JAXAタウンミーティング

「第46回JAXAタウンミーティング」 in 仙台(平成22年1月9日開催)
会場で出された意見について



第二部「日本の有人宇宙活動」で出された意見



<宇宙飛行士の訓練について>
参加者:宇宙飛行士はいろいろな訓練、例えば、ぐるぐる回ったり、何もないようなところで3日間過ごしたりする訓練を行っていると前々から本で読んだり聞いていますが、その他にも何か意外な訓練をしていることがあれば教えてください。
古川:ぐるぐる回るのは、訓練としては現在行っていません。少し前に宇宙酔いの事象がわかり、乗り物酔いと関係しているのではと考えられていました。首を動かしながら椅子を回転すると、気持ち悪くなりますが、気持ち悪くならないように鍛えておけば宇宙に行っても宇宙酔いにならないのではと考えられていました。
しかし、宇宙酔いの原因としてよく言われている仮説は、体の向きがどの向きにあるかを知るために、目から入ってくる情報と、耳の奥にある平衡器官の情報、体の深部にあるセンサーの情報、それらを統合して判断していますが、地上にいる限りは、その三者が同じなので脳は混乱しませんが、無重力になると違う情報が入ってきて、脳が混乱して気持ち悪くなるのではと言われています。そのため、地上の乗り物酔いと宇宙酔いは違うと米国側では考えられており、訓練はしていません。
しかし、ロシアは行っており、ロシア人宇宙飛行士は義務だそうです。私は興味があったので行いましたが、非常に気持ち悪かったです。
変わった訓練では、遠心加速器で回す訓練があります。打ち上げの時はロケットによる加速のため、帰ってくる時は空気抵抗が増すためにGが生じますが、だいたい3Gから4G程度まで通常の場合かかります。遠心加速度を使い、シートの位置を調整すると、胸の前から後ろにGがかかるような状態を作れます。
最初、私はジェットコースターに似ていると思ったのですが、本当に胸をぎゅっと押されるような感じでした。ロシアのソユーズ宇宙船で主要な機器が故障した場合、弾道モードに入ることがあります。それは安全モードで回転させることによって揚力を安定させますが、その場合、8Gから9Gまでかかります。

<今後の有人月面探査について>
参加者:次の有人月面探査に関して、アメリカが予算が足りないという話で、日本や欧州宇宙機関(ESA)に対して協力を求めるのではないかという報道が出ていました。日本人としては日本人に月に行って欲しいという気持ちが非常にあるのですが、JAXAとしてその話が現実になったとき、どのように取り組んでいくのでしょうか。
司会(広報部長):おそらく、これからの月探査の計画は、一国で行えるほど余裕があるとは思えないので、基本的には国際協力になるのではないかと思っています。その場合、日本がどのように参加するかは、これからの協議だと思います。
まだ、正式にはオバマ政権が決めたという話は聞いていません。政府でも「月探査に関する懇談会」をやっているので、その結論を見ながら我々も有人でできるような話があればと考えています。

<科学者とは>
参加者:古川さんは宇宙飛行士ということで、私たちに夢を与える科学者という仕事だと思います。古川さんにとって、科学者とは何ですか。
古川:科学者とは、個人的には真理を追究する人だと思います。自分が興味を持ったことを追究していきますが、同時に、なぜその研究が重要なのか、そしてどのように役立つかを科学者自身が発信していくことが大切だと思います。
参加者:私も興味がある分野が自分の中にあり、それを追究し、宇宙飛行士の試験を受けて頑張っていきたいと思っていますが、自分の好きな分野や興味のある分野を探究していくスタンスの中で、常に持っている信念が古川さんやほかのクルーの皆さんの中にあったら教えてください。
古川:私は、医師、科学者として技術者の人に比べると、おそらく科学者がどのような気持ちでおり、どのようなことを考えているかがより身近にわかる立場にいるのではと思うので、それを是非活かして、科学者の立場に立ってうまく実験を運用できたらと思っています。今年、国際宇宙ステーションが完成し、これから利用する方に重点が移っていく中で、科学者的な視点を持った宇宙飛行士が大切になるので、是非一緒に仕事ができたらと思います。

