JAXAタウンミーティング

「第91回JAXAタウンミーティングin科学・技術フェスタ」(2013年3月16日開催)
会場で出された意見について



第一部「失敗を乗り越える宇宙探査」 で出された意見



<宇宙開発の失敗について>
参加者: 日本の風土として余り失敗が許されないものがあるのかなと感じていまして、ここに来ている方は宇宙に興味がある方かなと思いますが、失敗してでも宇宙開発をやってほしいと思っている方がどのくらいいらっしゃるのか自分は知りたいなと思いました。
西浦: では、ご来場の皆様にお尋ねします。少々の失敗はあっても、とにかく宇宙開発をしっかりと続けてほしいという方、挙手をお願いします。ほぼ全員ですね。ありがとうございます。安心いたしました。

<あかつきのミッションについて>
参加者: 「あかつき」を軌道に入れることによって、具体的に何がわかるのでしょうか。
佐藤: 「あかつき」はそもそも打ち上げのときから「金星に学び、地球を知る」というキャッチフレーズで金星探査を目指していました。金星は地球とほぼ同じ大きさの双子惑星ですけれども、そこの環境は地球とは全く違う部分があります。どうしてこんなに双子で大きさも似ているはずの惑星にそういう違う環境が育ったのか。そういったことを知ることは、私たちの地球がどうしてこういう星になれたのかということを知ることにつながると思っています。具体的には金星の大気環境を調べることで、地球にその理解を還元するというような認識です。

<宇宙開発の心得について>
参加者: 衛星などは実際に宇宙に行ってみないと動くかわからないし、ぶっつけ本番で、しかも、大変な期待がかかっていて、失敗はできない中で、万全を期しているのだと思うのですが、一体どんなプレッシャーを感じながら、それに対してどんな心持でやっているのかお聞かせください。
佐藤: プレッシャーはないと言えば嘘になります。国民の皆さんの税金を使っているので失敗はできません。それを少しでも和らげることができるのは、長い時間かけてさまざまなテストを繰り返しているということだと思います。おっしゃられるように、ぶっつけ本番的な要素は必ずあります。あの大きさのものを実際に宇宙空間に上げるというのは、その本番でしかできません。だけれども、例えばそれを小さなスケールにして試験を行ったものを、計算によって大きなスケールに変換していったらどうなのだろうか。あるいは個々の要素要素で試験をしていったらどういうことがわかるだろうかということを、たくさん積み重ねています。衛星を1つ打ち上げるのに何百億円というお金がかかるわけですけれども、実はその試験をするための費用が莫大なのです。探査機はたったの2分間で宇宙空間に出ていきます。我々がエレベーターに乗って高いタワーに上るとき、圧力が減って耳がきーんとします。そんなものではないぐらい探査機のいる環境はどんどん圧力が減っていきます。そうすると探査機の表面を金色のMLIと呼ばれるもので覆っていますけれども、あの中から空気が逃げようとするときに、MLIがボールのようにぱんぱんに膨らんでしまうのです。どのぐらい穴をあけておいたら空気がきちんと抜けていって、そういう環境に耐えてやぶれないでいられるか、試験をしていくしかないのです。我々がプレッシャーを感じつつも、うまくいくはずと自信が持てるのは、根拠のない自信ではなくて、そういう実際の実験と膨大な量の数値計算を組み合わせてきたことに一重に尽きると思います。慢心せず、どこかに見落としがないか、謙虚な気持ちで挑んでいるところです。
寺田: 私も「きく8号」という人工衛星の開発を行いました。直径約19メートルの大きなアンテナを展開させるのですが、これは宇宙で展開させるわけですから無重量環境で展開させるわけです。それを地上でいかに模擬して実験するかというところで、結局、無重量だから浮かせることはできないので吊り上げました。その吊り方も宇宙の環境に比べてより厳しい、開きにくい環境をつくって実験するのです。とにかくあらゆる想像力を働かせなければなりません。

