JAXAタウンミーティング

「第90回JAXAタウンミーティング in 名古屋市科学館」(2013年2月16日開催)
会場で出された意見について



第二部「日本の航空機産業の進むべき道」で出された意見



<航空部門と宇宙部門の研究の双方のフィードバックについて>
参加者: このようなタウンミーティングの場所では、航空部門と宇宙部門と別々に紹介されることが多いのですが、安全性、効率性の点で共通するようなところも多くあると思うのですけれども、双方の研究のフィードバックの事例などがありましたら教えてください。
中橋: 人工衛星、ロケット、そして飛行機に関しては高い安全性が要求されることで非常に共通的なところがあります。また、飛ばすものということでいえば、ロケットも飛行機も軽くなければいけません。そのため、飛行機では従来のアルミ合金に代わって使うための複合材の研究を長くやっていますが、その技術でロケットの燃料タンクを軽くする研究も行っています。高い信頼性が必要だということでも共通部分が沢山あります。JAXA内では、航空関係の部門が単独で研究開発をしているわけではなくて、宇宙関係の部門と一緒になって協力して、さまざまな研究開発を行っているのが現状です。
西浦: 宇宙のほうからはどうですか。
國中: 飛行機技術、例えば往還機、JAXAでも昔はHOPEというスペースシャトルのような乗り物の研究を行っておりました。こういった技術は宇宙での活動ができ、かつ、空気力学的な特性を持っていて地球に帰ってくることができます。JAXA、当初のNASDAの時代から情報交換しながら研究開発していたと思います。「はやぶさ」関係で言いますと、リエントリカプセルの空気力学的な特性などはISASでも研究活動をしていましたけれども、航空関係の技術、数値シミュレーション技術などをふんだんに使って、リエントリの技術開発をしました。帰ってきたカプセルの分析は航空部門が持っているX線の診断装置を利用し、非破壊で内部の状況を調べた上でカプセルのふたを開けました。ヒートシールドの地球に帰ってきた後の分析などにも、大変有効に利用させていただいた経緯があります。
西浦: 石川先生も一言お願いします。
石川: 逆に少し違うところもあるんだということを申し上げておきますが、宇宙、特にロケットの打ち上げというのは非常に一発勝負的な要素があって、そこに対する物事の信頼性の考え方は、航空機とは、似ているけれども、ちょっと違っている部分もあります。ですから、協力することでそういう微妙な違いもわかってきます。

<今後の日本の航空機産業の展望について>
参加者: 世界の航空機市場のお話で、旅客機数の需要が今後20年以内に倍増していく成長産業というお話でしたが、一方で産業規模が過去30年で4倍になっているにもかかわらず、国内のGDPで言うと製造業のうち0.3%以下という、まだまだ低い産業だと、その背景として、アメリカとかヨーロッパは、メインコントラクターであるエアバスとかボーイングといった企業であるのに対して、日本はリスク分散パートナーとかサプライヤーとしての立ち位置でしかないということが考えられると思うのですけれども、私自身、今、就職活動をしていて企業の話を聞くと、メインコントラクターになるということは今後余り考えていないというお話を聞きます。その中で今後、日本航空機産業として成長の波に乗っていくことは可能なのでしょうか。御意見をお聞かせください。
中橋: なかなか厳しい質問ですね。飛行機を一番中心になって開発する会社をプライムと言うのですが、そういう意味ではMRJの開発が今、進んでいて、そのMRJは三菱航空機がプライムとして非常に頑張っています。今、新しい流れが始まろうとしています。もう一つ考えなければいけないのは、航空機、あるいはエンジンもそうですが、非常に開発が大変です。開発するために莫大なお金がかかりますし、10年以上の年月をかけて開発するものもあります。ですから、それを1つの企業では、とてもではないけれども無理で、複数の企業、さらには国際的に一緒にやろうというのが今の流れです。その中で日本がどういう立ち位置を持つか。そのためには高い製造技術、新しいアイデア、そういう技術を持っていって世界に打って出る、そういう戦略も必要になってくるでしょう。ですから大型機に関しましてはボーイングなりエアバス、あるいは他の国のメーカーとの協力もこれからあるかも知れませんが、一緒になって造っていくということ。それと同時に小さな飛行機ですと1つの企業でもできるということで、そのあたりでは主導権を持って新しい、素晴らしいものを造っていく。そういう形でいくのがこれからの戦略ではないかと個人的には思っています。このあたりはいろんな人がいろんな考えを持っていらっしゃるので、石川さんも何かあれば。
石川: 大体同じなのですが、1つだけ、日本とドイツの航空機産業は、他の国より少し下です。それは第二次世界大戦があってしばらくの間、航空機の研究開発が禁止され、平和条約ができてもう一度やっていいということになりました。ですから20年ぐらい前の生産高の統計などを見ると、日本とドイツはよく似ていましたが、20年間ドイツは順調に成長して、日本も伸びてはいるのだけれども、なかなか成長し切れず、現在では日本はドイツの半分ぐらいしかありません。ドイツはエアバスというものに参加できて、エアバスの中で技術を磨いていった。日本は残念ながらつい最近までボーイングのパートナーでしかなかったという状況でした。ただ、これからMRJのようなものをきっかけにして、私は十二分にまだキャッチアップできると思っているので、ぜひ頑張ってほしいし、それのお手伝いをしているつもりです。

