「第85回JAXAタウンミーティング in 蒲郡市生命の海科学館」(2012年11月3日開催)
会場で出された意見について
第二部「小惑星探査への挑戦『はやぶさ』から『はやぶさ2』へ」で出された意見
<「はやぶさ2」のアンテナが2つになった理由について>
参加者:
「はやぶさ2」のイメージ画があったと思うのですけれども、パラボラアンテナが2つになったと思うのですが、何か理由があるのですか。
吉川:
「はやぶさ」の場合はパラボラアンテナ1つだけでしたが、「はやぶさ2」は平面アンテナが2つついています。何が違うかというと、使う電波の種類が違います。「はやぶさ」はX帯という電波を使いましたが、「はやぶさ2」はX帯に加えてKa帯というより周波数の高い電波を使うのです。ふだんは、「はやぶさ」と同じ、X帯で通信をします。「はやぶさ2」が小惑星に着いたときに、小惑星でたくさん写真を撮って、そのたくさんのデータを送りたいときにKa帯の電波を使って送るために、2つアンテナがついています。
<サンプルの採取方法について>
参加者:
サンプル採取のときに1回爆撃しないで採取するのと、掘ってから採取するのと2回あると思いますが、なぜ2回行うのですか。
吉川:
実際は3回まで採取できるようになっています。もしできればクレーターをつくる前に2回、クレーターをつくってから1回採取したいと思っています。まずは普通の表面から採るのは、小惑星全体を地球から観測しているので、表面を見ていて、それがどういう物質なのかをまず知りたいということです。ただし、表面は太陽の光がずっと当たっていたので、表面の物質の性質が変わってしまいます。簡単に言うと日焼けしているので、日焼けしていない物質も採りたいので地下の物質を採ります。そのためのやり方をみんなでいろいろ考えて、いろんなアイデアが出ましたが、「はやぶさ2」というのは小さな探査機なので余り大がかりな装置は持っていけなので、なるべく小さな装置で地下の物質を表に出したいということで、今回のような方法をとりました。
<サンプラーホーンについて>
参加者:
同じサンプラーホーンで採ると、サンプルが混ざっちゃうような気がしますが、大丈夫なのですか。
吉川:
サンプルが上昇していくホーンは仕方ありませんが、サンプルが入る場所は3つの部屋に分かれています。1回目のサンプルが部屋に入ると、部屋をぐるっと回して、2回目は別の部屋にサンプルが入るような仕組みになっています。なので、確かにサンプラーホーンは同じなので、ここに残っていると混ざる可能性ありますが、大部分は別々の部屋に入ることになります。
<イトカワについて>
参加者:
イトカワで生命のもとになる有機物は発見されたのですか。
吉川:
イトカワはほとんど有機物ではない物質でした。ただ、有機物らしいものが少し入っている粒もあるようで、これはまだ分析が終わっていません。だからまだ正確な情報は私も受けていないです。ただ、ほとんどの粒子は有機物がないようです。
参加者:
イトカワから離陸するときにばねの力だけで離陸したのですか。スラスターが壊れたのではないのですか。
吉川:
小惑星から離陸するときはまだスラスタ―は使えました。離陸した後に壊れたので、離陸するときには小さなスラスターを使って離陸しています。
参加者:
イトカワにも重力はあるのですか。
吉川:
あります。イトカワの重力は大体どのくらいかというと、一番わかりやすい言い方をすれば、イトカワの上に立って地面を蹴とばしたときに、その速度が秒速15cm、これは非常に遅いですが、1秒間に15cmぐらいのスピードで地面を蹴ると、自分が打ち上がってしまって、二度と戻ってくることができずに、惑星になってしまいます。そのくらい弱い重力です。
参加者:
1999JU3は、イトカワより相当大きくなるのですか。
吉川:
「はやぶさ2」の行くJU3は、イトカワよりちょっとだけ大きくなりますが、そんなに変わらないです。倍くらいになりますが、基本的にはほとんど同じです。
参加者:
はやぶさと同じようなエンジンで、離陸できるのか。
吉川:
はい。大体のイメージは、宇宙ステーションに宇宙飛行士がいるテレビの映像がよく出ますけれども、宇宙飛行士はぷかぷか浮いていますね。あれは宇宙ステーションの重心に行けば本当に無重力ですが、ちょっと外れると微小な重力があります。JU3の重力も似たようなものなので、基本的には非常に弱い重力で小さなエンジンでも離陸できます。