<失敗時の気持ちについて>
参加者: 地上でできる限りのことをやって、「あかつき」のように確実にいくだろうと思っていたことが、失敗に終わったら、本当にショックだと思いますが、どんな感じでしょうか。
佐藤: 大ショックです。しかし、もう起きてしまったことは仕方がないので、いかにそこからリカバーするかということに全員が頭を切りかえています。「あかつき」で詰まってしまったバルブというのは、実は「あかつき」が地球から打ち上げられて金星で逆噴射するまでに半年かかったために詰まりました。もしそれが数週間後に使われていたら詰まるまでの化学反応が進行しなくて、そういうことは起きなかった。だから同じものが例えば月探査に使われて、月ではうまくいったのだから、金星に行っても、うまくいくでしょうというところに落とし穴があるわけです。月までだと逆噴射するまでに十分詰まるほど化学反応が起きないものが、金星まで6カ月かかると、その間に進行してしまうものがある。寺田部長言われたように想像力をたくましくして、こういうことがひょっとしたら起きるのではないか。こういう試験をしておかなければいけないのではないかと、そういうものにつながっていくのだと思います。

<事故について>
参加者: 「はやぶさ」や「あかつき」などいろいろと事故が起きていますが、日本の技術で事故をなくすのは難しいのでしょうか。
佐藤: 難しいです。月並みな言い方ですけれども、システムが複雑になればなるほど、それらの全てが100%で動かないと全体が1つとして動きません。アメリカのキュリオシティは、79もある全ての噴射装置が全部きちんと動かないとゲームオーバーだと言ったのは、あれは冗談ではなくて、本当にそうで、その79を全部動くようにするというのは、その周りにある何百、何千という仕組みを全部きちんと動くようにしなければなりません。それは経験がものを言う世界ですし、経験が何につながるかというと、先ほどの御質問にもあったように、こういうところがだめになるのではないかという想像力です。歳をとって狡猾になると言いますが、そういうことも経験というのは必要だなと思います。日本は技術はあるけれども、経験値としてはまだ少ないです。それを皆さんと一緒にふやしていきたいと思います。
寺田: やはり完璧ではないので、完璧でないところを補うために、あるものが壊れても、それを補うような装置を載せるのです。例えば単純に数をふやして、1個が壊れても2つ目があるから大丈夫。そういうふうにして完璧でないところを補うための工夫もすごい大事なのです。ですから、多分これも人生にも役立つと思うのですが、100%成功することはないので、失敗してもいいようにということを考えておくことも大事だと思います。

<宇宙ならではの技術について>
参加者: 失敗をできるだけ避けるために何回も技術的な実験などしていると聞きましたが、宇宙技術で、地上のほかの技術、最近話題になったものでは原発とか、そういう一般の技術と比べて違うところはどこでしょうか。
佐藤: ちょっと難しい質問ですね。というのは、私自身、原発でどういう安全を成し遂げるための技術がきちんと使われているかということをしっかり把握しているわけではないので、少しとんちんかんなことを申し上げるかもしれません。私自身が思うのは、宇宙に行くためには身軽でなければいけません。原発だと、それが安全になるまでどんなに壁を分厚くすることもできますし、装置を重くすることもできます。しかし、宇宙に飛んでいくものは、そんなことはできません。軽量化しつつ、安全、確実であることを求められることがかなり違う側面ではないかと思います。例えば、「はやぶさ」を打ち上げたM-Vと呼ばれるロケットの固体燃料をおさめるタンクなんていうのは金属ですが、非常に強い金属でできていて、壁の厚さがわずか5ミリしかない非常に薄い金属になっているわけです。それが何センチもなっていたりしていたら重くて飛んでいけません。そういう工夫をしつつ、安全を確保するというのが、宇宙技術の中でほかとは違う側面のように思っています。
寺田: 先ほどバックアップの数をふやすという話がありましたけれども、1つ特徴的なのは、危険、安全にかかわる、例えば人の命につながる事故、そういうものに対して、3つのものがあるとすると、2つ壊れても決して危害を与えないという設計にする必要があります。

