JAXAタウンミーティング

「第61回JAXAタウンミーティング in となみ」(平成23年4月10日開催)
会場で出された意見について



第一部「日本の宇宙有人システム『きぼう』完成への道」 で出された意見



<小型ソーラー電力セイル実証機(IKAROS)について>
参加者:太陽の光で飛ぶものが成功したニュースを聞きました。光は質量がないと聞きましたが、質量のないものがなぜ飛ぶのでしょうか。
國中:光の粒子、光子は質量を持ちませんが、運動エネルギーや運動量はあります。「波の性質」と「粒子の性質」の両方を兼ね備えています。光がぶつかると、力が発生します。地上だとそういう経験は少ないですが、宇宙はほとんど抵抗や外力がないため、光の強さが比較的大きな割合を占めています。ただ、全体の量でいうと、それはごく僅かなもので、光をたくさん集めなければ意味のある力は発生しません。現在はまだ実験段階ですが、イカロスの場合、直径が20mほどの大きな膜面で光を集め、それを推進力に変える実証をしています。

<日本の技術の優劣について>
参加者:日本が他の国よりも優れている技術や、遅れている分野があれば教えて下さい。
長谷川:イオンエンジンは随分優れています。遅れているものは、例えば宇宙ステーション分野だと、生命維持関係です。生命維持は、長時間維持する必要があります。宇宙の場合は、地上では思いつかないような現象があります。例えば空気は何もしないと動かず、息をしていると自分の周りだけ二酸化炭素が増えるので、必ず空気を動かす必要があります。当然、空気を動かしても二酸化炭素は溜まるので、除去しなければいけません。酸素をつくり、二酸化炭素を除去する、完全エコのような再利用技術については、10年、20年の長期でできるのは現在ロシアぐらいです。残念ながら、日本は、その技術は持っていません。生命維持関係については、宇宙ステーションでも本体の方に頼っています。

<宇宙ステーションの恒久性について>
参加者:宇宙ステーションは、恒久的に大気圏外の無重力地帯に浮かんでいるのでしょうか。
長谷川:恒久的ではありません。人造物を造るときは大体寿命があります。もともと宇宙ステーションをつくる際、10年間は確実に使用でき、25年ぐらいの使用を目標としています。ただ、30年経てば必ず駄目になるかというとそうではなく、今のままの形では維持できませんが、途中で補強や修理することで使用は可能です。

<日本のロケットの将来像について>
参加者:戦後のペンシルロケットから始まり、現在H-IIBまで開発が進みました。今後の日本の計画、将来像をお聞かせください。
舘:H-IIBは世界でも称賛されています。能力的にも非常に高く、おそらく世界で最高水準です。ただ、年1回しか打ち上げできていません。今後、どのようなロケットを目指していくかは、「H-III」(仮称)を含め、これから議論されるべき話だと思います。現状は、今のロケットを高精度化して、できるだけコストを抑える研究を続けています。また、大きなロケットだけではなく、2013年、内之浦宇宙空間観測所から「イプシロン」という小さな固体ロケットの打ち上げを予定しています。固体というのは、燃料に液体を使うか、固体を使うかの違いです。小さな衛星も需要があり、小さなロケットで小さな衛星を打ち上げることを進めています。
参加者:小さいロケットもJAXAの計画ですか。個別の大学の技術者たちが研究しているロケットもあるのでしょうか。
舘:次期固体燃料ロケット「イプシロン」は、JAXAのロケットです。おそらく大学レベルは更に小さなロケットだと思います。北海道で開発しているロケットがありますが、まだ衛星を打ち上げるレベルのロケットではありません。

<日本の有人飛行について>
参加者:日本は有人飛行を目指すと聞きました。試算では何年ぐらいかかるのでしょうか。
長谷川:非常にお金もかかる話なので、まだ決定はされていません。有人飛行を目指すには、まずはHTV(宇宙ステーション補給機)を壊さずに回収する技術が必要だと考えています。HTVを大気圏に再突入させる際に、現在は大気中に廃棄していますが、これを回収することを次のステップとして検討しています。回収する時、もっとも大きな課題として熱や加速度の問題がありますが、実験で得られた物や生物を壊さずに、また生存させた状態で回収する技術を確立すれば、それがいずれ有人飛行につながると考えます。

