これが宇宙ステーションにぶつかると影響があるので、避けてぶつからないようにしています。今後はこれは時間をかければ順次落ちていきますから問題はないんですが、長いものは100年ぐらいかかるので、その間は飛んでいることになります。落ちてくると心配だということですが、大気の空気の層は厚いので、ほとんどのものは燃えてしまいますし、確率的に見ると、まず人間に当たることはないかと思います。過去、人間に当たったことはありません。近くで見つけた人はいるということは事実ですが、それほど心配はしなくていいのではないかと思います。

<有人開発の理由について>
参加者: 人間が宇宙に行けばいろいろ実験することができますが、お金がかかることを考えると、今、どうしても有人でなければならないという理由がわかりません。お考えをお聞かせください。
立川: 無重力状態と同じ、寝たきりの患者さんに起こる骨粗鬆症に対する治療成績を上げる話は、結構役に立つ成果が出るのではないかと思っています。あれは人間が宇宙に行って初めてわかったことで、 最近では、もっといろいろなことがだんだんわかってきました。医者である古川宇宙飛行士が宇宙へ行きましたから、彼が帰ってきて宇宙酔いは何で起こるかというのもはっきりしましたし、彼に言わせると宇宙に行って宇宙酔いになったけれども、地球へ戻ってきたら地球酔いにもなったと言っていました。これは三半規管における砂の問題で、人間が行ったからわかったわけです。人間が宇宙に行くためには結構なお金がかかると言われていますが、安全策を講じればだんだん安くなっていきますから、そんなに高い金ではないのではないかと思います。もう少し変わったところでは、宇宙へ行って無重力状態で人間が生活したらどういう心理状況になるかとか、芸術作品(芸術家)はどうなるかということもやってみたいと思っています。それがどういう効果をもたらすかはわかりませんが、地上の重力のある状態と違った状態に人間を置いたときにどう変化するかというのも、結構面白い命題ではないかと思っています。現在、宇宙飛行士は理系の人間だけですが、芸術家、哲学者、心理学者なども宇宙に行っていただけるようにしたいと思っています。

<はやぶさ2の目的・効果について>
参加者: 「はやぶさ2」にはどういう目的があって、それが成功した場合はどういった効果やメリットがあるのですか。
立川: 「はやぶさ」は小惑星に行ってサンプルを採って来るというのが目的でした。「はやぶさ2」も考え方は同じですが、ただ、サンプルの対象が違います。「はやぶさ2」は炭素の化合物が存在するであろう小惑星に行きます。何で炭素かというと、人間は炭素(タンパク質やアミノ酸)でできているので、どこから生命体が来たのかを解明したいというのが目的です。

<資源探査への貢献について>
参加者: 日本は技術立国ですので、できるだけ技術を活用した先進国になっていかなければいけないと思います。我々も国の予算を宇宙開発に回してもらえるように、機会があれば発言していかなければいけないと思っていますが、その技術が世の中にどれだけ役立つのかも、これからの予算に関連してくるだろうと思います。JAXAの技術、特に農業や水などの地球の資源探査に対して、どこまでサポートできるのかお聞かせください。
立川: 我々も宇宙利用によって人類にいい成果が出るように考えています。今行っているものは、災害対策や環境問題です。もう少し日常で使えるものでいえば、漁業があります。海面温度を測って、どのくらいの温度でプランクトンがたくさん発生するかというのもわかってきていて、プランクトンがいるところに魚がいるいとうことで、どこの海域に魚がいるかが宇宙からわかるということになります。だから、そこへ直行すれば漁業の効率は上がるわけです。農業についても、稲作状況は宇宙から見ればすぐわかります。資源の問題はなかなか難しく、表面に出ているものはわかりやすいですが、資源は大体地下に埋まっているので、宇宙からは見にくいです。例えば、これを電波でチェックして、何か発見できないかというものを研究しています。宇宙の弱いところは、地下のものはなかなか見えづらいので、そのあたりで苦労していますが、今後、宇宙利用はもっと広がると思います。

<民間企業の商品開発について>
参加者: 民間の企業は、研究開発して、それを商品にしなければなりません。この博物館に展示されている「飛鳥」も形にはなりましたが、商品化はされませんでした。この辺を何とかしてもらえないでしょうか。
立川: 日本は宇宙機をつくる回数が少ないですから、商売にならなず、撤退されてしまう中小企業が多いです。例えばロケットの国産比率はどんどん下がっていて、衛星も多分3割ぐらいではないかと思います。1機当たりの衛星の値段を少し下げて、個数を増やして、もう少し定常的に流れるようにすれば、中小企業の方も部品供給としてのうま味が出てくるかと思っているところで、今後の方向としては、まず日本で押さえた方がいい部品については国産化して、安定供給を図りたいと思っています。これを日本だけではなくて海外のマーケットに売りこむために、ヨーロッパと組んで、日欧でマーケットの共有化を図ろうということをやっています。日本とヨーロッパの得意分野を出し合うことで、マーケットが広くなれば、売れ先が大きくなり、商売になるのではないかと考えています。

