JAXAタウンミーティング

「第76回JAXAタウンミーティング in 杉並」(平成24年4月28日開催)
会場で出された意見について



第二部「宇宙に出て初めてわかる地球のこと 日本の宇宙科学のいまとこれから」で出された意見



<月が地球に同じ面を見せている理由について>
参加者: 月が地球に同じ面を向けているという話ですが、他の惑星の周りの衛星でも成り立つのか、たまたま地球と月がある条件を満たしたことによりそうなっているのでしょうか。
阪本: ほかの惑星の周りの衛星についても調査が進んでいて、火星の衛星やガリレオ衛星など主だったものは月と同様に同じ面を向けていることが知られています。極端な例でいいますと、冥王星とカロンはお互いに同じ周期で回っています。これを潮汐ロックと呼びます。
参加者: そうだとすると恒星と惑星でも成り立つのではないでしょうか。
阪本: 中心の重力源と惑星ないし衛星との距離に依存します。太陽系の例でいいますと、水星についてはかなりいびつな軌道を描いていますが、太陽にもっとも近づいた時に太陽に向く面は、ある面か、その反対側と決まっています。太陽系の外に多数の系外惑星が見つかっていますが、中心の星に近い惑星は同様にロックしているのではないかと多くの研究者は考えています。

<太陽が地球に及ぼす影響について(1)>
参加者: 太陽の探査衛星で、JAXAホームページで、太陽のリフレッシュの観察データを見たところ、12年に1度の周期、太陽磁極のリフレッシュを失敗してしまった。これによって太陽の活性化が衰えて、もしくは異常な状況になりつつあって、観測史上初めての情報のため、これから太陽がどうなるかわからないというところで結論づけられていました。これから予想できるものはどのようなことがあるのか聞かせていただきたい。
阪本: 太陽というのは11年周期、極性まで含めると22年周期を持っていて、それが一体何でそんなにほぼ正確に起きるのかはよくわかりません。太陽には磁力線があって、赤道の辺りが速く回っているものですからそれがだんだん引き伸ばされていって、そしてゴムひもがねじられたような感じで、もこもこっと上がってきてしまう。それが黒点であり、そして太陽活動が活発になるということなんですが、それが何でやや遅れているのかわかりません。それから、時には長期間にわたって黒点が全然出ないという時期もあったんです。昔、「マウンダー極小期」という、太陽の活動が衰えて地球上が一種のミニ氷河期になり、テムズ川が全部凍ってしまったりということが起きたことがありました。何でなのかよくわかりません。応援しましょう(笑)。でも、少し活動が上がってきているような気がします。黒点が少しながら見えていますので。南と北で磁力線の出方のタイミングがずれるというのは、これは今回が初めてのことではないんです。ただ、その現場をとらえることができたというのが太陽観測衛星「ひので」の素晴らしいことで、要は太陽の極を見ようと思っても我々は正面から見ていますから、見えないんです。ところが、解像度がものすごくいいので、かなり斜めの角度で撮ったものでも、うんと引き延ばすと極方向から見たように見える。それがこれまでの地上望遠鏡ではできなくて、我々の宇宙望遠鏡で初めてできるようになった。だから、なぜそれが初めてわかったのかというと、それは「ひので」が打ち上がって、その後初めての磁場の反転が起きたから、それが見えてきた。そういうことです。

<太陽が地球に及ぼす影響について(2)>
参加者: マウンダー極小期と言うとかなりシビアな問題になってきます。太陽の磁気嵐の情報を見るとかなり活発化していると思います。IT革命が起きてから磁気嵐が活発化したのは、私が知る限り初めてだと思うんです。発電施設が磁気嵐によって磁力化して破壊されてしまったなどという情報を得たことがありまして、そうするとコンピュータの破壊などもこれから可能性がある。すごい心配です。
阪本: 磁気嵐に関しては、今、太陽望遠鏡を使って宇宙天気予報をやっています。太陽からやってくる高エネルギー粒子がいつ、どういうタイミングで地球周辺に到達するのかという予報をしています。そして宇宙にある人工衛星や宇宙飛行士に対してアラートみたいなものを出すんです。それによって被害を最小限に食い止めるということをやっています。以前、無防備な状態で発電プラントがやられてしまったような事態は少し改善されていると思います。コンピュータに関しては、要は放射線の問題が結構シビアになるのかなと思います。太陽放射線がヒットすることによって誤動作をするという問題があります。これは宇宙機では非常に重要な問題で、これまで放射線に強いチップを海外から輸入していたんです。ところが、我々独自の衛星をつくるというときにすごくかせになっていました。そこで、放射線に非常に強い素子を、デバイスレベルから開発しましょうということをやって、そして実際に宇宙研と民間がタッグを組むことによって、SOI(Silicon On Insulator)と言うんですが、その素子を開発するのに成功しました。そういう意味では耐放射線技術というものを今、宇宙業界がリードしていって、ひょっとしたら先ほど福島の話がありましたけれども、そういったところにも恐らく近い将来、応用されていくのではないかと思います。ですから太陽活動は止められないですが、我々はそれを予想することはできるし、それに対して何か防御というか、それに影響されないようなシステムを構築することはできます。そういう対応のお手伝いをJAXAやその周辺研究機関で行っています。

