JAXAタウンミーティング

「第50回JAXAタウンミーティング in ゆとろぎ」(平成22年8月22日開催)
会場で出された意見について



第二部「はやぶさ-地球への帰還を終えて-」で出された意見



<今後の探査機・人工衛星開発への取り組みについて>
参加者:今回の「はやぶさ」は、本当に嫌になるほど、いろいろとトラブル続きだったと思いますが、それらの対処を基に、次世代の探査機、人工衛星に新たに組み込みたいものがありましたら教えてください。
川口:何でも組み込みたいと思いますが、1つ非常にうまくいった例としては、イオンエンジンのバイパスのダイオードがあります。この組み込み方の冗長性は、考える余地を拡大したと思います。それから、ロケットエンジンの推進系の在り方を技術的に言うと、もう少しバックアップの方法はよいアイデアがありそうなので、この点は是非後輩に伝承し継いでいきたいと思います。
NASAやESAの始原天体探査への提案ミッションの予算が700億、800億なのに対し、JAXAの予算は250億ですが、ハイリスク・ハイリターンという宿命がある程度影響せざるを得ないところがあると思います。非常にリスクが高いものを全部補おうとすると、巨額なお金がかかります。それがNASA、ESAへの提案の姿です。新しい技術に挑戦していくこと自体、あるリスクを抱えているため、それを補う手段をつけ加えるとすると、探査機で言えば、2倍、3倍に膨れ上がります。一番簡単なのは、完全に2倍にするのが抜本的な方法の一つですが、ハイリスクなものについては、機会の確保がむしろ大事と思います。巨額なお金をかけて、例えば計画が15年に一遍しかできないことでよいかという方がむしろ深刻で、数年の単位で冗長性は欠いて経費を落としてでも、持続性のある活動のほうが大事だと思います。
例えば、小型ソーラー電力セイル実証機の「イカロス」が幾らでできているかというと、一般の科学衛星の10分の1です。科学衛星は廉価ですが、その科学衛星の更に10分の1でできています。そのため、冗長性などはほとんどありません。ですから、大きなリスクを背負っています。いかに経費が安くても、失敗すると宇宙開発全体に大きな衝撃が走りかねません。
ただ、このような小さな試みでも持続的に活動することが大事だと思います。それを行うことで、若い人が大きく育ちます。「イカロス」を支えているグループは、ほとんどが35歳以下で、40歳代の人はいません。若いグループで作られていますが、今回の計画を進めた経験は物すごく大きな人材育成になっています。

<JAXAと民間企業との役割分担について>
参加者:JAXAはメーカーではないので製造はしていないと思いますが、開発、設計などJAXAと民間企業の役割分担はどのようになっているのでしょうか。
梶井:JAXAと民間企業との関係は、JAXA自体は製造設備は持っていないので製造は企業が行うのが基本と思います。ただ、設計段階でどこまで企業が行い、どこまでJAXAが行うかは難しいです。割り切って行えば、仕様書を書いて出すと、優秀な企業がいればできてしまいます。アメリカはこの傾向がありますし、特に軍関係はこのやり方でやっています。
ただ、やはり開発も巨額なお金で企業に製造してもらうときは、いきなり3年後に衛星が納入されるわけではなく、要所要所でいろいろなチェックを行ったり、あるいは製造している最中にいろいろなトラブルが出ることがあり、その際は、双方の技術者が本当に垣根を越えて仕事を行い、いろいろな知見なり、対策を練ることがあります。そのため、契約的な考え方と実際の技術的な活動では、いろいろと難しいところがあり、簡単には答えられないかと思います。
川口:「はやぶさ」のときの分担について話をすると、製造を行っているのはメーカーです。しかし、イオンエンジンはJAXA、宇宙科学研究所で開発されたものですし、耐熱材料やサンプリングデバイスも宇宙科学研究所で開発されたものです。大学の研究者も一緒になって創意工夫で作ったものです。また、航法誘導では、例えばターゲットマーカーも宇宙科学研究所が作ったものです。
「イカロス」については、膜の展開や膜自体の開発はJAXA自体で行っています。そのため、メーカーとのすみわけは、実際の製造物として飛ばすものは製造をメーカーに託しているかもしれませんが、開発、試作品等についてはJAXAは十分な研究開発を行っていると思っています。