<宇宙で行う実験について>
参加者:宇宙に行ったら行いたい実験やテレビで映らないところでこっそりやってみたいことがあったら教えてください。
古川:若田飛行士が、おもしろ宇宙実験で、例えば空飛ぶじゅうたんに乗ったり、作用・反作用を示すために仲間と腕相撲をやったら2人とも逆側に回ったりと、大変興味深い事象がありました。おそらくまた公募をし、その中で面白いものを実際に実験としてやることになると思います。
それとは別に、教育の中で理科の教材として使えるものができないかと思っています。現場の先生からヒントをもらい、実際に教材になるような映像を撮れたらと考え準備をしているところです。
こっそりやってみたいことは、私は野球少年だったので、地上と全く違ったルールが必要になりますが、仲間とルールを考え空いている時間に野球を楽しみたいと思っています。

<宇宙飛行士と医師の資格の関係について>
参加者:古川さんは、医師の資格を持っていますが、その資格が宇宙飛行士として仕事をする中で、どのように役立つか、あるいはこれから役立つだろうかということと、医師の資格を持っている中で、宇宙飛行士になろうと思った一番大きな決め手となったことを教えてください。
古川:仲間が病気になったとき、通常は国際宇宙ステーションと地上は、ほとんどの時間交信ができるので、地上のドクターと相談しながら処置を行います。ただ、国際宇宙ステーションの中に医師がいると、その医師が診察し、地上のドクターと相談しながら処置することができます。今まで医師として培ってきた知識・技術を使って貢献できるのではと思っています。
私は幼稚園の頃にアポロ11号の月面着陸を見て、宇宙に興味を持ち、何か宇宙に関係したことを勉強したいと高校2年生の途中まで思っていました。しかし、高校2年の夏休みに、医者である叔父の話を聞き、医師はとてもやりがいがある仕事だと思い、進路を変えて医者になろうと思いました。医者はやりがいがありよかったのですが、当直で仕事をしていたとき、国際宇宙ステーションに行く新しい日本人宇宙飛行士を募集しているニュースが飛び込んできました。そのとき、ものすごい衝撃を受け、是非やりたいと思い応募し、幸運にも選ばれました。病院に勤める形での医師の仕事ではなくなりましたが、培ってきた知識・技術は活かせると思ったので転職しました。

<デブリについて(その2)>
参加者:国際宇宙ステーションでデブリと遭遇した場合、国際宇宙ステーションを回避したり、あるいは、ソユーズに一時退避してやり過ごしたりとかあるようですが、公表されているデブリはおそらくごく一部ではないかと思っており、実際はもっとたくさん危険なものが飛んできていて、研究などに支障をきたしたりといったことはないのでしょうか。
古川:通常10cm程度以上のデブリは軌道を追跡しています。また、1cmより小さいデブリは、万が一、国際宇宙ステーションに当たっても、バンパー等を工夫し衝撃を吸収して重大な影響が出ないようにしてあります。問題は追跡するには小さ過ぎ、当たったときの影響が大きい1cm~10cmの間のデブリです。
このようなデブリが近づくことがわかり、あらかじめリスクが非常に大きいときは、国際宇宙ステーションにあるエンジンを噴射し軌道を変えて逃げる選択肢があります。先日は直前にわかり軌道を変える時間もなかったので、宇宙飛行士がソユーズの中に退避し、万が一デブリが当たって穴があいてしまい減圧や空気が漏れてしまう状況になったときにすぐに脱出できる形をとりました。
この辺りは利益とリスクのバランスになると思いますが、現状はリスクをとっても十分やる価値があると私は思います。頻繁に起こるわけではないので、通常の科学では最小限の許容可能なリスクと考えています。
司会(広報部長):デブリが多い多いと言われますが、10cm以上のデブリは増減があるのでだいたい13,000個から18,000個で、これはアメリカで公表されています。日本の人口は1億2,000万人くらい、世界の人口になると60億人くらいになるので、桁違いに少ない数字です。いかにデブリが多いといってもその程度です。ただ問題は、秒速8kmくらいで回っているそのスピードが問題で、それが当たると破壊してしまうという問題があります。危険であることは事実ですが数は少ないということは理解してください。