<日本でのジェットエンジンの製造について>
参加者: アメリカのF-22は超音速巡航でマッハ1以上で常に飛び続けることができるらしいのですが、そういった優れた出力の大きいエンジンを日本国内でつくることはできないのですか。現状について教えていただければと思います。
中橋: ジェットエンジンは本当に複雑な機械で、そう簡単に造れないものなのですが、最近の例ですと、哨戒機P-1のエンジンは完全な国産です。ですからエンジンの開発能力は十分に持っています。ただ、民生用のエンジン、つまり旅客機のエンジンとなると値段が一番勝負になってくるし、信頼性も非常に大事になってきます。哨戒機P-1の国産エンジンは信頼性がないというわけではないのですが、実績を問われるわけです。日本のエンジンメーカーは、P-1用の国産エンジン開発や国際的な共同開発に参画することで徐々に実績をつけてきていますのでこれから益々世界での存在感を高めていくのだろうと私は非常に期待しています。また、本日は若い人がたくさんいらっしゃるので、多分この中でも将来に世界一の性能を持つジェットエンジンをつくる人が出てくるのではないかと期待しています。

<将来に向けての種づけについて>
参加者: ここ10年先のプランはこうですというお話がございました。國中先生からは20年先こうなりますよということがありました。20年先のことを思うと石川先生のお話もそうでしたけれども、技術が成熟していくのに何十年という時間がかかります。そう思うと、今、種を植えていくと20年後か30年後に開くものがあると思うのですけれども、具体的にはそういう種づけをしているものとかございますでしょうか。
中橋: JAXAでやっている将来ものとしては先ほど少し話しました超音速の旅客機があります。これが10年後に就航できるか、あるいは20年後か30年後になるかはまだわからないところがありますが、技術開発はかなり進んできています。この超音速機の種植えは十年程前ですが、それが芽を出し徐々に育ってきています。近い将来に実を付けるのが楽しみです。もっと速く飛ぶ飛行機の種も植えています。ただ、これに関しても燃費とか環境問題とか、まだまだ難しい課題があります。また、飛行機をやっている者にとっての1つの大きな夢がVTOL、つまり垂直に離発着するという飛行機です。最近オスプレイという、飛行機とヘリコプターの両方の特性をもった航空機が有名になっているのですが、それとは別の考え方の垂直離着陸の航空機をJAXAの若い人たちが頑張って研究しています。それ以外にもJAXAの中でいろんなおもしろい飛行機を若い人たちは頑張って研究しているというのが現状です。
石川: 今、名古屋大学では新しいそういう構造材料・燃料の研究ですので例を紹介しますと、夢のような技術なのですが、翼が自由に形を変えられる。今までの飛行機で翼の形を変えられるのは、ここに回転軸があって回転するというものがあるのですが、それなりに難しい技術ですけど、できる気がします。でも、そうではなくてもっとぐにゃぐにゃと鳥がすぼめたりそうするように、自由に形を変えられる、切った段面の形も自由に変えられる。そういうような材料であり構造の形態であり、そんな簡単にはいかないのですが、本当に基礎的な最初のアイデアです。もちろん名古屋大学だけでなしに日本のほかの大学あるいは海外の大学でもいろいろそういう、ほとんどアイデア勝負のような研究ですけれども、そういうこともやっています。名古屋大学も私のところの研究室ではそういうことをやっていて、それをどうやって動かすかということも含めて研究しています。

<飛翔の目的について>
参加者: 飛翔という飛行機なのですけれども、ときどきそれっぽいものが上を飛んでいることがあるのですが、あれはどういった種類の情報を、どのよううなものに使うためにデータをとっているのでしょうか。答えられる範囲で結構ですので、教えていただけたら幸いです。
中橋: 導入してまだそんなに時間がたっていないので、詳しくは答えられないのですけれども、1つ今やろうとしているのは、例えば飛行機というのは飛んでいると当然空気の力で翼がたわむわけです。どのような条件で、どの程度のたわみが発生するのか、それをどうやって測定するのか、そういうことが1つの研究課題になっています。非常に性能のいい飛行機ですので、これからいろんな研究をやっていきたく思っています。もしアイデアがあればどんどん言って下さい。そのアイデアを採用させていただくこともあり得るかと思います。
石川: 私は愛知県の豊田市に住んでいますので、侵入経路がどこら辺を通って、音が独特なので「あっ、飛んでる」っていうのが分かります。