<1999JU3について>
参加者:
「はやぶさ」が行ったイトカワは重力がほとんどなくて、瓦れきの寄せ集めみたいなラブル・パイル構造で、「はやぶさ」が着陸するのにもすごく苦労されたと思うのですけれども、このJU3というのはイトカワよりは少し大きいということなのですが、同じような瓦れきの寄せ集めの構造になっていることはわかっているのでしょうか。
吉川:
これはわかっていません。一応、想定では多分瓦れきの寄せ集めだろうということですが、行かないと分かりません。形も大体想定していますが、まだ正確にはわかっていないです。900mという大きさについては、そんなにずれていないだろうと考えています。密度は、瓦れきの寄せ集めか、ぎっしり詰まったものかわからないので、両方のケースを考えて、着陸、離陸のやり方を検討しています。
参加者:
行ってみないと形状はまだわからないというところは多いのですか。
吉川:
そうですね。行かないとわかりません。ここにイトカワの模型を持ってきていて、こういう形というのは「はやぶさ」が行ったからわかったのです。「はやぶさ」が行くまでどういう形が推定されていたかというと、これも模型があって、行く前に望遠鏡で観察したり、また、アメリカが強力なレーダーの電波をイトカワに当てて形を推定してくれたのですが、せいぜいこのぐらいの形しかわかりませんでした。地球にいると我々はこのぐらいの推定しかできないのです。レーダー観測をしているので、これはまだよい方で、JU3はレーダー観測ができていないので、さらに形としては不確定です。イトカワも違っているぐらいですから、多分このJU3というのも行ってみればまた全然イメージが違うかもしれません。
<サンプルリターンの国際協力について>
参加者:
「はやぶさ」を成功させて、これからサンプルリターンについてはNASAがものすごいお金をかけて活動に動いてくると思いますが、JAXAがNASAに対して持っている利点というか持ち味みたいなもの、NASAのサンプルリターンについて何か協力とかそういうものはあるのですか。
吉川:
「はやぶさ」の場合はNASAとオーストラリアの協力をもらいました。本当は「はやぶさ」にNASAの小さなローバーを載せるはずでしたが、これについてはNASAがおりてしまいました。いずれにしてもNASAとは協力関係を結んでいて、「はやぶさ」のトラッキングをしてもらっていました。「はやぶさ2」もNASAと協力関係を結ぼうとしています。また、カプセルが落ちる場所をオーストラリアに予定しているので、オーストラリアとの協力も結ぼうとしています。今回、ドイツが中心となって小さな着陸機「マスコット」を「はやぶさ2」に載せる予定なので、ヨーロッパとの協力関係も結ぶ予定です。なので、「はやぶさ2」はNASA、ヨーロッパ、オーストラリアという世界の主要なところと協力を結んでやるつもりです。
<小惑星の種類の判別について>
参加者:
S型とかC型とか、地上からどうやってわかるのですか。また、生命の跡などはどうやってわかるのですか。
吉川:
誤解してほしくないのは、生き物を「はやぶさ2」が見つけるのではなくて、生命をつくっている物質、我々の体をつくっているたんぱく質とか、そういったもののもとになった材料は何かを探しに行くのです。だから生物そのものは見つからなくて、そのもとになる材料、有機物を探すというのが「はやぶさ2」の目標となります。小惑星というのは太陽の光を反射して光っていて、その太陽からの光の反射をスペクトルに分けて、それを調べることで、S型というのはこういう形のスペクトル、C型は横に寝たようなスペクトル、D型は斜めになっているスペクトルのように、スペクトルの形で分類しています。S型だと主に岩石で、C型だと有機物や水が入っています。そういうことで今回はC型の小惑星に行きます。
<ターゲットマーカーへの署名について>
参加者:
「はやぶさ」のときはターゲットマーカーに名前を載せていましたが、「はやぶさ2」でもやりますか。
吉川:
「はやぶさ」のときは合計88万人の人が名前を載せてくれました。「はやぶさ2」も是非やりたいと思っていますが、まだ皆さんにアナウンスしていません。ターゲットマーカーは、ボールみたいなものですが、ボールの表面の内側に皆さんから送ってもらった88万人の名前が小さく刻んであるシートが入っています。1個だけに入っていて、その1個が今イトカワの上に置いてあるのです。誰かがイトカワに行って拾って中を見ると88万人の名前が見られるという仕掛けになっているのですが、同じようなことをぜひ「はやぶさ2」でもやりたいと思っています。ぜひ予算がちゃんと通るように応援して下さい。