<(1)ロケットの主流について (2)惑星への探査機投入について>
参加者:(1) 欧米の機関では、液体燃料が主流で、日本は固体燃料が主流だと聞きました。しかしH-IIBの燃料が液体に変わったのはなぜですか。
(2)惑星の周回にいくのは相当難しい技術なのでしょうか。
舘:(1) 固体燃料と液体燃料ロケットの違いは、制御する力です。固体燃料は普通の花火と同じです。火をつけたらそのまま飛んで行き、制御は難しいです。ところが、液体燃料はバルブを閉めれば止まるので、軌道制御も楽にできます。柔軟性が非常に高い液体ロケットをほとんどの国が使っています。しかし、液体ロケットにも欠点があり、特に水素を使う場合、極低温なので扱いが非常に難しくなります。スペースシャトルは、水素漏れが原因でよく延期になり、H-IIもバルブの不具合が原因で、打ち上げが遅れたこともありました。スペースシャトルのタンクの横にも固体のロケットが付いていて、H-IIA、H-IIBも同じく、固体と液体燃料を組み合わせて使用しているのが現状です。
國中:(2) 大変難しい技術です。2010年に金星探査機「あかつき」が金星周回軌道投入に失敗しています。1998年打ち上げの火星探査機「のぞみ」も、火星周回軌道投入に失敗しています。これは、衛星搭載用の推進装置に問題がありました。地上から打ち上げるロケットは、液酸液水ロケットで、液体水素、液体酸素を使ったロケットです。これは大変性能がよいものです。しかし、液体酸素、液体水素は、低温でないと長時間液体状態の燃料を保持できず蒸発します。地上から打ち上げる場合には、蒸発したら直前まで充てんし続ければ足りますが、宇宙に行くと、そうはいかないので、液体酸素、液体水素のロケットは使いません。ヒドラジンという特殊な燃料を使いますが、不具合、故障がかなり多いです。「はやぶさ」も、ヒドラジン推進装置で大きな故障が起きていて、「あかつき」、「のぞみ」も同様です。日本では衛星搭載型の推進装置で高信頼性のものを確立するのが大変難しく、いろいろなエラーが発生しています。本当に痛恨の極みで、大変悔しい思いをしています。「あかつき」は、また数年後に金星と会合をするチャンスがあるので、当初の目的が達成できるように、現在バックアップの計画を立てています。

<「ブラン」について>
参加者:旧ソ連時代に「ブラン」というスペースシャトルがあったと思います。「ブラン」は全部コンピュータで制御していたのでしょうか。
舘:おそらくそうだと思います。「ブラン」はスペースシャトルに似た形です。ただ、スペースシャトルと違うのは、メインエンジンがありません。
参加者:グライダーのようなものですか。制御しないのは危険ではないでしょうか。
舘:グライダーのように下りてくるのは、スペースシャトルも同じです。スピードを落として地球に落ちる軌道に乗った後のロジックは同じです。最近、アメリカの国防省が同じように無人で降ろしたという実績があるので、現在、その技術は確立されています。

<(1)宇宙ステーションの研究で実用化されたものについて (2)各国の研究について>
参加者:(1)今までの宇宙ステーションの研究の成果で、実用化されているもの、されつつあるものを教えてください。
(2)宇宙ステーションでは各国の実験棟の大きさが決まっていると聞きました。各国の研究というのは重複しないのでしょうか。また、情報はどこまでオープンにされているのでしょうか。
長谷川:(1)まず薬があげられます。また、宇宙ステーションやHTVの開発段階でできた新しい技術でいえば、推進エンジンや、電気の制御装置は日本のものが優秀だと言われ、海外の衛星にも使われています。宇宙開発の中で培われた技術で、民生で使われている代表的なものは「リチウムイオンバッテリー」です。
(2)宇宙ステーションの利用権は決まっています。日本のモジュールも日本が全部使えるわけではなく、半分はアメリカが専有で使うことができます。なお、各国で行った実験については、各国で専有することになります。結果を共有するという協定はありません。