<<CFRPの実用化の理由について>
参加者: 石川先生のお話の中で、CFRPを先生が研究を始めたころには軍用機ぐらいには応用できるだろうというお話をいただいて、それが旅客機まで拡大されて利用されているということで、その辺の非常に早い実用化といいますか、これに至った理由を御説明いただけたらと思います。
石川: 1972年に大学卒業して大学院のころ、ちょうど世の中にCFRPが売り出された直後ぐらいで、30万円/kgです。その値段では到底大きな普及はなされなので、まず第一には値段が下がったことです。先ほど中橋理事のスライドにもありましたように、日本の炭素繊維メーカー3社、東レ、三菱レーヨン、東邦テナックス、今は帝人グループなのですが、その3社で世界7位のシェア、もっと厳密に言いますと、その会社がアメリカでつくっているものも入れますと9割近いシェアがありまして、日本の炭素繊維3社の技術がものすごく上がった。何でもそうですけれども、炭素繊維は信頼性命なのです。強度のばらつきが少ない、ほとんど同じ強度。そういう信頼性が上がったことです。もう一つ大事なのは、世界中のこういう航空関係、航空以外もありますけれども、研究機関がこぞって研究投資をしました。炭素繊維の複合材料というのは金属と違って壊れることの予測が非常に難しい。でも実験をし、計算をし、その予想ができるように要するに研究開発の投資をして、本当に使える材料に育てなければならないのです。先ほど中橋理事もおっしゃったように、そういうものは、一企業だけでは到底無理で、政府のお金が入って、研究をやって積み上げていって、そういう繰り返しが何度もあって、先ほどご覧いただいたような787の主翼、胴体に使われるようになりました。2002年ぐらいにボーイング787にCFRPを50%も使うということを発表しましたが、自分がCFRPの研究をしていて、わからない要素もいろいろあるので、正気の沙汰ではないと思いましたが、さすがボーイングというか、少し開発は遅れましたけれども、CFRPに由来するいろいろな困難も克服して世の中のエアラインに売れるようになりました。残念ながら今は、リチウムイオン電池の問題でああいう状態になっていますが。大きく言って値段が下がり、信頼性が上がり、国レベルでの研究開発がちゃんとやられて、日本でももちろん我々はやりましたし、ですから日本でも単独でMRJの尾翼は日本でちゃんとできるわけですけれども、そういう積み重ねですね。繰り返しになりますが、1つの企業だけでは到底それはできない。残念なことに飛行機は特殊な分野だと思うのです。もちろん宇宙もそうです。

<航空機のハイブリットエンジンについて>
参加者: 自動車なんかは今、エンジンから電気などハイブリッド化されて、電気自動車が普及していくような時代になってきているのですけれども、航空業界ではジェットエンジンからモーターに切り替わっていくような研究はされているのでしょうか。もしこれまでに研究されて断念したのであれば、その理由なんかも教えていただけませんでしょうか。
中橋: いい御質問だと思います。実際にやっています。今、小さな2人乗り程度の飛行機については、エンジンをモーターに換えて飛ばそうとしています。ただ、これはボーイング787のリチウムイオンバッテリーの問題が解決しないと、その飛行機も飛ばせないかも知れないと心配しているところです。それとは別にもう少し先の技術として、ハイブリッドエンジンの研究も行っています。それは何かというと、ジェットエンジンの中に発電機を入れてしまって、その発電でもって別のモーターを動かし、その推力を使うというものです。要するに旅客機に関してはモーターだけで飛ばすのは今は不可能なので、ジェットエンジンとモーターのいいところを持った推進システムを考えて飛ばそうと。これに関してはまだまだアイデアのレベルですが、10年あるいは20年先にはそういうハイブリッドエンジンを搭載した飛行機が飛ぶかもしれません。ジェットエンジンとモーターのハイブリッドになると、もっと静かに、もっと効率的な飛行機ができると我々は信じています。
石川: 皆さん俗にはセスナと言っています3~4人ぐらいの軽飛行機ですね。そのぐらいのレベルでしたら、今はガソリンエンジンですが、モーターで飛ばす時代は割と近い将来来ると思っていて、ドイツやアメリカでもそういう研究をやられています。大きい何百人乗りの飛行機はなかなか難しいですが、小さい飛行機は可能だと思います。