<1,000年後の宇宙開発について>
参加者:今、日本は明治維新が終わって約140年経っていますが、1,000年後は人類と地球と宇宙はどのような姿になっていると思いますか、また、どのような状況であって欲しいと思いますか。
川口:1,000年先を予測するのは、なかなか容易には答えられないのですが、宇宙開発の面での展望を見ると、特に惑星探査や太陽系、あるいは恒星間飛行の間での話をすると、一番大きな鍵は医学だと思います。宇宙医学と言ってもよいですし、単なる医学と言ってもよいかもしれませんが、生命や自分の存在の区別が何か?、ということにだんだんなっていくと考えます。また、太陽系探査でも数年、十数年をかけ往復するような時代になっても、医学は不可欠ですし、もっと広い空間に向かって飛んでいく時代が到来すると、1人の人間の一生の長さというタイムスケールは、全然意味がない時間になってきます。では、そのような時代になると、宇宙へ行っても仕方がないかというと、人間の寿命そのものが数百年レベルでの長さのスケールまで拡大して考えられるような時代にならないと理解することは難しいと思いますが、決してそうではなく、宇宙医学あるいは地上の医学分野の革新とともに進んでいく話かと思います。単純に1,000年後の宇宙開発について話をすることは難しいです。

<現在行いたい研究について>
参加者:川口先生へ聞きたいのですが、現在、一番行いたい研究等は何ですか。
川口:現在、行いたいことの一つは、木星以遠への探査です。例えば、土星の周りにエンケラドゥスという丸い衛星があります。丸い衛星ということは、衛星の中は熱く溶けていますし、実際、液体の水があることは証明されています。火星に行っても現在は氷の水しかないのですが、土星の衛星には液体の水がある、つまり熱源があります。地球でいう深海底と同じで、深海底には生命がいます。つまり、現時点でも太陽系の生命体はおそらくどこかにあると思って不思議はないと思っており、生命探査は非常に面白いと思っています。木星、あるいは土星まで行って戻ってくることができる探査機・宇宙船を作ることが私の夢です。そこには、丸く分化の進んだ木星、土星系の衛星ではなく、溶けなくてその起源をとどめている天体があるはずだからです。

<宇宙開発について>
参加者:私の年代は、月はウサギが餅をついているとロマンチックに教えられた時代で、初めて人間が月に行ったのをテレビで放送するのを見た時は、電波しか届かなく、ピッピッという音しかテレビに映っていませんでした。また、小学校では、地球は真ん中が燃えていて、燃えたものがなくなったら人類全滅の日だと先生に教わり、それがすごく恐怖になり、宇宙があまり好きでなくなりました。しかしこの前、「はやぶさ」が還ってきたのを新聞やテレビで見た時、7年間も一生懸命働き、傷だらけで帰ってきたことにすごく感動し涙が出ましたし、「はやぶさ」を地球に戻してくれた方々に対しすごく敬意を表しています。今後も結果を出して世界一になってもらいたいと思います。
梶井:つくづく感じるのは、宇宙開発は感動です。感動は、予算的な世界からいくと、まさしくクレジットカードの広告ではないですが、プライスレスの世界で別の観点と価値観で考えなければいけないと思います。我々は活動を行うのに国から認めてもらう必要があるので予算の話をしてしまいますが、根底にあるものはプライドや感動などが支えていると思うので、感動の価値を金額ではありませんが、こういう中からも発信していただき、我々もうまく受けとめ感動できるプロジェクトを今後も行っていきたいと思います。

<(1)ミネルバの行方について (2)通信中の心境について>
参加者:はやぶさに搭載されていたミネルバがあったと思います。ミネルバは、イトカワの着地に失敗したと聞いていますが、その後、どうなったのでしょうか。また、「はやぶさ」がイトカワに近づいたとき、地球から「はやぶさ」に電波を送信し、「はやぶさ」からの電波が地球に返ってくるまでに33分かかったと聞いていますが、その間の川口先生の心境と行動を是非聞きたいと思います。
川口:ミネルバは現在、おそらく少しずつイトカワから離れていると思いますが、イトカワの近くにいます。いつの日か、もう一度探査機がイトカワ近くヘ行くことが可能で、拾えるならば拾えたらという夢はあります。ミネルバをうまく投下できなかったことは、機能がしっかりしていたこともあり大変心残りです。また、ミネルバは、初めて民間投資で行いました。一般に応募し作られたもので大変大きな貢献をしたと思います。また、通信中の心境についてですが、簡単な処理を入れると40分近くになりますが、信号を送って返ってくるまで何もせずじっと待っていることはありません。常に指令は送り続けています。40分遅れてどんどん返事が返ってくるわけで、常に信号は受信し、状態は見ている状況にあります。
実際の運用の時は、地球とイトカワの時刻を併記したホワイトボードを用意し、ホワイトボードを見ながら混乱が生じないように運用していました。