<リチウムイオン電池について>
参加者: ボーイング787でバッテリー事故がありましたが、衛星がどういう蓄電方式か知りませんが、関係や影響があるかどうか教えてください。
佐藤: 最近の航空の事故との関係ですが、金星探査機「あかつき」もバッテリーとして同じリチウムイオン電池で国産のものを積んでいます。ここ1、2週間の間も、そのバッテリーを長持ちさせるためのオペレーションを行っていました。バッテリーというもは生ものですから、本来の設計寿命を超えて長生きさせるためには温度管理を非常に厳しくしなければなりません。今回の航空機のように充電し過ぎて発熱してしまうようなことがないように充放電のサイクルと温度変化を厳しく管理しています。

<日本と海外の予算について>
参加者: 日本の予算は減り続けていて、アメリカやヨーロッパは最近2~3年、ぐっと上がっていた気がしますが、それはなぜなのかなということと、JAXAさんの限られた予算の中で、アメリカやヨーロッパなどを意識して、チャレンジングなことをやっていくことは大変だと思うのですが、どうやって、事業を決めているのか教えてください。
佐藤: 予算の年ごとの増額みたいなことについては、後ほど寺田部長にコメントいだたくとして、宇宙科学の範囲内でどうやってミッションを決めているかということについて佐藤からお話いたします。 「はやぶさ」や「あかつき」を含め、科学的な知識を人類のために増やすミッションを行うときには、科学者が集まってきて、どういう科学的な観測をしたら、最適な科学的知見を得られるのか喧々諤々の議論をします。その上でお互いがアイデアを出し合って、コンペティションで最終的には勝ち残った者がミッションを勝ち取っていくという、非常に公正なボトムアップの過程でミッションを決めています。これが宇宙科学の範囲で大体年額にすると1年間に200億円程度の額がそれに充てられています。でも、JAXA全体としては1,700億円ほどの年間の予算があるわけで、地球観測衛星などの実用衛星など、どういうプロセスで決めていっているかについては、寺田部長からコメントいただきたいと思います。
寺田: まずヨーロッパやアメリカの予算が少しずつ伸びている理由ですが、これはある程度政治の力ではないかと思います。大統領が宇宙に対してどれぐらいやるべきだという声を上げるかです。JAXAは残念ながら去年に比べても、来年度の予算も若干減ることになるのですが、安倍首相も宇宙を応援してくれているので、再来年ぐらいから、ぐっと上がっていくのではないかと期待しています。逆に言うと、そうなるように我々もいろいろ情報発信をして皆さんに宇宙開発の重要性を理解していただいて、予算の増額につなげていければと思っています。科学衛星ではなくて、ほかの宇宙の衛星、ロケットといったものがどういうプライオリティで予算がついていくかというと、昨年、宇宙の司令塔となる宇宙戦略室ができまして、そこが宇宙開発のかじ取りをしていきます。最近その宇宙基本計画が1月にできまして、4月からその宇宙基本計画に沿って宇宙開発をやっていくわけですが、いろんな有識者の意見を取り入れて宇宙開発の方向を決めていきました。そこで例えば宇宙の利用をもっと促進すべきではないか。あるいは宇宙は我が国として自律的にできるように、その基本となる技術をちゃんと持っておくべきだ。あるいはフロンティアも重要だろうという優先順位づけがなされて、いろんな政策が決まっていくというやり方になっています。

<JAXAへの勤務について>
参加者: 京都にJAXAの支局があって、携わることができないかという夢を持っていて、障害者なのですが、そういう仕事に携われることかできるものでしょうか。
寺田: JAXAの採用は決して特別な手続を踏んでいるわけでもなく、一般の企業さんと同じで通常まず学校を卒業したら新卒の採用、それから、いろんなところで経験されている方は経験者採用という形で採用しております。決して特別な組織ではなく、ほかの企業と全く同じ形で採用しておりますので、ぜひ門をたたいていただければと思います。