<天文観測衛星の打ち上げ頻度について>
参加者: 最近は天文観測衛星が上がるという計画があまりないように感じます。NASAに比べても予算が少ないという話がありましたが、例えば大学や天文台などと一緒になって天文観測衛星を上げていくようなプランはあるのでしょうか。
阪本: やはり打ち上げの頻度というか、我々が装置を使うことができる機会というのが限られてしまうと、せっかくの研究が下火になってしまうというか、大学院生が大量発生し、そして大量絶滅していくみたいなことになってしまいます。そうならないように、いろんな工夫をしています。先ほど例えば大きなもの(ASTRO-H)を日本でつくっているという話をしましたけれど、あそこにNASAが入ってきています。逆にNASAが打ち上げた衛星のセンサー部分、これは例えばガンマ線天文衛星の「Fermi」という非常に大きな望遠鏡が今、活躍していますが、その心臓部分は広島大学やJAXA、東工大が協力をして開発したものなんです。だからアメリカが主体的に進めているものの中のキーとなる部分に日本は入っていって、そこでともに成果を出していくということをやっています。科学の世界というのはもとから国際協力に抵抗が少ない。冷戦時代にハレー彗星の探査をアメリカ、ヨーロッパだけではなくて旧ソ連ともやっていたぐらいですので、そういう国際協力に対して精神的な敷居はすごく低くなっていますので、それを現在も継続しています。

<土星・木星への探査について>
参加者: 日本は木星や土星に探査機を打ち上げないんですか。
阪本: いい質問ですね。頑張ります。ロケットも頑張らなければだめですけれども、やはり大きな強いロケットが必要で、あるいは軽いもので大きなヨットの帆みたいなものを広げて飛んでいく、そういったいろいろ工夫をしているところです。頑張ります。
遠藤: 今、阪本からありましたけれど、ちょっと遠いので、ちから任せに行くと大変なお金がかかってしまうので、もっと効率的にうまく「はやぶさ」で使った技術を使って行こうと。やはりお金がなくてもしっかり世界と一緒になって、新しいロケットができるように頑張っています。

<はやぶさ2のアンテナについて>
参加者: 以前見た「はやぶさ2」の資料には、平面のアンテナが1つでした。今日配られたパンフレットを見たら、平面のアンテナが2つあったんです。何で1つを2つに変更しているんですか。
阪本: もともとX帯という電波を使おうと思っていたんですが、それだけだといろんな情報をあまりやりとりすることができないんです。もう少し周波数が高い電波を使うことができれば、たくさんの情報を乗せて通信をすることができます。そのためにもう一つ用意したんです。Ka帯という少し周波数の高い電波を使って、より多くの情報をやりとりしたいと考えています。「はやぶさ」のときの片言みたいなやりとりは嫌だ、もっといっぱいしゃべりたい。そのために追加でアンテナをもう一つ乗せるという決断をしました。