<小惑星まで行く理由について>
参加者:
「はやぶさ」がイトカワまで行かなければいけない理由、隕石ではわからない理由、イトカワと隕石の違いは何ですか。
吉川:
確かに地球にはたくさんの隕石が落ちてきているので、隕石を調べれば地球内物質がわかる。そのとおりです。では、どうして「はやぶさ」や「はやぶさ2」がわざわざ小惑星に行って戻ってくるかというと、隕石として落ちてくると、大気に突入するので周りが熱くなって溶けてなくなってしまいます。だからそうやって割と溶けやすい、ふわふわしたような物質は現地に行かないと採れないわけです。隕石もかたいかたまりとしてでしか採れないので、もっと細かい物質もあって、それは地球に落ちてきたら全部燃えてなくなってしまうので、そういったものも調べたいというのがあります。それと、隕石というのはどこから来たかわからないのです。今回イトカワを調べて、これが普通コンドライトという種類の隕石だとわかったわけです。そうすると、今、地球上にあるたくさんの普通コンドライトというものが、こういった天体から来たんだということを確認できたわけです。つまりS型小惑星から来たものが普通コンドライト。今回C型小惑星に行くのは、今度は炭素質コンドライトという隕石の母天体だろう、それを確認することが大きなテーマになっています。なので、その確認プラス隕石だと得られない、地球に入るときに燃えてしまう物質を採るということです。
<JAXAの技術者としての心構えについて>
参加者:
JAXAの技術者としての心構えを教えてください。
吉川:
私の担当は探査機の軌道を決めることです。これは地球を周回する人工衛星に比べてまだまだ確立されていないことが多いのです。「はやぶさ」のときもそうでしたが、想定しないことが起こるのです。そのときにいかに対応して、ちゃんとミッションを成立させるのかに気をつけているというか、そこが一番難しいところです。想定されたことが起こればそれは問題ありませんが、全然違うことが起こると、我々の場合はプログラムを変更して軌道決定の精度を上げるということをやります。
中川:
技術者として一番大切なことは、私もよく若い人たち言うのですけれども、まずは自分で考えることです。今まで私は「しずく」を含めて4機の衛星を開発してきました。幸いみんなちゃんと動いてくれています。ただ、その過程は失敗の連続で、最初のころは非常に苦い思いをいっぱいしています。そういうことがもう一度起こらないようにするためには自分でどうすればいいのか。単に矮小化して小さなことだけに気をつければいいわけではなくて、自分がどういう考え方をしていて、そのときどうしてそれを見逃してしまったのか。やはり常に自分で考えること。人に言われたことを実行するだけではその人は成長しません。なぜ人はそれを言ったのかということを理解することが重要だと思っていて、簡単に言えば常に考えることです。常に原点に帰って考える、そういう心構えがエンジニアとしては必要だと思います。
寺田:
私も衛星開発を幾つか行いましたが、その衛星にいかに思いを寄せるかというか、思いを込めるかだと思います。きっと大丈夫だろうと思うと大体失敗します。だから、あらゆる想像力を駆使して、こんなことにならないか、あんなことにならないかということをできる限り考えるのです。それは教科書に載っていないことも幾らでもあります。そういうものに気づけば、未然に失敗を防ぐことができますので、楽観的な気持ちは捨てて、あらゆる想定を想像することが大事なことかなと思います。
西浦:
三人とも、きら星のごとく、JAXA内でも選りすぐりのメンバーです。何らかの参考にしていただければ幸いです。
<インパクターの破片について>
参加者:
衝突物が爆発したときに、クレーターに破片が少し落ちてしまうような気がしますが、いかがでしょうか。
吉川:
一番我々が気にしたのは、単にクレーターをつくるだけではなくて、そこから物質を採取するので、クレーターが人工的なもので汚染されてしまうことです。本当は地面に落として地面で爆発させたほうが確実ですが、そうしなかった理由は、300mとか500mぐらい離れた上空で爆発させるので、ほとんどは周りに飛んでいって、真下に落ちる破片もあるかもしれませんが、少ないと考えたからです。爆発させて、飛んでいくものは銅のかたまりで、これはぶつかってしまうのですが、表面の物質と区別ができるので大丈夫という理由で、このようなやり方を選びました。
<イトカワや1999JU3の場所について>
参加者:
イトカワとか今度の新しい天体、あれは火星と木星の間にある集団の小惑星帯ですか。
吉川:
それは違います。火星と木星の間にアステロイドベルトという小惑星帯があります。現在、60万個近く小惑星が見つかっています。「はやぶさ」「はやぶさ2」は、惑星探査機としては小さいので、小惑星帯まで行くことができません。イトカワは火星の外側から地球の軌道の内側に、今回の1999JU3は、地球の軌道のすぐ内側から火星軌道ぐらいまでを回っている天体です。往復できる距離というのが決まっていて、先ほどの小惑星帯までは行けず、火星ぐらいの距離までしか行くことができません。
<人を送り込める距離について>
参加者:
どのぐらいの距離だとJAXAの力で人間を送り込むことはできますか。
吉川:
アメリカもやっていないぐらいですから、人間はなかなかまだだと思います。ただ、アメリカが言っているのは地球に接近したときに人を送って、すぐに戻ってくるぐらいなら技術的にはアメリカはできそうです。日本は有人ミッションをまだやっていないので、そのくらいのことができればいいなと思いますけれども、技術的に小惑星は着陸や離陸は楽なので、できるような気はしています。
<JAXAへの就職について>
参加者:
私は「はやぶさ」のことを聞いて、将来の目標としてJAXAに入って働きたいという夢がありますが、どうしたらいいですか。
寺田:
その夢を捨てずに頑張って勉強してください。普通の会社と同じように採用していますので、ぜひチャレンジしてください。
西浦:
語学は、何をするにも、これからは特に役立つと思いますので、外国語を勉強しておくのも、良いでしょう。
<トラブルへの対処の経験について>
参加者:
科学的、技術的なことを専門分野でされている方が多いと思うのですが、そういった中でいろんなトラブルなどがあったときに対処しなければいけない出来事などで、全てがつながったような感じで物事が進むような体験というのはされたりするのでしょうか。
吉川:
余りそういう体験はなくて、私が経験した火星探査「のぞみ」「はやぶさ」「はるか」とかですが、いろんなトラブル、問題があって、それを一つ一つ解決していくような感じでやっていました。「はやぶさ」の場合は、特にイトカワに着いたときにまずはびっくりしたことがありましたけど、その後いろいろな作業に追われて、一つ一つの作業を順番にやっていくことに専念していったという感じです。
中川:
そんなに大きな話ではないですけれども、例えば1つ「しずく」で経験したのは、衛星を組み上げて試験をしていったときにコマンドを打ったのですが、正常に動作しないのです。もう一回打つと正常に動いて、2回目は再現しない。何十回打っても同じことが起こりませんでした。それで多分いいだろうと思って衛星を打ち上げるか、たった1回うまくいかなかったことの原因をちゃんと突き止めようか、結局楽観的になれず、自動的に何十万回とコマンドを打つ試験装置をつくって試験すると、やはり何万回に数回ぐらいの頻度で起こるのです。よく見てみるとソフトウェアがそういうつくり方になっていて、ときたま誤動作することがわかったのです。そのとき本当にすっとしました。結局、衛星が健全であるということを確信できずに打ち上げるということが、我々としては一番苦しいことで、それを全て解決した状態が、最もほっとして嬉しかったときです。
寺田:
「みちびき」の例でいくと、自分たちの設計が悪くて、それで問題を起こしてトラブルになるのは、自分たちのせいなのですが、「みちびき」であったのは自分たちが悪いのではなくて、例えば外国の部品を使っていて、その外国の部品が別の衛星でトラブルを起こして、それで同じ部品を使っているから取りかえたほうがいいのではないかと言われると、これはすごいつらいのです。最後は「はやぶさ」もそうだったのですけれども、神頼みでした。今、無事にいっているということで、最後は人事を尽くして天命を待つみたいなところはあるかもしれません。