JAXAタウンミーティング

「第72回JAXAタウンミーティング in 八尾」(平成24年1月15日開催)
会場で出された意見について



第一部「『人工衛星のはたらき』~災害支援と地球環境問題への取り組み~」 で出された意見



<宇宙速度について>
参加者:国際宇宙ステーションが落下しないのは、遠心力で重力に反発しているからだということですが、あれがSFの世界のように1つの都市ぐらいになると、速度を増さなければいけないのでしょうか。
本間:私もいずれそのような大きな宇宙都市をつくりたいと思っています。地球の周りだと大体秒速7.8~8.0kmの速度であれば、大きい宇宙ステーションでも小さな人工衛星でも大きさに関係なく回り続けることができます。ただし、放っておくと宇宙も真空とは言え非常に少ないですが空気があり、秒速8kmで回っていると非常に大きな抵抗を受けるので落ちていくのが普通です。今ある宇宙ステーションはときどき自分でロケットエンジンを噴かして高度が下がらないようにしています。あれが宇宙都市というようにもっと大きくなると受ける抵抗がさらに大きくなりますから、落ちないように常にロケットエンジンを噴いて制御しないといけないと思っていて、使用するとすれば「イオンエンジン」かなと考えています。「イオンエンジン」というのは後ほどお話がありますが、「はやぶさ」で使用した非常に性能のいいエンジンで、大きなものでも落ちないようにはできるかなと思っています。

<スペースデブリについて>
参加者:現在、衛星をどんどん打ち上げているので、「スペースデブリ」が増えてくると思いますが、心配しなくても大丈夫でしょうか。
本間:非常に心配していて、現在2つの対策をとっています。生きている衛星がごみにぶつかると壊れてしまいますから、ごみにぶつからないように世界中で観測しています。実際に日本の衛星も、年に1、2回ぶつからないよう避けています。もう一つは、そもそもごみを増やさないようにしなければいけません。宇宙のごみというのは衛星やロケットがそのままの大きな形のままであれば避けることができるので、そんなには心配ないですが、燃料などが爆発して、何百、何千という細かい破片になることが一番危なくて、衛星やロケットが細かい破片にならないような設計をしなければならないという条件があります。また、ごみは回収しなければならないと思っていますが、これは結構大変で、まだ手をつけられていません。しかし、手の施しようがならなくならないうちに、一生懸命努力しているところです。
寺田:スペースデブリの話は、タウンミーティングでよく出る質問でして、本日お配りした資料の中に、「これまでよくある質問」という形でまとめさせていただきました。本間理事にお答えいただいた内容が大体書いてありますので、そちらも参考にしていただければと思います。昨年は、衛星が落ちてくるという報道が何回かありましたが、本日の夜から明日の朝ぐらいにかけても、この間打ち上げに失敗したロシアの衛星が落ちてくるようです。この地区については問題ないようですのでご安心ください。

<安全保障分野によるJAXAの予算の変化について>
参加者:今までJAXAは一切軍備には取り組んでいなかったですが、軍事面に取り組むような可能性があり、予算の使われ方が変わってくるのではないかと思っています。考えをお聞かせください。
本間:当事者は案外そういう質問に答えにくいので、答えられる範囲は限られますが、1つは2年半ぐらい前に宇宙基本法というものができました。これはJAXAだけではなくて、日本全体の宇宙事業の基本的な考え方を示した法律です。その基本法の中に、安全保障に宇宙をもっと積極的に使うべきではないかということと、産業振興に宇宙をもっと積極的に使うべきであるということが盛り込まれています。他にもあと幾つかありますが、国全体としての方向は、そのように国会で法律が通っています。宇宙活動をやっている組織というのはJAXAだけでなく、日本に複数あって、JAXA以外の宇宙関係の機関は、今、言ったような活動は昔から積極的にやってきていますが、JAXAの活動は、法律で定められていて、平和目的というかなり狭い範囲に限定して活動しています。JAXAはアメリカで言うとNASAのような組織ですから、アメリカも安全保障と科学研究の組織を、国防総省とNASAに分けています。日本はまだ明確に分かれていませんので、JAXAが国全体でどの部分を占めるのかというのを今まさに議論されていて、それを待っている状況です。
参加者:JAXAさんにおいては今までどおりの活動を行っていただいた上で、安全保障の面だけでまた予算をつけていただいて、総合的にやっていただきたいなと思います。「はやぶさ2」の予算が削られるという話も出ていて、すごく心配しています。
本間:「はやぶさ2」はJAXAとしても非常に重要な計画ですから、予算は減らされていますが、是非実現させようと頑張っています。私は一応JAXAの理事という立場もありますので、「はやぶさ2」も非常に大事だと思っています。
西浦:冒頭に寺田部長から紹介しましたとおり、NASAの10分の1の予算でJAXAは世界から評価される大きな成果をあげていますので、引き続き皆様方の深い御理解と応援が非常に生きると思います。