<国際宇宙ステーションでの生活について>
参加者:国際宇宙ステーションは水も電力も限られている場所だと思い究極のエコをしないといけないと思いますが、意外と映像で見ていると宇宙飛行士の方は半袖・短パンで快適な感じで過ごしているようですが、太陽パネルでどのくらい電力の制限があるのでしょうか。
古川:太陽電池は、最大75kwくらい発電できるようになっています。大きな電力を使うのは実験装置ですが、日常生活に電力制限が来ることはほとんどないと聞いています。
エコの視点から言うと、通常、水は地上から持って行きますが、とても高価なので、水を再利用することが研究され、実用化しています。若田飛行士が滞在中にその機械が軌道上に上り、運用が始まっていますが、汗を吸収した大気中の水蒸気から取ってきた水及びお小水を処理して再利用し、水に戻して現在は飲んでいます。若田飛行士に味を聞いたら、普通の味と言っていました。宇宙に限って言えば、宇宙に持って行くための水が格段に少なくて済み、そこで培われた技術は地上でも、例えば災害時やその他いろいろな場面で使えます。
それから、寒さに関して言うと、気温はだいたい20~25度くらいにセットされ、少し寒いです。スペースシャトルは船長が温度の設定を決めますが、一般的にアメリカ人は低い温度を好むそうです。実際に私はフロリダの海底で2.5気圧の大型バスくらいのモジュールの中で10日間過ごすミッションをしましたが、温度設定が真夏にもかかわらず低く夜寒かったため、私一人だけ長袖・長ズボンで寝ていました。多少快適と思える温度の違いはあるかもしれませんが、対応できるので大丈夫です。

<(1)健康管理について (2)人間関係・ストレスについて>
参加者:
(1)地球にいても風邪をひきますが、健康管理はどのようにしているのですか。
(2)人間関係ですが、例えば英語で皆さんとしゃべるときにうまく伝わらないことがあると思うのですが、どのように自分の感情のコントロールをしているのですか。
古川:
(1)健康管理は、自主管理が基本です。年に1回、医学検査があるので、その際にいろいろなデータをとって検査されます。そこで引っかかり落とされては困るので、しっかり健康管理をしています。食事もスポーツ選手のように特別な食事を食べているわけではなく、普通のものを食べています。ただ、体を鍛える必要があるので、運動は定期的にしています。
(2)ストレスの話ですが、みんな非常に率直で冗談を言い合いながら和気あいあいと食事を一緒にすることも多いので、特にストレスを感じることはないと思います。また、運動やトレーニングをしているので、それがストレス発散になっている面もあると思います。

<ソユーズ宇宙船とロシア人のプライドについて>
参加者:テレビで、ソユーズで国際宇宙ステーションに行く場合には、この時代、科学の共通語と言えば英語にもかかわらず、ロシア語を勉強しなければならないと聞いたのですが、ロシア人宇宙飛行士のプライドとか、そういったところで特別なものを感じるところがあるのでしょうか。また、もし日本の宇宙船を飛ばすとなると、日本語でのミッションになるのか、今の段階でどう考えているのか教えていただければと思います。
古川:ソユーズはロシアの船なので、すべてロシア語になります。パネルの表示もロシア語ですし、手順書もロシア語で書いてあり、交信もすべてロシア語で行います。ロシアの宇宙船なので仕方ないと思います。
ロシア語の勉強は35歳から始めたので最初はどうなるかと思いましたが、ソユーズ宇宙船の操作は何とかロシア語でできるようになりました。ロシア語をぺらぺらにしゃべれるかというと、決してそんなことはありません。ただ、ソユーズ宇宙船で、例えばAが壊れたからBを使うとか、スイッチをオンにする、オフにするとか、そのレベルでは船長と議論できるようになっています。
あとプライドの問題ですが、ロシア人は最初あまり笑いません。怖いと思いましたが、実は単にアメリカのように最初から知らない人にもにこにこする文化ではなく、文化が違うだけでした。仲良くなるとすごく気さくで、皆よい人たちです。
日本の宇宙船に関しては、もし日本が有人宇宙船を打ち上げるとしたら、恐らく日本語になると思いますし、それでよいと思います。