<外宇宙探査について>
参加者: ボイジャーとかパイオニアみたいに、日本独自でも外宇宙探査についての計画もしくは構想というものがあれば聞かせてください。
佐藤: 日本が、木星の軌道や土星の軌道、それよりも遠くに行こうとしたときに問題になるのは動力です。太陽電池パネルで発電をしようとすると、当然、太陽光が弱くなりますので、十分な発電ができなくなります。装置を温めるためのヒーターの電力が必要ですし、観測データをとるための測器を動かす電力も必要です。さらに地球へ物を送る通信の電力もです。ボイジャーやパイオニアが今でも宇宙空間の遠方を旅していられるのは、原子力電池と呼ばれるものを搭載しているからです。太陽電池を使っていません。では日本ではそういうことはできないのかというと、今年の夏ごろに打ち上げられる予定の小型科学衛星SPRINT-Aでは、次世代の太陽電池、薄膜太陽電池の実験用のサンプルが表面に張り付けられて、それの高効率な発電がどの程度使えるか、そしてどのぐらいもつかということを実際に宇宙で実証しようとしています。そういうものが実用化されていくと、大きな面積を使わなくても木星あたりで十分な電力を発電できるようになるかもしれないとみんな思っています。それから、現実にNASAが打ち上げて今、木星に向かっている2016年到着のジュノーと呼ばれる木星探査機は、原子力電池ではなくて太陽電池でやっていますから、おそらく日本でもそういうことをすることは可能です。これまで日本で木星探査を行いたいと言って声を上げていたグループがあったのですが、その人たちも当然太陽電池だったらどのぐらいのものが必要かという見積もりもしていて、ぜひやりたいと言っていたのです。ただ、ここ数年ヨーロッパと関係がよくなって、ヨーロッパの人たちが行うミッションに日本から充実した搭載機器を載せて、一緒に木星で科学を行う「ジュース」と呼ばれる計画が実際に動き始めています。ですから、日本独自で、日本の技術だけで木星に行くというのはもう少し先になるかもしれませんけれども、日本が木星探査に手をつけるというのは既に始まっていると言っていいと思います。

<宇宙旅行への支援について>
参加者: 宇宙旅行というのをロシアのヴァージン・ギャラクティック、アメリカのスペースアドベンチャーズ、日本でも宇宙丸のプロジェクトが進んでいると思うのですけれども、宇宙旅行というのは民間がやっていて、JAXAはそういう支援は行わないのですか。
寺田: そうですね。JAXAが直接支援してはいないかもしれません。ただ、例えば宇宙ステーションで宇宙飛行士が長期滞在していて、宇宙に行くまでの環境の変化とか、そういう経験は適宜提供していると思います。そういうものをもって支援というかどうかは難しいですが、いろんな問いかけに対しては答えるようにしています。完璧にスポンサーになるまではやっていないのですが、同じ宇宙開発の技術を使うということで、助言なり協力をしています。