<衛星による放射線物質の観測について>
参加者:原子力発電所の事故による放射性物質の飛散等の状況を衛星から観測をすることはできないのでしょうか。
本間:残念ながら宇宙から地上の放射線を測定することはできません。その場で観測するのが一番正確ですし、全体の分布もそれぞれの場所で測るのが一番いいと思います。しかし、どちら側に放射性物質が流れるかは風向きなどできまりますから、気象だとか風向きなどに関しての予測は衛星のデータが使われていて、間接的に貢献しているかと考えています。

<観測の分解能とタイムラグについて>
参加者:陸域観測衛星「だいち」は、どのくらいの大きさのものまで撮影できるのかお教えください。また、今回地震が起きてから撮影するまでのタイムラグは、どのぐらいだったのかお聞かせ下さい。
本間:「だいち」は大体700kmぐらいの高さでずっと地球の周りを回っています。一番細かく見て2.5mの分解能となっています。具体的にいうと、大きな道路が遮断されているぐらいまでは見ることができます。人工衛星の基本的な問題点は、2~3日に1回しか同じところを通らないことで、先ほどお見せしました東日本大震災の津波把握のための画像を撮った日付も3月14日になっています。3月11日に地震があって、だいちが東北エリアを一番早く通るのが3月14日でした。このような問題は国際協力によって補われていて、3月の大地震の後に一番最初に東北地方の写真を撮ってくれた衛星は台湾の衛星で、アメリカ、インドの衛星なども続いて送ってきてくれました。これは逆の例もあって、数年前の中国四川省での大きな地震の際は、四川省の上を一番最初に通ったのがたまたま「だいち」でした。中国政府に画像をすぐに送ったところ、政府の初動に非常に役に立ったということで、後に感謝状をもらいました。1つの国で10機、20機と衛星を所有できれば、このような問題は解決できますが、実際には国際協力でうまく調整しています。

<日本上空における観測衛星について>
参加者:日本は地震などの自然災害が多いので、すぐにチェックできるようにしておいた方がいろいろ都合がいいのではないかと思います。例えば準天頂衛星「みちびき」のように、常に日本の上空にあって、常に日本を見れるような自国の衛星を今後打ち上げないのでしょうか。
本間:非常にするどい指摘で、今の研究テーマで重要なテーマだと思っています。3月の大震災の経験から、いつでも観測できるような衛星が必要ではないかと思い、今まさに検討しているところです。
西浦:JAXAでは技術的には進んでいることもたくさんあります。これをやったらいいな、あれをやったらいいなという理想はありますけれども、予算の関係上、なかなか実現に結びつかないという残念な部分もあります。引き続き、御支持いただければ幸いです。