<(1)宇宙分野の民需利用について、(2)電磁波などへの対応について>
参加者: (1)宇宙というのはどこの国も軍需で、やる気になったら日本はすぐ追いつかれます。今の家電業界がそうで、JAXAで開発して、それを宇宙ではなく、主力マーケットで売るようなことをやらなければならないと思います。
立川: 宇宙の部品等は地上よりも厳しい環境下で使います。宇宙空間での放射線は物すごく強いですし、温度は100℃から-150℃の温度変化になります。こんな環境は、地上にはなかなかありませんから、そんな条件をつけたら地上の部品なんて高くなってどうしようもなくなってしまいます。宇宙で使えるから、宇宙でいいものだから地上で使うということはあり得ないでしょう。むしろ逆で、地上で使っている技術をできるだけ宇宙で使えないかというのを我々は考えています。
参加者: (2)宇宙から飛んでくる電磁波の影響で大停電が起きたという事例がありますが、JAXAが宇宙空間もしくは地球上でそれに対する対策や研究をされていますか。
立川: そう言った事象は、宇宙には充満しています。宇宙へ通信装置や電子機器を置くとそういう影響が大変大きいわけです。だからそういうものには我々は慣れています。故障したら、ソフトウエアを書き直せばいいわけで、そういう対応策もいろいろ講じています。

<宇宙太陽光発電について>
参加者: 原発問題で電力が問題になっています。宇宙で発電して、マイクロ波やレーザーで地上に送電する宇宙発電所があると聞いていますが、JAXAとして舵をとることはありませんか。
立川: これは宇宙太陽光発電といいます。日本の宇宙基本計画の9本柱の1つになっています。現在はほとんど大学が主体的にやっていて、JAXAがやっているのは、太陽電池を宇宙に上げて発電した電気を地上に送らなければなりませんので、地上にマイクロ波で送れないかという研究をやっています。今回の地震問題で原子力発電の代わりに早くつくったらどうかという話もありますが、費用が相当かかるという問題があります。それと一番困っている問題は、巨大な太陽電池を宇宙に打ち上げるロケットの価格がまだ高過ぎることです。いろいろ検討はしていますが、まだ具体的な案はありません。この研究が進むのにあと20~30年はかかるかもしれません。

<スペースシップについて>
参加者: 輸送系をどうにかしなければいけないと思いますが、スペースシップのような形状であれば、輸送コストは下がると思いますが、お考えをお聞かせください。
立川: スペースシップも現在のロケットと化学反応としては同じ原理ですからコストが格段に安くなるということはありません。大量生産して、お客をたくさん乗っけて、結果的にたくさん打ち上げれば安くなるという原理です。将来的なものでいうと、宇宙エレベータというものがあって、これは、今流行のナノテクノロジーで、ケーブルの細いものはできるのですが、10万kmも長くて強いものができるかという問題があります。実現するのは30年ぐらい先になるかと言われているところです。このように息が長い話でありますので、宇宙のことはもう少し時間軸を伸ばして考えていただいた方がいいかなという気がします。

<核融合推進エンジンについて>
参加者: 反物質ではない核融合、ヘリウム3による核融合推進エンジンだったら放射能も出ないし、化学反応の次に核融合推進エンジンかな思いますが、その研究はされていないのでしょうか。
立川: 核融合の研究は世界的に行われていて、現在フランスに実験場があります。実現は早くて30年後、場合によっては100年後という話です。太陽は核融合で光を放って熱を出しているわけですから、確かに核融合が究極のエネルギー源だと思っています。だから、我々も核融合の力を使ったロケットもいいのではないかと考えています。

<宇宙飛行士への待遇について>
参加者: 宇宙飛行士は、素晴らしい方々が歴代輩出されています。宇宙飛行士を辞められてからもいろいろな方面で活躍されていますが、JAXAとしては、ロシアやアメリカの飛行士を辞められた方々と同等の待遇になっているのでしょうか。
立川: アメリカは、宇宙飛行士はたくさんいますので、辞めた後は全く面倒を見ていません。しかし、日本は希少価値ですからJAXAが全部面倒を見ることにしています。本人のもともとやっていた仕事から考えて、毛利さんは科学者ですから科学館の館長になっていただいて、科学技術の発展に貢献しています。向井さんは医学博士ですから医学方面で貢献してもらおうと思っています。土井さんは、現在、国連で特に途上国に対してですが、世界中に宇宙の啓蒙を行っています。たぶんあと2年ぐらいで帰ってきますから、宇宙科学の分野で研究開発を行ってもらいたいと思っています。若田は宇宙航空学科卒業でありますが、彼はマネジメント力があるのでまた新しい道を切り拓いてくれるのではないかと思っています。NASAでも彼のマネジメントの良さを認めて、今度、宇宙ステーションの船長をやることになっています。このように、それぞれの個性に応じて仕事をやっていただいています。