<(1)宇宙年齢の算出方法について (2)ロケットの精度をあげる改善方法について>
参加者: (1)宇宙の年齢の算出というのはどうやってするのですか。(2)ロケットがH-IIAになると成功率が高まりました。今までどのような形で改善を重ねてきたのでしょうか。
阪本: (1)宇宙の年齢の決め方ですが、単純ではありません。昔の宇宙の年齢の決め方というのは割と単純だったんです。要はハッブルの法則で、どのくらいの距離にあるものがどのぐらいのスピードで遠ざかっているかを測って、その逆数を解くことによって宇宙年齢にしていたんです。ところが、今、求めているものというのはもっとそういう意味ではたくさんの量の情報を導き出そうとしているんです。ですから宇宙全体の揺らぎみたいなものを観測することによって、これも宇宙望遠鏡の一種、電波望遠鏡の一種ですけれども、それで揺らぎの様子を測ることによって、そこから宇宙の年齢とか、例えば宇宙が途中で加速膨張したかとか、宇宙の物質の密度とか、そういうものを同時に解いていこうとしているんです。だから、どういう観測をしたらどの物理量がきちんと決まるとか、そういうことではなくて、複雑な連立方程式を解いた解があれでしたということなんです。多変量解析みたいな感じになってくるんです。たくさんのパラメータを豊富なデータに基づいて解いていく。そういう作業をするので、詳細は私もわかりません。ただ、簡単な求め方でないということだけは自信を持って言えます。
参加者: 要するにいろんな方法で解いてきたものと、新しく出してきた、最終的に出てきた値というのが一致するという形になるんですね。
阪本: 一致するというか、誤差は持っています。例えば宇宙年齢だって137億年±2億年という感じで誤差を持っているんです。それを137億年と言ってしまっていますけれど、それはひょっとしたら実は135億年だったよということになるかもしれません。それは将来もっと豊富なデータを得ることができれば、その精度というのは高まっていく可能性があります。
参加者: そういう決め方の基準というものがあって、先ほどハッブルでしたか。
阪本: ハッブルの法則は非常にシンプルで、膨張するサイズと速度から時間を求めますので、割と単純な割り算みたいなもので求まります。それだとよかったんですが、今ではもっと複雑な、途中で加速をしたりしているとなると、それは解けなくなってしまうんです。なので複雑な連立方程式を解く。
参加者: ハッブルの法則というのは、例えば1年間観測して動いたときも、誤差を出してそこから計算するような形になるんですか。
阪本: ある程度遠いところにある銀河までの距離を、ある仮定に基づいて解くんです。あとはその銀河が地球からどのくらいのスピードで遠ざかっていくのかということを測ることによって、距離と速度から時間に換算していくという作業をすることはできます。
遠藤: (2)打ち上げに失敗したのはH-IIのときだと思いますが、実は最初液体ロケット、大型ロケットについては日本に技術がないところで急速に立ち上げるということで、アメリカから技術導入をしました。その中から徐々に国産の技術に置き換えながら性能を上げていきました。ただ、世の中の人工衛星利用が急速に高まってきて、静止衛星、通信衛星等は2t級が必要だということが言われ始めたのが1980年です。だから我々はそういった需要に応えるために次の世代、H-IIロケットは2t級の静止衛星が打ち上げられる大型ロケット、それを日本独自の技術で、将来にわたって使えるような新しい技術を獲得してから進めようという、非常に欲張りな計画を立てたんです。ということで、H-IIロケットができました。世界水準の大型ロケットで非常に高性能。ここまではよかったんですが、残念ながら5号機と8号機で大きな失敗をしました。その中で、当然、その後やはりちょっと性能面というよりコスト面でまだまだ課題があるということで、打上げながら並行してH-IIAロケットの開発に着手しました。そういう大きな失敗が2度も続いてしまったので、H-IIロケットはやめて、その間にしばらく間を開けて改善をしたH-IIAロケットに切り替えました。それが2001年です。実はそれでも多くの点で改良ができた、信頼性がかなり上がったと私たちは思っていたんですが、それでももう一度6号機で失敗しました。今度は大型の固体ロケットです。そういうところでもう一度一から技術、信頼性というものを見直そうという活動をやって、その結果として今、14機連続成功、世界水準である成功率95%、ようやく、皆さんにも安心して見ていただけるような、非常に信頼性の高いH-IIAロケットとして打ち上げができるようになった。しかしもう大丈夫だと思った途端に失敗してしまったりするといけませんので、我々は細心の注意を払いながらこれからもつくっていきたいと思います。
参加者: 具体的に、例えば多くの部品がすべて正常に働くというのは大変な話だと思っていたので、そのあたりの改善方法を教えてほしいです。
遠藤: 改善点はいっぱいあります。ロケットが飛ぶのに一番厳しいのはエンジンです。ロケットエンジンは液体の場合も固体の場合でも同じですが、やはり非常に過酷な高温高圧状態で使われます。本当にこれで大丈夫と思っても失敗した例が、固体ロケットも液体ロケットもある。ですから何でそういうことが起きるかというメカニズムに立ち戻って、現象を理解した上でどう改善すればそういうことが起きないか。その積み重ねが現在の実績になっています。

<地上局の設備について>
参加者: 探査機等も大事ですが、受け側の地上局は正直言って随分老朽化しているなと思います。そういったことに対する投資の計画というのはあるんでしょうか。
阪本: これまでも太陽系探査ロードマップには地上局の整備の重要性については書かれているのですけれども、なかなか実現されません。これはむしろ理事の立場からお答えいただくべきかと思います。
遠藤: 研究や開発を支えているJAXAのインフラは30年物、40年物がざらにあります。特にロケットの射場がある種子島とか内之浦というのは、大体人のいない海岸沿いなんです。塩害がひどくて、下手をすると床が抜けたり天井が落ちそうな施設もたくさんあるので、徐々に新しくしていこうと思っています。ただ、緊急性のあるものから順に手をつけていっていますので、何とか綱渡り状態でやっています。皆さんの期待を裏切らないようにはしていきたいと思っています。
阪本: 本当はチリに南米局が欲しいんです。だから2つ体制みたいな感じがいいなと思っています。

<有人飛行に向けたこうのとりの開発状況について>
参加者: 「こうのとり」でISSに行けたらすごい安心だなと思っています。その辺の開発はどのように進んでいるか。もし日本で開発するとしたら、地上に降りてくるときにどのように降りてくるのか。
遠藤: 日本独自の有人ロケット、宇宙船については勿論、検討しています。今の技術だと、スペースシャトルのように滑走路に降りてくるという方法ではなく、ソユーズと同じパラシュートを開いてゆっくり降りるという方法が妥当だろう。やり方としては、最後降りるときにぐっと風船を膨らますような形で衝撃を和らげるとか、逆噴射も勿論あるんですが、パラグライダーみたいなものを使って、誘導しやすいパラシュートにして、極力決まった場所にふさっと降りるようにするなど、いろんな構想は考えています。少なくとも今のソユーズのやり方というのは、ガガーリンのときと基本的には変わっていませんので、それよりは同じカプセルで降りてくるにしても、もう少し決まったところにもっと優しく降りられる技術ということで、みんな今、研究をしています。