<宇宙ステーション補給機(HTV)について>
参加者:この前、HTVという無人の輸送機が打ち上がり、国際宇宙ステーションに近づき、最終的にロボットアームでドッキングするということがありました。少し勉強したら近づいていく技術が、たしかレーザーで距離を測りながらゆっくり近づいていくとあって、有人の施設に大きな輸送機が近づいていくのは、非常に安全性が必要なことだと思いますが、将来の日本の有人宇宙飛行にも役立つと思いますし、ひょっとしたらデブリの回収もできるかもしれないと思います。今後HTVの技術がどのように活用されていくか具体的なものはあるのでしょうか。
長谷川:HTVは有人の宇宙船に近づいていくシステムなので、ものすごくNASAの審査が厳しかったです。我々もきちんと審査をしましたが、それに加えてNASAもかなり厳しい審査をしています。どんな状態にあっても安全を確保するということで、何かミスがあったら必ずぱっとよけてしまう、安全優先で、荷物を送り届けるというミッションはあきらめてでも安全を優先する手順になっています。
審査は厳しかったのですが、NASAがOKした1つとしては、「おりひめ・ひこぼし」という衛星があり、ランデブードッキングを無人ですが独自の技術で、当時のNASDAが確立しており、NASAはそれをものすごく高く評価し、HTVでその技術が活かされているということで、厳しい審査をしましたが、OKになっています。
その技術を次に活かすかどうかですが、直接デブリ回収のために回るかは、おそらく現実的ではないと思いますので、まず作らないと思います。HTVに関しては、ドッキングした後で人が乗っているので、人が乗ることができる宇宙機ということなので、あとはそれで帰って来られるという発展は今後あるのではないかと考えています。

<宇宙での生活について>
参加者:小学校の教員をしています。お風呂に毎日入れないとか、髪を洗わなくて気持ち悪くないのかなといった疑問や、重力がかからないのにどうして体が膨れてサイズが変わらないのか、あるいは内臓は必要があって組み立てられていると思いますが、物は宇宙の中では混ざり合うのに脳ミソや内臓は何で混ざり合わないとか、いろいろな疑問が出て答えられませんでした。実際は重力がかからないと内臓が上がるから体調がよくなるのではないか、水の玉ができるくらいだからある程度までは膨れるが、人間はそんなに膨れないのではとしか答えられなかったのですが、どのように答えればよいでしょうか。
古川:臓器により違いますが、内臓はある程度固定されているので多少ふわふわと動くことはあるかもしれませんが、臓器自体がどうかなることはありません。脳ミソも固定されています。ただ、消化管の中、例えば口から食べた物が食道を通って胃に入りその後腸に入る、そのようなことが、例えば胃の中に入ったら、地上では下の方に沈んでお腹がいっぱいになりますが、宇宙ではそれが胃の中でふわふわ浮いており、満腹感が余りないそうで、地上で食べる量を目安に食べると聞いています。痩せてしまう人が多いそうです。
トイレのことは、子どもさんは納得してくれましたか。
参加者:トイレは、よくテレビで出るので、こうやりますと出るのですが、シャワールームはないですね。
古川:シャワールームはないです。現状は、体を拭いたりするだけです。髪の毛は拭き取るシャンプーを使っています。実は、スカイラブといって、1970年代のアメリカ製の宇宙ステーションが、短期間だけ運用されましたが、それにはシャワールームがあったそうです。ところが、浴びた後に水滴を吸い取るのに1時間以上かかったそうで、これは実用的ではないということで、シャワーは浴びないことになっています。
参加者:ごみはどのようにしているのですか。
古川:ごみは、なるべく出ないようにしどうしても出てしまう場合はごみ箱に捨てますが、ごみ箱は何かというと貨物船です。ロシア製のプログレスという貨物船があります。日本製のHTVもヨーロッパが作ったATVもあります。それらが上がってくるときには、実験道具や洋服、食べ物などを運んできますが、それを全部出して代わりにごみを詰め込みます。ごみを詰め込んで軌道を離脱させ、大気中で燃やしてしまいます。プログレスだけで3か月に1回くらい来ますし、その他HTVは1年に1回くらい来ます。ATVも同様です。

<宇宙医学について>
参加者:私は今、医学部に通っているのですが、小さいころから宇宙のことが好きで、今でもメディアなどでそういうことが放送されると、すごくわくわくして見ています。宇宙医学にも少し興味を持っているのですが、どのようにすれば、宇宙医学に関わっていくことができるのか教えてください。
古川:宇宙医学の勉強ですが、それらを専門に教えている先生がいろいろなところにいます。それらの講義を取って勉強することが1つです。
もし興味があったら、JAXAには宇宙飛行士の健康を管理する部門と、宇宙を題材にした研究をする部門がありますが、健康を管理する医者だと、インターンではないのですが、実際に現場に来て勉強することは可能ではないかと思います。
また、もし研究をするとしたら、宇宙医学生物学研究室が筑波にあり、全国、各国の研究室と共同で、例えば長期間宇宙にいると骨、筋肉が弱くなるのですが、宇宙で起こる様々な望ましくないことをどうしたらよいかを研究しています。