<失敗後の気持ちの切り替えについて>
参加者: 失敗なくやるために、何人の方でどのくらいのプランを考えているのか具体的な数で教えていただきたいのと、努力したにもかかわらず、うまくいかなかったときに、リカバリーをしようという気持ちになかなか切りかわらないところですが、どういうことを考えて切り替えているのか、子供たちに紹介したいので教えてください。
佐藤: 具体的な人数や年月という見方からすると「あかつき」は2010年に打ち上げ場に行くまでの間に「金星探査計画提案書」と呼ばれるミッション提案書を発行してから10年の年月が経っています。装置の開発に携わっている研究者が何十人か。その周りで金星の科学を一緒にやりましょうと言ってくれている人たちが何百人か。それから、メーカーさんの技術者やJAXAの技術者らも何百人という規模になるのだと思います。だから何百人が10年だったら人数×年で言ったら1,000人ですね。そのぐらいのことをしないと「あかつき」は250億円のミッションですけれども、それを国民の皆さんに我々はこれだけの努力をして、これが失敗しないようにしてきました。やらせてくださいというふうには言えないと思います。子供たちに絶対失敗するなということは、厳し過ぎる要求で、私個人の考えですけれども、もっと気楽に失敗できて、その失敗の中から学ぶということができるほうが、教育の効果としては高いのだと思います。よくアメリカの人たちもミッションが失敗すると、それによって学ぶことができたという、レッスンズラーンドというのはまさにそういうための言葉であって、成功したミッションからは学ぶものはないけれども、失敗したミッションからはたくさん学べると思います。我々は失敗の直後、先ほどのモノクロになった映像で茫然自失としているように見えますけれども、でも、そのときに誰一人として泣き出して部屋を出ていったとか、逃げ出して二度とこのミッションに戻ってこなかったとか、そういう人間は一人もいないです。全員があの瞬間から、どうやって元のミッションを少しでも成し遂げられるように立て直そうかというふうに気持ちが、それがどうしたらそういうことができるんですかと言われてもわからないです。自動的にみんながそこに向かって切りかわったというふうに私は思っています。ですから、それまでに費やしてきた年月と、そこで蓄積したものが、失敗したから、もうだめだと思わせるほうに向かうのではなくて、まだ何とかできるのではないかと思わせるほうに作用したのかなと思っています。
寺田: ロケットの成功率が95%を超えました。なぜ成功率がそんなに上がったかというと、同じものを繰り返し使っているからです。一方、衛星は一品物で、衛星は軌道上、打ち上げた後は幸いにして成功していることが多いのですが、実は地上で開発していろんな試験をやっていますが、最初からうまくいく例はほとんどありません。大体失敗します。それを少しずつ直して、同じ失敗を繰り返さないように、それを乗り越えて、それでようやく宇宙に行けるところまで持っていきます。初めてつくるものは失敗が当たり前なので、そういう失敗を乗り越えて、宇宙に行くときにはその失敗を糧に、全て乗り越えた結果、宇宙にまで行っているのです。
西浦: この仕事をやっていますと、優れた技術者の方と交流させていただく機会が多く、その中でよく聞く話は、“失敗を恐れずに挑戦する心を持つ”ということと、“決してあきらめない粘り強さを持つ”ということのようです。会議での発言ひとつをとっても、間違ったことを言ったら恥をかくという理由で発言しない若者が増えたと、あるプロマネが嘆いていました。ご質問で、子供たちにも紹介したいと仰っていましたが、素晴らしいことで、まさに、低年齢から失敗を恐れずの精神、そして決断、行動を勇敢に、といったことを教えていくことが望ましいと思います。

<宇宙エレベータについて>
参加者: 雑誌で宇宙エレベーターの構想図を見て、ひもがひょろひょろで大丈夫?と思ったのですが、宇宙エレベータについて教えてください。
寺田: 宇宙エレベーターができたら素晴らしいですね。後半に大橋さんから宇宙太陽光発電の話がありますが、宇宙太陽光発電は、宇宙にいかに安く物を運べるかというのが大きな課題です。ロケットを使うとお金が高いので、いかに安くできるかで、宇宙エレベーターがもしできれば可能になるのかなと思っています。宇宙エレベータができるには、まさにそのひょろひょろのひもが問題で、これができないと実現しません。先ほどそのひもがどれぐらい開発が進んだかという話を聞きました。「カーボンナノチューブ」というナノテクノロジーを使って、非常に軽くて丈夫なひもをつくらなければいけないのですけれども、まだそのひもの長さが数ミクロンぐらいしかないということです。だからこれをどんどん長くできるようになれば実現すると思うのですが、でも、今は夢物語かもしれませんが、きっとできるようになると思います。あなたが大きくなったときには、かなりいいところまで行っているのではないかと思っていますので、みんなで研究を進めていければと思います。
西浦: たいへん夢のある話で、JAXA自体は開発しておりませんけれども、民間の大手建設会社が力を入れて開発室を設けて研究していらっしゃいます。気持ちとしては、応援したいと思っております。