<観測分野の今後の計画について>
参加者:観測衛星で、これからこのようなフィールドでこのような事象を観測していきたいとか、こういうところで必要とされているなど、お話をお聞かせください。
本間:観測分野での今後の計画としまして、一番近いのは、今年「しずく」という衛星を打ち上げます。これは地球全体の水を観測します。水問題というのは最近非常によく取り上げられていて、農業にしろ健康にしろ非常に重要であります。気象庁の人から聞いた話で、地球の気象だとか気候は、水蒸気の動きが地球全体の気候を動かしているらしく、大体太陽からの熱がどう伝わるかで決まるらしいです。ですから水というのが目に見える形での重要性と同時に、気象全体の動きを左右するという非常に重要な役割をしているので、水を集中的に観測する衛星を打ち上げます。あとはアメリカとの国際共同プロジェクトで、もう少し細かく雲の動きを立体的に見る衛星も打ち上げますし、ヨーロッパともまた別の共同計画をしていますが、それは雲の中の水蒸気がどのぐらいのスピードで動くかということを調べるようとしています。宇宙の技術も進んできていて、今までは平面でしか状況がわからなかったものを、立体的に探れるような技術ができたので、これからはそのような方向にも広げていこうと考えています。
寺田:予定としては今年の夏になるまでには打上げたいと進めています。
西浦:この衛星は、皆様の公募によって「しずく」というかわいらしいネーミングをつけていただきました。熱い支持を頂戴している一部のファンの方々の間では、「しずく様」と呼ばれはじめました。

<宇宙エレベータについて>
参加者:「宇宙エレベータ」ということをときどき見聞きして、大変興味を持っています。静止衛星というのは遠心力と引力とのバランスで静止しているというのは理解できるんですが、エレベータを衛星と地球との間につなげるためにワイヤーをぶら下げると、バランスが崩れてしまうのではないかと思ってしまいます。詳しく教えてください。
本間:宇宙エレベータを最初に考えたのは、「アーサー・C・クラーク」というSF作家です。実は静止衛星の原理を最初に発表したのは、「アーサー・C・クラーク」で、非常に先見の明があって、SF作家とは言いながら、非常に科学的なバックグラウンドの深い人物です。ですから私は静止衛星ができたのと同じように、いずれスペースエレベータはできると思っています。静止衛星から地上にワイヤーを垂らすとバランスが崩れてしまいます。ですから、静止衛星までは約3万6,000kmですので、大体その2倍の7万kmぐらいの構造物を上に伸ばしていくと安定します。もう一ついえるのは、スペースエレベータを設置するのに適している場所というのは、地球上そう多くありません。1つはスリランカで、スペースエレベータをつくるためではないと思いますが、実は「アーサー・C・クラーク」は晩年スリランカに移住したようです。遠心力は地球の中心から外に向かっていますが、地球は完全な球ではないので、放っておくと動きます。静止衛星というのは実は静止させるために、常に小さなロケットエンジンを噴いています。ただし、動かない場所があって、地球はハート型みたいな形になっていますが、ハートのくぼんだところは右にも左にもいかなくて、一種の重力の谷底があるわけです。それがたまたまスリランカらしく、スリランカの付近から上に7万kmぐらいのものをつくると、宇宙エレベータができるというのがアーサー・C・クラークの話でした。あとは軽くて丈夫な材料ができればと思いますが、最近「カーボーンナノチューブ」だとかいろんな新しい素材ができてきています。私は、100年以内にはできるのではないかと思っています。