<糸川博士と宇宙科学研究所の気風について>
参加者: 私は小学校の教師をしているので、エジソンの失敗の話をしてあげたことがあるのです。エジソンが電灯をつくったときにフィラメントを何にするかというのがわからなくて、ついに1,000種類を超したらしいのです。それでもうまくいかなかったときに、新聞記者から一体何回失敗したら気が済むんですかと聞かれたときに、エジソンは、私は失敗していませんよ。私は1,000種類のものはフィラメントに向かないということを見つけましたというふうに答えたという話は、いつも6年生の電気のときに子供たちにしてあげるのです。もう一つそのことで聞きたいのですが、日本のロケットが糸川英夫さんのペンシルロケットから始まったと聞いているのですけれども、恐らく糸川さんは数数え切れないほどの失敗をされただろうし、その中で成功もあったし、技術革新もあって成り立っていると思うのですが、糸川さんのそういう失敗だとか成功だとか技術革新について、こんなことを言っていたよとか、そのようなエピソードみたいなものがありましたら教えていただきたいということと、去年「はやぶさ」の川口さんの話を聞かせてもらったときに、川口さんがかつていらっしゃった宇宙研というところは大変変わり者が多かったと言っていたと思うのですけれども、その集団で、少々ではめげない人の集まりで、とんでもないことを言う人がいっぱいいるというところで育ちました。だから「はやぶさ」のミッションも乗り切れたのではないかとおっしゃったので、宇宙研の気風とかそんなものがもしありましたら、糸川さんの件とあわせて教えてください。
佐藤: 糸川博士のなされたこと、その歴史、経緯ですとか、そういったことは実は私は詳しくは歴史上のことは存じ上げません。宇宙研の阪本成一は結構そういう文献を調べているようです。今度この数日後、埼玉で行われる日本天文学会の天文教育のセッションで糸川博士がどんなことをなされたか、あるいはペンシルロケットの実験の様子みたいなことを話されるようにプログラムでは見ておりますので、今度それを彼にJAXAのホームページに知ったことを挙げておくように伝えておきます。宇宙研が変わり者かどうかというのは、これは人を見て判断していただくしかないので、私がどんな話をどんなスタイルでしたかというのも多分、宇宙研の気風になるのかもしれません。ただ、言えるのは、昔は東京大学の一研究機関だったのです。だから、そのころはたたき上げで宇宙研の教授になっていった人たちが多くて、そのころのほうが気風は色濃かったと思います。今はもっといろんなところからいろんな人が来て、そしてまた出ていったり入れかわったりということがあって、そういう意味ではオリジナルの気風はこのグローバルな世界の中でどこの研究所もそうですけれども、少し弱まってきているのかなという気がします。それを昔がよかったという言い方は一概にはできませんし、今のこういうむしろ外と血の混じり合うような交流がふえた中で、コミュニティと一丸となって探査を行っていくのが、我々研究所の役目かなと思っています。

<ISSの今後について>
参加者: ISSのような大規模な世界で協力してできているようなものを、今後つくる予定はあるのでしょうか。
寺田: ISSは、2020年までの運用が決まっています。ほぼ決まると思います。その後、もともとISSは寿命的には30年ぐらいもつもので、実験でいい成果が出ていればそのまま使い続けるのかなと思っています。ですから、すぐにはやめないのではないかと思っていて、少なくとも2020年の先もしばらく使い続けるのではないかと私は思っています。その後、ISSの次に何をするかということについて佐藤先生お願いします。
佐藤: ISS以降にどうするかというのは、まだ決まったものは存在していません。アメリカ、ヨーロッパ、日本を含めていろんな研究者がISSのような実験をするプラットフォーム、国際協力をする舞台というのが必要だという考えでは一致しています。ただ、ISSは完成までに長い年月を要してしまいました。そのためにISSで本来こういう実験をやりたいと思っていた人たちが、ISSでそんなに長く時間がかかるのだったら飛行機で上がって、それが落下するときに一時的にできる無重量を使った実験でそれを何回も重ねることでこなしてしまいましょうとか、そういういろんな工夫をしてきた経緯があって、立ち上がりに時間がかかり過ぎたかなというところがあります。ですから、もう少し適正なサイズ、比較的短い時間で速やかにできて、みんなが実験をできる場所がこれからもつくられていくかと思っています。
寺田: ポストISSとしてありそうなのが、みんなで惑星に行こうということです。究極の目標地は火星だと思いますが、その前にみんなで月に行こう、あるいは小惑星に行こうとか、そういう計画を、各国で話し合っています。