<宇宙太陽光利用システムについて>
参加者:宇宙で電力発電して地球へ送るという話を聞きましたが、大体何年後にできますか。
本間:いつできるかというのはよくわかりません。私はできないのではないかと思っているぐらいの話です。ただし、これも今は紙の上の議論できるできないという議論をしていますから、JAXAでも今、言われたような研究を進めていて、少しずつ技術が進歩してきています。5年、10年経って技術の新しい展開ができれば、いずれはできるかもしれませんが、少なくとも今の我々が手にしている最善の技術だけではできないのは、ほぼ確かなので、1けたか2けた性能のいいものをつくらないといけません。
久保田:技術的に何が難しいかといいますと、宇宙空間で大きな衛星を組みたたて太陽電池で発電しますが、原子力の代わりに太陽発電にしようとすると、太陽電池の面積が数km~数十kmという大きな太陽電池をつくらなければなりません。それを宇宙でつくるというのは非常に難しい技術になります。また、今度は発電した電力を地球に伝送するのに、マイクロ波などいろいろな方法がありますが、それの安全性なり精度について、技術的敷居がまだ幾つかあります。実験はできると思いますが、実用化するには、安全性、信頼性も考えなければならなくて、まだまだ時間がかかる状況だと認識しています。ただ、将来何か新しいエネルギーができるといいなとは個人的には思っているところです。
本間:アーサー・C・クラークが静止衛星のアイデアを出したときに、世界中の専門家は、「できっこない」と言ったというのを思い出しました。私とか久保田さんはそういう意味での専門家のグループなのかもしれません。
西浦:研究開発の分野というのは、限りなくいろいろな可能性を秘めていると思います。そこが、また、科学など、宇宙の大きな魅力でもあると思っています。希望を持って、皆様とご一緒に様々なアイデアを出していけたらいいなと思っています。

<日本の技術について>
参加者:アメリカでは他の惑星や太陽系以外のところに探査機を送っていますが、お金の問題を考えなければ、技術的には日本もできるのでしょうか。
本間:「はやぶさ」を考えれば、技術は10年前にできていると私たちは思っています。
参加者:今、人工衛星が回っているのが大体500kmぐらいだと思いますが、それをもう少し5,000kmぐらいの高さで回すことはできないですか。
本間:勿論できます。静止衛星は3万6,000kmですし、日本は既に月にも衛星を飛ばしていますし、「はやぶさ」も3億km離れた小惑星までいっています。ですから、技術は十分あります。ただ、もっと磨かないといけないですが、基本になる技術というのはアメリカに比べてもそう見劣りはしていないという自信を持っています。
西浦:有人飛行は、まだ日本で実現に至っていませんけれど、すでに技術はあると思っています。

<衛星の色について
参加者:月面観測衛星「かぐや」や準天頂衛星「みちびき」は色が黒いですが、私たちが子どものころは、太陽光の光を浴びて温度が上がり過ぎるから金でないといけないと教えられましたが、黒くて大丈夫なのですか。
寺田:サーマルブランケットという熱制御剤の色ですが、今2種類の色があります。1つは金色で、これは黄色のテフロンにアルミを凝着しているので金色に見えます。もう1色は、黒で、これは炭素が練り込んであります。特に地球近傍を回る観測衛星については、地球からの照り返しがあるので、比較的金色のものをよく使っています。しかし、「みちびき」は高度が約4万kmで、ほとんど静止衛星と同じ高い軌道なので、黒いものを使用しています。黒いもののいいところは、炭素が練り込んであるので、電気を通すので帯電防止になります。確かにかつては金色でしたが、今は黒と金の2種類があります。

<スピンオフ製品について>
参加者:JAXAで開発された技術などで、身近に感じられるような製品というのはありますか。
西浦:たくさんありまして、一番身近なのは飲料製品の缶や消臭下着、車のエアバッグなどがあります。飲料製品の缶は耐久性があり軽量ですので、輸送の際のエネルギー削減にもつながりますし、チリでの落盤事故があった際には、救出までの間、悪臭にならない下着が重宝したそうです。このように、皆さまの生活に役立っているものが、他にもたくさんあります。
寺田:飲料製品の缶(ダイヤカット缶)と言ったのは、アンテナとか大型展開物を折りたたんで開くという折り方の技術を使って、缶の強度・軽量化を図っています。他には、ロケットの断熱材を家の壁に塗って断熱効果を高めるというものにも使われています。例を挙げるとたくさんありますので、もっとたくさんお知りになりたい方は、是非JAXAのホームページをご覧いただければと思います。